Q.これはガンダムか? A.ガンダムです   作:咲夜泪

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37/『花嫁』と『魔女』

 

 

 

 ――『ソイツ』は、良く解らない『男』だった。

 

 今まで遭遇してきたどんな人間よりも異色で、とにかく胡散臭く――唯一、自分に興味を示さない『ヤツ』だった。

 ベネリットグループ総裁の一人娘。誰もがその色眼鏡で見る中、形式上は総裁の娘として扱う癖に、その他の有象無象と同じ扱い――いようがいまいがどうでもいいとする『ヤツ』は、『コイツ』以外に存在しない。

 

 ――後に『全ての人間を平等に見下しており、誰一人『個人』として見ていない』と悟った時は流石に腹が立ったが。

 

 『彼』は学生の身でありながら、一企業の代表であり、誰もが『親の呪縛』に縛られているこの学園で、唯一自由を謳歌する存在だった。

 羨ましいという言葉よりも憎たらしいが先に来る。何もかも親に勝手に決められ、何一つ自由を許されてない自身との対比なんて、惨め過ぎて苛立つレベルで――好き勝手、やりたい放題で、その無法を押し通す『力』が『彼』にはあった。

 

 ――お前には『力』が無い。あのクソ親父は事ある毎に、そう言う。

 

 悔しいまでの事実であり、認めざるを得ない現実だった。

 いつぞやの、エアリアルが『GUND-ARM』か否かの審問会で、あの場に立つ事が出来たのは他ならぬ『彼』の手引があったからであり――同時に悟る。あの場で最も『力』ある存在は自身の父であり、それに唯一匹敵したのは『彼』のみだと。あの場に居た者達が気づいているかは別問題だが――。

 

 『彼』と本格的に関わるようになったのは、スレッタを通して、である。

 

 水星という辺境から転入し、何一つ解っていない田舎娘が、出会ったばかりの自分を守る為だけに『彼』以外を蹴散らすホルダーに決闘を挑んで――勝利して『花婿』となり、何故か『彼』の目に映った。

 一目惚れだとか、そんな浮ついた話ではなく――あんなに悍ましいまでに重い希望を押し付けてくるなんて、今まで見た事が無かった。スレッタは、きっと気付いてないけど。

 

 それからはスレッタを通して、様々な事に関わり合う事となる。

 

 あんな理外の境地にいる存在不適合者が、今や立派な保護者面するなんて、一体誰が予想出来るだろうか。……その手管は相変わらず酷いの一言に尽きるけど。

 胡散臭い事、この上無いのは変わりないが――無条件で子供を守る父親役をやっているのが『彼』しかいない事に、今更ながら気づく。

 

 ……その線引は明確で、『彼』にとって自分は、現在の称号(ホルダー)の付属品程度の認識しか持ってないのは、簡単に見て取れた。

 

 仮にスレッタが決闘で誰かに負けても見放す事は有り得ないが、奪い取られた『花嫁』に関しては、欠片も興味を抱いていないだろう。

 ……別に構わない。結婚前に此処を脱出して地球に行く事に利用出来ないというだけで、邪魔をしないのであれば、どうでも良い。それなのに、何故こんなに苛立つのだろうか――?

 

 スレッタと『コイツ』という異物が自分1人しかいなかった世界に紛れ込み――。

 

 

 

 

「――ぼーっとしない、トマトに傷がつくでしょ」

 

 焦点が合わない目で、鋏を何度も空振りさせていたスレッタの頭を、空になった如雨露で軽く叩く。

 

「ご、ごめん、なさい?」

「……全く。そんなに気になるの? エランの事」

 

 決闘後にエラン・ケレスは意識不明となり、何処かに運ばれて行方不明。誰も居場所を知らず――。

 

「あれから、学校にも来てないって言うし――大丈夫でしょうか?」

 

 実際は『彼』がペイル社との『取引』を持ちかけ、身柄を確保した為、次の強化人士が用意されるまでの空白期間が今であり――結局、もうスレッタと出会う事は、ほぼ無いだろう。

 我ながら、馬鹿げた事に身を切って全力投資したものだと自嘲する。最初から『彼』の言う通り、見て見ぬフリをすれば良かったのだ。結果は、大して変わらない。けれど――。

 

「勝手に干渉して、勝手に心配して、一体何が楽しいんだか」

「ミオリネさんは、無いんですか? 人の事で頭が一杯にな――」

「無い、私が考える事は唯一つ。此処から脱出して、地球に行く事だけ。アンタも余計な事ばっか考えていると、また実習落ちるよ?」

 

 スレッタは「そうです、けど……」と言い淀む。

 ――別に。下らない事でうだうだ悩んでいる背中なんて、鬱陶しくて腹立つから蹴りつけてやったまでの事だ。

 それ以上でも、それ以下でもない。思考を此処で打ち切る。

 

 ――生徒手帳型の端末から、着信音が鳴り響く。自分のと、スレッタのも同時に。

 

「……招待状?」

「インキュベーションね。行く必要無し」

 

 下らない通知に時間を使わされた、と、ミオリネは即座に画面を切ってポケットにしまう。

 

「いいんですか?」

「まぁ、グループ内の社交パーティみたいなものよ。大体、学生で参加するの、御三家ぐらいのものだし――」

 

 言いかけて、しまった、と内心後悔する。こんな事を聞いたら、スレッタは――。

 

「じゃ、じゃあ! 来ますよね!? 御三家来るなら、きっと、来ますよね!?」

 

 其処に来るであろうエランが、スレッタが想う彼じゃない事を知っておきながら――断る口実を、終ぞ思い浮かべる事は出来なかった。

 自社の用事で外出している『彼』がいれば、上手く誤魔化せただろうが……その考えに至って、ますます不機嫌になる。

 

 ――だから、スレッタと共にインキュベーションに赴く事を『彼』に伝えなかったのは、子供じみた反発心からなるものであり、その感情の理由を、ミオリネ自身、完全に持て余していたのだった。

 

 

 

 

 ――『ソイツ』が、何に絶望しているのか、それはミオリネにも解らない。

 

 あれだけの『力』があって、あれだけの才能があって、何もかも思い通りに出来るのに、何故あんなに心が擦り切れ、精神が極限まで摩耗しているのか。

 

(ペイル社の闇、強化人士――いや、その程度では微塵も揺るがない。もっと根底に、どうしようもないほどの絶望が、ある)

 

 『彼』は語らない。胡散臭い笑顔の仮面で全て押し隠して。語った処で誰にも理解を得られないと最初から諦めている節さえ感じられる。

 

 ――その絶望は、スレッタに向けている希望と、表裏一体のように思えて、時々危ういと感じる。

 

 ……本当に、面倒臭い。他人の事などに気にかける余裕など、ミオリネには存在しない。

 周囲は全部敵であり、信頼出来る相手など存在せず、誰も彼も自分を道具扱いにして、それなのに手元に置きたがる。過剰に干渉したがる。鬱陶しくて敵わない。

 

 ――それでも、鬱陶しくも勝手に手を伸ばしてくるスレッタと、それを無償で手助けする『彼』に対して、ミオリネ・レンブランはどう思っているのだろうか――?

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