――ベネリットグループのインキュベーションパーティ。
それは新規事業の立ち上げ支援イベントであり、グループ内で事業を起こそうとする人間が自身のプランを発表し、パーティに集まった投資家達に投資を募るものである。
設定額に達すれば、目出度く新事業の誕生であるが――多くは、設定額に届かず、挫折するのが関の山である。
「――これは珍しい。お二人とも、新規事業に興味がおありで?」
そのパーティ会場で、スレッタと一緒にエラン(本物)を探していると、別の相手と遭遇する。
「……シャディク」
「良かったらうちのプレゼンにもアドバイス、貰えないかな?」
御三家の1つ、グラスレー社CEOの養子、パイロット科3年の――珍しく着崩していない正装姿を取っている金髪の色男の名は、シャディク・ゼネリであり……。
「フォーカード17地区の契約取ったアンタが言っても、説得力無いんだけど?」
「ミオリネの意見が欲しいのさ」
その2人の、知己の様子を見たスレッタは、ミオリネとシャディクを交互に眺めて――。
「仲良し、なんです?」
少し困惑顔で、両方に指さして首を傾げる。いつもツンケンしているミオリネにしては珍しい反応であり――。
「違う、ただの腐れ縁」
「そう言うなよ。昔は良くこういう場で顔をあわせてたんだ――おや、保護者の『彼』はいないのかい?」
ただし、その後半部分の指摘で、いつものミオリネに戻る。つまりは――。
「『誰』が誰の保護者よ! ……『アイツ』が此処に来る訳無いじゃない」
「そうだねぇ、『彼』ほどの人間なら、此処に来る必要無く新規事業を個人で開拓して独占するのが目に見えるよ。――『アナハイム・エレクトロニクス』社の新機軸の技術は大凡『彼』1人の独自発想、というのが専らの噂だ」
シャディクは茶化すように笑いながら「あの『アナハイム』の事だから、二重の意味で胡散臭いけどね」と付け足す。
それは二重の意味で疑わなければならないという意味合いであり、それが真実である事と偽装である事を同時に疑えという意味でもある。
「それで、『彼』に内緒で来たという事は何か隠し事かな?」
「……何でそうなるのよ? ――この子の付き添い。エランに会って話したいって煩いの」
ミオリネに隠しもせず告げられ、スレッタの顔が一気に赤くなり、「ミ、ミミミミミミオリネさん!? シシシシシシークレットで!」と抗議するも、つーんとしたジト目のまま、そっぽをむく。
「――ミオリネ、変わったね」
その様子を、ミオリネの表情の変化の一部始終を、シャディクは心底不思議そうな顔で眺めていた事に、彼女は気づいてなかった。
「人の為に動くなんて。昔のミオリネなら絶対にやらなかった。――これも、水星ちゃんの魔力なのか、それとも『彼』の影響かな?」
その『彼』の部分で、また一気に機嫌が悪くなり――空になったグラスをシャディクに押し付けて、強制的に黙らす。
「何言ってんだか? ――ほら、行くわよ」
「は、はい!」
ミオリネは即座に立ち去り、スレッタは頷いて笑うシャディクに慌てて一礼してから彼女の後を追う。
「変わったよ、君は。残念だ――今日は『彼』、絶対に間に合わないよ?」
その姿を見ながら、シャディクは1人、感情の無い声で独白したのだった。
――かつてエラン・ケレスと呼ばれた元強化人士4号、現在は『レイヴン』と呼ばれる少年は、その『白い戦艦』をマスク越しに眺めていた。
「――まずは、巡航速度。持てる技術の中で最速を要求するなら、当然『ミノフスキードライブ』搭載機。他の技術との併用は絶望的な難易度になるので、これ一択となる」
横にいる『彼』は頼まれてもいないのに胡散臭い笑顔を浮かべて蘊蓄を傾ける。
確か、重力下浮遊システムを発展させた次世代推進技術の1つ、異次元の大推力を誇り、慣性緩和の作用もある代物で、完全部外秘の秘匿技術だった筈だ。
「――次に耐久性。ナノラミネートアーマーとフェイズシフト装甲の2つを採用し、UG細胞で保護する事でメンテナンスフリーを実現。……ミラージュコロイドが候補にあったが、耐久性を捨てないと装備出来ないので残念ながら却下」
『彼』は「GNフィールド&Iフィールドの採用も悩んだけどねー」と1人はしゃぐ。
ナノラミネートアーマーとUG細胞については馴染み深いので理解出来るが、フェイズシフト装甲には縁が無いので良く解らないが――「実弾兵器に対して絶対的な耐性のある相転移装甲だよ」と有り難い補足が来る。
「――その次に艦載数。最大16機搭載可能。艦体の大型化を余儀なくされたが、まぁ必要経費と言った処か。四個小隊ぐらい一艦で運用しないとね!」
……四個小隊を一気に運用出来る戦艦を一企業が運用するのは、正直どうかと思うが、今更な話なのだろう。
これで一体何をするつもりなのか、突っ込むのも野暮な話なので黙る。常識を1つ捨てる毎に、此処では賢く生きれるようになる。……知性の敗北と言っちゃいけない。
「――あとは攻撃性能。速度を損なわない程度に積めるだけ積んでみたよ! ミサイル系統は在庫処分の意味合いが強いけどね!」
「いやぁ、ミノフスキー粒子が散布された環境下じゃないからやりたい放題だねぇ!」と、テンション高めに笑う。
『彼』の事だから、どんなゲテモノ武装が搭載されていても然程不思議ではない。突っ込むのも疲れるので、無言で流す。
「――最後に外見。……まぁこれだけオリジナルの仕様なら何でも良いよね。多少趣味に走っても文句は言うまい」
何やら憂鬱な色を一瞬浮かべ「何方かと言うと『常勝の天才』よりも『不敗の魔術師』の方が好きなんだけどね!」と子供のように破顔する。
「――ラー・カイラム級機動戦艦13番艦ブリュンヒルト、まぁ元の銀河帝国旗艦とは違って全長500mクラスだけどね!」