「――今回の決闘も面白かったっすねぇ、シャディク先輩?」
「……ああ、そうだな。セセリア」
決闘委員会のラウンジにて、先程行われた決闘への感想を、セセリアはにやにや笑いながら憮然とするシャディクに話す。
今回の決闘は、今まで個人戦しかしてなかった『彼』が初めて団体戦を選択した事で実現し――合計10機もの自社製の無人機を使う、史上稀に見る大規模な決闘となった。
なお、結局は無人機は序盤で全て脱落し、すぐさまいつもの個人戦になったが――その政治的意図は、露骨なほど解り易いものだった。
まず1つは、力の誇示。合計12機ものMS運用を平然と行うだけで今の『アナハイム・エレクトロニクス』社の勢いを内外に示せるし、かつてのホルダーであるグエル・ジェタークが紐付きである事もついでに大々的に宣伝出来る。
2つ目、無人機を破壊するという行為にあそこまでのメッセージ性を持たせたのは、怒りを示す対象がいる事を意味している。
普段の決闘では絶対狙わない、コクピットへの直接攻撃を解禁した意図は、余りにも明白であり――多くの生徒達に悲鳴をあげさせたほど、動かないコクピットにビームライフルを何発も浴びせた光景は恐怖そのものだった。
その解り易い示威行為に心当たりがあるシャディクにとっては、心胆を寒からしめるものであっただろう。
セセリアはラウンジのソファに腰掛けながら、にやにやと笑う。
「いやぁ、どうして6対6なんでしょうねぇ? シャディク先輩は解りますぅ?」
「……さぁ、どうしてだろうな?」
「そういえば、先輩の『親衛隊』は5人でしたっけ? 先輩と合わせたら6人ですね、いやぁ、偶然の一致っすねぇ!」
3つ目、それは――これから敵対する事になる者へのメッセージ。
個人戦でなく団体戦を挑んでくるであろう敵対者への、無慈悲なまでの実演である。集団で挑めば勝てるという勘違いさえ生まない蹂躙劇を目の当たりにしたシャディクの顔を、セセリアは堪能しながら嘲笑する。
「それにしても――幾ら出力制限されてるとは言え、やろうと思えば決闘中でもやれるもんなんですねぇ? あんなにコクピットにビームライフル撃たれたら中身はコーンポタージュになってますよぉ! ――気を付けた方が良いんじゃないですかぁ? 特にシャディク先輩は」
「……ご忠告、痛み入るよ、セセリア」
さてさて、御三家の最後の一角、グラスレー寮・寮長のシャディク・ゼネリが如何に『彼』に挑むのか。
手段を選ばない事に定評のあるシャディクだが、そもそも『彼』は幾らでも手段を選べる立場の人間だ。盤上の駒が盤外の指し手に抗うが如くである。
如何にして『彼』の庇護下にある『花嫁』と『花婿』を襲うのか、セセリアはお手並拝見と洒落込むのだった――。
「……え? 両方の陣営に売らないんですか?」
「死の商人かよ!? ――死の商人だったわ!」
心底不思議そうに呟く『彼』に、チュアチュリーは即座に突っ込んだのだった。
地球寮にて、株式会社『ガンダム』の定款を決める際に、ミオリネが『GUND-ARM』を兵器として売り出す方針を打ち出し――誰に売るのか、スペーシアンに売ってアーシアンの弾圧の道具にされるか、アーシアンに売って地球を戦場にするのか、個人個人の主張が衝突した時に――『アナハイム・エレクトロニクス』代表が空気を読まずに本音をぽろっと零した一幕である。
「……『社長』さんは、自分が造ったMSが人殺しの道具に使われても、何とも思わないんですか?」
ニカ・ナナウラが恐る恐る尋ね、全員の視線が『彼』に集中する中――『彼』は口を開いた。
「まず前提が違います。――MSを造るに当たって、使用目的を定め、目的を達成出来る性能を造り上げる。我々の仕事はそれだけであって、実際にどう運用されるかは顧客にお任せなんですよ」
一企業の代表として語られた言葉は、余りにも無責任なものであり――。
「……どんな事に使われようが、どうだって良いって事かよ……!」
チュアチュリーを始めとした者達に反感を買うのは目に見えていた事であり、『彼』は静かに首を振る。
「――『製作者』の意図を超え、予期せぬ使い方をするのが『使用者』だろう? 所詮道具は単なる道具に過ぎず、其処に善悪は存在しない。使う者の結果によって善悪は定められるだけだ。――平和の祈りを籠めて造られた技術が戦争の火種に使われる事もあれば、人を殺す為だけに造られたMSでも人を救う事が出来る」
祈りが呪いに変わる事など日常茶飯事。救済の筈が破滅を齎す事もまたありふれた事だ。 故に、『製作者』の思惑など少しでも反映されれば良い程度のもの、重要なのは『使い手』の意思であり――。
「――我が社の『GUNDAM』は、可能性を切り開く為の、ただの『力』なのさ」
いつだって、運命を切り開くのは『主人公』の特権だ。舞台裏の我々はただ託すだけの存在なのだから――。
「良い話で終わらせようとしているけど、結局、何の参考にもならない事は解ったわ……」
「大いに悩むのは若者の特権だよ!」
「『アンタ』も似たような年齢でしょ!?」
「さて、これでシャディク・ゼネリは理解してくれた筈だ。『私』がいる限り、どんな策を弄しても、最終的に決闘で全て覆されると――」
彼我の実力差ぐらいは的確に把握出来るだろう。グラスレー社CEOの養子で、既に多くの実績をあげているらしい人物だ。その程度は出来て当然だろう。
……『彼』自身、シャディクに興味が薄いのでどんな人物なのか、全然把握出来てないが――。
「――なればこそ、必然的に『契約』で『私』を縛るしかない」
どんな不条理な条件を飲んででも、それがスタート地点である以上、避けては通れぬ道だ。
今回は喜んで縛られよう。吹っ掛けるだけ吹っ掛けて、さも仕方なく『契約』に縛られるとしよう。
――シャディクの手で株式会社『ガンダム』を奪わせた後、物理的に叩き潰すとしよう。
ミオリネとスレッタの手から離れたのなら、何の躊躇無く、実力で排除する選択を取れる。
この宇宙でも、相手の罪を問うのに実在の罪状は必要無いので、心置きなく叩き潰せるというものだ。
21年前の再現――独断専行で『魔女狩り』を行う事になるのが、今度は『アナハイム・エレクトロニクス』になるだけの話である。