「――お前の口説き文句はつまらないな」
ほぼどんな条件でも応じるつもりだったが、これは論外だ。ナンセンスと言っていい。
「……何がいけなかったのかな? 参考までに――」
「――『全部』だよ。何故ミオリネから全部奪い取らない?」
株式会社『ガンダム』をミオリネの手から奪い取る、余りにも簡単過ぎる協力条件だったのに、何故中途半端に配慮し、中途半端に権限を残す? やる気あるのか、この男?
「っ、ミオリネを擁護する『君』が、それを――」
「――結局、何がしたいんだ? お前。株式会社『ガンダム』が欲しいのか? それともミオリネが欲しいのか? または彼女の心か? 全部が全部、中途半端過ぎて理解に苦しむ」
今回の場合は、それが不都合極まりない。完全に奪い取ってくれないと支障が出る。
完全に予定が狂った。当て馬として使えると思ったのに想定以下だとは失望を禁じ得ない。
(……最悪だな。直接決闘して奪うプランが最有力候補になってしまうとは――)
気乗りはしないし、今後の関係構築が一切不可能になるほど拗れるが――。
「っ、待ってくれ」
「子供の戯言に付き合う暇は無いのだが?」
「『君』に、決闘を申し込む……!」
「――双方、魂の代償を『天秤(リーブラ)』に。決闘者は『アナハイム・エレクトロニクス』代表とシャディク・ゼネリ、一対六の集団戦を採用」
ラウダ・ニールが不機嫌そうに決闘を取り仕切り、その正気じゃない前提条件に真っ先に食らいついたのはセセリアだった。
「……はぁ? 一体何の冗談ですかぁ、シャディク先輩? 恥も外聞も無いんですかぁ? 集団戦がグラスレー寮のお家芸なのは解りますけど、余りにもチキンすぎなのではぁ?」
六対六ならまだ解る。前提条件の人数を揃えられないのは、用意出来ない陣営に問題があるし、自業自得にもなろう。
だが、最初から一対六なのは不条理にも程がある。こんなものは決闘でなく、ただの――。
「別に構わないさ、セセリア。――大丈夫かい? もっとパイロット数を確保しなくて。2桁ぐらい足りないんじゃないかなぁ?」
なお、了承した『当人』は胡散臭い笑顔で「足りない」と更に煽る。
シャディクは無表情で、その他の5人のパイロット科の女生徒は殺気立っているが、関心すらないのか見てすらいない。
「シャディク・ゼネリ、貴方はこの決闘に何を賭ける?」
「……邪魔、しないで貰おうか。――細かく指定する必要はあるかい?」
「いらないよ」
それは二重の意味であり――細かく指定するまでもなく理解している事と、実際に実行する事が無い事を暗に示している。
「『私』からはいつも通り――やってみせろよ、シャディク・ゼネリ」
その声色はグエル先輩の時とは違い、何の期待すらしてないのは、セセリアからも容易に感じ取られた。
「『賽は投げられた(アレア・ヤクタ・エスト)』――決闘を承認する」
『――『アナハイム・エレクトロニクス』代表に問う。あれは『ガンダム』か?』
『はい、型式番号『XXXG-00W0』ウイングガンダムゼロカスタムです!』
決闘開幕、遥か上空にて、専用のビームライフルから極太のビームを撃ち放つ『天使』の如きガンダムの姿が映り――シャディクが搭乗するミカエリスは咄嗟に回避したが、残り5機のベギルペンデは回避行動が遅れてシールドで防御してしまい、一射目でシールド越しから各部損傷が入るほどの致命打を受けてしまい、間髪入れずに放たれる第二射でシールド諸共一掃され、全機大破判定となる。
『……大破判定で転がっている敵MSに追い打ちを掛けるのは、正直どうかと思うが?』
『戦場に転がっているオブジェクトを有効活用しただけですよ? いやはや、まさか大将首が役立たずの随伴機を庇うとは思ってもいませんでしたがねぇ』
一機だけ難を逃れたミカエリスが空中に舞うウイングゼロに突進するも――第三射は変わらず大破判定で転がっている5機のベギルペンデに向けられており、その射線に割って入ったミカエリスが全部受け止めて大破し、決闘終了となる。
『グラスレー社のMSは防御に定評があると聞いてましたが、どうやら聞き間違いだったようですねぇ。――ああ、自社製のMSの性能が不足しているのならジェガンを融通出来ますが?』
『彼』は煽りに煽るが、サリウスCEOは憮然とした表情で沈黙するのみだった。
……やはりというか、この『悪魔』相手に数の有利など数字の上での意味しか持たなかったようであり、良いように有効活用される未来しかないだろう。
『当機はコストと実用性を度外視し、高性能のみを追求して設計されたMSです。推力・機動性・運動性・飛行能力、あらゆる分野において最高水準の性能を誇ります。――弱点があるとすれば、パイロットが生身の人間である事ぐらいですね!』
この決闘では主力武装を3射しただけで終わったので、その性能を碌々発揮出来てないが『……それ、普通の人間では乗れないって暗に言っているのでは?』『いつもの事だな』と全員が『普通の人間が乗ったらミンチになる』殺人的な高機動という共通認識を抱いて納得する。
『主力武装はツインバスターライフル、決闘出力で持ち味が一切発揮されてませんが――実際の最大威力はスペースコロニーを一撃で破壊可能であり、最大3連射出来ます。また、2挺に分離して別方向に同時射撃も可能だったりします』
最大威力についてはいつもの与太話だなとスルーされ『決闘出力のビームでシールド越しから撃破余裕とはな……』『なぁ、これ、本当に基準大丈夫だったのか?』と、様々な角度から議論される。
『分離した2挺のバスターライフルを水平に構え、引き金を引きながら回転する事で360度薙ぎ払える、ローリングバスターライフルなんて頭悪い事も出来ますよ!』
実演こそ無かったが、その頭悪い光景は容易に想像出来るので『天使のような姿なのに悪魔じみている……』と率直な感想を漏らす者が多かった。
『――以上の性能から、単機での制圧戦、一撃離脱戦法を得意とする機体となっております。今流行りのオールレンジ攻撃は無いですが、圧倒的な火力の前では些細な問題ですね!』
このMSが最も輝く状況下、それは多数対多数のMSが衝突する大戦場であり、一撃で数十単位のMSを撃破する『天使』のようで『悪魔』な『ガンダム』の姿が目に浮かぶようだ。
『――それで、その唯一の弱点については、どう対処しますの? まさか、パイロットに『超人』を用意しろ、とは仰るまい?』
『はい、当機には人体と精神の脆弱性・不安定さを解決する為に導入された『操縦インターフェイス』を採用しています!』
とんでもなく胡散臭い笑顔で、『彼』は自信満々で断言するのだった。――多くの者はこの時点で『今回のオチはそれかぁ』と項垂れるのだった。
『……ちょっと待て。その不穏なフレーズ、何処かで――』
『ウイングゼロは純正の『ゼロシステム』搭載機ですよ、やったね!』
『ただでさえ人の乗れないMSを更に乗れなくしてどうする!? 馬鹿か! 馬鹿なのか!?』