「……それで、何で『アンタ』も着いてくるの? シャディクに夢中だったんじゃ?」
「口説き文句の下手な男を振ったら粘着されてね――あと、ペイル社相手に隙を見せるな、何をしてくるか解らない連中だぞ?」
頼んでいないのに着いてくる『不審者』に対し、ジト目で睨んでいると、『彼』は大袈裟な仕草で不本意さをアピールして苦笑する。
「……スレッタが本社の母親の処に訪ねる時は付き合わなかった癖に」
「俺にだって直接会いたくない人物ぐらい存在するさ」
あの『仮面の女』は、あの『アナハイム・エレクトロニクス』代表にとっても会いたくない存在だという事が改めて判明し、ミオリネの中での警戒度を更に上げるに至る。
何方も胡散臭い事、この上無い存在である為、同族嫌悪の可能性も高いが――。
無重力帯の廊下を突き進んでいると、目的の人物に漸く遭遇する。ペイル社のガンダム・ファラクトを開発した技術責任者である女性に。彼女は自分の姿を見て、そしてその背後にいる人物を見て目を見開く。
「――『アナハイム・エレクトロニクス』代表……」
「どうも、ベルメリア・ウィンストン。『私』の事に関してはいないものとして扱って下さいね。彼女、ミオリネの付き添いに来ただけの非公式の来訪ですので」
顔見知り……恐らくは『強化人士4号』の件で、だろうか? かなり気まずい空気が流れているが、それに気づいた『彼』はミオリネだけに見えるように人差し指を自身の唇に当てて「しーっ」とジェスチャーする。……エランの件は当然、喋れる訳無いだろうに。
「そちらの受け入れ体制が整い次第、ペイルの開発チームとファラクトは正式に譲渡される事になっているわ――それで、今日の御用は何かしら?」
「『GUND-ARM』について知りたくて」
途端、彼女の表情が強張る。動揺を隠せずに目が動き、最終的に『彼』に向く。
「気にせずどうぞ。『私』の口からは『GUND-ARM』が何なのかは言うべきでもありませんので」
逃げ道を『彼』に塞がれたベルメリア・ウィンストンは自身の唇を噛む。
……この表情は、何とも言えない。『強化人士』を造ってるぐらいなんだから、倫理観の狂ったマッドが出てくると思ったが、思った以上にまともな精神構造をしている……?
「――搭乗者の体と精神を蝕むMS『GUND-ARM』とそれを造った『ヴァナディース機関』、『魔女』と呼ばれる人々は忌むべき存在だ。これが世間の認識です」
『彼』は情報を一切明かす気が無い。シンセー開発公社の、スレッタの母は説明せずに徹底的に誤魔化す。ならばこそ、この一番突きやすい情報源は逃せない。
「欠陥があれば改良すれば良い。なのに、それすら認めず、協約がどうとか理由をつけて排除しようとするのは何故なのか?」
父・デリングは有無を言わさず、根絶やしにした。この『GUND-ARM』には、一体何があるのだろうか?
「そもそも『魔女』達は何の為に『GUND-ARM』を造ったのか――」
「――やめて。『魔女』なんて言い方はやめて……」
『魔女』という言葉に対する反応、これが持つ意味合いは、今の世代では全く価値観が引き継がれていないので、良く解らない事の1つだ。
「貴女も『魔女』の1人なんですか?」
「私はただ、GUNDの理想に魅入られて――あの人達の真似事をしているだけよ……」
「GUNDの理想……?」
それについては初耳だ。そもそも『GUND-ARM』は何を目指した技術かすらも、今の自分は理解していなかった。
「その話、詳しく聞けますか?」
「GUND医療……」
「それがGUNDの最初の姿。正確にはオックスアース社に買収されて軍事転用される前の姿だね。21年前の『ヴァナディース事変』で途切れた技術系統でもある」
ベルメリア・ウィンストンから話を聞き終わり、帰りのシャトルで色々悩んでいると『彼』は補足説明をする。
「――それで、『アンタ』の危惧している事は何なの?」
此処からあと3枚ぐらい覆い隠されたヴェールを脱ぎ去らないと見えないので、手っ取り早く聞く事にする。
此方が見ている事を察してか、『彼』に特に変化は見られない。自分の前で胡散臭い笑顔の仮面を被らなくなったが、素の『彼』は感情の変化が乏しく、中々読み取れない。
「――『GUND-ARM』の生命倫理に関する問題、ペイル社のアプローチはパイロット側の肉体的脆弱性の解消、つまりは『強化人士』だ。非人道的な割にはお粗末な結果だったがね」
呪われた『GUND-ARM』に乗る為の『強化人士』、名前の割には運用期限が極めて短く、『GUND-ARM』の欠点を克服したとは言い辛い。
「――では、エアリアルはどのようなアプローチで解決している?」
「……スレッタはぴんぴんしているから、MSの方が生命倫理問題を解決している?」
「そうだね、エアリアルの中にある『何か』がデータストームを肩代わりしてるんじゃないかな」
MSがデータストームを肩代わり? なるほど、それが出来ているからこそ、スレッタに異常はなく――。
「……『アンタ』にしては、随分と曖昧な表現ね?」
「曖昧になるさ。パーメット関連の技術と『GUND-ARM』に関しては宇宙一遅れている企業だからね、『アナハイム・エレクトロニクス』は」
更に「その何方も宇宙一の厄ネタだと思っているからね!」と楽しげに付け加える。
「うちの会社が真っ当な手段で『GUND-ARM』の生命倫理問題の解決を目指した場合、パーメットの大量流入を抑制する『AI』の作成を第一目的とする。パーメット流入値の詳細データがあれば此処に時間を取られずに済むが――何らかの成果が出るまでは2~3年ぐらいは必要かな?」
あの『アナハイム・エレクトロニクス』と言えども、未知の技術の解析から始めるとなれば、結果らしい結果が出るまで其処までの時間が要するのかと驚愕し――。
「……真っ当な手段を取らなければ?」
「一ヶ月以内に生命倫理問題を解決出来るよ。その場合、『魔女裁判』は避けられないけどね!」
その真っ当じゃない手段が本当にろくでもない事のオンパレードだと思うので、詳細は聞かないでおく。
「なので、思い詰める前に報告・連絡・相談をよろしくね。……毒を食らわば皿までだ。君が思っている以上に――」
「ガンダムの呪いは重いって……? 『アンタ』もクソ親父と同じ事を言うのね」
「逃げたくなれば逃げれば良いさ。諸々の後始末は『大人』が引き受けるからさ――」
あのクソ親父は「逃げるなよ」と念を押したのに、『コイツ』は――。
「……『アンタ』も子供でしょ?」
「『自分』と子供の尻拭いが出来てこそ『大人』と言うべきなんだよ? この宇宙には残念ながら該当者が余り居ないようだけど――」