「……ところで、『アナハイム・エレクトロニクス』代表。貴方宛に各方面から多数の苦情が来ている」
何度目かになる『アナハイム・エレクトロニクス』代表vsグラスレー寮の決闘の取り決めが終わった後、立会人を務めるラウダ・ニールは嫌々告げる。
既にグラスレー寮の者達が早々に立ち去った中、真っ先に食らいついたのはセセリアだった。
「『先輩』に苦情ぅ? 間接的にでも言える人がこの学園にいたんですねぇ。勇気あるっすねぇ?」
「へぇ、非常に珍しいね。内容は何だい? 地球寮への、アーシアン関係かな?」
「……ファンクラブ一同からの苦情だ」
予想外の方向からの苦情に、『彼』は思わず首を傾げた。
「……ファンクラブ? 誰の? シャディク?」
「サビーナ・ファルディン、レネ・コスタ、イリーシャ・プラノ、メイジー・メイ、エナオ・ジャズの、それぞれのファンクラブからの苦情だ。撃墜及び『肉盾』にした事への抗議が主な内容だ」
こんな下らない苦情を決闘委員として処理しなければならない事がまず腹立たしいし、『彼』に伝える作業すら煩わしい。その『当人』の反応は、というと――。
「? ごめん、それら、誰? 純粋に思い浮かばないのだけど?」
「……対戦相手の名前すら覚えてないのか?」
「ああ、そんな名前だったの? ――ラウダ君、君は的A~Eの個人名称なんて態々覚えるのかい? ちなみに『私』は覚える気が一切湧かない」
途轍もなく杜撰で、尚且つこの上無く酷い反応だった。
眼中に無いという挑発を兼ねたパフォーマンス――ですらなく、本当に心底興味無いという人でなし極まる反応だった。
「あっはっは、『先輩』、幾ら何でも酷いですよ。仮にも、仮にも! パイロット科で上位の成績を修めた者達ですよ? その的A~E!」
「あれで上位成績者なの? 個人的な感想では素人に毛が生えた程度の認識だったのだが。授業で評価される部分と実戦で使える部分の乖離が激しいのかな?」
それがツボに嵌まったのか、セセリアは自身の腹を押さえて大笑いする。
「『先輩』に蹂躙されるまで、グラスレー寮は集団戦において無敗を誇ってたんですがねぇ! 対戦相手としてはどう評価してます? 『先輩』?」
自分自身で煽るよりも『彼』に率直に語らせた方が余程煽りになると判断したのか、セセリアは尋ねる。
「まずMSが全機論外。グラスレー社の最新鋭機だけど、『特定状況下でしか使えない機能』に比重を割いているせいで元々の性能が全体的に低い。ジェターク社・ペイル社の量産型MSと比べても1番下と判断せざるを得ない――『特定状況下でしか使えない機能』を全撤廃して高機動特化に仕上げればもっと良い機体になるのに勿体無いな」
『特定状況下でしか使えない機能』は『彼』との決闘において一度も使われてない兵装であり、事前の情報戦においても遅れを取っている事にグラスレー寮の者達は果たして気づいているのだろうか?
「パイロットに関してはどうなんです?」
「グエルぐらい頑張って欲しいものだ――とは言わないよ。最初から達成出来ない者に期待するほど、『私』は暇じゃないんでね」
『……『アナハイム・エレクトロニクス』代表に問う。あれは、その、何だ?』
『我が社が誇る傑作量産型MS、型式番号『RGM-89』ジェガンですよ!』
遂に使えるMSの中で最低ランクのものを使用し出したか、というツッコミは、今回の決闘に限っては生じなかった。
『誰が貴様の会社の量産型MSの事を聞いているかッ! ……何なのだ、あの変態的な背部ユニットは!』
今回使われたジェガンが背部に背負っていたのは、ハリネズミが如くうねうねして動く砲塔砲塔砲塔の剣山であり――これ1つ1つがビームの砲塔であり、それを何と『130門』背負っていた。
『規格外兵装(オーバード・ウェポン)『マルチプルパルス』です。MSの規格を無視して製造された武器であり、起動時はオーバード・ウェポン側からメインシステムをクラッキングし、限界を超えるジェネレーター出力を強制的に捻出させます』
決闘開幕、『彼』のジェガンのメインシステムから『不明なユニットが接続されました、直ちに使用を中止して下さい』という警告音が何度も何度も鳴り響き――背部から水平に展開、ハリネズミが如く全周囲に砲塔が向けられ、限界以上の性能を強制的に捻出されたジェネレーターからの無限に等しい出力任せに、ジェガンが狂ったような超速度で飛翔する。大将首のミカエリス目掛けて。
「シャディク逃げてぇ!?」と周囲の僚機は必死に撃ち落とそうと射撃するも、全部回避され、または途中で超機動で飛翔するジェガンに蹴り飛ばされて一撃大破し――ミカエリスは必死に必死に逃げようとし、これでもかというばかりにビーム射撃を加えたが、全部回避されて遂には追いつかれ――。
『13門×5列を束ねたユニット2つを両肩に装備して展開、合計130門のビームキャノンを一斉射、相手は死ぬ。範囲内の味方もついでに死にますね!』
――全てを焼き尽くす暴力が、決闘出力であるが、解き放たれる。
凄まじい轟音が鳴り響き、130門同時発射されて視界がビームの光一色となり――後に転がっていたのはコクピットのみ(かなり融解していて即時救助しなければ命の危険性があるレベル)のミカエリスに巻き込まれて半壊するベギルペンデ数機という死屍累々といった有様であり――。
『……一言良いか?』
『はい、何でしょう?』
『頭悪いのか?』
サリウスCEOが真顔で言うのも無理もない惨状であるが、『彼』だけは不満そうに『えー?』と文句言いたげに抗議する。
兵器として見るなら、過剰火力及び無差別兵器。どのような状況を想定しているのかさえ解らない、文字通りの規格外兵装だった。
『何であれをMSに載せようと思ったの……?』
『質問の意味が解らないですね、載せちゃ駄目ですか?』
ニューゲンCEOの全員の代弁に、『彼』は心底不思議そうに首を傾げた。
やはり『彼』と他の人間には、埋めようがないほど、隔絶とした感性の違いが広がっており、人は人を理解出来ないのだな、という摂理を全員の心に刻み込んだのだった。
『なお、発動後は各部システムに異常が多々発生しますが、非常に些細な問題ですね! 外したら死ねというのは非常に解り易いですし!』
……当然の事ながら、決闘での使用を永久禁止されたのだった。実戦での使用? これを背負って実戦に出たい者は存在しないので語る必要も生じないだろう。