「……なぁ、シャディク。『私』達って何の為に決闘しているんだっけ?」
「一回本気で殴って良い?」
決闘委員のラウンジで遭った『彼』は、相変わらずふざけた事を言い、此方をおちょくる。
胡散臭い笑顔の影で何を考えているのやら、まるで悟らせない。
……『彼』をどうにかしなければ、株式会社『ガンダム』への介入すらままならない。再度交渉か、それとも物理的な排除が必要か――遅かれ早かれ、ベネリットグループで最も危険な『彼』を野放しにするのは余りにも愚かな選択肢だろう。
……決闘で勝利出来れば、一番手っ取り早かったが、正直、此処まで差があるとは思っていなかった。
1対6なのに、勝負にすらなっていない。決闘ごっこじゃなければ――いや、決闘ごっこのせいで全力を出せていないのは、むしろ『彼』の方だろう。
何故一企業の代表の身で、あそこまでのパイロット技術を有しているのか、理解出来ない。理解出来ない、が、このまま時間を稼がれて株式会社『ガンダム』の起業を成されては、介入の余地すら無くなる。――それは、ミオリネと共に歩む未来が完璧に消え去る事を意味していた。
「――そういえば、君って施設育ちだったっけ? サリウスCEOは幸運だね、優秀な後継者に恵まれたようで」
「そうだね。義父さんには返し切れないほどの恩があるよ」
突如振られた世間話に、いつも通りの調子で答える。此方の事に関して触れるのは『彼』にしては珍しい反応であり――『彼』は此方を見ずに笑っていた。寒気がするほど凄絶な笑みを浮かべて、口元を歪ませて。
「……今日はやけにご機嫌だけど、何か良い事でもあったのかい?」
「ふむ、我ながら浮き立っていたのかな? ――『祭り』はさ、準備の段階が一番面白いんだよ」
……やはり、性格が悪い。株式会社『ガンダム』の起業設立が受理される前に、何としてでも『彼』を出し抜かなければなるまい――。
――『ニュータイプ』という言葉には複数の意味合いが含まれている。
思想的な意味での『ニュータイプ』は説明不要、最も縁遠き存在だから割愛する。
サイコミュを起動する為の先天的素質としての『ニュータイプ』が一番馴染み深く――自分の中で最も突出した『ニュータイプ』能力は、他者からの害意の受信だろう。
「……なぁ、シャディク。『私』達って何の為に決闘しているんだっけ?」
「一回本気で殴って良い?」
敵意、殺意、劣等感、憎悪――グラスレー社の、否、ベネリットグループの獅子身中の虫。
ミオリネとの会話にのみ出した、カテドラルの認可が無くともガンダムを欲する顧客との繋がり、『GUND-ARM』を一番否定するグラスレー社との繋がりではない、個人的な繋がり、個人と言えば――。
「――そういえば、君って施設育ちだったっけ? サリウスCEOは幸運だね、優秀な後継者に恵まれたようで」
「そうだね。義父さんには返し切れないほどの恩があるよ」
孤児、元アーシアン。取り巻き5人も同じ境遇の元アーシアンであり、ファンクラブを形成するほど溶け込んでいるのを見る限り、工作員と見て間違い無いだろう。
地球寮でのアーシアン系列の企業を通しての資金洗浄を行った結果、唯一ダミー企業を経由していたニカ・ナナウラとの接触あり、背後にいる『勢力』との連絡役と思われる。
――シャディク・ゼネリを養子にした時点でサリウス・ゼネリの耄碌具合は残念極まるとしか評せない。
しかし、火種としては小粒過ぎる。グラスレー社の御曹司なので何方の神輿にも成り得ない。
このアド・ステラにおける『地球連邦』と『ジオン公国』が何処なのか、未だに不明瞭なのが懸念点である。
最初はスペーシアン側のメインプレイヤーがデリング・レンブランだと思っていたが――最近、死相が濃くなってきたので、違う気がする。むしろ総裁の死が諸々のスタートラインになるだろう。
「……今日はやけにご機嫌だけど、何か良い事でもあったのかい?」
「ふむ、我ながら浮き立っていたのかな? ――『祭り』はさ、準備の段階が一番面白いんだよ」
新たな『戦争』の気配を感じ取り、『アナハイム・エレクトロニクス』社としての舵取りに思いを馳せる。
経験則から言えば、『戦争』は必ず起こるもの。初期消火など遅延行為に過ぎず、どうせ予想外の場所から出火するので、自然発火を見極めるのが無難である。
――『主人公』が最高に輝ける舞台を、全身全霊をもって彩ろう。薪を焚べるように死を捧げよう。
大丈夫、『君』が『ガンダム』を駆るのならば、数多の屍を踏み越えて目標を達成出来る筈だ。その為に必要な要素は全て用意しよう。この宇宙は『君』の為に存在する遊技場なのだから、全て全て全て『君』に捧ぐ為の供物になるだろう。
――だから、見せてくれ。魅せてくれ。『君』の真価を。『君』の生命の輝きを。『君』がこの宇宙の『主人公』である事を証明して魅せよ――。
(――『君』なら出来る筈だ、スレッタ・マーキュリー)