「こんにちはこんばんは御機嫌よう! 初めまして『少尉』殿、はい、私はこういう者です!」
「……アナハイム・エレクトロニクス? 死の商人が、一体何の用で?」
――政府関係の高官からの尋問や調書作成・調印強制に飽き飽きしていた頃、ソイツは胡散臭い笑顔でやってきた。
アナハイム・エレクトロニクス社、言わずと知れた軍産複合体であり、パイロットとしてはMSで世話になっているが、敵MSもまたアナハイム製なので文句しか湧かない。第一印象は最悪の一言に尽きる。
「勿論、『貴方』をスカウトしに来たんですよ! ――『白い流星』の、アムロ・レイの後継さん?」
その人の精神を逆撫でする言葉に一発でブチ切れて、胡散臭い野郎の胸元を掴み上げる。
「……殺されたくなければ、そんな世迷い言を二度と口にするな……!」
「何か気に触りましたかな? これは地球連邦政府からの公式見解だったと思うのですが? 『貴方』ぐらいですよ? 『彼』と同じように軟禁して飼い殺しする事を検討されている『ニュータイプ』のパイロットさんは」
射殺さんばかりに睨みつけているのに関わらず、ソイツは胡散臭い笑顔を絶やさず浮かべており――舌打ち1つして離す。
ソイツは表情1つ変えずに身嗜みを整え、さも困ったと言わんばかりの仰々しい演技をする。
「あんな『奇跡』を起こした『神話の住民』の後継なんて、扱いに困るのは当然ですよねぇ? 地球連邦にとって、実在する『ニュータイプ』なんて一秒でも早く死んで欲しい『イレギュラー』ですし?」
言うに事欠いてそれである。……アクシズの一件は箝口令が敷かれており、連邦政府が徹底的に隠蔽する気なのは薄々勘付いている。
それを取引として、ブライトが様々な条件を引き出したのも理解出来る。が、納得出来る訳が無い。
――勝手に殺すな。偶々見つけられなかっただけで、『彼』は絶対に――。
思考が脇道に逸れた。つまりは、その箝口令を無視して真の情報を手に出来る立場の人間であると――見るからに胡散臭い男だ、さほど不思議でもあるまいか。
「――このままだと誰も幸せになれないので、勧誘しに来たんですよ。地球連邦は『彼』の後継を監視出来る形で軍から追放したい、我々はその監視を手抜きしながら協力しつつ『ニュータイプ』のテストパイロットが欲しい――軍への未練は欠片も無いでしょ?」
ただ軍を退役しただけならば、影響力を保持した状態で野に下らせる事となり――行く行くは新人類として自身の立場を脅かす、とオールドタイプの政治家達は盲信しているのだろう。
故に、アナハイム・エレクトロニクス社という死の商人に押し込んで影響力を徹底的に奪い、監視しながら無害化する……それが連邦政府の脚本なのだろう。その死の商人サイドの思惑は一切見えてこないが――。
「――解ったような口を叩く」
「ただの知ったかぶりですよ! 私は『ニュータイプ』ではなく、旧世代の人間ですからね! ですから直接見たモノしか信じませんとも!」
……目の前の、この胡散臭い男に関しては全く解らない。害意は無いように思えるが、他の感情は一切感受出来ない。
……元々苦手な分野ではあったが、アクシズの一件以来、人の善意というものが一切感応出来なくなってしまった。一時的な、精神的な問題だと思いたいが――。
「……それで、その節穴の目は何を見たんだ?」
「ええ、将来の『アナハイム・エレクトロニクス』代表を見てますよ!」
「……はぁ? 何言ってんの? この『頭アナハイム』は?」
胡散臭い笑顔で、一体何をほざいていらっしゃる?
「――『貴方』、『彼』と『赤い彗星』を足して2で割ったハイブリットですよね? いやぁ、思った以上に面白い仕事になりそうですよ! ビスト財団の専横も飽きましたしねぇ」
そんな人生で最大最悪の妄言を胡散臭い笑顔で語った男が、軍の退役後に就職したアナハイム・エレクトロニクス社での師となったのは奇妙な偶然であり――自身の経営戦略・政治的手腕の基礎は、オールドタイプでありながら規格外の感性を持つ彼から教わったものだった。
――何度も声を掛ける。呼びかける。かつてと同じように感応を試みる。
けれども、何一つ『彼』には届かない。返す声はなく、『彼』は気づかない。
『――『彼』に貴方の言葉は届かないわ。貴方の死を、宇宙で唯一直接観測してしまった『彼』は、意図的に記憶を閉ざす事で自身の心を防衛した。何重にも渡って心を閉ざし、貴方に繋がる全てを拒絶した。ニュータイプとしての感応が正常に働いてしまえば、この宇宙に貴方がもういなくなった事を自然と自覚してしまうから――』
その精神的な障壁は幾重に構築され、ある種の感応波の感知を完全に拒絶する。
可能性を意図的に切り捨てたが故の絶対的な精神障壁は、解り合えた筈の、ニュータイプ同士の感応すら拒否する。
『――だから、生きたまま『虹の彼方』に来ても、未来永劫、貴方を観測出来ない。既に死を悟っているのに絶対に認めないから、貴方を見る事も感じる事もまた絶対に出来ない。その感受性を自らの手で捨て去り、封じてしまったから――』
後年、アナハイム・エレクトロニクス社の代表となった『彼』は、封印されたサイコフレームの研究を秘密裏に続けさせ、最終的にはサイコ・フィールドの人為的再現に成功してしまう。
人の意思も、ニュータイプとしての素養も、何もかも足りなかった『彼』は、自身の政治的手腕とアナハイム・エレクトロニクス社の技術力をフルに活用する事で――『自身』が搭乗したフルサイコフレーム機を核としたサイコシャードの無限増殖によって強引に解決し、最終的にはコロニークラスのサイコシャードが構築され、生きたまま『虹の彼方』に到達してしまった。
宇宙世紀においても前代未聞、前人未到の大偉業を成し遂げ――されども、『彼』には先天的素養が足りなければ、門を潜り抜ける資格も持ち合わせていなかった。
元々乏しかった感受性すら投げ捨てていたのだ。その状態で『虹の彼方』に到達しても、『彼』には其処に居た自身を見つけ出せなかったのだ。
『――望むままに『虹の彼方』に到達したのに、その望み故に本願を果たせない。……貴方の祈りは、呪いでしかなく、『彼』を永遠に現世に縛り続ける。何度も何度も『彼』のまま生まれ変わり、何度も何度も絶望して死に逝く――』
……今際の時、最期に視たビジョンは、『彼』が永劫に彷徨う姿であり、そうならない為に、1つの祈りを『彼』に遺した。
自分が居なくなった後、『彼』が『迷子』になってしまわないように。それが『彼』を、永遠に苦しめる結果となった。
生きたまま『虹の彼方』の戸口を潜り抜けた事で、『彼』の生死は限り無く曖昧になってしまった。『自身』の死因すら覆してしまい、生と死の境界を無自覚に渡り歩く。
何もかも超越してしまったが故に、無意識の内に永遠に彷徨い続ける。どうしてそうなっているのか、自覚出来ないが故に、永遠に『迷子』のまま――。
『――宇宙を永遠に彷徨う『迷子』、何処にいても貴方は『彼』を見つけられるのに、『彼』の傍らに常に貴方がいるのに、『彼』は貴方を見つけられない――』