「――ミッションの概要を説明しよう。依頼主は『アナハイム・エレクトロニクス』社、目標は『グラスレー本社』の襲撃……の、つもりだったんだがなぁ」
「……いや、仮にも御三家の本社をピクニック感覚で襲撃するのは、ちょっと――」
ラー・カイラム級機動戦艦13番艦ブリュンヒルトの艦橋にて、ヘルメットを脱ぎ捨てて給水する『彼』は、元エラン・ケレスこと元強化人士4号もとい『レイヴン』に今回のミッションを簡略的に説明する。……なお、『レイヴン』は見るからにドン引き状態である。
フェイズ1、戦艦からミノフスキー粒子を戦闘濃度に散布、あらゆるレーダー機器と通信機器を妨害し、外部との連絡手段を完全に断つ。
フェイズ2、グラスレー社CEOへの直接通信による意思確認。それ次第では『プランB』に移行――。
フェイズ3、武力行使。本当にそれはやってしまっていいのか、『アナハイム・エレクトロニクス』社とグラスレー社、両者の関係を破滅的なまでに決裂させ、グループ全体に波及する大問題になりかねないが――。
「可能か不可能かと言われれば楽勝の部類なんだがね? この宇宙の各企業本社の防衛設備なんて塵屑同然だし。テロし放題じゃん? こんな無防備さを晒しているなんて自殺したいんかね?」
……『彼』の常人とは異なる感覚は、特に問題視してなかった。
なお、『アナハイム・エレクトロニクス』社に至っては輸送艦に申請されてないMSが確認された時点で自動的に迎撃するし、事前に報告された人数以外の船員が発覚した時点で問答無用で撃破対象となる。
というよりも、月の本社に直接運輸せず、幾つもの衛星基地を経由して全物資を集積・安全確認してから自社の手で運輸している。衛星基地の機能はほぼ100%無人化されている為、テロ行為を受けても人的被害を最小限に抑えるように設計されている。
……テロがいつか必ず発生する事を前提とした安全措置が取られているだけに、日頃からの警戒度が段違いの域にある。
「という訳で、危険喚起運動の一環で、グラスレー本社に存在する全ての防衛設備を短時間で無力化してくれたまえ。敵人員の殺害は許可しない」
「……無理難題過ぎない?」
「時代遅れの『老兵(ガラクタ)』を『鉄屑(スクラップ)』にするだけの単純作業だ、苦戦すら論外だぞ?」
ディスプレイには、今回破壊する対象の全データが掲載されており、もうこの時点で相手の手札を全部把握しており「今回は『決闘』ではなく『実戦』だからね、MSの性能差がより顕著に出るさ」と相手側の戦力評価を論外と評する。
「大体20年前の量産型MSモデルを今も使い回しているとか、その時点で論外なんだがね? 中身を最新版にアップデートさせたとしても時代にそぐわぬ点は多々出てくるし、ベネリットグループのMS関連のシェアが他のグループに奪われるのは当然の事だね」
文句を言い出せば、止まらず「流石に3ヶ月単位で新型MSを造れとまでは言わないから、素直にその無駄使いしている生産ラインの全部をジェガンに移行しろって言ってるのに」と『彼』はぶーぶー不満をたれる。
……なお、『アナハイム・エレクトロニクス』社に至っては決闘毎に違うコンセプトのMSをお出しするので、あらゆる面で変態企業と言わざるを得ない。
「安心したまえ『レイヴン』、君には頼もしい『僚機』が12機ついているよ! フラッシュシステムで動くGビット12機が!」
「グエル・ジェタークに使っていた、MS型ガンビット……」
非常に印象的だったので覚えがある。あの12機全部が『彼』と同じ挙動をするという、質の悪魔を数の悪魔に変えた悪夢めいた光景を。……12機という事は、今回、『彼』は戦場に出ず、戦艦内から悠々と操作するのだろう。
「ちなみにこのGビット、単なる量産機ではなく、元となった『ガンダム』とほぼ同性能だよ! おまけに今回は搭載されている戦略兵器も解禁だよ!」
……いつものように超高性能のワンオフ機を駆る『彼』が12機いるようなものなら、自分は最初からいらないのでは?と『レイヴン』は内心疑問に思い、最後にとって付けられた聞き捨てならない言葉に注目する。
「……戦略兵器? ビットが?」
「あれ、運用に幾つも前提条件が必要だけど、使い勝手の良い対スペースコロニー用超高出力砲、サテライトキャノンを搭載してるんだよね!」
「は?」
またしても『レイヴン』の常識を壊す事実が公表され「今回は事前にチャージしてから運用するから、出来れば『サテライトシステム』の運用現場は見せたくないがね!」と『彼』は胡散臭く笑う。
「まぁ今回は所謂『砲艦外交』だ、賢しいだけの老人なら正しい選択をするさ。今回の一件で自社に足りない部分を強制的に認識して貰い、我々が必要な商品を提供する。何方もウィンウィンな完璧な商談だね!」
人、それを『自分で燃やして自分で消す(マッチポンプ)』という。
対コロニー用の戦略兵器を見せ札に事実上の全面降伏を狙うのが今回の『彼』の思惑であるが、果たしてそう上手く事が進むだろうか――。
「……グラスレー社側が拒否すれば?」
「そんな愚者は宇宙に瞬く流星になるだけだよ――それじゃ本社殲滅戦になった場合の『プランB』について説明するよ! オーダーは唯一つ、『目撃者を1人も出すな(キル・ゼム・オール)』、だけどね」
……当然、それは『彼』も織込済みであり、どっちに転がっても良いように備えていた。
というより、グラスレー社がどういう選択をしても『彼』にとってはどうでもいいのだ。屈辱を飲んで雌伏しようとも、完全に滅びようとも――。
「――まぁ当然だよね。スレッタの決闘をリアルタイムで見れないとか、万死に値するし」
「え? まさか、それが最大の理由?」
――この武力行使に政治的な意味合いなど欠片も無い。単なる意趣返しに過ぎない。
それがグラスレー社にとってどれほどの大損害になるかは、『彼』にとっては「知った事では無い」の一言に尽きる。
「お気に入りの『アニメ(動画)』の視聴を妨害するとかさ、初手『人類絶滅級の大量殺戮兵器(ジェネシス)』されても文句言えない大罪だと思うんだけど?」
もしも選択を誤り、サリウスCEOが妥協しなかったら「我々が到着した時には『下手人』は存在せず、グラスレー本社が徹底的に破壊され尽くしていた、という脚本だよ!」という21年前のヴァナディース事変が如く酷い地獄絵図になる事を予告し――MSの代わりに多く搭載された『バグ(対人殺戮機構)』を見る限り、1人残らず殲滅する段取りは着実に揃えている事に『レイヴン』は戦々恐々とするのだった。