――決闘委員会のラウンジにて、再びグエル・ジェタークと『彼』は対峙する。
最近では良く見慣れた光景である。……こんなにも同じ対戦相手と連続して決闘をするのは、歴代から見れば異例尽くしだが。
「――双方、魂の代償を『天秤(リーブラ)』に。決闘者はいつもの二人、一対一の個人戦を採用」
今回の決闘の立会人はグループ内御三家、ペイル社が擁立するエラン・ケレス。彼は一切表情を変えずに淡々と事を進める。
「グエル・ジェターク、君はこの決闘に何を賭ける?」
「――いつもと同じで良い。本気で俺と戦え……!」
グエル・ジェタークは『彼』との決闘の2回目以降から一切要求を変えずに突きつけ――。
「それじゃ『僕』もいつも通り。――やってみせろよ、グエル・ジェターク」
『彼』の方は1回目から変わらず、要求になってない要求を突きつける。
どうせ決闘を不成立させるから最初から何も要求しないという人情の欠片も無い合理さは、常にグエル・ジェタークの誇りに傷をつける。
「『賽は投げられた(アレア・ヤクタ・エスト)』――決闘を承認する」
両の掌を合わせ、いつもの前準備が終了する。
……なお、『彼』の方は毎回恒例の儀礼に内心飽き飽きしていて省略出来ないかな、と考えていた。
「……そういえば、本社の『小火騒ぎ』は無事に済んだのか?」
「ああ、意外と大丈夫だったよ。『初期消火』の重要性を改めて痛感したとも。――『再発防止策』は完璧さ」
ぶっきら棒にグエルは『彼』に聞き、『彼』は邪気無く笑う。
「それは結構、決闘に負けた理由にするなよ?」
「心配してくれるとは優しいなぁ。性根の良さが隠せないあたり、君という人間は非常に好ましいよ」
「そんなんじゃねぇよ、勘違いするなっ!」
100%、混じり気無しの本音なのになぁと『彼』は苦笑する。
その解り難い感情の機微を余す事無く察知する癖に、それらに対する返歌は畜生以下なのは『彼』が『頭アナハイム』たる所以であろう――。
「……これより審問会を開始する。『アナハイム・エレクトロニクス』代表に問う。あれは『ガンダム』か?」
審問会の巨大ディスプレイには『決闘で大暴れする『紫色』のMS』が上映されており――。
「いいえ、型式番号『OZ-13MS』ガn……ごほんっ、『エピオン』です」
「……今、『ガンダム』と言いかけなかったか?」
「噛みました、噛んだだけです。多分気の所為でしょう、ええ!」
最早隠す努力すらしない『彼』に「正式名称は『ガンダムエピオン』なのか……」「まぁまたあのフェイスだしな」と、参列する代表達の反応も慣れたものである。
「本機はとある個人の信念・思想を結実させた『エレガント』な機体であり、見ての通り格闘戦特化となっております。主兵装はビームソードとヒートロッド内蔵シールドと1対のクローのみです」
何故か強調される「『エレガント』?」に多くの者達が疑問符を浮かべる。
……武装が近接戦闘用しかない辺り、昨今では珍しいほど潔い機体である。古の『武士道』か『騎士道』被れの思想だろうか?
「……射撃兵装が皆無とは、随分と尖った構成だな」
「まさしく一芸特化、全能力をそれのみに振り分けてますので近接戦に関しては無類の性能を誇っております。一応おまけ程度の可変機能もありますが……まぁ高速移動用の、本当におまけ程度です。……どう考えても接近戦しか出来ない欠陥品ですよねー! 超使いづらかったです! 射撃兵器が恋しい! 乱射しーたーいー!」
途中から取り繕わずに本音を暴露する『彼』に「自分でぶっちゃけやがった!」「誰もが思って、敢えて言わなかった事を……」と観客は呆れ顔となる。
確かにこの機体は、今までの『彼』から考えれば物足りなかっただろうと大部分の者は納得する。
「主兵装の大型ビームサーベルは、柄尻と右腰エネルギーサプライヤーに接続されたケーブルを介し、本体のジェネレーターから直接エネルギーを供給する形式でして、ジェネレーターの出力を上げる事でビーム刃を『それなりに』伸ばす事も可能です」
「ほう、流石に近接格闘戦に特化しているだけはあるか。で、どれぐらいの長さまで伸ばせるのだ?」
「理論上、最大出力なら小規模の宇宙要塞ぐらい真っ二つに両断出来ます」
やや低いテンションで解説された戦力値に「は?」と全員が驚く。
「聞き間違いじゃありませんよ。機動性以外の全出力をそれのみに集中出来るのですから、これぐらいはやってのけて当然ですね」
まるで異次元の非常識を常識の如く語る『彼』に「いや、何を言っているのかまるで意味が解らないのだが」「まぁいつもの『アナハイム』ってヤツですよ」「考えるな感じろ、理解するな受け流せって事かい」と、突っ込みの声が多数上がる。
「……主兵装の性能の高さは理解出来たが、そのビームソード、予備は無いのか? 一つ損失したら戦えなくなるではないか」
「主兵装が逝ったら潔く死ねって事じゃないですかね? どうも薩摩の匂いがするなぁ、『騎士道』ってそういう事だったっけ……?」
『彼』の脳裏に『エレガント』な人じゃなく、ガンダムLOVEな『ブシドー』の人が思い浮かぶ。
「……とまぁ、こんな極端なコンセプトの欠陥機ですので――」
確かに、理論値はいつもの『アナハイム』らしく常識外れだが、今のところ、GUNDアーム関連の技術は見当たらない。……非常に、珍しい事に。
「……あ、今回もパーメット流入値は検出されませんでしたよ」と担当者が忘れかけていたかの如く付け足した。
「――いいや、あれは『ガンダム』だ。私がそう判断した。――今回の『ガンダム』に搭載した特殊システムを説明せよ」
だが、一人だけ、デリング総裁だけが場の空気を否定し――待ってましたと言わんばかりに『彼』は笑顔になる。
「本機には『Zoning and Emotional Range Omitted System』、略して『ゼロシステム』が搭載されています。超高度な情報分析と状況予測を行い、パイロットの脳に直接伝達する戦略インターフェースです」
一気にきな臭い『システム』が披露され、物議を醸す。
「――端的に言えば、そう、未来予知すら可能なシステムなのです」
いきなり飛び出た隠し玉に「まさか?」「いや、でもあの『アナハイム』だぞ?」「あの『アナハイム』だから両方の可能性を疑ってるんじゃないか」と騒然となり――。
「……なんて、耳障りの良い言葉を吐くと思ったかボケが! 超弩級に度し難い欠陥品の中の欠陥品だよ! 誰だこんな塵屑以下のクソシステムを搭載した野郎は! ぶっ殺してやるぅ!」
その『システム』を搭載したであろう張本人が、何故かブチ切れていた。
「……失礼、取り乱しました。えー、本システムは基本的に『相手を倒す、勝利を得る』事を目的としたもので、目的達成の為ならば人道や倫理などお構い無しの可能性を提示する困ったちゃんで、数え切れないぐらいの無数の未来予測を強制的に脳に叩き込みます。大切な人が無惨に殺される未来とか、仲間が裏切って殺しに来る未来とか。……時にはそれが現実なのか、システムの予測なのか解らなくなるほどであり、パイロットへの精神的負荷はそれなり以上に重いものです」
あ、これもうアウトだわ、と全員が確信する。結局、MS側が自身の搭乗パイロットを殺す機構であり――。
「――だが、システムに飲み込まれずに、自らの意思で必要な未来予測を精査し、抽出した結果が今回の決闘の完封劇なのだな?」
それでも、その危険性を犯してでも齎される結果に目が眩んだ者が庇い立てに来るが――。
「いいえ、違います。今回の決闘で確かに『ゼロシステム』を使用しましたが、あのクソシステム、最初から最後まで何も見せなかったですよ! マジふざけんなー!」
何で擁護された側が改めて否定しに来るのか、これが解らない。
「決まりだな。――『ガンダム』の廃棄及びプロジェクトの全凍結を命ずる」
「はい喜んで! 是非とも宇宙の塵にしてやりますとも!」
「え? マジで『ゼロシステム』欲しいんですか? 精神崩壊の果てに廃人になったり、発狂死しても当社は一切責任取りませんよ? 九割九分九厘暴走しますから、最初はMSに搭載せずに試験して下さいね? MSに搭載して試験するなら遠隔操作で外部から起動出来る『自爆装置』をどうぞ。死ぬほど痛いで済みますよ?」