作者の作品における全ての元凶。現実に近しく遠い『基幹世界』から『転生者』を生む舞台装置。
『転生者』の全てが『巷の吸血事件の犯人』によって殺害されており、この1回目の死因が、2回目以降でも多くの場合は同じ死因となる。
ただし、例外は何事にも存在し、この1回目の死因を覆す『イレギュラー』は少なからず存在する。
悪である限り全ての理を覆す『補正』、全ての因果を解放する『亡霊』、可能のまま全てを不可能にする『魔法使い』、除外された可能性を束ねる『混沌』など。
――その『魔女』は1回目の死因を覆してしまった結果、永遠に宇宙を彷徨う『迷子』となる。
『――知っているかい? 苦痛というのは許容限度を超えると知覚出来なくなる。拷問で必要な技術はその見極めかな?』
『目』を抉られ、『耳』を削ぎ取られ、『喉』を引き裂かれ、その『化け物』が行動を起こす事に削り取られていく。
物理的にも、精神的にも。次々に無くなっていき、最期に残ったのは「何故?」という疑問だった。
『――何でこんな事をするのか。特に意味は無いよ? 目が合った相手が『君』だっただけの話で、『君』である必然性は何処にも無いよ。――何の落ち度も無い、純粋に不運だっただけの話だよ? こうして話しているのも独り言だしね』
平凡に生まれ、当たり前のように生きて、退屈しながら死んでいくと思っていた。
流石に『通り魔』に遭遇して、凄まじく猟奇的な手法で殺されるのは予想外であり、最終的に何もかも削られて今際に何も思い浮かべないのは想像していなかった。
『――寝ても覚めても『変わらない悪夢』のままで、死んでも殺されても全て同じ、これじゃ自身の『生』を欠片も実感出来ない。とうの昔に死んでいるのに生きているふりをしていたせいかな?』
記憶領域に致命的な損傷を受けたのか、追憶機能が働かない。だから走馬灯なんて起こらず、誰の顔も思い浮かばない。
……大切な人に分類される誰かは何人か居た気がするけど、残念ながら真っ白に漂白されて回想出来ない。――また削ぎ落とされて、何が残念だったのかも解らなくなった。
『――自分自身の感覚で認識出来ないのならさ、他の生命を殺める事で間接的に『生』を実感するしかないじゃないか。殺す事でそれまで存在した『生』を実感する、加害者である事が唯一の証明になると思わないかい? 残念ながら同意を貰えた事は一度もないけど』
――それが原初の記憶。1秒後には生命の灯火諸共潰えた最初の生存記録。
何もかも削り取られて、何も無くなって、真っ白に漂白されて――何も覚えてないのに、『次』に生まれ変わった『自分』は、生まれた瞬間から『何かを失っている』という正体不明の喪失感と強迫観念を背負って生きていく事となる。
――心の中に、ぽっかりと空いた『穴』の存在は、とにかく気持ち悪い。1秒足りとも目を離せない、意識から外せず、常に『自分』を苛んだ。
明確に『何かを失っている』と確信しているのに、それが何なのか解らない。その空虚さがいつまでも存在している事が我慢出来ず、それを埋める為にあらゆる事を学んだ。
これも違う、これでもない、これなのか、違うこれじゃない――心の中に底無しの奈落が穿たれているのに別の何かで埋めようなんて、到底無理な話だ。
多分、親の目からは何かに偏執的に執着し、即座に執着した対象を捨てて次の対象に執着するという、狂気的で異質極まる『子供』の姿が映っていただろう。
その『子供』が最終的に行き着いたのは、この宇宙の『歴史』と『とある論文』であり、病的なまでに『U.C(宇宙世紀)』以前と以後の『歴史』を紐解き、『ミノフスキー物理学』を擦り切れるまで読み込んだのだった。……それらにのめり込んだ結果、地球連邦の士官学校を目指す事になったのは、親にとって青天の霹靂だっただろうが――。
――最終的に辿り着いたのは『MS(モビルスーツ)』という人型機動兵器であり、理由すら解らず、偏執的かつ狂気的に学んでいく。
整備方法だけでなく、設計図にまで手を出すのはパイロットとしての領分を若干以上超えており、浮いた存在になるのにそう時間は掛からなかった。
思想面での特異性が見られなかったからこそ教官達に見逃されたが――程無くして、物理的に浮く事となる。
――『自分』が最ものめり込んだのはMSの戦闘訓練であり、マニュアルを徹底的に紐解いて即座に全部破却し、『自身』の想うままに最適化に乗り出した。
それは仕方ない行為だった。常人の為の教本が『自分』には大多数の項目において当てにならないと即座に悟ってしまい、独自に試行錯誤する事になったのは不本意極まる事だった。
非効率的なのは『自分』でも解っているし、自分でも理解出来ていない理想形を闇雲に探そうなど、宇宙空間に漂う一粒の真珠を見つけ出すような話であり――ならばこそ、『彼』との出会いはまさに『運命』だった。
『――そうじゃない。後ろにも目を付けるんだ』
……その第一声に「は? 人類の後頭部に目なんかありませんけど?」とドン引きしたけど、実際に助言通りにやったら大体その通りに出来ちゃった、という笑い話のような怪談(ホラー)であり――それが『自分』と『先輩』の記念すべきファーストコンタクトだった。
誤解されがちだが、『先輩』がそういう常人には到底理解出来ない感覚的な助言をする時は、決まってその『感覚』を理解出来る相手に言っている。
――世界に『色』が鮮やかに彩り、『音』がいつまでも鳴り響き、『言の葉』が咲き誇る。胸を穿つ無限の虚無さえ、この時は完全に忘却するに至る。
後にも先にも、この時だけだった。『自分』の人生において明確なまでに『独り』じゃなかった時なんて――。
だから、この時の記憶を、未来永劫、片時足りとも忘れる事は有り得ないだろう。
絶対に忘れられない『呪い』としていつまでも輝き続けるだろう。永遠に届かない、遥か彼方に過ぎ去った『残光』として――。
――その瞬間から第二次ネオ・ジオン抗争終了時までの物語は、敢えて語るまい。
『自分』以外の相応しき『語り部』に託すとしよう。……そんなのは、宇宙にたった『1人』しかいないけれど――。
『アクシズ・ショック』後、再び『独り』になった『自分』は、自身の胸を穿つ虚無を半ば強制的に思い出し――それでもまだ『人間』らしく振る舞えたと思う。
軍を退役して悪名高きアナハイム・エレクトロニクス社にテストパイロットとして入社し、数多の試作MSの試乗を務める最中、持ち前の飽くなき探究心からMSの設計や会社の経営戦略まで手を付けていた。……その師が『自分』を直接スカウトしたあの『頭アナハイム』だったのは本当に不本意極まる話だが。
――ラプラス事変における『頭アナハイム』の暗躍の数々は見事なものであり、傍らで強力に協力していた『自分』にとっての『黒幕の教科書』として永久保存されるに至る。
迷える『少年少女』を強力に手助けし、『前職の上司兼旧友』に機密情報を意図的に流しつつ、『赤い彗星の亡霊』を物理的に黙らせて『月の女帝』をアナハイム・エレクトロニクス社の頂点から蹴り落とす。――『自分』という駒を思う存分に使い倒して完璧に達成しやがったのだから、否応無しに魂の深層域まで刻まれる事となる。
……尊敬は過去永劫・未来永劫出来ない類の人間だったが、「……アンタがオールドタイプなら全人類が等しくオールドタイプのままだよ……」という感想で全部察して欲しい。
――『正史』においては『ラプラスの箱』の解放と共にビスト財団の威光が喪失し、アナハイム・エレクトロニクス社の没落にまで繋がったが、『自分』が歩んだ『アナハイム・エレクトロニクス』社は次期主力MS開発コンペにおいてサナリィに敗北するようなヘマを犯していないし、そもそも『サイコフレーム』技術の永久封印など行っていない。
存在しない『4号機』が手元にあり、それを十全に駆る『テストパイロット』がいるのだから、さもありなん――。
マフティー動乱については何も関与してない。少しでも関わっていれば『ν』の次である『Ξ』なんて名称を絶対に与えなかっただろう。
その結末に関しては、1秒でも早く忘れたい。――感想があるとすれば、殺しておけば良かった、とだけ。アクシズにおいて意図的に無視した『巨大MA』のパイロットの事か、或いは『先輩』の恋人を殺した『親不孝者』の事かは、敢えて明言はしない。
久方振りに会った『元上司兼旧友』の顔は見るに耐えず――結果的にそれっきりとなってしまった。時系列があやふやだが、余りにも早く逝去した事は、残念ながら覚えている。
――『自分』が不本意ながらも『アナハイム・エレクトロニクス』社の代表になってしまったのは、あの『頭アナハイム』が予想外にも早く急死してしまった為だ。
「アイツ、病死する程度には人間だったんだな」という酷い感想しか出なかったが、最期に仕掛けていたのは『自分』への代表就任という大波乱劇であり、外堀を全部埋められた状態で滞り無く引き継がれた。
何で単なるテストパイロットを『アナハイム・エレクトロニクス』社の代表に祭り上げられるんだよ、数多の宇宙を巡った『今』でも有り得ない手管だと言わざるを得ない。
そんな馬鹿げた事に注力してないで、自分の壮年にもうけた一人息子の事にリソース割けと言いたい。……結局、その子を『養子』という形で引き取ったが、育児経験など当然皆無だし、勘弁して貰いたい。
まぁその『養子』も、あの『頭アナハイム』と同じぐらいの逸般人であり、信じられないぐらいの行動力に溢れ、あの『頭アナハイム』に似ず正義感が強かった。……子育てに失敗した訳じゃないぞ? 多分。
……『親』も『親』なら、『子』も『子』、其処に血の繋がりは関係無いらしい。
ある日、『養子』は何処かで拾ってきた『少女』を養子とした。いや、世間一般的な方法で家族を増やしたまえよ……?
まぁその『孫娘』の出自には問題しかなかったんだが。DNA鑑定の結果、『先輩』の遺児である事が判明し、正真正銘の大騒動となった。
あらゆる可能性を精査した結果、とある違法研究によって秘密裏に製造された『デザイナーベビー』である事が発覚し――この『孫娘』を巡って、『正史』にない『アナハイム・エレクトロニクス』社に対する大規模テロ事件にまで発展する事となる。
ニュータイプが『アナハイム・エレクトロニクス』社の代表になる事を快く思わない地球連邦によるこの事件に対して、『アナハイム・エレクトロニクス』社としての力――政略的にも、軍事的にも――を存分に使い、最終的に無事解決に導いたのだが、最後にこの『孫娘』の処遇を巡って、『義理の息子』と初めての『親子喧嘩』をする事になる。MSで。
――後にも先にもこんなに不思議で満足出来る敗北はこれだけであり、『先輩』の『忘れ形見』……と言っていいのか微妙だが、『孫娘』の殺処分を取り下げ、我が家に正式に引き取る事となる。
その出自や政治的立ち位置など関係無い。その健やかな成長を見届け、いつか花嫁として旅立つ日を夢見て、最期には『自分』の今際を看取って貰おう。
あの世での土産話としては、最高に面白いだろう。目を白黒させる『先輩』が、今からも目に浮かぶようだ――。
――1年足らずだった。我が家に来てからの初めての『ハッピーバースデー』を歌う前に、『孫娘』は息を引き取った。
原因は特に無かった。純粋に寿命が訪れただけの話であり――『自分』の中で、決定的な何かが砕け散る『音』が響いた。『目』は何も映さず、『声』は意味を成さない。胸に穿たれた底無しの虚無が何処までも広がる――。
――この宇宙に『後世』というものが存在するのならば、『自分』の評価は差詰『成功した赤い彗星』という考え得る限り最悪の評価になるだろう。
アナハイム・エレクトロニクス社で飼い殺しにしようとして、有り得ない事に『首輪』を全て噛み千切って頂点に君臨してしまい、『赤い彗星』よりも自由に権力を行使出来る機会と場所を与えてしまった。
オールドタイプが想像する最悪のニュータイプ像、それに最も忠実なのは『先輩』でも『赤い彗星』でもなく、歯止めを失った『自分』だというのに――。
――改良に改良を重ねた『4号機』を素体に、無限増殖したサイコシャードはコロニー大まで広がり、生きながらにして『戸口』を開く。『先輩』が消え果てた『虹の彼方』に――。
顛末は以下の通り。『虹の彼方』には『誰』もおらず、実感出来ない『自分』の前世の記憶が一気に復元し、終わらない『地獄』が永遠に繰り返されるのだった――。