「――シャディク・ゼネリ。アンタに決闘を申し込む」
……どうして、君の口から、初めに出る言葉がそれなのか――?
「……ミオリネ。それは、どういう――」
「校則を書き換えたのがアンタである以上、私からの説明の必要ある?」
……確かに、シャディク・ゼネリは学園の校則を書き換え、株式会社ガンダムの起業成立を妨害した。
地球寮に訪れた理由は、義父の策で学園から出張せざるを得なくなった『彼』の居ぬ間にミオリネ達に手を差し伸べて――冷たい表情で目を細めて、ミオリネ・レンブランはシャディク・ゼネリを拒絶する。
「待ってくれ。話を、話を聞いてく――『彼』、か?」
「さぁ、『誰』の事かしら」
……どうして、此処に居ない『誰』かの事を思い浮かべて、そんな誇らしげな笑顔を見せるのか。気づかぬ内に、自身の掌に爪が食い込むほど握り込んでいた。
――やはり、罠と解り切っているグラスレー社の誘いに乗ったからには、相応の備えをミオリネ達に残していたという訳か。
だが、その方法が決闘だと? だとしたら、シャディクは『彼』の事を過大評価していた事になる。
『彼』のような『例外』が相手じゃない限り、集団戦を選択すれば絶対に勝てるだろう。如何にエアリアルが『GUND-ARM』であろうと、1対6では話にならない。
(……スレッタ・マーキュリーでも『彼』の真似は出来ない。あんな『化け物』の所業を、他の誰かが出来てたまるか。――ッ、オレにも気づける程度の事を、あの『化け物』が解らない訳があるか……!)
内心、ぐちゃぐちゃで、思考が定まらない。あの『彼』の狙いが一向に解らず――そもそも、スレッタ・マーキュリーを擁護している理由すら定かじゃないし、どういう理屈で動いているかすら予測出来ない相手だ。
(――決闘の結果はどうでもいい? 後からどうにでもなるとでも? いや、誰かの『契約』に縛られているのは揺るぎない事実。そもそも『ヤツ』は何を目的として――)
答えの出ない疑問は、シャディク・ゼネリの思考リソースを延々と削り続けて――自ら育てた虚像の『彼』は何処までも肥大化するばかりであり、正常な判断力さえ奪い取って盤面の『駒』の見逃しに気づけない……この状況が『彼』の思い通りかと問われれば「いや、別に知らんけど?」と心底興味無さそうに答えるだろう。
――シャディク・ゼネリとの決闘での唯一の負け筋は、とある『駒』を敵陣に引き込まれる事だけなので、真っ先にその可能性を潰したからには「あとはご自由にね!」といつもの胡散臭い笑顔を浮かべている事だろう。
……なお、対『GUND-ARM』兵器である『アンチドート』に対しては「20年以上前の古びた骨董品の対策なんて既に終わってるっしょ?」というこの宇宙における仮面枠、プロスペラ女史の悪辣な手腕を全面的に信頼してしまっているので――ある程度通用してしまう事に全く気づいていなかったりする。
「――双方、魂の代償を『天秤(リーブラ)』に。決闘者はミオリネ・レンブランとシャディク・ゼネリ。場所は戦術試験区域4番、決闘方法は6対6の集団戦とする」
立会人のジェターク寮の寮長ラウダ・ニールが堂々と宣言し――既にシャディクの根回しが済まされ、完全に彼の有利になるように決闘条件が定められているが、ミオリネ側も承知しており、動揺は欠片も見受けられない。
(あの『男』が居ぬ間に――姑息だが、卑怯とは言うまい)
……最近では1人の『例外』に蹴散らされてばかりで錯覚されがちだが、集団戦においてグラスレー寮は不敗を誇っており、実質戦力が1人――あの忌々しい水星女しかいないミオリネ側にとっては最悪なまでに不利な条件だろう。
(……とは言え、あの『男』が何もしてない筈があるまい。それが何かは解らないが、その残した『秘策』がシャディクの想像を超えているか、どうかの話か――)
いずれにしろ、対岸の火事扱いである自分達には関係無い話であり、勝手に潰し合えというのがラウダ・ニールの率直な感想である。不機嫌さを隠さずに自身の前髪を弄くる。
「――条件があるわ。今回の決闘、ベネリットグループの外部にも中継で配信させて」
「……外部?」
ミオリネから提案された、今までにない奇妙な条件にラウダは首を傾げる。訝しげな顔をする此方に対し、ミオリネは勝ち気に、人を食ったような不敵な笑みを浮かべる。
「――御三家を全部潰したパイロットとMSのいる会社なんて、最高の宣伝になるでしょ?」
そういう傲慢極まる処が、この女の最高に癇に障る点であり――それは、面子を潰された御三家に対して、最高の皮肉だった。
「……っ、シャディク、どうかな?」
「問題無い」
「……条件を認めよう」
『彼』に決闘を挑んで調子を崩していた時とは違い、いつも通りの余裕の笑みを浮かべるシャディク――致命的な何かを見落としている気がしたが、気の所為だとラウダは切って捨てた。
――そんな中、事前の根回しを徹底してみっともなく集団戦を選択したシャディク・ゼネリに、水星女に対する敵対心から彼への忖度を承諾したラウダ・ニールという2人の格好の煽り対象を煽らなかったセセリア・ドートはというと――。
(あっるぇー? これ『先輩』の事だから……いや、シャディク先輩、流石に気づくっしょ? まさか気づいてないとか無いよねー?)
その『駒』を味方に引き込められなかったら、学園から出張する前に物理的に潰しているだろうし、もしも味方に引き込んでいるのなら――これから巻き起こる大爆笑の予感を察して、セセリアはひたすら笑みを堪えていたのだった。
「ちょっと待て、何で決闘前の時点でグラスレー社のMSの全データが揃ってるんだよ!? そりゃ『アイツ』は何度も決闘していたが――」
「いつもの事よ。『アイツ』に真っ当な常識を求める事の無意味さは解り切ってるでしょ?」
「それは骨の髄まで染みているが……は? このジェガンPD型って何だよ!? こんなバリエーション見た事ねぇぞ!?」
「素人でも肉盾出来る仕様よ、ある意味最適解じゃない?」
「……いや、それで良いのかよ? お前等……」