――今回指定された戦術試験区域4番に続々とMSコンテナが搬入されていく。
6対6の集団戦など久方振りであり、前回は兄のグエル・ジェタークと『彼』が無人機を5機ずつ従えていたか――兄の関わらない決闘など欠片も興味を示せない。
この決闘の立会人であり、現ジェターク寮の寮長であるラウダ・ニールは苛立ちを隠さずに自身の前髪を手先で弄る。
――いつも兄をおちょくる『彼』には実に業腹だが、寮を追放され、半ば勘当状態に陥ってしまった直接の原因である水星女には更に鬱憤が募る。
あの水星女さえ現れなければ、と何度思った事か。だが、それも今回の決闘が終わる頃には綺麗さっぱり晴れるだろう。
水星女の駆るMSが『アナハイム・エレクトロニクス』社の超高性能MSに匹敵する『ガンダム』だとしても、所詮は一機に過ぎず、集団戦に勝るグラスレー寮が相手ならば敗北は必定だろう。
1対6で逆に蹴散らすなど規格外の『彼』か、兄であるグエル・ジェタークにしか出来ないだろう。残り5機が素人同然のパイロットなら尚更逆転の余地は無い。
――あとは『アナハイム・エレクトロニクス』社がどれほど地球寮に援助していたか、の問題であり、グラスレー寮側のMSコンテナの全輸送が終わり、シャディク・ゼネリが乗るリーダー機のミカエリスに、5機のベギルペンデが姿を現す。
最近は『例外』に蹂躙された姿が目立つせいでMSの性能は今一判然としないが、あのグラスレー社の事だ。対GUND-ARM用兵器は間違いなく積んでいるだろう。……『アナハイム』社製のMSには全くの無力だったが。その対策兵器に機体リソースを費やしたせいで基本性能が疎かになっているのだろうか? いや、『彼』が規格外過ぎて全く当てにならないか。
続いて、地球寮のMSコンテナが到着し、忌々しき『ガンダム』を先頭に、薄い緑色のカラーのMSがコンテナから続々と現れる。
右肩には忌々しい『A.E』のエンブレムが刻まれており、左肩には株式会社ガンダムのエンブレムが描かれていた。
「わぁお、地球寮への貸出MS、全部ジェガンとか豪華っすねぇ」
「しかも見た事無いバリエーションですね」
内心、思わず舌打ちする。『アナハイム』社の量産型MSであるジェガンは、他社のMSと比較しても頭2つほど突き抜けた性能を持つ高性能&高コスト機だ。
量産型MSとして、致命的なまでに高価格(通常の量産機より3~4倍以上のお値段)である事以外の欠点を持たず、あらゆる戦場に適応出来る万能の傑作機だ。
金に糸目を付けぬのなら最適解であるが、素人に扱い切れるかは未知数であり、背部ユニットの『5つの連結した円盤型の兵装』は、それを補うものであろう。
(3機はその未知のバリエーション、1機は狙撃機で『円盤』を装備していない? 狙撃する際に邪魔になる兵装なのか? 最後の1機は――)
「――は?」
思わず、声が出てしまった。地球寮側のMSコンテナから出てきた最後の機体、それは――。
「ぷ、あはははっ! いやいや、ジェガンカラーに塗装したからって、それをジェガンと言い張るのは無理があるっしょ!」
「……明らかにダリルバルデMk-A.Eですね。偽装する気があったのかは定かではないですが」
――そう、見るだけで怒髪天を衝く、我がジェターク社が誇る第5世代実証機――を、外見だけ真似て中身が全く異なる冒涜的機体がジェガンカラーに塗装されており、まさかと思い、ラウダは立会人の特権を乱用してダリルバルデMk-A.Eのパイロットと直接通信する。
画面に表示されたパイロットは宇宙服のヘルメットの下に奇妙な仮面を被っているという常人では考えられないファッションをしていたものの、その姿をラウダが見間違う事は有り得ず――。
「――兄さん!? どうして水星女の手助けなど……!?」
驚愕するラウダの後ろで「ぷっ、あっはっは! グ、グエル先輩、その仮面、超オシャレっすねぇ!」とセセリアは腹を押さえながらはしたなく大笑いする。
『オレは謎の凄腕仮面パイロット、ボブだ! それ以上でもそれ以下でもない!』
「ダリルバルデに乗っておいてそれは無理があるよ!? あとその平凡な偽名は兄さんには似合わないっ!」
更に繰り広げられる兄弟漫才が致命的に刺さり、セセリアは呼吸困難になるほど笑い続けていた。が、そんな彼女の憎たらしい姿に構う余裕は、今のラウダには残念ながらない。
『ええい、偽名の事はともかくこれはその……そう! ジェガン後期型だっ! おのれ何が『偽装工作はこっちで『完璧』にやっておくからさ!』だぁっ! あんの『野郎』ォ、雑な仕事しやがってぇ……!』
……どういう経緯でこうなったかは定かではないが、やはりというべきか、『彼』が直接関与した案件だったのだろう。いつも通り、若干ハメられている臭いが。
「……あ、雑に生徒情報、『アナハイム』社推薦で偽装登録されてますね。手を抜ける処は全力で手を抜く、実に『彼』らしい仕事っぷりです」
「もう駄目、もう限界!」
事前に予想していたとしても、これには笑ってしまうだろう。当事者じゃないなら尚更当然である。
さて、その当事者であるシャディクは、今頃一体どんな顔になっているのやら――。