「わぁお、さっすがー! いやぁ、謎の凄腕仮面パイロット・ボブ先輩がいなければ今ので決着っすねぇ? ラウダ先輩?」
「……兄さん、何であんな水星女を――!」
取り乱すラウダの姿を堪能しつつ、セセリアは愉しげに決闘を鑑賞する。
愛しの『先輩』は不在なれど、『彼』がプロデュースした決闘は何処までも刺激的で愛しい。
――決闘になった時点で、この結果は約束されたも同然だったのだろう。
『――シャディク!』
『私達が抑えるからエアリアルを――!』
――大型シールドを前面に突き出したベギルペンデ2機がジェガンカラーのダリルバルデMk-A.Eに特攻し、リーダー機のミカエリスともう1機が退避するエアリアルとジェガン3機を必死に追撃する。
「2機でダリルバルデMk-A.Eを抑えて、残りでエアリアルの追撃に行きますか」
「『先輩』なら一瞬しか保たないっすけど、ボブ先輩は何秒掛かるっすかねぇ?」
自らのシールドビット2基を、GUNDフォーマットが強制停止してシステム不全に陥っているエアリアルに回しているが、ダリルバルデMk-A.Eが被弾する事無く一方的に駆逐するのは当たり前過ぎる前提であり、時間の問題だろう。
『ぐっ、2人とも――!』
その稼いだ秒数の間に、2機のジェガンによって両肩抱えられて退避するエアリアルのブレードアンテナを折るのがグラスレー寮側の唯一の勝機だが、エアリアルへの直接的なビーム射撃は2基のシールドビットによって完璧に防がれる。
「ダリルバルデMk-A.Eのシールドビットがエアリアルの方に追随している? 意思拡張AIによるドローン兵装の筈なのにイレギュラーな自律行動を取っている?」
「今まで『先輩』が簡単に攻略してくれてたけど、やっぱり物凄く厄介な防御兵装よね? これ」
――ならば、まずは足を止めるべく、両脇でエアリアルを担いでいるジェガンPD型にビームライフルが殺到する。
当然の如く、素人の彼等が回避行動を取れる訳が無いので直撃する。が――。
『――え? 何それ!?』
『まぁじで、自動的に防ぐんだなぁこれ!?』
ジェガンPD型の5つからなる円盤型の背部ユニットが自身の前面に自動展開し、ユニットから特殊なフィールドを形成――決闘出力とは言え、ビームライフルの直撃を簡単に弾き飛ばす。
「――量産機に積める自律型の防御兵装、ですか」
「あれま、これじゃ素人が乗っていても撃ち落とせそうにないっすねぇ?」
――プラネイトディフェンサー、それがジェガンPD型に装備された背部ユニットであり、MD(モビルドール)技術の応用で相手の攻撃に対して自動的に展開して防御フィールドを形成する。
この絶対的な防御フィールドは、実弾・ビーム攻撃を問わずに無効化する為、ただでさえ決闘出力でビーム出力が下げられている決闘において、これを突破する手段及び方法は非常に限られている初見殺しの極みだ。
『――調子こいてんじゃねぇ!』
『っ!? それはちょっと無謀じゃないかな!』
「……あ、後方に待機してた狙撃機が突っ込んできましたね」
「えぇ? 流石にこれは致命的失敗じゃない? その狙撃機にはさっきの便利な防御兵装が装備されてないようだし――は?」
全速力で突撃しながら狙撃ライフルで射撃するチュアチュリーの駆るジェガン『P.D.』型に対し、回避しながらベギルペンデが応射し――他の3機の素人とは違ってパイロット科なのに関わらず、回避動作さえせずにビームが直撃、瞬間、直撃した筈のビームが四方八方に散って霧散する。チュアチュリーの駆るジェガン『P.D.』型は当然の如く無傷だった。
『――え?』
『貰いぃっ!』
予想外の結果に思考停止した彼女と、最初から回避行動する必要無く、射撃だけに集中出来たチュアチュリー――ベギルペンデの頭部が一方的に撃ち抜かれるのは当然の成り行きだった。グラスレー寮側のMS、残り3機。
「ロウジ?」
「以前に『彼』が乗っていた『ガンダム』らしきMS、バルバトスと類似した絶対的なビーム耐性ですね。量産機にも採用可能な装甲技術だったとは……」
3機のジェガンがPD(プラネイトディフェンサー)型なら、チュアチュリーの駆るジェガンは『P.D.(Post Disaster)』型であり、当然の如く当時の仕様そのまま――ビームに対して絶対的耐性を持つナノラミネートアーマーが正式採用されている。
「『先輩』のMSって被弾少ないからさぁ――もしかしなくても防御面でも規格外だったパターンがあったとか?」
「ありそうですね、普通に」
セセリアとロウジが語っている最中、グエ……もといボブを止めていた2機が撃墜され、残り1機、リーダー機であるミカエリスだけとなる。
最早語るまでもないが当然の如く、ボブの駆るダリルバルデMk-A.Eは無傷であり――停止して地面に落下していたエアリアルのガンビットが突如再起動し、それぞれのガンビットにリンクする事で青い粒子の巨大な結界を構築する。
『――良かった、居たんだ』
2機のジェガンPD型に支えられていたエアリアルのシェルユニットが無点灯状態から赤を超えて青色に光り輝く。
「……あれ、まだアンチドート範囲内なのにエアリアルが再起動した?」
「むしろ未だに通用した事の方が驚きですね。純正の『GUND-ARM』であるエアリアルに、天敵であるアンチドート対策が施されてない方が有り得ないかと」
――そして、この決闘の決着は一瞬だった。
制御を取り戻したエアリアルと最後に残ったミカエリスの一騎打ちは他の味方機の援護が入る間も無く――ミカエリスの攻撃を全て圧倒的な機動力・反応性で回避及び防御し、3基1編成となったガンビットによるオールレンジ攻撃にて、ミカエリスの四肢がビームの閃光に瞬く間に撃ち抜かれ、エアリアルのビームライフルがその頭部を撃ち抜く事で決着が付いたのだった。
「――動き、変わったね?」
「機体の機動性・パイロットの反応性も段違いでしたが――今までのエアリアルの遠隔操作端末は攻撃か防御、何方か一方しか出来なかったですが、3基編成になる事で攻撃と防御を両立出来るようになりましたね――『アナハイム』製の多種多様の遠隔操作端末を目にしてきましたが、エアリアルのそれは匹敵、或いは凌駕する性能かと」
――これだけびっくりとんでも技術のオンパレードだったのに関わらず、一番謎めいているのが本物の『GUND-ARM』であるエアリアルだった、という話である――。
「いえーい! さっすがスレッタ! エアリアルにまだ隠し機能があったなんて、何処までも楽しませてくれるねぇ!」
ラー・カイラム級機動戦艦13番艦ブリュンヒルトの船長席にて、決闘の一部始終を見届けた『彼』は超ハイテンションで大喝采する。
最後の御三家との決闘には、『レイヴン』も思う処は幾らでもある。だが、真っ先に出た感想は――。
「……シャディクが哀れすぎる……」
6対6の集団戦にしたのが運の尽き、いや、自ら招いた最大最悪の自業自得の大失敗だろう。『アナハイム・エレクトロニクス』社相手に5機も差し込む余地を与えるなど自殺と同義語だった。
1対1の個人戦の方が逆に余計な手出しが入らず、もう少しマシな結末だったかもしれない。
「彼は何がしたかったんだろうね? 勝つだけなら幾らでも『手』があっただろうに」
『彼』は心底興味無さそうに首を傾げる。この時点で、『彼』の中のシャディクの評価が路傍の石並なのは見て取れるが――。
「……一体何処に、シャディク側に勝機が?」
「まともに決闘しない、これに尽きる。――持ち前の政治力を使って徹底的に事前工作し、スレッタを決闘の場に立たせなければ良い。都合の良い『連絡役』も居るんだから、これが一番勝算高い方法だろう」
……確かに、広い視野で見れば決闘を成立させた時点で終わるような完全無欠な支援っぷりだったので、まともに決闘をしないという選択肢が唯一の正解なのは納得出来るが――『彼』は仕事用端末を片手で手早く操作する。連絡先までは解らないが、その手の邪道的な策を用いた場合の対策すらも準備済みだったのだろう。幸運な事に今回は出番が無かったようだが――。
「――何処かの『誰か』を思い起こさせるような方法だし、その『誰か』も自らの執心の為に選択しなかった方法だけどね」
「迷いが無ければ実行出来るが、その迷いが無かったら当人じゃないしね。どっかの『全裸』みたいに!」と珍しく嫌悪感を滲ませて呟く。
……『彼』に此処まで感情的になるまでに嫌われている『人物』がいるとは、極めて稀な事態である。
「しっかし、アンチドート、普通に通用するんだね? 終盤は無効化?していたみたいだけど」
「……アンチドートが通用するのはパーメットスコア3までだからね」
「マジか、そいつは初耳だ。――つまりあれ、パーメットスコア4以上だった訳か。スレッタが、またはエアリアルが、かは微妙な話だが」
ころころと表情を変えながら、『彼』はうんうん唸りながら思案する。……今のは、どういう事だろうか。パーメットスコアを上げるのはパイロット側であり、それが何故『GUND-ARM』の方に――?
「――エアリアルを、どう見ている?」
「何らかの方法で『GUND-ARM』の生命倫理問題を補っている――この宇宙で最も悍ましいMSだね。『何人』いるんだろうね、あのエアリアルの中に」
――不意に、自分と決闘した時の、正体不明の粒子に飲み込まれ、激痛に苛まれながらも見た、正体不明の青い粒子の人影を思い出す。
子供、それもかなり幼い――無邪気な笑い声を上げながら周囲を走っていき、いつの間にかガンビット11基に囲まれていた、ホラーじみた場面が脳裏に蘇る。
「物理的には入ってなかったよ。データストームの負担を押し付ける『生体消耗部品(カートリッジ)』なんてあったら御三家ほどの資金力・組織力が無ければ運用及び隠蔽なんて不可能だし、となるとパーメット由来の未知の技術かな?」
『レイヴン』自身も、エアリアルがMS側で『GUND-ARM』の生命倫理問題を解決している事しか知らず、一体どういう方法でそうなっているのかは想像さえ思い浮かばない領域だ。
『彼』は両手を上げながら「うちはパーメット関連の技術に宇宙一疎いからなぁ」と降参する素振りを見せる。
「此方が『真実』に辿り着くのが先か、ミオリネ達が『真実』を知ってしまうのが先か――なるべく前者であって欲しいね」
スレッタの事を狂信的で数多の感情渦巻く目で見るのとは違い、その乗機であるエアリアルに対しては恐ろしいほど無機質な目で見ており――その温度差が恐ろしかった。