「――『貴方』は、本当に『ニュータイプ』なのですか? 『貴方』からは、何も感じられません……」
『彼』の事を、『少年』は以前より知っている。
地球連邦の退役軍人でありながら、その知名度は極めて高い。――曰く、『白い流星』の片割れであり、その後継であり、アムロ・レイとシャア・アズナブル、2人の『ニュータイプ』が消え果てたアクシズ・ショックを生き延びた『ニュータイプ』である、と。
――確かに、パイロットとしての技量は桁外れなまでに高い。あの『旧式』のMSで袖付きの専用機を単機で退けた事から疑うまでもない。
それでも『彼』からは何も感じなかった。『ニュータイプ』及び『強化人間』の感応波を感知する事で自動的に『NT-D』が強制発動するユニコーンにも反応が無いほどに。
「……別に、『ニュータイプ』を自称した覚えはないよ。俺は『ニュータイプ』の『出来損ない』だからね――率直なのは若者の特権だが、過去の鏡を見ているようで腹立たしい」
酷く平坦な声で、特に感情の籠もってない様子で『彼』は告げる。
――いや、そんな訳が無い。それは『少年』自身が何よりも確信している。
あの『旧式』のMSのサイコミュ兵器を縦横無尽に動かせるんだから、『ニュータイプ』でない方がおかしいのだ。
だけど、目の前にいる『彼』からは何も察せず――欠けた月の破片を見ている気分に陥る。
酷く心を閉ざしているせいで感受出来ないのだろうか? もう少し、注意深く探れば、何かを掴め――。
「――はい、そこまでですよ、『少年』! どんなに距離が離れても解り合えるのが『ニュータイプ』の美徳だと思いますが、解かり合った結果、悲しい事になるケースも多々あるんですよ? ――人間、解かり合えずとも協力し合う事は出来ますよ! 何でしたっけ、昔の故事で『呉越同舟』でしたっけ? 連邦とジオンの人間を1つの船に積めたらもう殺し合うしかないと思いますけど!」
突如割って入った胡散臭い男の舌先三寸に飲み込まれ、有耶無耶になってしまったが――後々に、『彼』は同じ『ニュータイプ』との感受性を何処かで手放してしまい、幾重に渡って心を閉ざしてしまった、それ故に同じ『ニュータイプ』でも感知出来ない、虚ろで悲しい存在であると悟る――。
『――『白い流星』の後継と相まみえるとは、断ち切れぬ宿縁を感じざるを得ないな。――また我が前に立ち塞がるか、『ガンダム』……!』
『――『赤い彗星』の再来ねぇ? アムロ・レイに執着の無いシャア・アズナブルなんてシャアじゃないだろ。――何者でもない名無しの亡霊風情が、知った風に囀るな』
――その『旧式』のMSは、今となっては過去の遺物である。
時代は進み、より洗練された高性能のMSが次々にロールアウトされる中――性能面では既に埋もれた存在である。
――MSN-06S『シナンジュ』の性能を遺憾無く発揮すれば、MSの圧倒的な性能差で有無を言わさずに圧し潰せる。その評価は何処までも正しく――。
『何者にもなれない、生きた亡霊の『君』が言うではないか……! 自らの可能性を閉ざした『出来損ない』が、何故また戦場に戻った――!』
『知らなかったのかい? アナハイム・エレクトロニクス社の業務には、過酷な運命に立ち向かう『少年少女』を全力で手助けする事も含まれているんだぜ!』
ならばこそ、その戦力の決定的差を覆しているのは操縦者の圧倒的な技量の差に他ならず――『第二次ネオ・ジオン抗争』を生き延びた新兵は、比類無き古参兵として戦場を支配する。
――『ニュータイプ』でありながら、他の『ニュータイプ』に感受されず、『自身』は感受出来ずとも圧倒的なまでに濃密な戦闘経験からの予測で対処する。
他の『ニュータイプ』への感応を徹底的に拒絶し、無慈悲に一方的に駆逐する為だけの、戦争の道具として真に完成した『ニュータイプ』殺しの『ニュータイプ』が其処にあり――。
『――初耳の上に詭弁だな! 最早万事に対して干渉する熱量すら持たぬ身で……!』
『――『赤い彗星』の亡霊が、未だに戦場を彷徨うなんて気持ち悪い、吐き気がする。誰も知らない間に成仏して消え去れよ宇宙の塵が!』
『――これが本当の『ニュータイプ』? あの『白い流星』の後継さまァ? 最高に笑えるなァッ! その様で『ニュータイプ』を名乗るとか正気かよ!?』
『――『赤い彗星』の再来の『失敗作』と聞いていたが、『強化人間』としては最高水準じゃないか。――どうだい? アナハイム・エレクトロニクス社に再就職する気は無いか!』
――別の戦場、不慮な遭遇戦。――今の『魔女』と比べて、かつての『彼』はまだ人間の枠組みの中にいた。
『彼』の心を幾重に覆い尽くす精神障壁も、戦場での興奮で薄れ――その心を垣間見た『強化人間』が居た。『彼』の本質を直感的に理解し、その『強化人間』は誰よりも『彼』の存在を憎悪した。
『お断りだねェ! 『アンタ』とは絶対解り合えないからなァッ! 誰よりもオールドタイプが恐怖する『ニュータイプ』像を忠実に再現しちまった『テメェ』とはなァッ!』
『奇遇だね、俺も最初から解り合う気なんて全く無いよ。――何も言わず、ちゃっちゃと死ね。『赤い彗星』の残滓なんて存在するだけで不快極まる……!』
戦場で出遭ったからには殺すだけ。この時の『彼』は身構えている時でも現れる『死神』そのモノであり――。
『――未だに『赤い彗星』を恐れてブルっちまってんのかァ!? 『アンタ』にとっての戦場での唯一の恐怖、絶対に敵わぬ存在の象徴! 大事な大事な『先輩』を道連れにしておっ死んだ『赤い彗星』を今でも恐怖しているとは最高に笑えるなァッ!』
『――ッッ!』
『――そして最高に笑えないのが、『アンタ』が『白い流星』の後継だって? ふざけんなよ、本当に気付いてないのか? 『アンタ』は誰よりも――『テメェ』自身が何よりも忌み嫌う『赤い彗星』に近しい、馬鹿げた存在なんだぜ? それを目指して脳を弄くり回されて切り刻まれた俺達を差し退いてなァッ!』
『――は? 何言ってんの死ねぶっ殺す――』
「……何で光らないんかね? 俺が『ニュータイプ』の『出来損ない』だからか?」
「いやいや、元々光らない材質ですって。そもそも光る方がおかしいんですよ? 物理法則に喧嘩売ってるんですからね?」
整備中の『ガンダム』を眺めながら、『彼』はぽつりと呟き、保水用のパックを持って投げ渡した胡散臭い笑顔の男は仰々しい仕草で戯けて見せる。
「それに光っちゃったら――それが『RX-93』νガンダムではなく、『RX-0』ユニコーンガンダム4号機である事が各方面にバレちゃうじゃないですか! せっかくわざわざ偽装工作して性能面を低く見せているのに!」
「加担している身とは言え、時々アンタの政治的手腕が怖くなるよ……」
ちゅーちゅー飲みながら「いやぁ、もっと褒めて良いんですよ?」「褒めてねぇよ、この『頭アナハイム』!」とジト目で睨む。
「まぁ1~3号機と違って、サイコフレームが光らないですが、任意で『NT-D』制御出来るので、別に特に問題無いのでは?」
「……ふむ、まぁ性能面は問題無く発揮出来るから大丈夫か――」
その言葉の後に「アムロ・レイなら問題無く光るだろうし」が続くであろう事を、胡散臭い笑顔の男は敢えてスルーする。
それは『彼』の根幹に関わる事だ。感受性豊かな『ニュータイプ』ならありのまま告げてしまうだろうが、オールドタイプに過ぎない男は経験上から癒えぬ古傷を切開するような真似はしない。……どうでもいい地雷は度々踏み抜くが。
「と・こ・ろ・で」
「やだ」
「えー? まだ何も言ってませんよ?」
「どうせまた訳の解らない頭悪い魔改造する気だろ?」
「おー、流石『ニュータイプ』! もはや以心伝心の領域ですね!」
「お前と以心伝心なんて死んでも御免だね! 人の尊厳を勝手に踏み躙らないでくださる!?」
「やぁだなぁ、『貴方』と私の仲じゃないですかー!」
「勝手に『人』を『共犯者』として巻き込んでるんじゃねぇ!?」
「意図的に仕立て上げていますから問題無いですね!」
「問題しかねぇよ!? もうやだこの狂人っ! この『頭アナハイム』! 『頭アナハイム』!」