――株式会社ガンダムvsグラスレー寮の決闘が終わり、現在のホルダーであるスレッタ・マーキュリーは御三家全てを下したパイロットとして畏怖され――。
「――なっ、そんな馬鹿げた金額、払える訳無いだろ!?」
「それはおかしいな。――君は、この『私』が君の推薦企業の資本査定を読み違えていると主張するのかい?」
彼女のMS、エアリアルが強化・改修の為に外部コロニー送りとなり、乗機の不在を絶好の機会だと捉えた一生徒は堂々とスレッタ・マーキュリーに決闘を挑み――おどおどするスレッタの傍らに立つ、絶対零度の視線で笑ってすらいない『彼』と対峙する事となる。
――スレッタ・マーキュリーの代理人として決闘の諸条件の宣言に参加した『彼』が要求したものは、単純に金銭。決闘で賭けるものの代表格――金・誇り・女のうちの1つ――だが、四桁億単位の金額を提示したのは過去にも未来にも『彼』のみだろう。
普通の一生徒がそんな馬鹿げた金額を提示したとしても、二重の意味で決闘条件として成立しない。一介の決闘者如きに一企業を買収するだけの請求能力が皆無である事と、例え決闘で勝ったとしても子供のお遊戯として踏み倒されるのが関の山だろう。力無き者の下剋上など夢のまた夢、どう足掻こうとも不可能なのである。
――それが、現在のホルダーを強力に擁護し、御三家超えの権勢を誇る『アナハイム・エレクトロニクス』社の代表となると、二重の意味で子供のお遊戯で済まない。
弱小企業に対しての請求能力が容赦無くあり、尚且つ踏み倒す事が不可能であろう強制力まで自前で持ち合わせているのだから――。
「ああ、そうそう。シャディク。そういえば決闘の前提条件が間違ってなかったかい? 1対1の個人戦じゃなく機体数無制限の――相手側のMSのブレードアンテナを全部折った方が勝利の『総力戦』で、決闘場所は『フロント外宙域』じゃなかったっけ?」
かくなる上は、相手側にも株式会社ガンダム及び『アナハイム・エレクトロニクス』社の譲渡を条件に盛り込んで対等に――そんな条件の決闘が成立した瞬間に決闘者の生徒が決闘前に100%暗殺される自殺を言葉にする前に、『彼』は滅茶苦茶過ぎるルール改変を決闘委員会に要求し――。
「なっ、何だその滅茶苦茶なルールは!? そんなの――」
「……ああ、ごめんごめん、そういえばそうだったね。たった今、『総力戦』というカテゴリーが唐突に誕生したとも」
決闘の諸条件は決闘委員会の専権事項――それなのに関わらず、根回し1つすらせず、そんな滅茶苦茶なルール改変が通ってしまい――いつも通り決闘委員会のラウンジに居座っているセセリアが「うわぁ、シャディク先輩、媚び媚びで全力でお労しい状態っすねぇ!」と煽っているのは今現在『死地』に立っている生徒の耳には届かないだろう。
やぶ蛇を突くどころか竜の逆鱗に触れていた事に漸く気づいた一生徒は、現在の『アナハイム・エレクトロニクス』社と御三家の力関係の一端を目の当たりにし、強制的に悟る事となる。
「す、すみませんでした。決闘を取り下げさせて貰いますっ!」
余りにも愚鈍過ぎた生徒も、死刑場の十三階段の最後の一段に足を踏み入れていた事にやっと気づいて青褪めて――。
「それはそうとさ、君の個人的な考えを聞きたいのだが――君の時間と『私』の時間は等価だと思うかい? こんな笑い1つすらとれない退屈な茶番劇に無駄な時間を浪費させられた『アナハイム・エレクトロニクス』社としては君の推薦企業まで報復範囲に入るかなと個人的には思っているんだけど」
個人的な話の筈なのに、一企業の代表として対応するのはおかしいだろうと突っ込む者は此処にはおらず――。
――喧嘩を売る相手を致命的なまでに間違えた。ベネリットグループの次期総裁に最も近しい支配者相手に不評を買うなど、推薦企業諸共根切りにされかねない絶体絶命の窮地であり――。
「――あ、あの! 『アナハイム』さん! わ、私はその……!」
「ええ、解りました。スレッタさん」
余りの空気の悪さにいたたまれなくなったスレッタが口を挟み、『彼』は胡散臭い笑顔を浮かべて頷く。
「……時間の無駄だから省くが――それぐらい、言わずとも解るよな?」
「――ひっ!」
彼女に向ける胡散臭い笑顔から一変し、機械じみた無機質で無感情な眼で射抜き――。
「っ、は、はい! ごめんなさい、二度とこのような事は行いませんすみませんでしたー!?」
決闘者が決闘を取り下げ、決闘委員会のラウンジを退出した事で、今回の決闘は白紙となり――。
「――エアリアルの改修中に付け込んだ癖に、肝の小さい」
「その事なんだけど、エアリアルの改修が完了するまで、特例で決闘を延期させても良いんだけど?」
シャディクとしては、会社及び義父の意向に従い、『彼』に恩の1つや2つ売っておきたいが――。
「あんな瞬殺確定の雑魚風情との決闘を特例扱いで? そんな退屈な真似をするぐらいなら我が社のMSをスレッタさんに貸し出しますとも」
スレッタは殺人的で変態的な兵装の多い超高性能ワンオフMSを思い起こして「えぇー!?」と物凄く嫌がり、『彼』の魂胆をまた読み違えたシャディクは「……はは、手厳しいね」と苦笑する。
本社からの情報で、『彼』がスレッタの決闘を特別視している話だが、相手が誰でも良い訳ではないようだ――。
「ミオリネが本社に出張中で留守ですから、何か問題が起こりましたら全力で頼って下さいね、スレッタさん」
「好きなカラーに塗り替えられるけど、何か希望はあるー?」
「……別に。前ので良い」
「原色の赤に塗り替える事も可能だよ!」
「おい馬鹿やめろ! 父さんにどんだけ喧嘩売るつもりだよ!?」
学園内の『アナハイム・エレクトロニクス』社専用のMS格納庫にて、グエルは『彼』と和気藹々と語り合う。
見上げる先にはジェガンカラーのダリルバルデMk-A.E――やっぱり薄緑色だと量産型っぽくて弱く見えるなとグエルは眉を顰める。
『彼』の持っているタブレット端末のモニタ表示が2、3回瞬き――。
「んー? 『ALICE』も元の青色が良いか。まぁ搭載された時からの色だしね」
「……マジで自己意思あるんだな?」
「そうだよ。例え機体が変わっても『ALICEシステム』は別機体に搭載し直せるから、末永く可愛がってね!」
直接的な意思表示はまだ出来ないのか、間接的な意思表示に終始しているが――とんでもない技術力過ぎて、逆に凄さが解らなくなるという逆転現象に陥る。
……しかし、『ヤツ』からのニュアンスにやや悪意が見え隠れしているのは気の所為だろうか? 特にその『末永く』の部分に。
「ああ、そうそう。エンブレムはどうするー? 我が社のロゴは宣伝の為に強制的に付けてるけど、左肩は空いてるぜ!」
「……それ、気にする事か?」
「結構重要だよ! 個人的に気分が乗るし、『あのエンブレムは『ヤツ』か!』とか凄く格好良いじゃん?」
今まで気にした事は無かったが、確かに――そういうのもありか、とグエルは思える。『ヤツ』のジェガンの左肩のエンブレムには、何やら深い思い入れがあったようだし――。
「何ならジェターク社のロゴでもいれるー?」
「共同開発だと誤解されるような紛らわしい真似はやめろや!」
「なら、グエル個人のエンブレム、今から作ろうぜー!」
とは言ったものの、そういうのはジェターク社のロゴ、黒一色の百獣の王の印象が強く、自分専用となると咄嗟には思い浮かばない。
そんな自分の困惑を察したのか、『彼』はタブレットを操作し、グエルに差し出す。
「はい、エンブレムの見本。気になったものがあったら言ってね。それを母体に加工とかも出来るから!」
画面に表示されたエンブレムの見本は優に100以上超えており――。
「思っていた以上に沢山あるんだな? ……⑨?」
「ああ、ナインボールのだね。意味合いはビリヤードの9番のまんま、最後に倒すべき最強の敵ってヤツさ!」
シンプルなデザインに見えて、深い意味合いを持っているのかと感心しつつ、エンブレムの見本を眺めていき――。
「『お前』のジェガンにつけていたエンブレムもあるんだな」
「おっと、それを選択するには俺を倒して名誉『ロンド・ベル隊』入りしないと駄目だぞー!」
……とりあえず、その『ロンド・ベル隊』とやらには突っ込まない。絶対話が長くなる。
あれこれ眺めていると、モニタ表示が点滅し――ALICEからの意思表示? 何やら個別データを送信してきたみたいで、中を開いてみると――。
「赤とピンクのツートンカラーの異形の竜? ああ、なるほど、童話『鏡の国のアリス』に登場する正体不明の怪物、ジャバウォックか――ALICE関連で、最強の存在が由来かな!」
「……何で赤とピンクなんだ?」
「ああ、そうか。グエルは当然知らないか。――機体の操作権がALICEに移行している最中のダリルバルデMk-A.Eのモノアイは赤色に変わるよ!」
……『コイツ』、敢えて言わなかったが、このピンクは自分の前髪の色からか? AIからもそういう認識なのか?とあれこれ悩みつつも、デザイン自体には文句が無く――。
「――それで良い」
「あいあい、楽しい楽しい塗装作業の時間じゃー!」