「――ふむふむ、中々興味深いですね、GUND義肢というのは。うちには無い技術ですし」
株式会社ガンダムのGUND義肢運用試験のクリアを見届けた『アナハイム・エレクトロニクス』代表は、いつも通り、とても胡散臭い笑顔で評価する。
その様子を、ペイル社から派遣された技術顧問、ベルメリア・ウィンストンは恐る恐る伺っていた。
(……あの胡散臭い笑顔は、大抵本音を隠している時……いえ、出すまでもない時? 人物評が定まらず、複雑過ぎて精神分析もままならない――)
彼女が株式会社ガンダムに出向となっているのは何も慈善活動する為ではない。正面から隠さずに堂々とスパイ活動する為に送り込まれている。……当人の人の良すぎる性格ゆえに極めて難がある仕事となっているが、それはペイル社の人選ミスであり、彼女自身の失点ではない。
「あの『アナハイム・エレクトロニクス』社にも、ですか?」
「揺り籠から戦艦、果てにはコロニーまで、幅広く商売しているので、鉤爪型の義手ぐらいならありますよ!」
ニカからの疑問符にいつも通りの胡散臭い笑顔で答え、ヌーノから「フック船長かよ……」と突っ込まれる。
「……あー、でも、その他に『直結型』があったなぁ。致命的なまでに好みじゃないですけど」
「『直結型』?」
「あ、それ聞いちゃいますか? 気になりますよねベルメリアさん! ――『リユース・P・デバイス』、『両義手』と『両義足』を直接接続するんですよ、MSの操縦端末に」
……反射的に聞き返してしまった事を、ベルメリアは即座に後悔する。
『彼』は胡散臭い笑顔のまま、自身の腕を切るような動作をして悪魔の如く嘲笑った。
ベルメリアの常識人としての感性は悲鳴を上げたが、研究者としての彼女は即座に『人体と直接接続する『GUNDフォーマット』との違いは何なのか?』と思考が進み、激しい自己嫌悪感を抱く。
「本末転倒なので永遠にお蔵入りの技術ですけど、文字通り自分の『失わせた』手足のようにMSを熟練兵以上の精度で動かせるようになりますよ! 其処までやってもやる必要の無いトップ層の上澄みに届かないのは何とも無情ですけどね」
研究者としての彼女は、即座に『彼』の説明を噛み砕き、この狂気の沙汰を完全に理解してしまい――常識人としての彼女は余りにも生理的な嫌悪感から理解を拒む。
「い、一体何が本末転倒なのかなー!?」
「四肢欠損したパイロットを再利用するのではなく、これを使う為に意図的に四肢切断し出したからですよ? 心の底から気持ち悪いですよね、どんな発想と狂気を混ぜ合わせたらこんなのを産み出せるのやら」
お調子者のオジェロが一気に冷めた場を和ませようと頑張るが、『彼』に止めを刺される。
意図的に四肢を切断するのは、正常に動作する四肢の感覚が操縦を阻害するから、なのでは――「これをやるぐらいなら『阿頼耶識システム』の方がまだ人道的ですねー!」と『彼』は笑う。
余りにも非人道的な技術に寒気が止まらないが――この方式の場合、最大の利点は――。
「あれれ? GUND医療のGUND義肢を凄く健全で未来性ある技術だねって全力で褒めたんだけどなぁ?」
「……いや、そのブラックジョークで全て台無しっすよ……」
「……絶対ジョークですらないだろ、それ。眼がマジだったし……」
ヌーノとチュアチュリーが『彼』をジト眼で睨んで非難し、「ベルさん気にしないで下さい、『社長』さん、からかっただけですから!」とリリッケ・カドカ・リパティは朗らかに笑う。
「これはこれは申し訳無い、ベルメリア・ウィンストンさん。ついつい悪戯心が湧き上がってしまいまして! ――ちなみにパーメット未使用の技術なので、データストームもありませんよ?」
ああ、やっぱり、単なるほら話でなく――四肢を切断した程度で、『GUND-ARM』の呪いを断ち切れるのならば、そう血迷いかねない自身が、この上無く呪わしかった。
『彼』とのやりとりは、相変わらず、ベルメリアの心をヤスリの如く削る――株式会社ガンダムだけでなく、あの『アナハイム・エレクトロニクス』社への間諜まで業務内容に含むのは無理がある。
「『アナハイム』さーん! 見てましたかぁ!」
「ええ、見てましたよ。未知の技術系統を目にするのはいつも心の保養に……いや、違うな。――ごほんっ、ベネリット本社に出張中のミオリネさんも大喜び間違い無しの成果ですとも!」
婉曲な表現ではスレッタに伝わり辛いと即座に悟った『彼』は直情的な表現に言い直し、即座にスレッタは破顔一笑する。
「いつもツンケンなミオリネさんも、こう、御令嬢の如く高笑いするレベルですね! 『おーほっほっほ!』と!」
「いやぁ、それほどでもぉ!」
「そこっ、スレッタを甘やかすなぁ!」
……やはり、スレッタ・マーキュリーに関しては明らかに特別視しており、されどもその方向性が全く見当が付かない。
保護者のようであり、同時に実験動物を眺めているようでもあり――『彼』から見える世界は、一体どうなっているのだろうか?