「――ベネリットグループ総裁にして監査組織カテドラルの統括代表、デリング・レンブラン。貴方は『アナハイム・エレクトロニクス』代表について、何を知っているのです?」
ミオリネからのこの質問に対し、父であり、ベネリットグループの頂点に立つ独裁者が極めて険しい顔付きになる。
彼女からしても、ある種の、核心に近づく質問であり、その答えを聞けば後戻り出来ない類である予感があった。
それでも聞かなければならないと思ったのは何故か、思考が追いつき、答えを導く前に着信音が鳴り響く。……それはミオリネのものでなく、デリングからであり、この特異な音を聞いた瞬間――デリングは無言で、尚且つ更に眉を顰めた。
一体誰から――なんて推察するまでもなく、ベネリットグループの独裁者を更に上回る身勝手な『彼』からの音声メールは、何故か自動的に再生されるのであった。
『おはようございますこんにちはこんばんは御機嫌よう! 時候の挨拶は省略して早速本題を! 万人に叡智を授ける事は労力の不法投棄というか基本的に無駄かつ不可能ですが、愚者でも理解出来るように営業努力しないのは本末転倒、という訳で解り易いPV映像を作成すれば我が社のMSの偉大さを思い知ってジェガンの売れ行き右上がりになるのではと錯覚したので早速作ってきましたんでご鑑賞あれ! なお強制的にハッキングして即座に上映しますので、現在進めている全タスクを放棄して見て下さいね!』
一方的に、尚且つ早口で語られる胡散臭い口調は『アナハイム・エレクトロニクス』代表のものであり、社長室に備え付けられた巨大ディスプレイが自動的にスイッチが入り、『ぱんぱかぱーん』とどっかで聞いたようなメロディーの後にデカデカと『A.E』のロゴが表示された。
「……え? いつもこんなノリなの……?」
恐る恐るデリングの顔を覗き込むと――デリングは無言で視線を逸らし、年季の籠もった疲労感を漂わせながら、大きな大きなため息を吐いたのだった。
『この物語はフィクションです。別の宇宙の出来事です。『A.S.(アド・ステラ)』とは全く関係ありません。リピート・アフター・ミー?』
ナレーションの胡散臭い声は『彼』のものであり、社長室に備え付けられた椅子に腰掛け、ミオリネも一緒に視聴する事となる。……デリングの様子から、出来れば見て欲しくなさそうだが。
「……いや、どんだけ念押すの……?」
『彼』の早口の説明からはMSのPV映像らしいが――最初に描写されたのは特徴的なコロニーの映像だった。
『――今、1つの世界が終わり、新しい世界が生まれようとしています。宇宙世紀。ユニバーサル・センチュリー。字義通りに訳せば『普遍的世紀』という事になります』
物語の導入で西暦から新世紀、自分達の宇宙の暦である『A.S.』ではなく、『U.C.』と説明する辺り、フィクションで、尚且つ別の世界観である事の念押しなのだろうか?
『A.S.』には存在しない『地球連邦政府』の首相の演説で世界観の差異を説明するのは中々旨い手法に思える。
『宇宙に出た人類の先行きが安らかである事を。宇宙世紀が実りある時代になる事を。我々の中に眠る、可能性という名の神を信じて――』
……のだが、演説が所々カットされ、尚且つ何故外の宙域で活動する人々の描写が度々入るのだろうか、と思っていたら――地球軌道上の首相官邸コロニーが連鎖的に爆破され、世界中から集ったトップ層が纏めてテロ事件の被害者となる。
「いやいや、首相官邸コロニーを最初から爆破しておいて『Welcome to this『U.C.』!』って、どんなセンスよ!?」
「……どのような形であれ、あの『男』の創作物だ。性根が狂っているのは当然だろう」
新たな世紀を祝福するどころか、拭い去れぬほど血塗れの呪いにするのはどういう趣向なんだろうか……?
流石にこれはデリングの意見に同意せざるを得ないし、擁護すら出来ない。
『――人類が増えすぎた人口を宇宙に棄民して半世紀余り。はい、早速やってきました、皆大好き『一年戦争』! 地球に居残り続けた『特権階級の勝ち組(アースノイド)』『地球連邦』に、宇宙に捨てられた『掃き溜めの負け組(スペースノイド)』『ジオン公国』が宣戦布告! 国力差30倍以上とか正気じゃないほどの差があるけど、本邦初公開の新兵器『MS』の投入と初手『コロニー落とし』で何とか膠着状態に突入! 総人口の半数の55億人ほど色々な理由でお亡くなりになったけど些細な問題だね!』
胡散臭い『彼』のナレーションと同時に、目まぐるしく変わる情景描写が瞬時に入り――。
「ツッコミが、ツッコミが追いつかない!?」
自分達が生きる『A.S.』とは違ってスペーシアンとアーシアンの立場がほぼ逆転している不思議に、スペーシアン側にとって揺り籠であるコロニーを地球に落とすとか正気じゃない事を最初からやらかし、その凄惨過ぎる被害状況に無駄に描写が凝っている事も全力でツッコミたい。
……デリングは無言で、自身の頭を抱えていた。
『――でもぉ『地球連邦』もMSを開発し、量産しちゃったらどうにもならないよね! 其処に至るまでの沢山の『人間物語(ヒューマン・ドラマ)』があったけど泣く泣くカットカット、番組の尺がねぇんだわこれが! という訳でどーん、最終戦、地獄の『ア・バオア・クー攻略戦』へようこそ!』
いきなり最終決戦の場面に放り込み、全力で視聴者を置いてきぼりにする無軌道な姿勢は関心したくなるほど『彼』らしかった。
「物語に必要な工程を全部飛ばし……!?」
……それでも――此処だけに全力を注いだと言わんばかりな――膨大な数のMS対MSの戦闘描写は凄まじく見応えあるものとなっており、中でも『いつものフェイス』の白いMSは鬼神の如く活躍していた。あの機体だけ動きが明らかにおかしく、素人眼からは凄すぎて何が凄いか解らないぐらい気持ち悪かった。
(……『アイツ』みたいに前に前進してビーム避けてるし、ビームライフルの射線を向ける前に回避行動とか、常に視界から消えるとか、ホラーすぎでしょ? ……あれ、いつもの『アイツ』の挙動では……?)
……しかし、この実写映画もどき、何のPVなんだろう? どのMSも見慣れぬ機体であり、微かだが地球連邦側のMSにジェガンの系統らしきものが見て取れる程度だろうか?
色々あって、あの『白いヤツ』も『足の無い欠陥MS』と相討ちになり――いや、メインカメラがやられたのに何で普通に当ててるの? ……様々な描写を犠牲にして30分程度でこの濃密なPV映像は終了したのだった。
――そして最後に、あの『白いヤツ』の機体説明が始まったのだった。
『型式番号『RX-78-2』ガンダム2号機、『地球連邦』が『ジオン』のMSに対抗すべく、『V作戦』にて開発した試作機であり、コストを度外視して当時のありとあらゆる先端技術を投入して製造された――正式名称が『ガンダム』であり、略称の『GUND-ARM』でないMSである。そもそも宇宙世紀に『GUND-ARM』など最初から存在しないし』
……何故か、その『ガンダム』という言葉に対し、違う意味で深い執着を抱いているのは何故だろうか? 『GUND-ARM』と比べて段違いの熱量を感じる。
『性能面では今となっては特筆すべき点は無し。多少装甲が硬い程度だけど、結局ビームで撃たれたら撃ち抜かれるから誤差だね! コクピットは『コアブロックシステム』を採用し、いざという時の脱出用の戦闘機になるので生存性は極めて良好。その半面、コストは鰻登り!』
……どうして、自社のMSの欠陥を説明する時にイキイキとしているのだろうか?
『なお、このガンダム2号機はリファイン版なので、『アナハイム・エレクトロニクス』社基準の超高性能機まで性能をアップデートしているよ! やったね! ……まぁどっちかというと、MSの性能よりも『操縦者』の技量の方が頭おかしかったんだが』
未来予知してるんじゃねぇのってぐらい、動きが気持ち悪かった。被弾なんて、あの『足の無い欠陥MS』との戦闘でのみだし。
『――『一年戦争』において神話級の大戦果を挙げた事で、宇宙世紀でのアナハイム・エレクトロニクス社は以後、『V字アンテナでデュアルアイの超高性能機』を『ガンダム』として造り続けたよ!』
……? ああ、そうか。一応PVと銘打っているんだから、この架空の世界観に『アナハイム・エレクトロニクス』社だけは宣伝目的の為に投入している……?
『ああ、そうそう、『一年戦争』時代から両陣営にアナハイム・エレクトロニクス社製の商品が流通していたよ! うちのキャッチフレーズはこの当時から『スプーンから宇宙戦艦まで』なので!』
細かい描写を片っ端から端折った割に、作中設定が徹底的に練り込まれている? 必要が無いと判断すれば問答無用で全部切り捨てる『彼』が、執拗なまでに必要無いと判断した要素を?
一言では言い表せない違和感として、ミオリネの中に蟠る事となる。
『本格的にMS開発事業に乗り出したのは『一年戦争』終結後の、敗戦したジオン側の関連技術&研究施設を全部買収及び吸収した後からだね!』