『アナハイム・エレクトロニクス』社にとって、他社への諜報に関する力の入れようは、他社が考えているよりも重い。
どの宇宙の『アナハイム・エレクトロニクス』社でも、原点から続く弱点は変わらない。既存の技術をより洗練された形で昇華させる事は得意だが、自らの手で新機軸の技術を生み出す事は大の苦手である。
常に数多の宇宙で新機軸の技術を取得し続けた『彼』の存在のせいで有耶無耶になっているが、その体質は変わらない。尤も、それを把握しているのは『彼』だけだが。
――故に、自社に存在しない技術は、他社から奪取して完成させるのが基本方針であり、それを成す為の自前の諜報機関は人知れず張り巡らされている。
それでいて、『アナハイム・エレクトロニクス』社で最も秀でた諜報員は誰なのか。それは問うまでもなく、『アナハイム・エレクトロニクス』代表、その人である。
『彼』の『ニュータイプ』としての能力は原初と比べて極端に変異しており、同じ『ニュータイプ』じゃなくても悪意に連なる感情ならば深く見通せる域に到達してしまっている。
1つの偽装情報を与えている間に、100以上の秘匿情報を抜き取るのは朝飯前であり――無数の悪意で構築された未来図に、エアリアルの強化改修が行われているプラント・クエタでのテロ襲撃計画を既に予見していた。
ヴィム・ジェタークがまたデリング暗殺計画を画策してサリウス・ゼネリに協力要請、老いた賢人は乗り気じゃなかったが、シャディク・ゼネリが利用する為に乗っかり、独自の思惑を巡らせる。アーシアン側の工作員としての本領を全うするだろう。
デリング・レンブランがベネリットグループの巨大開発施設プラント・クエタに来訪する日取りは入手しているので、そこが『Xデー』になるだろう。
……ミオリネとスレッタはエアリアルを受領する為にプラント・クエタに赴く事になるだろうが、タイミングがずれて幸運にも居合わせない? 否、必ず何らかの帳尻合わせが起こり、渦中のど真ん中にいるだろう。
――此処まで事前に見抜いておきながら、『アナハイム・エレクトロニクス』社としては傍観するのみである。
火中の栗など他人に拾わせれば良いし、トップ層の首が何人か入れ替わっても何も支障無い。やる事は変わらないし、やらかす事も変わらない。新たな戦乱の幕開けを心から歓迎するのみである。
どの宇宙においても『アナハイム・エレクトロニクス』社が『死の商人』である事には変わりなく、戦時経済こそ自社の日常である。戦争前の準備期間である平時など欠伸が出るほど退屈しているのだ。別の宇宙において諸悪の根源・世界に邪悪を撒き散らす元凶とさえ罵られた、祓うべき魔物の巣窟は。
――『個人』としても、事前に関与する事はない。自身の采配とは関係無く発生した確定事項であるが故に、ミオリネとスレッタが乗り越える試練の1つだと認識する。
全体図を大凡見通しているが故に、その試練の過酷さと難易度も正確に把握しているが、『ガンダム』という物語の『主人公』であるという盲信と期待感は、それらを遥かに凌駕する。
「それはそれとして――多少の摘み食いぐらいは許されるよね?」
学園内の決闘において『彼』は遊ばない。殺してはならないという制約は、『彼』にとっては遊べない程度に重い。無意識の内に敵を殺そうとするのだから、意識的に制御しなければならないのは非常に困難かつ苦痛極まる行為である。
それを取っ払えば、どうなるか――積年の『悪癖』が露呈する。この『魔女』の救いがたき本質を、この宇宙の人間はまだ知らない。
『……大きい星がついたり、消えたりしている。あはは、大きい。彗星かな? いや、違う。違うな。彗星はもっとこう、ばぁーって動くもんな!』
『第三回目』のPV鑑賞会、前回から4年後のU.C.0087年からの『グリプス戦役』は前回発足した反連邦分子を弾圧する『ティターンズ』と、その苛烈な思想統制と弾圧に対抗する為に組織された『エゥーゴ』による、地球連邦内の内部紛争となり、凄絶な殺し合いを繰り広げる事となる。
『……なぁ、俺達は一体、何を見せられているんだ……?』
『フィクションという名の地獄絵図じゃね? 妙にリアルなのに、やってる事がぶっ飛びすぎて怖ぇんだが。この宇宙の連中、気軽にコロニー落としやら毒ガスばら撒きすぎじゃね?』
密閉空間のコロニーに毒ガス撒いて1500万人虐殺したり、地球上で核爆発させたり、月面都市にコロニー落とそうとしたり、また毒ガス撒こうとしたり、コロニーレーザーでコロニー撃ち落としたり、また毒ガス撒いたり――あの『アナハイム・エレクトロニクス』代表すら『マジキチ軍閥組織』と評するだけある蛮行っぷりだった。
――その悲惨な戦いの果てに、戦い抜いた『少年』の精神は脆くも崩壊し――。
『……あー、『アナハイム』代表』
『何ですか? ヴィムCEO』
『……その、なんだ。悩み事があるなら、信頼出来る者に打ち明けて相談するように。1人で抱え込むと、ろくな事にならんぞ!』
『……? あー、はい、解りました。善処しますね?』
意図が解らない助言に、『彼』は適当に返答する。
この物語を作った脚本家の精神状態を心配したのだろうか? 残念ながらまだ序の口で、『ザンスカール戦争』が舞台の『Vガンダム』時の方が酷かったりする。
もっとも『彼』の辿った1回目においてはザンスカール帝国軍の地球降下を事前に阻止して殲滅し――その疲弊したタイミングで『彼』自身による最期のやらかしが発生したのだが。
『ちなみにこの『グリプス戦役』の発端のガンダムMk-Ⅱの強奪要請、実はアナハイム・エレクトロニクス社から直接打診されたものなんですよね!』
『やっぱり『アナハイム・エレクトロニクス』社のせいじゃねぇか!』
『お金さえ払って頂ければ誰でも顧客なのは宇宙世紀でも一緒ですから、『エゥーゴ』と『ティターンズ』、両方取引してましたね!』
舞台裏の暴露にまたもやてんやわんやとなり――『そいや何処かの戦場、両陣営とも『アナハイム』製のMSだったぞ?』『マジで?』と、以前言われたような状況が既に繰り広げられていた事が改めて発覚する。
『――型式番号『MSZ-006』Zガンダム、可変機としては傑作MSですね。変形機構を組み込むと高コスト及び劣悪な整備性が約束されますし、機体挙動も非常にピーキーですから、個人的には好きになれないですね。……特に、操作特性が改善されていないリ・ガズィの印象がなぁ……』
恒例のMS紹介の時間となるが、物凄く言葉を選んでいる割には滲み出る苦手意識は隠せていない。
……『彼』の『先輩』が『νガンダム』に乗り換えた時に、パイロットの空いたリ・ガズィに乗るかどうか問われた時に、ほぼ迷わず拒否して従来のジェガンを選んでいたりする程度には苦手意識を持っていたりする。
『……あのぉ、変なフィールドを発生させて敵MSの攻撃を無効化したり、出力を超えたビーム・サーベルの巨大化を実現させたり、敵MSに干渉して機能停止させる謎機能も搭載されているのですか……?』
『機体仕様に無い超常現象ですので永遠に未実装ですね! それ、基本的にパイロット由来の未知の現象です』
当然の質問に対し、『彼』は真実を語る事でより此処にいる全員を困惑させ――『この時代のサイコミュで何であんな現象起こるんだろ?』と、封印処置されたオリジナルのZガンダムを再度解析した『彼』自身も訝しんでいた。
この手のオカルトパワー全開の『ニュータイプ』と戦場で遭遇した事は数少ないが、別にそれで操縦者の技量の差が覆る訳でもないので、『彼』の感覚では『ビームライフル1発で済んだ処を2~3発程度に変わっただけ』という、誤差に等しい酷い評価だったりする。