――シミュレーター内の宇宙にて、2機のMSが激しく決闘する。
数多の戦場を駆け抜けた歴戦のエースパイロットに対して、戦場未経験の『ルーキー』が追い縋る構図――腕前に格差のある構図は、学園では『彼』とグエル・ジェタークでお馴染みだが、この『ルーキー』は尋常ならざる速度で成長し、食らいついていく。
『――今日こそは一本取らせて貰いますよ『先輩』!』
『――何の、まだまだ早いさ!』
数々の、いつかの決闘で見たような初見殺しを繰り出すエースパイロットに、持てる武装を次々と消耗しながら潜り抜ける『ルーキー』――『彼』とグエル・ジェタークとの決闘との差異があるとすれば、この画面の両者は共に『未来予知じみた直感』の持ち主であり、互いに数手先を読んでいる事を前提に攻防を重ねているという意味不明な前提が存在しているように見える。
「……無骨なMS同士の戦闘なのに、まるで――」
MS同士の決闘に対して、ミオリネは特に感慨を抱いていないが、画面の2人の様子は――踊っているような、得難い相手との交友を楽しんでいるような、そんな奇妙な競い合いという印象を受けたのだった。
――なお、模擬戦の結果は、秒単位で成長し続ける『ルーキー』に対し、感覚を取り戻して錆落としたエースパイロットの完全無欠なまでの完勝だった。
「やっぱり美味しくないですね」
「食えるだけマシさ。……味は、もう少し努力して欲しいが――」
「言葉を飾っても『まずい』って事じゃないですか? 『先輩』」
シミュレーター内の模擬戦が終わり、『自分』と『先輩』は食堂にて遅めのランチと洒落込んでいた。
食事の内容は……量だけ多いが、美味しそうには見えない。実際、味は微妙だ。食事の味ぐらい、少しはこだわって欲しいものだ。
――まぁ、そんなのが気にならないぐらい、最近は充実している。
『先輩』との模擬戦は、常に新鮮な発見を与えてくれる。
芸術的でさえある戦闘における最適解は、『自分』の底無しなまでの貪欲な学習欲を凌駕して余る衝撃となり、白黒の世界に『音』と『色』を齎してくれる。
「――そういえば、そもそも『ニュータイプ』って何なんです? 『先輩』の所感が聞きたいのですが! ……あ、思想面は結構です。穴があくほど読み飽きたので」
ジオン・ズム・ダイクンの『ニュータイプ論』はただの願望であり、それがザビ家の選民思想によって都合の良いように捻じ曲げられ、実際に『ニュータイプ』としか思えない人間が出現した事で3つの異なる存在の定義が一つにごちゃ混ぜになったせいで曖昧になっている。
――未来予知じみた直感を持ち、特殊な脳波感応波で互いに感知しあい、専用兵装(サイコミュ)を起動出来る戦闘特化した新人類――地球連邦に『ニュータイプ』としての可能性を示しすぎてしまった『先輩』にこそ、この質問の答えを聞いてみたかった。
「……そうだな、人によって定義が違う、非常に難しい質問だが――俺個人と限定するなら、人と人が誤解無く心で通じ合えるもの、かな?」
『先輩』からの返答に、『自分』は目を白黒させる。
宇宙という厳しい環境に適応した人類の革新、その可能性を宇宙に示した張本人からそんな平凡な言葉が出るとは完全に予想外だった。
「ふむふむ、それじゃ俺が今、心の中で思っている事を当てられますか?」
『先輩』という『ニュータイプ』を言葉を飾らずに評価するなら、旧人類ではどうしようもない殺戮特化の突然変異種に他ならず――。
「……言葉に出せない程度に失礼な事を考えている事ぐらいは『ニュータイプ』じゃなくても解るぞ」
「モロにバレてる!? ――いやまぁ、『先輩』って素敵なロマンチストですね!」
ころころ表情を変える『自分』に対し、『先輩』はジト目で「そうやって、誤魔化す術だけを磨くな。いずれ本心を伝えられなくなるぞ」と指摘する。
……良く解らなかったが、とりあえず「はーい!」と了承の返事をするが、意味を噛み砕いてない事を察した『先輩』に呆れ顔を浮かべられる。
「――誤解無く解り合った結果、決して相容れない存在だと理解する事になったら、どうします?」
理解し合える事と、手と手を取り合って協力出来るかは別次元の事である。
行動原理・基本方針が異なる者同士でも、利害の一致から協力し合う事はあるが、根本的に相容れないと最初から理解してしまったのなら――1秒でも早く排除するしかあるまい。間接的か、直接的かは状況次第だが。
――『自分』は知っている。目の前の『先輩』が『1年戦争』で伝説的な活躍をして、その結果、つい最近まで味方自身の手で不自由な軟禁生活を強いられていた事を。
更には最近での自分達に向けられる他者の視線が正真正銘『化け物を見る』ようなものである事を嫌になるほど体感している。
有象無象の人間からの視線など最初は興味無かったが、それに恐怖などの負の感情が乗っている事が最近知覚出来て、とにかく鬱陶しい。
感受性が疎い『自分』でも無自覚に苛立つレベルなのだ、それ以上の感性を持つ『ニュータイプ』である彼なら、尚更だろう。
「結論を急ぎすぎるとろくな事にならない。――否定するだけならいつでも出来るが、歩み寄る事には一定の時間が必要だ。『ニュータイプ』は何でも出来る神様じゃない、1人の人間に過ぎないのだから」
そんな『自分』の語らぬ内心を理解していた彼は、諭すように言う。
すとんと、彼の言葉が『自分』の裡に落ちる。無意識の内に『ニュータイプ』という言葉を特別視していたけれども、結局は1人の人間に過ぎない事を彼自身から告白され――。
「――やっぱり『先輩』は素敵なロマンチストですよ。それじゃ『後輩』の自分もそれに見習って、人の心の善性ってヤツを少しだけ信じてみますね!」
『自分』は屈託のない笑顔を浮かべ、言葉に出さずに内心誓った。決して、彼を1人にはさせないと――。
――彼と直接遭遇した瞬間、『少年』は『刻』を視た。『虹色の彼方』に消え果てる彼の姿を視てしまった。
それが実際の未来であるかは確信を持てないが、そんな結末は、人の最期じゃない。1人の人間として生きている彼に相応しいものではない。
この結末に至る原因は、彼に付いてこれる人間がいなかったからだ、と勝手に結論付けて――『自分』だけは、最期まで随伴しようと勝手に決めたのだった。
『――昔話をしましょう。『奇跡』を起こして『神話』となり、帰らなかった『人』の話です』
……どうして、今、『彼』がいつぞやに零した言葉を、思い出してしまうのだろうか?
ミオリネは自分自身の回想に疑問視するも、理由は解らないが、それが重要な何かであるという確信が離れず――。
『……『彼』の事に関して、語れる事は残念ながら少ないです。ですので、可能な限り端的に――『彼』は、俺を凌駕する唯一のパイロットであり、俺が尊敬する唯一人の戦友だった、と――』