「おや、グエル。このタイミングで遭遇するとは――ふぅん、そういう事なのかな? 極めて強固な『縁』があると見える」
「……いきなり何だ? 俺は『お前』に決闘を申し込みに来ただけだが――急用か?」
アスティカシア高等専門学園内にある『アナハイム・エレクトロニクス』社専用のMSガレージにて、今回使うMSを搬送前に『彼』はグエル・ジェタークと遭遇する。
久しぶりに決闘を挑みに来たと言うが、このタイミングで鉢合わせた事に『彼』は運命的な何かを察知する。……少しでも時間を外せば完全にすれ違っていただけに、極めて重い強制力さえ感じるほどに。
――恐らくは、『自分』がいない正史でも、グエル・ジェタークはプラント・クエタに赴く運命だったのだろう、と。……どんな道筋を辿ってそうなるかは想像すら出来ないが。
「――エアリアルを受け取りにプラント・クエタまで赴く予定だけど、一緒に行くかい? 改修されたエアリアルを真っ先に拝めるチャンスだよ!」
……なお、ミオリネには完全な事後承諾で全て押し切った為、盛大にキレられた。残念ながら当然の結果である。
「……あのぉ、『社長』さんとボブさん? お二人とも、MSの中で待機しなくても――」
ミオリネに強制的に連れ出された地球寮の面々は、アスティカシア高等専門学園の授業で履修した輸送船の操舵作業をペイル社から出向しているベルメリア・ウィンストンの監修の下、不慣れながらも熟していき――全作業が一段落して安定した処で、当初から放置して後回しにしていた1番の問題に着手する。
『所謂、第二種戦闘配備というヤツですよニカさん。戦場においての初動は最重要項目です。古今東西、如何なるエースパイロットでも出撃の遅れを補える者は存在しません。――万が一と言えども備えあれば憂い無しですよ。『私』と謎の凄腕仮面パイロット・ボブについてはお構いなく。最初からいない人間だと思っていただければ!』
常識人のマルタンは「いや、この2人をそんな雑な扱いしたら後が怖いって……」と小声でツッコむ。
……エアリアルが手元に無いので、戦闘要員としてそれが出来ないスレッタ・マーキュリーは何かに取り憑かれたように船内のモップがけに専念していたが、その奇妙な様子のスレッタに対して地球寮の面々はどう反応したものか、2番目に困っていた。……ミオリネに丸投げする気満々であるが。
『――ただ、『私』からの出撃要請があれば最優先で処理して下さいな。最速で受理されない場合は隔壁を撃ち抜いて出撃する事になりますので、後々の処理が物理的に面倒になりますよ!』
「いやいや、普通にやめてくださいよ!? 船が壊れちゃいます!?」
マルタンが猛烈に懇願するが、此処にいる誰もが「あの『社長』なら迷う事無く有言実行するだろうなぁ」と想像がついた。
それにしても幾ら何でも心配しすぎているとは全員が思うが。天下のベネリットグループが統治する宙域で、そんな不届き者など巡回艦隊に捕捉されて終わりだろう。
『何かありましたら真っ先に連絡お願いしますね。――それが例え些細なものであっても、見過ごせない前兆である可能性もありますので。それでは良き旅路を』
『――付き合わせて悪いね、グエル。暇潰しついでに現在の機体仕様を説明しよう。現在のダリルバルデMk-A.Eは学園での決闘規定、30%減の出力制限を取っ払っている実戦仕様の状態だ。まぁ誤差みたいなものだが、出撃の際はその誤差をちゃんと把握してね、一秒でも早く。その誤差が生死を分かつ場合もあるからね?』
MSのコクピットでの待機については、特に文句は無い。また仮面を持ってきているとは言え、元々合わせる顔なんてないし、世間話をする仲でもあるまい。
スレッタ・マーキュリーに対しては……別の機会で良いだろう。意気地無しとかそういうのではなくて、万が一に備えての待機だから顔合わせられなくて残念だと自分に言い聞かせる。
……一応、あの『アナハイム・エレクトロニクス』社としても決闘規定は守っている。時々違反している質量兵器を持ち込んだりはしているが。
その30%減が取っ払われたら、どれほど影響があるかは未知数だが――最近ではあの殺人的な加速にも慣れてきているので望む処だと言った感じだ。
『ビーム兵器の出力も実戦仕様に調整されているので、普段よりもエネルギー消費量が激しい事を念頭に入れてね。もっとも、出撃するような事態になったら気にする余裕なんて無いだろうけど』
最大の問題は、それだろう。出力制限が解除されたビーム兵器は、MSのコクピットなど簡単に撃ち抜けるようになり――MSが人を殺す為の兵器である事を改めて意識させる。
『……心配しすぎじゃないか? ベネリットグループ相手に真正面から喧嘩売るような無謀な連中なんていねぇだろ』
『杞憂に終わるのが最上の結果であり、最悪を想定して備えるのが上に立つ者の義務だよ。――現実は常にその最悪を更新し続けるから性質が悪い』
今の『彼』を心配性が過ぎる、と一笑する事は出来ない。薄々勘付いていたが、どうにも様子がおかしい。
モニター側の『彼』の表情からは胡散臭い笑顔が消えて、目付きが非常に鋭くなっている。
『――例えば、ベネリットグループ『内部』からの情報漏洩があり、我々の現在位置が完全に割れてしまい、それがMSの運用が出来る規模の『テロリスト』に偶然渡ったとする。船一隻を襲撃するだけでベネリットグループ総裁の一人娘を確保出来るのなら、ローリスクハイリターンだと思わないかい?』
……更に言うなら、あの悪名高き『アナハイム・エレクトロニクス』社の代表とジェターク社の御曹司もいるのだから、その価値は更に上乗せされているだろう。
『……まさか心当たりでもあるのか?』
『いやいや、万が一のケースだよ。子供が授業中に考えるような痛々しい妄想話さ。――人が乗っているMSのコクピットを撃てるかい?』
撃てる、撃てないかで問われれば、間違い無く撃てるだろう。今までのMSでの決闘と変わらず、相手のMSのコクピットを撃ち抜ける自信はある。だが――。
『答えなくて良いよ。未体験の事についての話だから、今現在の回答に意味は無い。事前に想定しておく事に意味がある。気構えの問題ってヤツさ』
実際にその場面になった場合は、間違いなく躊躇するだろう。引き金一つで命を奪う。この事の重さは計り知れず――。
『そういうお前は……聞くだけ野暮な話か?』
『お察しの通りだよ。俺と一番戦い続けたグエルには敢えて言葉にする必要も無いっしょ?』
経緯は解らないが、明らかに実戦経験者である事に疑いの余地すらない。
無意識にコクピットを狙う癖から――決闘よりも実戦に慣れている。此処まで来れば、『彼』が人を殺した事の無い新兵だと思う方が間違いだろう。
『万が一の事態になったら、俺の指示に従って貰う。反論や文句は基本的に受け付けない。それらは生き残った後に全部聞こう』
無言で了承する。万が一、と何度も念頭に入れているが、どうにも嫌な予感がする。
あの『彼』が此処まで警戒しているのがもう確定フラグのように見えるし――。
『……それはそうと、今回持ってきたジェガン、一回り以上小さくないか?』
『可愛いでしょ!』
『いや、MSに可愛いも何もねぇだろ!? そんなんで大丈夫なのか?』
普段のジェガンが18m級なら、今回持ってきたジェガンは15m級であり――『アナハイム』社のエンブレムはあるが、ロンド・ベルのエンブレムは付けられていない。
ビームライフル2門、シールドは取っ払われて無し、ダリルバルデMk-A.Eに装備された『V.S.B.R』が2門に6枚の『放熱板』が背部に装着されており――初めて見るタイプだった。
『このジェガンはあらゆる意味で量産機失格だよ! 量産出来ない量産型だしねぇ――』