Q.これはガンダムか? A.ガンダムです   作:咲夜泪

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90/その『魔女』の真名は――

 

 

 

 

『……はぁ、何で未登録のMSの接近を察知した時点で緊急発進&救援要請出さないかなぁ? 管制は死ぬまで寝惚ける気か?』

『あぁ? いきなりどうした?』

『いつの世も無能な味方は害悪極まる。覚悟を決めろって事だよ、グエル・ジェターク。――来たぞ』

 

 通信先からの『ヤツ』の呆れ声に、グエルは疑問符を浮かべる。

 ――が、即座に思い起こす。いつぞやの与太話か真実か解らない会話に、『コイツ』の超常的な感覚による知覚範囲が『戦域一つ』という曖昧過ぎて余計解らない発言を唐突に思い出し――。

 

 

『――緊急事態警報B1発令、緊急事態警報B1発令』

 

 

 日常ではまず聞く事の無い、非常事態を知らせる警報がプラント・クエタ全域に鳴り響き続ける。

 一瞬、誤報か訓練での練習放送である事を願うが、警報は変わらず鳴り続け――迫り来る『脅威』が現実である事を否応無しに知らしめる。

 

『――時間が惜しい、説明は全員に、一度で済ます』

 

 グエルとの回線を開いたまま、通信先の『彼』は表情一つ変えずに艦橋に緊急コールし――2カウントで通信が開く。地球寮の生徒は全員揃っているが――エアリアルを受領しにプラント・クエタに向かったミオリネ、スレッタ、ベルメリアの姿が無い事に気づき、グエルの表情が歪む。

 

 

『はいはーい、皆さん、まずは自分の信じる神に祈って下さいな。宗派の自由ぐらいは保障されているんじゃないかな! それが無意味な事だと冷静に判断出来るようになったのなら話を続けるよ?』

 

 

 普段のように胡散臭い口調で戯けて見せるも、されども2倍速以上の早口で『彼』はまくし立てる。無駄な反論など許さないと威圧感を漂わせて。

 

『――状況は知っての通り、現在のプラント・クエタは『正体不明の敵対勢力』からの通信妨害を受けている。要するに『これから直接襲撃しますから大人しく死ね』って事だね、実に解り易い』

 

 この緊急事態警報が現実のものの脅威であると知らしめると共に最低限の現状確認を促す。

 

『――時間が惜しいので細かい説明と判明理由を省いて最新情報を述べると、『敵勢力』は輸送船3隻、いや4隻、MSが5機――現在、プラント・クエタ駐在のドミニコス隊と交戦中だが、一方的に駆逐されているな。……本当に役に立たないな『魔女狩り隊』は』

 

 プラント・クエタ全域が強力な電波妨害で音信不通状態なのに関わらず、以前に説明していた『ニュータイプ』的な感性は、其処まで詳細に把握出来るのかとグエルも驚きを隠せない。

 

 

『――全員、ノーマルスーツを着用し、輸送船内に待機で』

 

 

『えぇ!? き、緊急マニュアルでは最寄りのシェルターに避難では!?』

 

 真っ先に反応したのは、地球寮の寮長であるマルタン・アップモントであり、普段の優柔不断で頼りない様子はそのままだが、この緊急時において正常な判断能力を保持している事に、グエルは少し見直す。

 

『その通りだ、マルタン。だが、残念ながら今回は推奨しない。理由1、テロリストの襲撃が成立している事。これ自体がそもそもおかしい。『内部』の手引が無い限り、ジェターク社の護衛艦隊の目を誤魔化す事が出来ないからだ。理由2、今現在のプラント・クエタにはベネリットグループ総裁であるデリング・レンブランがいる。確実に仕留めるならプラント・クエタ内部に生身の武装兵ぐらい大量派遣するだろう。それと遭遇した時点でゲームオーバーなのでオススメしない』

 

 ――この異常事態において、正常な判断能力を保持しているだけでなく、それに至る数多の状況まで想定している『怪物』は、正直理外の存在だろう。

 

『――まぁ港の制圧の優先順位も結構高い方だと思うけどね! 座して死ぬか、動いても死ぬか。戦場は斯くも理不尽なものだね!』

 

 その『内部犯』による脅威の手が、プラント・クエタに赴いたスレッタに及ぼうとしている。

 そう思考した時点で理性が一気に沸騰しそうになるが――。

 

 

『……だが、君達は間違いなく幸運だ。最高に運が良い。――何故ならば、此処には『私』がいる。この『私』が、君達をこの戦場から生きて帰還させよう。プラント・クエタに赴いたミオリネ、スレッタ、ベルメリアさんも含めてだ』

 

 

 ……扇動者や詐欺師としても一流なのか、とグエルさえ慄く。

 

『……この場において一番冷静で的確な判断を下せるのが『社長』である以上、『彼』の指示に従うのが最善だと思う。寮長、決断を』

『ティル!? ああもう、最初からそれしかないってのは解っていたけど……!』

 

 この緊急事態において短時間で人心を掌握する異常な手管によって、根拠の無い言葉を信じ込ませて、一つの群れとして秩序を保って行動させる。これが、どれほど困難な事か――。

 

『――作戦を説明する。目標は『株式会社ガンダム』保有の輸送艦の死守。『私』が皆さんに望む事は1つ。信じて待つ事。それのみです。現段階での出航は敵の最優先目標に認定されて撃墜されるだけなので、どうか自分自身から這い出る恐怖に打ち勝って欲しい』

 

 ……なるほど、その最悪の行動パターンを真っ先に潰す為に秒単位で出血している時間を多分に割いたのか。

 そうなったらそうなったで、『彼』という血も涙も無い合理的主義者は容赦無く囮にして最高効率で使い潰すだろう事はグエルの胸の奥に留めておこう。

 

『グエル・ジェターク、輸送艦の護衛を任せる。この場においてお前にしか出来ない事だ。――出来るな?』

『っ、誰に物言ってやがるんだよ……!』

 

 プラント・クエタにいるスレッタを直接救援に行けないのは著しく心乱れるが――『コイツ』は胡散臭いが、出来ない事を口に出さない。その事に対しては全幅の信頼を置いている。

 

『うん、凄く頼りにしている。――フィン・ファンネルを4基置いていくから安心してね!』

『あの『放熱板』ファンネルかよ!?』

『そうだよ、極限まで小型化したジェネレーター内蔵で稼働時間及び火力・機動力の課題をクリアした最終形だよ!』

 

 胡散臭く笑いながら『性能は折り紙付きだ。何せ『仮想敵』が存在しないせいで『自分自身』になったからね!』と付け足す。

 

『それで『お前』はどうするんだ!?』

『俺は出撃して間引いてくるよ。輸送艦に全員揃っているなら穴熊で良いんだが、ミオリネとスレッタ、ベルメリアさんがプラント・クエタの内部に取り残されている。正確な居場所が解らない以上、3人の生存の可能性を少しでも高めるなら害する敵を撃滅した方が手っ取り早い』

『なっ、い、幾ら『社長』でも無茶ですよ!? 本物の、実戦なんですよ!?』

 

 『彼』の作戦プランに真っ先に異を唱えたのはリリッケ・カドカ・リパティであり――怯えながらも、『彼』の身を心底から案じる彼女に対して――。

 

 

『――な、何で、笑うんです……!?』

 

 

 声を出して、心底おかしいと言わんばかりに、『彼』は笑っていた。場違いなまでに明るく。

 

『――いえいえ、失礼。心配してくれた事は重々承知してますとも、久しぶりに『本業』に戻るというのに、そんな途方も無い勘違いをされているとは、流石の『私』も思ってもいませんでしたよ』

 

 笑う。嗤う。咲う。普段纏っている『仮面』を完全に取り外して――『魔女』は嘲笑う。

 その『仮面』は、煤けて摩耗して欠片しか残存していないなけなしの『人の心』であり、人として最低限振る舞うのに必要な『他人への常識』であり、何一つ取り繕わなくなった『魔女』の貌を見て、この場に居た全員が絶句する。

 

 

『実はこの『私』、この宇宙でも『記録保持者(レコードホルダー)』なんですよ。何のって? ――そんなの、対MS戦における『累計殺害数(キルスコア)』に決まってるじゃないですかぁ』

 

 

 誰も知らない物語の片鱗を、その貌を見れば、遍く全ての者が無意識の内に、正しく認知してしまうだろう。

 此処にあるのは史上最も多くの人命を奪った個人――即ち『人類種の天敵』に他ならない。

 

 

 

 

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