Q.これはガンダムか? A.ガンダムです   作:咲夜泪

91 / 144
91/その『死神』は身構えていても関係無く現れる

 

 

 

 

『――ブリッジ、敵の戦力を無力化した。引き続き、サブの制圧に入る』

 

 反スペーシアンのテロ組織『フォルドの夜明け』はプラント・クエタ駐在のドミニコス隊、ベギルペンデ4機、ハインドリー8機を首尾良く撃破する。

 戦場に投入したデスルター3機と『GUND-ARM』2機は無傷であり、艦長席に座る『フォルドの夜明け』のリーダー、ナジ・ゲオル・ヒジャは次の指示を下す。

 

「すぐに次の守備隊が来る。怠るなよ。――後方艦隊に通達、プラントの通信が回復する前に仕事を片付ける。行動を開始しろ」

 

 1番艦から――背部に10名ほどの武装兵を乗せたコンテナを背負う輸送仕様のデスルター3機が防衛力を失ったプラント・クエタに発進する。

 内部に直接侵入し、最重要目標であるベネリットグループ総裁、デリング・レンブランの暗殺を計る。

 

「――順調だな。『プリンス』も心配が過ぎる」

 

 今回、『プリンス』の強い要請により、この作戦に投入する予定の無かった3番艦まで引っ張り出し、2機の『GUND-ARM』の『ガンビット』を持ち運んだが、生憎と出番は無いだろう。

 此処までお膳立てして、全状況が上手く行っても時間との勝負だ。そう、このプラント・クエタに『例外(イレギュラー)』が居なければ。

 

 

 ――身構えている時に『死神』は来ない。ならば、戦場に既に存在してしまっている『死神』にはどう対処すれば良いのだろうか?

 

 

 一条の光――桁外れなほど大出力かつ超高速のビームが1番艦を正面から撃ち貫き、瞬時に爆散する。

 

「!? 何が?!」

「1番艦が大破、撃沈!? プラント・クエタ方面からの超遠距離狙撃……!? 右舷、Gブロックから識別コード無しの所属不明機が1機! ……何だこの動き、早い!?」

 

 まだ守備隊が――否、違う。瞬時に否定する。戦場を歩む者のある種の勘が、最大限に緊急警報を打ち鳴らしている。自分の中では説明出来ない『何か』が来たと……!

 

「艦を後退させろ! 2番艦・3番艦はガンヴォルヴァをプラント・クエタ方面に全機射出後、後退! ――オルコット! Gブロックから超遠距離攻撃可能な『MS(イレギュラー)』だ! 1番艦が落とされた、至急排除しろ! ――ノレア、ソフィ! ガンヴォルヴァを全機射出した、至急回収して迎撃しろ!」

 

 6機のガンヴォルヴァを射出した直後に――2つの大出力ビーム砲が2番艦、3番艦を穿ち貫き、余りにも呆気無く撃沈させる。

 残ったのは、拿捕した輸送艦1隻のみであり――。

 

「――っ、2番艦、3番艦、撃沈……!?」

「っ、予備のデスルターを全機発進させろ!」

 

 

 

 

『――守備隊が健在? いや、違う……!? 何なのだあれは!?』

 

 ディランザ・ソルのコクピット内で、ジェターク社CEO、ヴィム・ジェタークはその実戦出力を遥かに超過した3条の光を目撃し、シャディク・ゼネリに裏切られた事への激昂さえ失せて困惑する。

 対艦用の大出力・超高速ビーム砲の3射はプラント・クエタからテロ組織の艦隊に撃ち放たれたものであるが、グラスレー社のMS如きが扱える火力ではない。

 

 こんな規格外兵装を喜んで取り扱っている会社など、ヴィムが知る限り『1社』のみであり――その『緑の流星』は不規則に何度も直角に曲がりくねりながら飛翔し、物理法則を無視して即座に停止。瞬時に此方側に飛翔する。

 

 

『――何しに戦場に訪れたのですか? ヴィムCEO。一社の代表が自らMSで出撃とは、押っ取り刀で駆け付けて死にに来たんですかぁ?』

 

 

 通信妨害を無視して通信してきたMSは確かにジェガンであり――いや、普段よりも1回り以上小さい上に2本の『放熱板』を背負っている、未知の型だった。

 

『――っ!? その声、まさか『アナハイム』代表か!? 何故此処に!?』

『ミオリネの付き添いですよ。そういうヴィムCEOは――いやはや、利用する筈の『養子野郎』に出し抜かれるとは随分と間抜けな事で』

 

 人を小馬鹿にしたような口調は確かに『ヤツ』自身のものであり、同時にグラスレー社と共謀して張り巡らされた策略を全部見抜かれている事にヴィムは絶句する。

 『彼』の皮肉にしては捻り無しの直情的な物言いなのは秒単位で時間を出血しているからであり――最優先撃破目標の歩兵搭載のコンテナつきのデスルターに意識を割いていた。

 

 

『――大人しく自社の母艦に引っ込んでいて下さいな。そうすれば死にはしないでしょう』

 

 

 自分から背後を向け、飛び出そうとする『アナハイム・エレクトロニクス』代表に対し――ヴィム・ジェタークの操るディランザ・ソルのビームライフルは、マニュアル操作でジェガンのコクピットに照準を定める。

 此処で『ヤツ』を始末しなければ、此処での暗躍が表沙汰されて全部終わりだ。更には邪魔な商売敵を直接排除出来るのは一石二鳥を超える利であり、この千載一遇の機会、逃すには余りにも惜しい、天佑だった。

 

 

『――これは独り言ですが、戦場では『流れ弾』や『誤射』は日常茶飯事です。まぁ『流れ弾』に当たった事は一度も無いし、『誤射』には『誤射』で返すのが正しい礼儀ですが――残念ながら『私』、『誤射』した事も一度もありません。必ず仕留めてしまいますので』

 

 

 引き金を引こうとする指先が止まる。全部、見抜かれている……!?

 否、構うものか。多少決闘で腕が立つからと言っても、所詮は学園でのお遊戯。そんな玩具のような小さいジェガンで、何が出来る。構わず――。

 

 

『――ご自身の息子さんの前で『私』に殺されてみます? それが一番面白い展開になりますよねぇ?』

 

 

 ――2つほど幸運だった。

 

 このプラント・クエタにグエル・ジェタークを同行させていた事。そしてこの場にグエル・ジェタークが居なかった事に尽きる。

 

 グエルを同行させていなければ、息子の前で親を殺すという選択肢が最初から消え去り、『彼』は躊躇無くヴィム・ジェタークを先んじて撃ち殺していた。ヴィム・ジェタークの殺意がニュータイプ的な感覚で筒抜けなのだから、余りにも当然過ぎる結末だった。

 ――グエル・ジェタークが地球寮の輸送船の護衛を放棄して此方に来ていたのならば、それもまた『彼』は喜んで息子の前で親を殺していただろう。

 

 ――それでも、実際に撃たれれば、簡単に回避した上で撃ち殺していただろう。3つ目の幸運は、『彼』が気まぐれでグエル・ジェタークの存在を示唆した事。

 

 目の前の、見慣れているのに明らかに豹変している『魔女』への原始的な本能じみた根源的な恐怖よりも、最後に出た肉親に関する言葉がヴィム・ジェタークの心に響いた。

 

『っ!? 待て、此処にグエルがいるのか……!?』

『はい、いますよ? ご子息には地球寮の艦を護衛して貰ってますよ。その御蔭で『私』は安心して『玩具』と遊べますとも』

 

 この戦争状態に自身の息子が巻き込まれ、命の危険に晒されている事に親として戦々恐々し――。

 

『……『玩具』?』

 

 一度、冷静さを取り戻したヴィム・ジェタークは改めて、目の前の『魔女』に心底恐怖する。いつの間にか、『彼』への殺意が完全に折れていた。

 

『――あれらは『私』の『玩具』ですので、横取りしないで下さいね? 宇宙の心のように寛大な『私』でもうっかり手が滑って『誤射』してしまいますから』

 

 その言葉を最後に、『彼』の駆るジェガンは飛翔する。即座に『緑の流星』となって戦場に消えていく『死神』を、ヴィム・ジェタークは呆然と眺めている事しか出来なかった――。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。