プラント・クエタの港から、スレッタはエアリアル改修型に搭乗して出撃し、即座に11基のガンビットを通して周辺区域の情報収集に当たる。
『――地球寮、船、ボブさん、無事……! 良かったぁ……!』
既に戦闘は終わっているらしく、3機のMSがプラント・クエタから遠ざかっているのを見届ける。
周辺区域はとても静かで、先程までの理不尽な死が狂騒していたとはとても思えない。少しだけ違和感を抱くが、その正体には辿り着けない。
『――え? とても怖いもの、近づいて……!?』
『エアリアル』と『皆』から、悲鳴じみた絶叫が発せられる。『エアリアル』と『皆』でさえ解らない、正体不明の『何か』が、急接近している……!?
――その『緑の凶星』は、異次元の超機動で宇宙の闇を切り裂いて飛翔し――。
『おぉー、それがエアリアル改修型かー! 随分と『ガンダム』らしくなっちゃったなぁ!』
『――『アナハイム』さん!?』
電波妨害が継続中の状況下において、そんなのを無視して『彼』との通信が聞こえ、『緑の流星』は慣性を無視して急停止し、いつもより小さくて可愛いジェガンが姿を現した。
『――スレッタ、プラント・クエタにいるミオリネの救出に向かってくれ。場所は解る?』
『――はい。エアリアル、みんな!』
エアリアル改修型のシェルユニットの色が赤色から蒼色に隆起し、ガンビットがエアリアルを中心に十一の立方体を構築。――パーメットスコア・『6』。空間さえ掌握する未知の領域が真価を発揮し――。
『――見つけた』
『――よし、最速で頼む。可能な限り強行突破で。ミオリネは負傷したデリング総裁と一緒で、近くに1人、プラント・クエタに侵入した最後のテロリストが接近しつつある――此方のMSで強行突破したらプラント・クエタそのものを全壊させかねないからね』
場を和ませる為の軽口じみた冗談をスルーし――スレッタの脳裏に、78ハンガーでの出来事が即座に蘇り、耐え難い恐怖に襲われるも、同時に母の言葉が上書きされる。
『わかりました。――今、行きます。ミオリネさん!』
恐怖も無く、迷いも無く、スレッタは征く。『逃げれば1つ、進めば2つ』、その魔法の言葉を胸に――。
『――『ミオリネ(護衛対象)』の近距離まで接近した害虫の駆除方法にビーム兵装は厳禁、という助言は必要無かったようだね』
事の顛末をニュータイプ能力で観測した『彼』は『あの場における最適解だな』と率直に称賛する。『自分』ならまだしも、17歳の少女が咄嗟に取れる選択肢だとは思わなかったが――。
『――何とも悪辣な『脚本』だこと。害虫『4匹』潰せなかったのは『役割』持ちだったからか。運命の『強制力』はいつの世も度し難いな』
意図的に逃したのではなく、無意識に踏み潰して尚仕留め損なったのだから、そういう事だと薄々勘付いていたが――。
『――エアリアルの正体は大体予想出来てきたが、君の正体が最大の『謎』とはね、スレッタ・マーキュリー』
呪い呪われた『水星の魔女』の宿業を紐解きながらも、この根深い宿業を解決するのは『自分』の役目ではないと断じる。
いつの世も、『花婿』を救えるのは『花嫁』だろう。立場が通常とは逆転しているし、『花嫁』自身が『人殺し……!』と恐怖したりしているが、非常に些細な問題だろう――。
『――生き残った、のか?』
『――ああ、初陣としては上出来だ。良くやった、グエル・ジェターク』
聞くに堪えない罵声を浴びせながら撤退した『GUND-ARM』を眺めながら、グエル・ジェタークは震える両手から操縦桿を離せずにいた。
――初の実戦、初めての生命のやり取りは、普段通りに動けて何とか凌げたが、戦闘が終わった途端に興奮状態が醒めて、今更恐怖が沸き立つ。
『……結局、此処までお膳立てされていても、俺は相手を仕留められなかった』
相手MSを仕留める機会は、正直幾らでもあった。相手MSの性能はいつもの『アナハイム』製に比べれば正直微妙だし、『彼』の言う通り、時間経過で格段に動きが低下及び悪化していった。
――それでも、仕留められなかったのは、甘えがあり、更には余裕があったからだ。
生と死の狭間に立ち、極限まで追い詰められれば、殺すか殺されるかの二択を強制的に選ばざるを得ないが――ダリルバルデMk-A.Eを駆る、『彼』との決闘で強くなった今のグエル・ジェタークを追い詰めるには、あの『地球の魔女』は性能も技量も何もかも足りなかった。
『別に良いっしょ。兵士の身分なら『甘ったれるな、貴様が仕留めなければ自分及び味方が殺されるぞ』と死ぬ寸前まで修正する処だが、我々はあくまでも民間人だしね! ――護衛目標を守り切り、見事生存した。最上の成果だとも』
あの『彼』も、今回ばかりは皮肉無しに称賛する。――グエルの意を汲み取って、敢えてファンネルで追撃して仕留めなかったのも、解りにくい気遣いの一種なのだろう。……若干、気恥ずかしくなった。
グエルは大きく深呼吸し、やっと震えが止まった両手から操縦桿をゆっくり離し――計器に反応が生じる。
『MSの反応――ディランザ・ソル!? あのテロリストども、ジェターク社のMSを……!?』
『あー、待て待て。あれは敵じゃない。君のお父上だよ』
『父さん!? 嘘だろ、プラント・クエタに居たのかよ!?』
唐突な新情報に『あれぇ、言ってなかったっけ?』『絶対、言ってねぇよ!?』とグエルは怒鳴り込む。
どうしてコイツはいつも重要な事を――いや、余計な事を知らせて気が散るのは命取りになりかねないし、ああ、もう!と物凄く理不尽に思いながらも怒るに怒れない!
『――グエル! 無事か!?』
『あ、ああ、父さんこそ無事か!?』
接触通信にて、ディランザ・ソルへの通信回線が開き、自身の父親、ヴィム・ジェタークは怒鳴り込むように此方の安否を確認する。
……それと同時に、ジェタークの男として、テロリストを仕留められなかった事を情けなく思い、これではまた父に叱られるな、と少し以上落ち込み――。
『……良かった、本当に、本当に、良かったぁ……!』
『父、さん……?』
即座に破顔した父は、泣きながら歓喜し――グエルは呆気に取られるも、ちょっとこれは余りにも不意打ちすぎて反則だと抗議したくなる。
あの厳格な父が、此方の無事を泣きながら喜ぶなんて、思ってもよらず――安堵と共に涙腺が歪み、グエルは思わず涙する。
――何度も父の期待を裏切り、失望させてしまった。申し訳無さで胸が一杯だった。
それでも、父は、こんな自分の事を、こんなにも愛してくれていたんだ、と、初めて実感出来て――。
『――家族の無事を確認し、感動のご対面に水差すようで悪いのですが、ジェターク社CEO、ヴィム・ジェターク殿、今後の事について重大なお話があります。――グエル、悪いね。君のお父さんを少し借りるよ!』
空気を読まずに遮る『彼』に、弱味を見せまいと必死に涙を堪えながら――『アナハイム・エレクトロニクス』代表としてジェターク社CEOとの会合を求めた『彼』の邪魔は、立場上も、精神的にも出来る訳が無かった。