「――今まで誰も言ってくれなかったのですか? 貴方にはその手の暗躍の適正が欠片も無いって。自分の持ち味をもっと良く吟味して活かしてみてはどうです? 少なくとも2回連続暗殺失敗という爆笑必至の喜劇は回避出来ますよ!」
「喧しい! 知ったような口を……! ぽっと出の軍人崩れ風情にあるべき地位を奪われておいて黙っていられるかッ!」
「息子達に見栄を張りたい気持ちは大変可愛らしいのですが、中年親父のツンデレなんてニッチ過ぎて需要はありませんよ? 息子さん相手に伝わってないなら尚更ですし。……地味に親からの愛情疑われてましたよ?」
胡散臭い顔で嘲笑う『アナハイム・エレクトロニクス』代表に対する殺意を我慢しながら、ヴィム・ジェタークは内心怒り狂っていた。
見下していた『養子野郎』に裏切られ、張り巡らせた策謀の全てが『アナハイム・エレクトロニクス』代表に露見するという最悪の事態に、取り乱すなという方が無理な話だろう。
――『彼』を此処で始末すれば、事の真相を闇に葬れる。
だが、よりによって息子のグエル・ジェタークに『アナハイム・エレクトロニクス』代表との密会を知られているのが致命的であり――。
「……一応聞いておいてやる。『貴様』の言う俺の持ち味とは何だ?」
「高すぎる行動力と身内からの人望ですかね。小手先の策謀なんかに頼らず、王道路線を全員で突き進めば宜しい。――御三家の中で、ジェターク社のMSが1番好みですよ?」
自社のMSの誇りを完璧に奪い去った『アナハイム・エレクトロニクス』社が言っても嘲笑にしかならない。
今まで積もり積もった文句の1つや2つ……10、100、1000以上、此処でぶちまけてやりたい衝動に襲われるも、機密情報を取り扱う密室のメインモニターが点灯し、外部との通信が繋がる。
画面には、このプラント・クエタの襲撃事件のもう1人の共犯者であるグラスレー社CEO、サリウス・ゼネリの姿が映る。
「やぁやぁサリウスCEO、おはようございますこんにちはこんばんは御機嫌よう! ――プラント・クエタからヴィムCEOと一緒にお届けしています、と言えば説明不要だと思いますが、如何ですかな? ちなみにデリング総裁は娘のミオリネを庇って意識不明の重体ですよ、惜しかったですね」
知らぬ、存ぜぬの腹芸で通すかと思いきや、サリウス・ゼネリの顔は露骨なほど苦々しく歪む。
老いた賢人にしては珍しく感情を露わにしており――此処まで解り易いのならばヴィム・ジェタークも即座に理解する。
……事前に何かあったのか、現在の『アナハイム・エレクトロニクス』社とグラスレー社の力関係は、完全なる弱味を握った『アナハイム・エレクトロニクス』社とジェターク社と何一つ変わらず――。
『……何が狙いだ? 告発するのであれば、事前連絡の必要は無い筈だ』
最初から取り繕う事すらせず、諦めた顔でサリウス・ゼネリが尋ねる。
「ジェターク社とグラスレー社の『邪悪な陰謀』を周知させた処で、得するのが何も行動しなかったペイル社だけとか馬鹿らしいじゃないですか? 将棋で例えるなら飛車・角の両方取っているのに勝利の価値を極限まで釣り上げないとか商才無いですよ」
今回の件でジェターク社とグラスレー社を如何様にも料理出来るだろうが、2社を潰すだけじゃ物足りないと、傲慢で強欲な『魔女』は更なる代償を要求する。
「――それでは単刀直入に。ジェターク社・グラスレー社、そして『アナハイム・エレクトロニクス』社、此処にいる3社全員で勝者になりましょう? ああ、勿論、主導権は『アナハイム・エレクトロニクス』社に握らせて貰いますが――」
――このプラント・クエタ襲撃事件における最大の失敗は、この宇宙で唯一、数多の『契約』で雁字搦めにして『彼』の邪悪を抑止していたデリング・レンブランが意識不明の重体となり、『契約』を守る義理が存在しなくなった事に尽きる。
『人類種の天敵』たる『首輪付き』の『首輪』が、完全に形骸化した事をこの宇宙の誰が知ろうか――。
「……あら、『アナハイム・エレクトロニクス』代表。席の位置をお替えになりましたの?」
「ええ、座り心地は特に変わりませんが、此処にいる全員を見回せる良い位置ですねぇ!」
プラント・クエタ襲撃事件に関する緊急会議に訪れたペイル社の4人の共同CEO、ニューゲン、カル、ネボラ、ゴルネリは、不貞腐れるヴィム・ジェタークとそっぽを向くサリウス・ゼネリを押し退けて――いつもよりも更に増した胡散臭い笑顔で中央の上座に座っている『アナハイム・エレクトロニクス』代表を見て、一瞬で3社の力関係の変化を悟る。
……他の上位企業代表達も直接問い質したいが、御三家のジェターク社CEOとグラスレー社CEOが共に黙認している以上、口を挟むという自殺行為を空気を読んで全力で回避していた。
「――ベネリットグループ総裁、デリング・レンブランがテロリストに襲撃されたという未曾有の緊急事態、グループが一丸となって対処せねばなりませんが、立場が同じである御三家の内の誰かが独断で取り仕切るのは後々に争いの種になるとヴィムCEOとサリウスCEOからの進言がありましてね」
両者からの反論は無い。幾ら不服だろうが、無言で承認している以上、そういう事だろう。
「僭越ながら、2人の推薦によって第三者の『私』が臨時で『総裁代理』の大役を承りました――緊急時につき事後承諾という形になって大変申し訳ありませんが、ペイル社からの信任も頂けますかな?」
自分達が関与してない間に事の全てが終わっている事を悟ったペイル社の4人の共同CEOは、引き攣った顔で何とか笑顔を浮かべ――。
「――ええ、勿論ですわぁ」
「共に協力して困難を乗り越えて行きましょう」
不本意ながらも、新たな『支配者』の誕生を、形式上、追認する。せざるを得なかった。
「ありがとうございます。――それではシャディク、説明を。君が一番詳しいのだからねぇ?」