Q.これはガンダムか? A.ガンダムです   作:咲夜泪

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98/なお『魔女』は私欲優先でそこまで考えてない

 

 

 

 

「――『フォルドの夜明け』からメッセージが来た。作戦は失敗したと――」

 

 ――反スペーシアン組織『フォルドの夜明け』を使ったプラント・クエタの襲撃は、失敗に終わる。

 

 自身の右腕的存在であり、心の内を打ち明けた同志の1人であるサビーナ・ファルディンからの報告に対し、シャディク・ゼネリは「まぁそうだろうな」と表情を変えずに受け入れる。

 お膳立てしたとは言え、元々分の悪い賭け――それでも最低限の目的である、現ベネリットグループの一強体制の支配者、デリング・レンブランの一時的退場は達成出来た。これで硬直化していたグループの勢力図に劇的な変化を与えられるだろう。

 

「あちゃー、ヴィム・ジェタークも生き残ってるじゃん。まずいんじゃ?」

「それは特に問題無いさ。暫くの間、ちょっとばかし睨まれるけどね」

 

 ヴィム・ジェタークの生存は――粗暴で後先考えない猪突猛進の性格から自滅するだろうと思っていただけに――予想外だったが、これに関しては何とでもなる。

 共犯者の自分を告発する事は、自身の罪状を自ら認めるようなものであり、やりたくてもやれない。実際に後ろめたい事があり、テロリスト側がジェターク社のデスルターを運用したとなれば責任の追及で後手後手に回るだろう。

 

「……問題なのは――」

 

 ――唯一にして最大の誤算、それは勿論、ミオリネと一緒にプラント・クエタに来訪した『アナハイム・エレクトロニクス』代表の存在である。

 ミオリネと共に――更にはグエル・ジェタークも引き連れて――プラント・クエタに出立したと聞き、最大の『例外(イレギュラー)』を武力行使で直接排除する機会に恵まれたと歓喜した。グエル・ジェタークに関しては若干勿体無いと感じたが――。

 

「輸送船3隻、デスルター8機、ガンヴォルヴァ6機損失――突入部隊は全滅、この損害の8割は『彼』の手によるものだ」

 

 実際は遠隔操作のフィン・ファンネルでのガンヴォルヴァ3機撃破も『彼』の仕業なので、突入部隊の『4人』を除き、9割9分9厘『彼』に虐殺される結果に終わる。

 学園での非公認ホルダーなど偽りの姿、唯一人で戦場を一方的に蹂躙する『例外(イレギュラー)』に対し、シャディクは無言で歯軋り音を鳴らす。

 

「……『彼』がミオリネに着いて行った時点で、嫌な予感はしてた、けど――」

「滅茶苦茶だよね、『彼』! 多分、こっちの方が本当の顔じゃないかな?」

 

 此処まで戦力をすり減らした『フォルドの夜明け』の再起は、実質不可能だろう。主戦力の『GUND-ARM』2機が無事である事だけは不幸中の幸いだったが――シャディクは早々に見切りを付けて切り捨てる算段を練る。

 

「……『彼』に関しては、早急に対処しなければならないな。学園内なら、此方に分がある――」

 

 これからの舞台は、空になった総裁の座を巡る御三家同士のパワーゲームであり、一企業の代表に過ぎない『彼』の出番などない。

 ベネリットグループ本社で行われる『プラント・クエタ襲撃事件』に関する緊急会議に参加すべく、シャディクは用意を進めたのだった――。

 

 

 

 

 ――現在のホルダーはスレッタ・マーキュリー。シンセー開発公社のCEO令嬢だが、ミオリネ・レンブランと合わせてもベネリットグループの株の保有率は過半数を超えない。

 

 後から『アナハイム・エレクトロニクス』社が推薦企業となったが、『彼』の分も合わせても届かないだろう。……尚、『アナハイム・エレクトロニクス』社のベネリットグループの株の『実際の保有率』は『彼』の手管によって意図的に隠蔽され、その正確な詳細を知る者は『彼』の他にデリング・レンブランしか存在しない。

 

 ――御三家の誰かがホルダーにならない限り、決闘ごっこで次期ベネリットグループ総裁の座は決まらなくなっているのは非常に都合が良い。……シャディク自身がスレッタ・マーキュリーに勝っていれば、発生しなかった膠着状況だが。

 

 現在の総裁であるデリング・レンブランが意識不明の重傷に陥った事により、盤石だった最高権力の座が空いた。

 あとはベネリットグループの屋台骨を揺らがし、新たな総裁の誕生を望むように状況を操作すれば良い。次の一手に関する脚本は既に出来上がっており――。

 

 

「僭越ながら、2人の推薦によって第三者の『私』が臨時で『総裁代理』の大役を承りました――緊急時につき事後承諾という形になって大変申し訳ありませんが、ペイル社からの信任も頂けますかな?」

 

 

 『巨人』の身動ぎはそれだけで全部台無しにするかの如く、大人の力で保護された子供の園でも陰謀渦巻く政略劇でも等しく――その『例外(イレギュラー)』の台頭により、脚本の全修正を余儀なくされた。

 

(……どういう事だ? ヴィム・ジェタークだけでなく、何故、サリウス・ゼネリが『彼』の専横を許す?)

 

 御三家より格下の、一企業の代表に過ぎない『彼』を御三家の2人が既に担ぎ上げている?

 何がどう化学反応を起こせばこうなるのか、シャディクの理解が追いつかない。何故、不相応な者の台頭に文句を言う反対勢力すら出てこない?

 この場にいる上位企業の代表達の顔色を見る。一様に驚愕に染まっているが、反意はまるで見えない? 逆に、酷く納得しているような――。

 

 

 ――『アナハイム・エレクトロニクス』社における軍需産業は、全体の収益と比較して微々たるものであり、その体質は宇宙世紀時代から変わらず――権力者や政府組織と対等以上の関係を築く為の道具に過ぎない。

 

 

 『彼』の趣味の延長の技術をカードに政治的駆け引きを行い、審問会を通して数多の企業との裏取引を繰り返し、根深く依存させる。

 『アナハイム・エレクトロニクス』社はベネリットグループ無しでも然程問題無いが、『アナハイム・エレクトロニクス』社無くしてベネリットグループ各社の経営は成り立たないレベルまでの政治的関与が密かに行われており――審問会への出席を拒んだシャディクが察しろと言うのは中々酷な話である。

 

 裏の影響力においては既に御三家を遥かに凌駕しているのは暗黙の了解の域であり――。

 

「――ええ、勿論ですわぁ」

「共に協力して困難を乗り越えて行きましょう」

 

 蚊帳の外にいたと思われるペイル社の共同CEO全員が(引き攣った)笑顔で了承した事により、これまでの全ての駆け引きが無意味に終わる。

 御三家全員の信任を得た事により、総裁選という正式な手段を用いらず、全社一致での『総裁代理』が即座に誕生してしまう。

 シャディクのこれまでの暗躍が全て――無為に終わった瞬間でもある。

 

 

「ありがとうございます。――それではシャディク、説明を。君が一番詳しいのだからねぇ?」

 

 

 『彼』がシャディクに向けた、腐った果実よりも醜悪な『悪魔』の嘲笑をもって、全てを強制的に理解する事となる。

 

(……! 『コイツ』は全部見透かした上で、此方を利用するだけ利用して……! 全て計算済みだったという事か……!?)

 

 ジェターク社とグラスレー社が共謀し、シャディクが改変を加えた脚本『プラント・クエタ襲撃事件』を、『彼』は最初から全部見抜いた上で黙認し、現場入りする事で『自分』に都合良く戦況を操作し、直接的な証拠を掴んで両社の弱味を完全に握り――。

 

(……これは、サリウス・ゼネリに見捨てられたか? いや、ジェターク・グラスレー両社を抱え込むなら、今回の事を敢えて公表しない筈……!)

 

 即座に分析したシャディクは当初のプランを一から組み直し、説明役を務める。

 胸の奥に滾る『彼』への憎悪を晴らす機会は、この場を乗り越えない事には始まらない。表情一つ変えずにシャディクは『彼』が織り成した『茶番劇』に命懸けで挑むのだった。

 

 

 

 

 

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