「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
メニューは原作8巻より「唐揚げ」を採用しました
ポトフとかも作ってましたがそれはまた別の回…
もとい本来の8巻辺りで。
作者が最近食べる唐揚げは基本冷凍食品の唐揚げなので
作り方とかに違和感あるかも知れませんがご容赦を…
──某日、昼休み。
「皆さんで昼食を取りませんか?」
セシリアは一夏達1年の専用機持ちに「6人一緒に昼食を
食べよう」と声を掛けていた。
「そのバスケット、何か作ったのか」
「ええ。BLTサンドを」
一夏や箒が時折手作りの弁当を食べている事に憧れて
セシリアは自分も何か作ってみようとBLTサンドを作り
どうせ食べるなら誰かと一緒に食べた方が楽しいだろうと
親しいメンツに声を掛けたのだ。
「あたしも作ってくれば良かった~…」
「何か作れたっけ…僕」
鈴とシャルル、ラウラは各々学食で注文した料理を
トレーに受け取ってテーブルへと持ってくる。
ちなみに一夏と箒は今日も自作の弁当持参である。
「良く出来てるじゃないか」
「箒さんにそう言って貰えるなんて光栄ですわ」
セシリアが作ってきたBLTサンドはとても食欲をそそる
綺麗な出来栄えをしていた。
大きさも全て均等に切り揃えられ、バスケットの中に
ピッタリと収まっている様はセシリアの几帳面さを
如実に表していた。
「ひとつ味見していいか?」
「ぜひ!感想を聞かせて頂きたいですわ」
試食してみたいと言う一夏の要望を快諾したセシリア。
作ったサンドイッチの評価を聞く事も今回皆を誘った
理由のひとつだった。
「それじゃ…いただきます」
一夏はサンドイッチをひとつ手に取って口へと運んだ。
「私も…いいか?」
「ええ、ぜひどうぞ」
一夏に続いて箒もサンドイッチをひと口齧る。
「…いかがです?」
「「………!!」」
サンドイッチを味わっていた2人の顔が突然青ざめる。
「む?…2人はどうしたというのだ?」
急に額を押さえて動かなくなった2人を不思議に思った
ラウラは、一夏が齧ったサンドイッチをひと口口にする。
「うぐっ…何だ…これは!?」
「…上手く出来てませんでしたか?」
自分の作ったサンドイッチを口にした3人が妙な反応を
示した事にセシリアは少し不安になる。
それなりの自信作ではあったのだが、何せ料理をしたのは
このサンドイッチが初である──となれば、何か失敗でも
してしまったのだろうかと。
「…セシリア、自分でも食ってみろ」
「え、えぇ」
青ざめた顔ながらも何とか復活した一夏に促されて
セシリアも自分が作ったサンドイッチを口にする。
「失敗したにしてもまさか激マズということはあるまい」
そう思いながら口にしたのだが──
「はうっ!?…何ですの…これは…」
セシリアを襲ったのは強烈過ぎるバニラの香りだった。
(確かにバニラエッセンスは入れましたけど…)
甘い香りを付けようとバニラエッセンスを入れたのを
セシリアは覚えている。がしかしその甘い香りは
口の中で爆発でもするかのように猛烈に広がっていく。
「あぅ…強烈…ですわね」
一夏達が顔を顰めるのも納得の味だった。
炸裂するバニラの香りに、体がフワフワとどこかへ
飛んで行ってしまいそうな感覚に陥ったセシリア。
セシリアは今日、自分の料理の腕が壊滅的であることを
自覚した。
「どうか、私に料理を教えてくださいっ!」
甘さによるふらつきから何とか復活したセシリアは
己の壊滅的な料理の腕を改善するべく、一夏達に料理の
手ほどきをして欲しいと頼み込んだ。
一夏の様な素晴らしい男性を見つけ添い遂げるつもりなら
料理の一つや二つ出来て損など無い。いつか出会うだろう
理想の旦那様に食べてもらうためにも料理の腕を磨きたい
セシリアはそう思っていた。
「どうせなら皆でやろうか!」
一夏のこの提案で、夕方一夏の部屋へ集まって料理を作り
プチパーティーを開こうという運びとなった。
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──夕方、1025号室。
「取り敢えず作ってみてくれ」
「はい!」
セシリアの目の前に置かれているのは、鶏肉や薄力粉
片栗粉、しょう油等々。
今夜のメニューのひとつである唐揚げの材料である。
セシリアの料理があれ程の破壊力を有する原因を探るべく
まずはセシリアに1人で料理を作らせる事にしたのだ。
「では…薄力粉を」
セシリアはまず切った鶏肉に薄力粉をまぶし始めた。
「…し、下準備は?」
「え?」
──何もしていないそのまんまの鶏肉に、である。
下準備として、しょう油や料理酒をベースにした調味料を
揉み込んで下味を付けるのが基本となるのだが
セシリアはそれをすっ飛ばした。
「…すまん、続けてくれ」
「…?…分かりましたわ」
綺麗に衣となる薄力粉をまぶし終えた鶏肉を
セシリアは何の迷いも無く油へと放り込んでいく。
「味…どうするんだろう?」
「さあ?」
まだこの時点では大した問題は無い。今揚げられている
唐揚げは精々味が薄過ぎるくらいだろう。
どうすれば昼のBLTサンドの様な破壊力を手に入れるのか
5人は固唾を呑んでセシリアの料理を見守る。
「この位かしら?」
ジュワジュワと良い音の鳴る油から、良い焼き色の付いた
鶏肉が引き上げられる。少し焼き色が薄い気もするが
十分に火は通っていそうである。
「色に鮮やかさが欲しいですわね…それでしたら」
(…からし、だと!?)
(唐揚げに…からし?)
突如チューブ入りのからしを取り出し、それを唐揚げに
塗り始めたセシリア。
色合いが良くなって美味しそうに見えるが、唐揚げの味は
まず間違いなく激辛になっているだろう。
唐揚げにあれだけの量のからしを使用すれば確かに味が
滅茶苦茶になるな、と5人はあの破壊力に納得する。
しかし、セシリアの暴挙はここからだった──
「香り付けには…これですわね!」
彼女が手に取ったのはなんと香水。
「「「「ストーーーップ!!!」」」」
「なっ、何ですの!?」
一夏達は大慌てでセシリアから香水を取り上げる。
香水は決して調味料では無い。少量なら体調を崩す程度で
済むだろうが、下手をすれば病院送りである。
もはや料理と言えるかすら怪しいセシリアの料理に
鈴はあるひとつの可能性に行き着いた。
初心者でなくとも料理をする時に参考にすることがある
"ある物"を使っていない可能性──
「アンタ…レシピは?」
「…レシピ?」
なんとセシリアは料理初心者だというのにレシピを見ずに
感覚だけで料理をしていたという。
香り付けに香水を使おうとした事はともかくとして
基本となるレシピを見ずに初心者が料理を作ろうとすれば
どこかで失敗するのがオチだろう。
一夏は、セシリアがやっている事は基本をすっ飛ばして
応用をやろうとしている事だと伝えるために
彼女にも分かりやすいであろう"例え"を挙げる──
「新兵が2km先の的を狙撃出来ると思うか?」
「はっ…!出来ない、ですわね」
いくら視力が良くても、いくら弾道の計算が出来ても
銃の扱い方が分からなければ当てる事は不可能だろう。
セシリアにはその例えで良く理解出来た。
「これが…基本なのですね」
「ああ。まずはそれを見て作るんだ」
一夏の部屋に置かれていたレシピ本を手に取って
唐揚げのページを探すセシリア。
「下準備はこれの事を指していたのですね」
唐揚げの作り方として、最初に下味付けとして調味料を
鶏肉に揉み込む必要があると書かれているのを見つけ
肉にいきなり衣をまぶした時に疑問を持たれた理由を
理解した。
「じゃ…改めて皆で作るか!」
セシリアが唐揚げのレシピに一通り目を通し終えたのを
確認した一夏は、本来の目的である「セシリアへの料理の
指導を兼ねたパーティー料理作り」の開始を宣言する。
「さてと、まずは下味からだな」
箒はファスナー付きのプラスチックバッグを取り出す。
ここへ鶏肉と一緒に調味料を放り込んで揉み込むことで
鶏肉に中までしっかりと味が付くのだ。
「まずは…しょう油ですわね?」
セシリアはレシピ本に記されている量のしょう油を
鶏肉の入ったプラバッグの中へと流し込む。
「次は酒、料理酒か」
続いてラウラが料理酒をプラバッグへと注ぐ。
「あとはこの2本だね」
シャルルが2本のチューブ入り調味料を取り出して
程よい量を投入する。片方はおろしにんにく、もう片方は
おろしショウガである。
「ごま油を入れて…これを揉みほぐすのよ」
「はい!これで味が付くのですね…!」
鈴がごま油を入れてプラバッグのファスナーを閉じ
セシリアへと手渡す。全ての鶏肉に味が染み込むように
丁寧に揉みほぐしていく。
「冷蔵庫へ入れて…30分、と」
一夏がプラバッグを冷蔵庫へ放り込み、タイマーを30分に
セットする。
「暫くは待機か」
鶏肉に味が染み込むまでの間、最近の授業内容の復習や
次のイベントである学年別トーナメントへの対策などを
話し合うこととなった。
──そして30分後。
ピピピピッ!ピピピピッ!
「ここへ溶き卵を入れれば良いのですよね?」
「衣の準備は僕がやっておくよ」
鶏肉と調味料の入ったプラバッグへセシリアが溶き卵を
入れて更に揉みほぐす。
その傍らでシャルルが薄力粉と片栗粉を混ぜ合わせて
衣の準備を進めていく。
「これをまぶすのだな…こんなものか?」
「あらっ、少々付けすぎてしまいましたわ」
セシリアとラウラが鶏肉に衣をまぶしていく。
ややムラが出てしまっていたが、気にする程のものでも
無いレベルだ。
「──これで170℃くらいだな」
「ほう…そんな確かめ方があるのか」
「確かに泡が上がってきていますわね」
箒が菜箸を温まった油へ入れると、菜箸からは小さな泡が
絶え間なく上がってくる。こうなる位の温度が所謂中温
170℃前後まで温まったサインだ。
「よし、どんどん入れるぞ」
「出来上がりが楽しみですわ」
跳ねる油に苦戦しつつも、手早く鶏肉を油へと投入。
一夏の部屋に再びジュワジュワと美味しそうな油の音が
鳴り響く。
「………一旦取り出すぞ」
「二度揚げ、というものですわね?」
中温で熱されて程よく火が通った鶏肉達を一旦取り出し
油を高温まで熱してから再度放り込むのが二度揚げ。
表面の水分を飛ばしてカラッと仕上げるために行うのだ。
「おぉ、泡が先程よりも大きく激しいな」
「これが高温の基準なのですね」
菜箸を浸けた時に箸全体から大きな泡が勢い良く上がると
190℃前後である"高温"まで温まったサインだ。
「では…再度『油へポーン』だな?」
「また随分と懐かしい台詞を」
「副隊長が教えてくれてな」
無人島でサバイバル生活を送る昔のテレビ番組の企画で
ある出演者が釣った魚を勢い良く油へ放り込む際に発した
有名な台詞だ。
放送が終わってからだいぶ経つ古い作品だが、副隊長は
サバイバル生活という点に目を付けて発掘したのだろう。
「油へ…ポーン!」
「ちょっ!ラウラ!勢い良すぎ──熱っ!!」
高温に熱された油へ、ラウラはかなり勢い良く唐揚げを
放り込んでいった。ラウラ、割とノリノリである。
ラウラの手によって次々と放り込まれた唐揚げたちは
高温の油で熱されてこんがりと揚げられていく。
1~2分程で全ての唐揚げに良い揚げ色が付く。
「美味しそうだね」
「味は…きっと大丈夫ですわ!」
揚げ色の付いた唐揚げから順に油から引き上げられ
キッチンペーパーの上に乗せられていく。
仕上がりは上々だ。
唐揚げ以外にもフライドポテトやチキンナゲットなど
色々とテーブルに並べられる。
アルコールの類は当然無いが飲み物も色々と並べられ
小さなホームパーティーの開催となる。
「「「「「「いただきま~す」」」」」」
色々と並んでいた中で、最初に手をつけたのは全員とも
皆で手を掛けて作った唐揚げだった。
「ん〜~~っ!美味ですわ~!」
自分も調理に関わった料理とは思えない美味しさに
落ちそうになる頬を押さえて感動するセシリア。
「学食とはまた違うな…いい美味しさだ」
軍人としてストイックな生活を送っていたラウラにとって
皆で作って皆で食べるというのは未知の体験だった。
ラウラはこの瞬間を学園での思い出として心に刻んだ。
「食べ終わったら色々遊ぼうか!」
「良いわね!トランプとか部屋から持ってくるわ!」
専用機持ち6人だけで開かれた小さなホームパーティーは
就寝時間ギリギリまで続くのだった。
…ということで、セシリアのお料理回でした。
3話のサンドイッチは何ともなかったですけど
よく病院送りにならなかったですよね、一夏君。
「油へポーン」を含むあの番組のネタを仕入れたのは
ご存知日本大好きなあの副隊長殿です。
油へ放り込む、で思いついたので取り入れました。
…副隊長仕込みならラウラはきっとやる。