「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
あとは打鉄弐式と九尾ノ魂についても少々。
簪ちゃんの情報処理能力、相当のものですよね
参考までにストフリ+ミーティアで95だそうです。
──IS学園、整備室。
「2人の機体、だいぶ仕上がってきたわね」
「トーナメントまでに仕上げるわよーっ!」
ここ数日の整備室は凄まじい熱気に包まれていた。
近々開催される学年別トーナメントへ向け、整備部総出で
学園オリジナル機となる布仏本音の専用機「九尾ノ魂」を
組み立てに掛かっていたためである。
また、更識簪専用機である「打鉄弐式」の開発に関しても
機体の根幹に関わる部分以外は整備部の協力を受け
着実に仕上がりつつあった。
「ほいっ、脚部装甲!」
「ちょっとレンチ取ってください」
フレーム部分の構築は既に完了し、装甲の取り付けや
システムを含む武装の組み立てなどに取り掛かっていた。
「更識さん、どう?プログラムは」
「…まだちょっと…上手くいかないです」
簪はずっとプログラム構築に四苦八苦していた。
メインウェポンとなる48連ミサイル「山嵐」のシステムは
やはり構築難易度が高いために苦戦続きだったのだ。
「本音のビットはどう?」
「こっちも微妙…布仏さんも頑張ってるけどね」
九尾ノ魂に搭載予定である有線式の遠隔攻撃端末も
トーナメントに間に合わせられるか分からない程度には
システム構築に苦戦していた。
「──整備ブース、空いてるか?」
整備室を盛り上げていた要因その2とも言うべき人物が
専用機を持って整備室へとやって来た。
「おぉ、今日も来たね織斑君」
「俺も早いことコイツを仕上げたいし、な」
彼もまたここ数日間で整備室へ頻繁に訪れており
白式と紅椿のエネルギー効率の改善に明け暮れていた。
「まだ苦戦中か、簪」
「…プログラムが組めなくて」
少しずつ進んではいるがこのペースではトーナメントには
どうやっても間に合わない。前回のクラス対抗戦も
専用機が未完成だったために出場を逃しており
トーナメント出場は逃すまいと躍起になっていたのだ。
「コイツを参考にしてみたらどうだ?」
「イージス艦?…やってみる」
一夏が見せたのは、ISの台頭で立場を失いつつある
イージス艦の防空システム。フェーズドアレイレーダーと
高精度の情報処理システムや射撃管制を併用することで
同時に追尾できる目標の数は200を超える。
ISに搭載できる規模となるとロックオン数は減るが
イージスシステムの仕組みを利用すればOSの開発は
今よりも少し早く進むことだろう。
「うん、一旦これぐらいで…」
簪はプログラムの構築をかなり早い段階で切り上げた。
「…中途半端じゃないか?」
多少機能する程度にはプログラムが組まれていたが
このまま動かしてもロックオンは不完全だろう。
簪が何故ここでプログラミングを一旦切り上げたのか
一夏は気になった。
トーナメントに間に合わせるにしても早くないか、と。
しかし簪の考えは衝撃的なものだった──
「これなら後は自分で狙えるから」
ロックオンに必要な情報の残りを自力で打ち込んで
命中させる、と。簪はなんとあの山嵐を半ばマニュアルで
使うと宣言したのだ。
「これぐらいなら余裕」
「凄いな、簪」
「そうだね~。この束さんも認めてあげよう!」
自身が誰に賞賛されたのか理解した瞬間、簪は固まった。
「…篠ノ之…博士…?」
機械製のウサミミとファンシーなドレスが特徴的な
世界一の"天災"がそこに立っていた。
「やっほ~いっくん」
「直接会うのは久しぶりですね」
2人はケロッとした顔で挨拶を交わしているが、これを
聞いていた整備室の面々にとっては衝撃的過ぎて
全員の手が止まっていた。
それもそのはず、篠ノ之束は世界中から追われており
彼女の一挙手一投足を捉えようと数多の人間が監視の目を
張り巡らせている。しかもそれをアッサリ掻い潜った上で
世界でもトップレベルで警備の目が厳しいIS学園に
しれっと潜入しているのだから。
「──君のその技、並の人間には出来ないものだよ?」
「そ、そうなんですか?」
簪はだいぶ謙遜しているが、マルチロックオンシステムを
ここまで組み上げた事といい、48発のミサイル全てを
半手動で命中させられると言い切れる情報処理能力といい
簪は中々に高校生の域を外れていた。
「ありがとうございます…少し、自信がつきました」
自分の実力を素直に認めてくれる人物と出会えたことで
簪はついに自らが抱える問題と向き合う事を決意する。
「…新しいパーツ?白式用?」
やって来た束はコンテナを一つ整備室へ持ち込んでおり
その中には大量のIS用パーツが詰め込まれていた。
傷一つ無い綺麗な新品のパーツだ。
「あぁ。面倒なパーツだよ」
「束さんこれでも頑張ったんだぞ~!」
パッと見はただのIS用の基礎フレームと装甲板。
一夏が言うには、この何でも無さそうなパーツ群が
燃費悪化の最大の要因とのことだった。
自分の理解を超えた話に簪は首を傾げる。
「解体を手伝って貰えるか?」
「別に構わないけど…って解体!?」
白式を解体すると言い出した一夏に驚いた簪。
しかし驚いた頃には一夏はすでにパーツの一つに手を掛け
ナットを外して装甲を取り外しに掛かっていた。
「おりむー、私も手伝うよ~」
「サンキュー!装甲は軒並み外しちゃってくれ」
「え…えぇ…いいの?」
数分後、白式は殆どの装甲と一部フレームを取り外され
あられもない姿になってしまった。
「フレームをコイツに取り替えるんだ」
「おっけ~」
「フレームの…交換…?」
そこから更に白式をバラしていき、外したフレームと
近い形状のフレームへと取り替えていく。
本音と簪が手伝った事もあって解体と再組み立ては
あっという間に終わる。
同様の手順で紅椿も殆どのパーツが交換されていき
2機とも大半のパーツが新規パーツへと入れ替えられた。
「さて…やるか!」
一夏は2機のメンテナンスベッドへキーボードを繋ぎ
OSのアップデートを開始した。
「え、何…これ…!?」
「何でも出来ちゃうってこと~?」
簪も本音も、画面に映し出されたものの内容に驚く。
アップデートされた白式の調整用画面に映し出されたのは
全身に配置された「展開装甲」と呼ばれる装備の
動作パターンを変更するための画面。
各パーツに持たせる機能とその割合を調整する項目が
ビッシリと並んでおり、軽く目を通しただけでも
攻撃や防御、移動に姿勢制御、更には高感度センサーや
情報処理システムとしても機能する事を表していた。
「おりむーが作ったの?」
「いや、基本は束さんだ」
一夏は手際良く2機の展開装甲の役割配分を調整する。
白式は高感度センサーと情報処理システムをメインに
姿勢制御スラスターとしての役割も加えつつ
バランスの取れた配分に。
紅椿は機能の大半をエネルギーフィールド発振機能と
スラスター機能へと割り振り、超高機動と超高火力を
両立する構成とした。
「これ、第三世代機だよね?」
「おりむーは第三世代って言ってたよ~」
簪が疑問に思うのも当然である。機体の出力や最高速度
センサー範囲などといった基本スペックはもちろん
汎用性の高さを含めたあらゆる能力が跳ね上がっており
元の機体が第三世代機であるとはとても思えない。
「ノンノン、今からは第四世代機だよん♪ぶい!」
──第四世代機。その概要は「装備換装を必要としない
万能機」とされているが、世界中が第三世代機の開発に
躍起になっている現状では完全に机上の空論である。
しかし束はそれを現実のものとしてみせたのだ。
「第四…!?」
「これが、天災…っ!」
十数年先の技術を──世界中が欲しがるであろう品を
しれっと持ってきた事に整備部の面々は、束が天"災"と
呼ばれる所以を再認識した。
「いっくん、燃費はどうだい?」
「……やっぱり微妙です」
簪や本音も見守る中で一夏は白式と紅椿を起動させ
稼働データの採取を始めた。ほとんどのデータが想定内の
範疇に収まっているのに対して、エネルギー消費量だけは
やや不安定な数値となってしまっていた。
このままでは稼働時間は従来機に劣る可能性すらある。
「これは…確かに」
「すぐ電池切れだね~…」
フル稼働どころかまだ起動させただけだというのに
エネルギーが減る速度が早い。一夏がエネルギー効率化に
躍起になっていた理由を簪と本音はようやく理解した。
「後はテスト運用次第だな」
「頑張ってね~いっくん♪」
本来であればアリーナでテスト運用を行いたかったが
タイミングが合わずに予約を確保出来なかったため
アリーナでのテストは暫くお預けとなった。
╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌
──学生寮、1025号室。
「さて、皆集まったな」
「束さんだよ~いぇい♪」
一夏の部屋には専用機持ち6人と束が集まっていた。
束がIS学園を訪れる今日この日に学年別トーナメントへ
向けての討論会を開こう、という一夏の提案によって
開かれたものだ。
トーナメント当日はライバル同士となる6人だが
その前に同じ学年で切磋琢磨し合う友人でもある。
お互いに高めあい、当日全力の友人達に勝利したい──
6人ともそういった思惑があった。
「じゃあ始めようか」
「……僕の顔に何かついてる?」
突如部屋に居る全員の視線がシャルルへと向けられる。
何かを見定めるかのような視線だ。
「凰」
「あいよっ」
「えっ!?何!?」
シャルルは突然鈴とラウラに両腕を拘束された。
何が始まったのか理解出来ず戸惑うシャルルの目の前に
束が立ち、頭からつま先まで穴が空きそうな程目を通す。
「…ふ~む、思い当たりはナシって感じだね」
束がシャルルの表情から読み取ったのは、シャルル自身は
現状に対して思い当たる事が一切無いというものだった。
探りを入れつつ問い詰めても効果は薄いだろうと
一夏は単刀直入な質問をぶつけることにした。
「シャルル…お前男じゃないな?」
「うえっ!?ぼ、僕は男だよ!?」
あくまでも自分は男であると主張するシャルルだったが
一夏は「束のウサミミがピコピコ動いた」のを確認した。
「よし箒、プランBだ」
「わかった」
一夏は箒に指示を出すと部屋から出ていった。
一夏が退室した部屋で、箒たち4人に囲まれるシャルル。
束は興味無さげに後ろで見ているが、一体何をされるのか
不安で仕方が無かった。
「まずは上からだな」
「らじゃっ!」
「よし任せろ」
"上から"という箒からの指示が出た瞬間、鈴とラウラが
拘束をほとんど緩めないままシャルルの制服の上着を
器用に脱がし始めたのだ。
「わわっ!?ちょ…やめてよぉ!」
シャルルの抵抗も虚しく、上着もシャツも脱がされ
彼の上半身を守っているのは白いサラシのみとなる。
「うふふふ…私が正体を暴いて差し上げますわ」
そこへ裁ち鋏を持ったセシリアが近寄ってくる。
セシリアの上品な言葉遣いが今のシャルルにとっては
とても恐ろしく感じられた。
彼女の持っている裁ち鋏は刃先が丸いものだが
命をも奪えてしまいそうだ、という恐怖を感じる。
「さぁどうします?デュノアさん」
セシリアはサラシに刃を添えながら、改めてシャルルに
性別がどちらなのかを問う。
ここで質問を拒めばセシリアは容赦なくその刃を閉じ
サラシをバッサリと切ってくれるだろう。
そうなってしまえば隠そうとした事実も自分の素肌と共に
さらけ出す羽目になる。
もはやシャルルには他に取れる選択肢など無かった。
「白状しますっ!全部話すからっ、切るのは待って!」
シャルルは自分の知りうる情報を全て白状する事にした。
自身が女性である事、デュノア社のスパイとして
一夏の白式のデータを盗むために入学した事も。
「これを…俺に?」
部屋へ戻ってきた一夏に、制服を着なおしたシャルルは
メモリーカードを1枚手渡した。
「僕の父さんから。正体がバレたら渡せ、って」
シャルルの父とはデュノア社の現社長を務めている
アルベール・デュノアのこと。そんなデュノア社の社長が
一夏へ宛てたとなれば、中身はかなり重要なモノだろう。
「開けさせてもらうぞ」
コンピュータウイルス等の危険性を考慮して
普段使いしているパソコンではなく、サブのノートPCに
メモリーカードを読み込ませる。
そこに書き込まれていたのは、これを持たされていた
シャルルすらも驚愕する様なものばかりだった。
『これを聞いている織斑一夏君に伝えたい事がある──』
「デュノアさんの…暗殺計画…っ!?」
アルベールのメッセージと共にもたらされたのは
デュノア社内のある一派によってシャルルの誘拐と
デュノア一家の暗殺が企てられていたという証拠。
『不躾なお願いだが、どうか娘を守って欲しい…っ!』
そして、続けて開示されるデュノア社内部で行われていた
暗殺を企んだ一派による不正の証拠の数々。
ISパーツや工業製品の横流し、マフィアへの装備提供
横領した金銭でのギャンブルや高額不動産の購入
果ては政府高官とのスキャンダルや違法薬物の取引など
悪事のオンパレードだった。
「…フランス政府とも通じてたか」
「これではアルベールも不利だろうな」
これを政府へ突き付けても万事解決とは行かないだろう。
暗殺を企んだ一派がフランス政府や国内外のマフィアと
不正取引を幾度となく行っているとなれば
アルベールがこれだけ悪事の証拠を持っていようとも
証拠をほとんど隠滅された上で、逆にデュノア一家が
フランス政府やマフィアの差し向けた刺客の手によって
消されてしまうリスクすらあるのだ。
「学園へ送り込んだ目的は…これか」
「特記事項…第二十一?」
──IS学園に在学中の生徒は基本的にあらゆる国家・組織
団体に帰属しないため、本人の同意が得られなければ
それらからの干渉の一切を拒むことが出来る。
これはフランス政府もデュノア社も例外では無い。
「父さん…」
これに目を付けたアルベールはシャルルを男装させ
フランス政府と共謀する形でIS学園へと送り込み
彼女が学園に在籍している3年間で事態を何とか解決する
そんな計画を立てたのだろう。
「良い情報持ってきてくれたね~、男装君」
これらの情報に、黙って話を聞いていた束が食いついた。
「…篠ノ之博士?」
何を思いついたのかは分からないが、彼女の表情には
「やりたい放題します」という意思が浮かんでいた。
要するに、とてもワクワクしているのだ。
何かとんでもない事が始まる合図とも言えた。
「束さんについてくる気はあるかい?」
まず声を掛けたのはシャルル。混乱の最中に居た彼女は
突然の提案に頭の回転が追いつかない様子。
「でも僕は…スパイだから──」
「"君"はどうしたい?」
シャルルは「自分に決定権など無い」と思っていたが
束には彼女の考えている事は全てお見通しである。
「このウサミミからは逃げられないのさ」
束の頭に乗っているウサミミは嘘発見器としての機能を
持っており、相手が嘘をつくとピコピコ動くのだ。
「僕は…僕はまだ皆と一緒に居たい…っ!」
目の前の天災に嘘偽りが通じないと悟ったシャルルは
思い切って心情を吐露する。折角知り合った友人と
引き離されるのは──世界の底辺へと蹴落とされるのは
絶対に嫌だ、と。
「決まりだね♪」
シャルルの意思を確認した束は、思い付いた計画を
近いうちに実行へと移すことを決意した。
「いっくん!箒ちゃん!」
「な、なんです?」
「何する気ですか…姉さん」
束は2人の方へくるりと向き直り、ある宣言をする──
「夢へ向かってレッツゴーだよっ!」
束には幼い頃から憧れていた「目指すべき場所」がある。
今現在強力な兵器として扱われているISを開発したのも
彼女が夢見るある場所へと向かうためである。
「夢?…姉さんの夢…ということは!」
「束さん、まさか宇宙へ!?」
束は宇宙を目指す宣言をしたのだった。
白式と紅椿はアップデートを施され、その性能が
大幅に引き上げられました。
作者想定としては原作紅椿のおよそ8割ほど。
フランス政府とデュノア社は割とガッチリ癒着してて
悪事は全て政府が揉み消していそうですよね…。
束さんが目を付けたシャルル君とデュノア社が
どうなるかは…今後をお楽しみに。
VTが遠いなぁ…