「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
男装が発覚したシャルルの運命や如何に!?
──とある休日。
(僕この後どうなるんだろう…)
シャルルは自室で物思いに耽っていた。
つい先日一夏達に男装がバレてしまったのだが
織斑先生を含む教師陣や母国のデュノア社からは
何の音沙汰も無かった。
自分をスカウトした篠ノ之束も特に何か行動を起こせと
言ってきた訳では無かったために、シャルルはこの先
自分が何をすれば良いのかと思案していた。
「戻ったぞ」
「一夏おかえり」
同居人の一夏が日課のトレーニングを終えて戻ってきた。
一夏は上着を脱ぎ、シャワーを浴びる準備をしつつ
シャルルへと話を切り出す──
「シャルル、フランスへ行くぞ」
「…あ、うん」
ボーッとした状態で一夏の話を聞いていたシャルルだが
外出の誘いを受けた事は理解出来た。
(…少し出掛ければ気分転換になるかな)
眠気で鈍っていた体をグッと伸ばし、着ていく服を
選ぶためにベッドから起き上がる。
「あ、何処へ行くか聞いてなかったや」
体をほぐして意識がハッキリとしたシャルルは
何処へ行くのかを完全に聴き逃していたことに気付く。
仮に出掛け先が近所のショッピングモールだとしても
身だしなみは最低限整えておきたかった。
シャルルは汎用性の高い服装を選ぶことにした。
(他へバレたら厄介だからね)
今のところシャルルの男装を知っているのは一夏達5人と
一夏から連絡を受けた織斑先生、そして篠ノ之束だけ。
他の学園生にバレるのは避けなければならない。
「…これでいいかな」
髪にはワックスで軽くパーマをかけ、制服も着崩して
ズボンもややゆったりした物を選んだ。
ナチュラルメイクで肌の質感をマットなものにし
シェーディングで少しだけ顔の彫りを深めれば
一回りイケメンになったシャルルの完成である。
「追いかけてくる女の子の人数も増えるんだよなぁ…」
このスタイルによってシャルルは更にイケメンになり
男装がバレる気配は無くなったが、前にも増して
追ってくる女子生徒は増えていた。
「お?シャルル、制服でいいのか?」
「僕はこれで──え?」
脱衣所から戻ってきた一夏の服装は近所へ出掛けるには
やや不似合いなフォーマルな服装をしていた。
カッチリしている、という程のものでも無いが
品の良さを漂わせる良い装いだった。
「あの…一夏、何処へ行くの?」
行き先を思いっきり聴き逃した事を後悔しつつ
シャルルは恐る恐る一夏へ行き先を訊ねた。
「フランス。デュノア社へ乗り込むぞ」
「………早く言ってよ~っ!!」
実家へ戻るのなら男装を解きたいと思うシャルルだったが
一から装いを整えなおす時間は残っていなかったため
男装のままフランスへと向かうことになったのだった。
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「で、何で『グラウンドで待機』なの?」
シャルルは一夏と共に学園のグラウンドに立っていた。
「…理由はすぐに分かる」
──ご機嫌斜めな織斑先生も一緒に。
「そろそろ、か?」
一夏が空を見上げたのに倣ってシャルルも空を見上げると
遥か彼方から飛んで来る何かを見つけた。
「…ロケット?」
飛来してきている物体は強い光を発している。
強烈なオレンジ色の光と煙の尾からロケットエンジンで
飛んで来ている事が分かった。
下手をすれば自衛隊が迎撃に出てきそうな飛翔体は
凄まじい勢いで学園のグラウンドを目指していた。
ドォーンッ!!!
「に、ニンジンっ!?」
「ド派手な御登場だな…束さんは」
大穴を開けながらグラウンドへと突き刺さったのは
ワゴン車より二回りほど大きなニンジン型のロケット。
すぐにロケットのハッチが開き、篠ノ之束が姿を現す。
「やぁやぁ、久しぶりだねちーちゃん!!!」
グラウンドへ降り立った束は久々に再会する親友の元へ
猛ダッシュで飛び込んでいった。
「──再会の挨拶だ。喰らえ」
ギリギリギリッ!
「あだだだっ!?」
そして、カウンターで放たれたアイアンクローによって
綺麗に迎撃され撃沈した。
「本当にこれでフランスまで行けるのか?」
「モチのロンだよ~♪ちーちゃんは心配性だなぁ」
ギャグ漫画であれば問題なく飛べそうなロケットだが
ここは現実世界、本当に飛べるのかどうか織斑先生は
湧き上がる不安を抑えきれないらしい。
これに関してはシャルルも同感だった。
「ここで、束さんによるスペック紹介~」
「…手短にな」
アイアンクローの痛みから復活した束によって
ロケットの簡単な解説が行われた。
このニンジン型ロケットはISの慣性制御機能を応用して
作られた宇宙・大気圏兼用シャトルの初期実験機であり
PICを用いて浮遊し、ロケットエンジンで加減速を行う。
離着陸の際も機体の慣性が打ち消されているため
船内に衝撃は無く、備え付けのマグネットブーツで
無重力状態にも最低限の対応が可能となっている。
「さぁ乗った乗った!」
「分かってても…ちょっと怖いなぁ」
円形のテーブルとその中央に投影されたホログラムの
地球儀、テーブルを囲うように配置された扇形のイスが
シャルル達を出迎える。
ニンジン型だからか搭乗スペースは少々狭いが
4人が十分に足が伸ばせるスペースは確保されていた。
「さぁて、目指すはデュノア社!ぴ・ぽ・ぱっと♪」
束がコントロールパネルを数回タップすると
地球儀上でIS学園の位置からデュノア社の位置まで
矢印がライン状に伸び、この船がデュノア社へと
向かう事がハッキリと示される。
「う、浮いたよっ!?」
「それじゃ、レッツゴー!」
浮き上がったニンジン型ロケットは搭乗スペースを除いた
機体全体をぐるりと回転させて上下を入れ替え
スラスターを起動させてIS学園から飛び立っていった。
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──デュノア社、社長室。
「アルベール君…彼女は本当に来るのかね?」
シャルルの父、アルベール・デュノアは自社の社長室で
フランス大統領や首相、各大臣などと共にある人物の
到着を待っていた。
「ええ。来ますよ、篠ノ之束博士は」
「ハッキングして送ってきたんだ、嘘ではあるまい」
アルベールらが待っていたのは篠ノ之束。
ウサギマークのついたメッセージがデュノア社と
政府の要人らに届き、今日この日に来るから
デュノア社で待っていろと束に指示されたのだ。
この場にいる全員が緊張の面持ちで彼女の到着を待つ。
考えている事に違いはあるだろうが、出来ることなら
フランスにとって利となる結果を引き出したい──
その一点だけは皆同じだった。
「……時間ですね。私が出迎えてきます」
アルベールが社の中庭へと歩いていく。
そしてすぐに聞こえてくる轟音──
「…何か来るぞ!」
「何だアレは!?」
この場に居合わせた人物は揃って空を見上げ
そして表情が驚愕の色に染まっていく。
「ミサイル…いや、ニンジン…なのか?」
「我が国の防空網をいとも容易く…!」
空から巨大なニンジンが飛んできたのだ。
何処かのコミカルなアニメにでも出ていそうな
ファンシーなニンジン型のミサイルに
驚かない大人などまず存在しないだろう。
加えて、明らかに大型の飛翔体だというのに
フランス軍は勿論、近隣諸国のあらゆる防空網に
一切引っ掛からずにここまでやってきているのだ。
驚くのも不思議ではない。
ズドォーン!!!
ニンジンはデュノア社の中庭へと突き刺さった。
そして、ニンジンの──否、ニンジン型ロケットの
ハッチが開かれて篠ノ之束ら4名が降りてくる。
「あれが篠ノ之博士か…!」
「世界が求めるものが此処にある、という訳だ」
デュノア社の御曹司シャルル・デュノア
世界初の男性IS操縦者織斑一夏
世界最強、ブリュンヒルデ織斑千冬
そして世界一の天災篠ノ之束。
錚々たる顔ぶれはアルベールに案内されて
社長室へと向かった。
「改めて…久しぶりだな"シャルロット"」
「お父さんっ!」
シャルル・デュノア、もといシャルロット・デュノアは
周囲の視線を気にも留めずに父の胸元に飛び込んだ。
先程まで纏っていた貴公子の様な雰囲気は何処へやら
今のシャルロットはただの15歳の少女だった。
「シャルロット…あの時はごめんなさいね」
父に甘えるシャルロットの元へ、1人の女性が歩み寄る。
名をロゼンダ・デュノア。アルベールの本妻で
シャルロットの義理の母に当たる人物だ。
「ロゼンダ…さん?」
シャルロットはロゼンダに良い思い出があまり無かった。
以前顔を合わせた時には「泥棒猫の娘」呼ばわりされ
思い切りぶん殴られていたからだ。
しかし、今シャルロットの目の前に立つロゼンダは
当時とはまるで別人の様に優しい表情をしていた。
シャルロットへ向ける視線も、母が娘を見る時の
愛情の籠ったものだった。
「僕を守ろうとしてくれたんだよね…ありがとう」
シャルロットはアルベールからのメッセージで
ロゼンダが自分に酷い態度を取った理由を知っていた。
シャルロットを──大切な親友が遺していった
形見ともいえる少女を悪意ある者の手から守るために
敢えて悪役を引き受けた事を。
「ううっ…無事に戻って来てくれて良かった…!」
「ロゼンダさん…!?泣かないで下さいよぉ」
感極まったのか泣き崩れたロゼンダ。
「シャルロット、ロゼンダと居てあげなさい」
「うん。分かった」
アルベールは娘に妻を任せると、待たせていた
政府要人達の方へと向き直る。
「では、重要なお話をしましょうか」
「アルベール君、どういう事だね?」
「我々はドラマを見に来たのでは無いのだよ?」
突然始まった"親子の感動の再会"に政府高官達は
少なからず困惑していた。勿論、重要な話をしに来て
何故こうなったのかという困惑もあったが
彼らを困惑させたのは別の理由だった。
「しかし…シャルロット?シャルルではないのか?」
「あれではまるで少女じゃないか」
フランス政府にとってシャルルデュノアとは
アルベールとその本妻ロゼンダの間に産まれた男の子
という認識であり、彼と愛人の間に産まれた女の子の
シャルロットデュノアとは別人とされていたのだ。
「シャルロットとシャルルは同一人物ですよ」
「むう…?どうなっているのだ」
政府側の認識が現実とだいぶズレているために
大統領や首相も話の大筋が掴めずにいる。
何処かが歪んでいるのは確かだが、その歪みが一体
何処で発生しているのかが直ぐには掴めないのだ。
「訳を話したらどうだ?…スポーツ庁長官」
ここで一夏が動き、後方で話を黙って見ていた
スポーツ庁の長官にそう声を掛けた。
部屋にいた全員の視線が彼女へと向けられる。
「な、何を言ってるのかしら?」
しかしスポーツ庁長官は何も知らないと答える。
「じゃあ…あんたに聞こうか」
一夏が次に指名したのはこの場ではデュノア家以外で
唯一デュノア社側の関係者として立っていた女性。
「私だって知らないわよ」
こちらもスポーツ庁長官と同様知らないと答えた。
2人ともシラを切る気だと判断した一夏は、ポケットから
1枚のメモリーカードを取り出して続ける。
「全ての証拠は"ココ"にある」
「…ッ!」
フランス政府の要人が大勢集うこの社長室で
一夏はそのメモリーカードに入っているという
"証拠"が何なのかを口にしていく。
不正取り引きや横領、横流しといった悪事の数々
それらの証拠が全て入っている──と。
彼の語った内容が事実かどうか、彼女達2人は
どんな反応を示すのか。政府高官達の注目が
一斉に2人の女性へと集中する。
「生意気なガキねッ!知らないって言ったでしょう!」
「………」
追い詰められ激昂した女の平手が一夏の頬を襲った。
生意気な口をきく少年は黙らせたスポーツ庁長官だが
その行為は情報の暴露を最も逃れようのない形で
呼び込む事となる──
「やれ、束」
「ほいほーい」
弟に手を出された事に激怒した織斑千冬が親友束に
指示を出し、全ての情報を束の手から開示させたのだ。
一夏の持っていたメモリーカードもフェイクではないが
「篠ノ之束らが持っていた情報」という事実は
この場において絶大な意味を持つ──
「これは…余りにも酷いな」
「デュノアが妙に不振だと思ったら…」
「更迭で済む問題では無いぞ!?」
篠ノ之束を前にして、データ上の嘘を隠し通せる者は
この世に一人として存在していないだろう。
故に開示されたそのデータを信じない者もこの場には
誰一人として存在しなかった。
「では…我々はこれにて」
「フランスも変わらねばならんな」
フランス政府は今回の一件に関わった政府関係者を
軒並み更迭、然るべき処罰を行う事を決定。
特にスポーツ庁はISに関係する者が多かったために
女性至上主義者を含む大勢が更迭される結果となる。
また、束から提供された情報を元に国内外のマフィアを
近隣諸国との連携のもと一斉摘発。この摘発によって
治安維持以外にも産業発展の円滑化などをもたらし
EU諸国の経済的発展に貢献していく。
「私達もやる事が増えるぞロゼンダ」
「ええ、あの子のためにも頑張らないと!」
一方のデュノア社も、今回の件に関わっていた者は
全員が何らかの罪で逮捕・解雇され、それに加えて
過激な女性至上主義を唱える者の多くがリストラ。
大規模な社内改革を推し進めていった。
経営再建の一環として、日本で起業したとある会社を
デュノア社の子会社として買収・合併。
社名を「ラパン・デュノア」と改め、今までの不振が
嘘のような大企業へと成長していく。
政府とデュノア社が行った改革によってフランスは
大躍進を果たし、国際社会での影響力を飛躍的に
高めていく事となる。
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「今日は皆さんに…ええと何て言えば良いんでしょう?」
山田先生は隣に立つ生徒をどう紹介すべきか悩む。
その少女は別に転校生という訳では無かったが
以前とは全くの別人になってしまったために
紹介をしなければならなかったのだ。
「シャルロットです…えと、改めて宜しくお願いします」
その少女のかつての名はシャルル・デュノア。
数日前まで学園中の女子生徒を惹き付けてやまない
超絶イケメンだったあのシャルル・デュノアだ。
「えーっ!?本当にあのシャルル君!?」
「イケメンが…イケメンがぁ…!」
ツヤのある綺麗な金髪も、他よりやや控えめながら
確実に存在を主張する胸元の2つの膨らみも
ムダ毛ひとつ無い美しい素足も──
どれを取ってもシャルロットが女の子である事を
如実に表していた。
彼氏にと狙っていた少年が少女だったと知り
多くの女子生徒は悲観に暮れる。
「…そうだわ!」
そして、夢を諦めきれない少女のうちの1人が
シャルロットへ1つの提案を投げかける。
「シャルル君にも伝えて。また学園へ来てね、って」
「え?あぁ…うん、伝えておくよ」
言外に「またいつか男装しろ」と要求したのである。
シャルロットもこれを理解し、少々悩んだものの
その要求を呑むことにした。
──この日以降、IS学園には謎の金髪美少年が時折
顔を出すようになったとか。
シャルル君は無事シャルロットちゃんとして
再入学を果たしました。
ちーちゃんが裏で色々やってくれた模様。
ロゼンダさんの諸々に関しては割と想像頼り。
ラパンデュノアと買収されたとある企業については
原作部分で顔を出す事はあまり無いかと思われ。
次回からドイツ周り。