「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す   作:高橋ヒナタ

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ラウラ回その一です。

少し長く、かつ半端になりそうだったので
前後編に分けることにしました。


第14話(前編)

 

 

 

──静けさに包まれたアリーナで2人の生徒が相対する。

 

「遠慮はしないぜ?」

 

1人は学園唯一の男子生徒織斑一夏。

調整を終え戦闘能力が高められた白式を身に纏う。

装甲の隙間から一瞬青白い輝きが覗いた。

 

「無論だ」

 

もう1人はラウラ・ボーデヴィッヒ。

彼女もまた「シュヴァルツェア・レーゲン(黒い雨)」という名の

自身の専用機を身に纏っている。

黒い機体カラーと大型レールカノンが威圧感を放つ。

 

 

教師によるISのテスト稼働、という名目で貸し出された

この静かなアリーナでついに2人の決闘が実現したのだ。

模擬弾などは一切使わない完全な実戦形式の試合だ。

 

両者とも煮えたぎった闘志を一切隠すこと無く

戦いの場(死合)でしか見せない恐ろしく鋭い目付きを

向かいに立つ対戦相手へと注ぐ。

 

 

『お2人とも、準備はいいですね?』

 

「あぁ」

「行くぞ」

 

2人とも己の得物をアクティブにさせる。

一夏は雪片改とアサルトライフルをそれぞれの手に構え

ラウラはレールカノンのバレルを延伸させる。

 

 

 

『では…始めっ!』

 

「食らうがいいッ!」

 

先に攻撃に動いたのはラウラ。

レーゲンのレールカノンを2発ほど射掛けると

両肩ユニットに計6本装備するワイヤーブレードを

その隙を埋める様に撃ち込んだ。

 

「小手調べか?甘いな!」

 

しかし、様子見なのか鋭さに欠けていたラウラの攻撃。

レールカノンは機体を軽く移動させながら回避し

当たりそうなワイヤーブレードだけを銃撃で弾いて

対処して見せた一夏。

 

「そう言う貴様こそ甘いではないか」

 

「俺もまずは小手調べさ!」

 

雪片改と入れ替えで取り出したバズーカを適度に

撃ち込んだ一夏だが、こちらもまた小手調べであり

鋭さに欠ける。レールカノンで迎撃されたバズーカ弾が

一夏とラウラの間で爆ぜて消えた。

 

 

「ならば…お前の剣技、見せてみろ!」

 

「いいぜ!受けて立つ!」

 

ラウラはレールカノンのバレルを短縮させると

両腕の手首部分からプラズマブレードを展開させ

ワイヤーブレードを撃ち込みつつ駆け出した。

 

一夏もバズーカを格納、利き手に雪片改を呼び戻し

スラスターを吹かして急加速する。

 

「…剣道とやらの鍛錬の賜物か。やるな!」

 

「ナメて貰っちゃ困るな!」

 

ラウラも上手いこと二刀のプラズマブレードを操り

食らいつこうとしたが、剣を用いた近接戦闘は流石に

一夏の方に軍配が上がる。

 

「ぐっ…レーゲンに傷を!」

 

鍔迫り合いに発展した一瞬の隙を突いての引き技。

箒と織斑先生以外に凌げる者など居ないと噂される

一夏の剣技に、流石のラウラも装甲にかすり傷を貰う。

 

「だがまだだッ!」

 

「やる…っ!」

 

だが、体勢を崩されながらも放たれた至近距離での

ワイヤーブレードに白式にも小さな傷が付けられる。

 

 

「「………」」

 

両者とも一度少し距離を取り、睨み合う。

しかしお互いに隙など1ミリたりとも見せないが故に

お互いに攻め込む隙を見つけられない。

 

「「……ッ!」」

 

刹那の逡巡の末、敢えて動いてみて相手の出方で

取る戦法を変えていくことを選んだ2人。

 

「ワイヤーっ!」

「叩き切るっ!」

 

ワイヤーブレードとライフルの弾丸が飛び交う中で

雪片改とプラズマブレードで切り合って火花が散る。

相手の行動に対して素早く己の手(選択する武装)を切り替え

攻撃への対応と相手への攻撃を一瞬で行う──

お互い熟練した戦士でなければ成し得ない戦闘だ。

 

 

「スモークっ!?」

 

「掛かったな!」

 

戦況が動いたのはそこから十数秒後のこと。

一夏の放り投げたグレネードがワイヤーブレードで

切り裂かれた瞬間、爆発ではなく大量の煙が吹き出し

ラウラの視界を奪った。

 

──戦闘中不意を突いて差し込まれる全く別の一手。

放り投げられたグレネードが攻撃用なのか妨害用なのか

それを一瞬で判断出来る者は多くは無いだろう。

ラウラはグレネードを迎撃"させられた"のだ。

 

「これではお前も──当ててくるか!?」

 

高い索敵能力を持つ白式はこの煙幕の外からでも

レーゲンをしっかりと各種センサーで捕捉しており

弾丸が連続でラウラを襲う。

 

(サーマルスコープか!ならばっ)

 

しかし、ラウラも慌てずに対処する。

一夏はセシリアの様なビット兵器(オールレンジ攻撃)は持たない──

サーマルスコープを起動して一夏の居場所を捕捉し

続く攻撃を回避、巻き上げられた煙幕から脱出する。

 

 

 

 

 

「流石は織斑一夏だ」

 

「そう言うラウラこそ」

 

戦いの場を地表付近から空中へと移した2人。

仕切り直しとばかりに相手へと声を掛け

その心境を──余裕の有無を軽く探り合う。

 

 

「…本気で行くぜ?」

 

白式の装甲の隙間から青白い輝きが放たれる。

 

「展開…装甲!」

 

美しい蒼白の輝きに、ラウラは恐ろしさすら感じる。

"光る兵器(居場所がバレる事)"がどれほどナンセンス(危険)かは軍人である以上

思考回路を働かせずともよく分かる。

 

前回その姿を見せた時は多少機体を動かしただけで

終わってしまったが、光る事で生じるデメリットを

打ち消して余りある超スペックを持つのは明白だ。

 

 

「……来いッ!白き流星!!!」

 

──ラウラは、彼の胸を借りる事にした。

高飛車な貴族令嬢(セシリア・オルコット)をも改心させたと噂される

力に驕る事の無い"強い男"の胸を。

 

 

 

フルスペックを発揮し人機一体となった第四世代機(白式)

試作段階の第三世代機(レーゲン)では埋められない差がある。

 

「これがっ…教官の弟…!」

 

それでも強くなるため、己の"存在意義"を失わないため

ラウラは全力で一夏に食らいつき続けた。

 

 

──強さとは何たるかに疑問を抱きながら。

 

 

 

「そこだッ!」

 

左目に付けていた眼帯もかなぐり捨て、紅色の右目と

金色の左目(ヴォーダン・オージェ)──両の目で一夏を捉えて攻撃を放つ。

 

「うおっ!?…良い狙いだなっ!」

 

「落として見せるッ!」

 

ダメージレベルD近くまで追い込まれて尚ラウラの闘志は

一切衰えない。左目から流れ込んでくる情報の奔流を

必死でコントロールしながら攻撃を続ける。

 

「捕らえたぜ、ワイヤーブレードっ!」

 

「何っ!?」

 

寸分の狂いも無く放たれたワイヤーブレード。

一夏はこれを3本弾き、2本切り落とし、残った1本を

ガッチリと捕らえていたのだ。

 

「うおぉぉぉーっ!」

 

掴んだワイヤーを引っ張り、レーゲンを振り回す。

 

「がは…っ!」

 

ラウラは勢いよくアリーナの壁へと叩きつけられた。

 

 

 

「……決めるぜ」

 

雪片改のみを手に突きの構えを取った一夏。

狙っているのは、ラウラの喉元──のすぐ隣

頭と肩部ユニットの間。

 

「ぐ…私は…負けたくは無いっ」

 

ラウラも痛みで鈍った体に力を入れ直そうとするが

ダメージが大きく、思うように体が動かせない。

機体のダメージレベルもD突入寸前だ。

それでもラウラは一夏をキッと強く見据える。

 

「…!!!」

 

一夏は二連加速(ダブルイグニッション)を発動し必殺(零落白夜)の構え。

そしてラウラへ剣が迫る───

 

 

 

 

 

「え…AICッ!!!」

 

永遠にも感じられたその刹那の後、勝利を手にしたのは

ラウラだった。

 

まるで時が止まったかのようにピタリと固められた

一夏の首元に、レーゲンのプラズマブレードが

降参を促すかのように添えられていたのだ。

 

 

 

「──私の負けだ」

 

降参を宣言したのは一夏、ではなくラウラだ。

 

「降さ…えっ、何で?」

 

「アレは…AICは使う気は無かったのだ」

 

ラウラは自分が降参を宣言した訳を話し始める。

 

慣性停止結界(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)。通称「AIC」。

ISに働いているPICの機能を応用した技術であり

対象としたISの動きを殆ど封じる事が可能。

この効果を知らない相手には所謂初見殺しとも言える

理不尽な敗北()を突きつける事が出来るのだ。

 

「知っていれば…お前には通用しないだろう」

 

ラウラはまだAICを一夏へ披露していなかったが

仮にこれを披露していれば一夏はAICに掛かることなど

まず無かっただろう。

 

 

「でも、戦場じゃそれは通用しないさ」

 

「…むぅ」

 

続けて、全力を出してくれた事に感謝を述べた一夏。

実際に戦場でそれが通用しない事は理解出来るし

開戦当初は「お互い全力でやろう」という雰囲気だった。

 

やや釈然としなかったが、一夏が改めて降参を宣言し

この試合はラウラの勝利という結果となった。

 

 

 

╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌

 

 

 

試合を終えた一夏とラウラはアリーナを出て

噴水も見える休憩スペースへ腰を下ろしていた。

 

 

「何故お前はああも強くなれる?」

 

ラウラは目の前に座っていた強敵にその強さの

秘訣を訊ねてみた。

 

「誰かを守りたいから…支え合いたいから、か?」

 

「守る?」

 

自分を守ってくれた姉をいつか自分も守ってあげたい

並び立ち、補い支え合える関係になりたいから

強くあろうとする──それが秘訣な気がする、と

一夏は語った。

 

「それを意識すれば…教官に追いつけるのか?」

 

「千冬姉に?」

 

ラウラは織斑千冬に追いつくために力を求めていた。

世界最強を目指す──夢として思い付く人は少なからず

居るであろう目標だ。

 

だがしかし、追い抜く(単独トップ)ではなく追い付く(同率首位)と言った事に

一夏は少し疑問を抱いた。

 

 

「…私は最強の兵士になる必要があるのだ」

 

一夏の疑問に対しラウラはそう答えた。

それこそが、最強となる事が自身の存在意義であり

己を作り出した者が求めているものでもある、と。

 

「………」

 

「遺伝子強化試験体C-0037。それが私の最初の名だ」

 

戦う為の生体兵器として遺伝子を強化されて作り出され

体術、銃撃、兵器操縦──戦うための術を教えこまれ

ナノマシンの投与までされて作られたのがラウラだ。

 

自分を作り出した者達の命令を果たすためにも

最強の兵士に──否、最強の"兵器"にならなければ

ならない。それが、ラウラの強くなりたい(世界最強になりたい)理由だった。

 

「……………」

 

「教官は落ちこぼれになりかけた私を救ってくれた」

 

ラウラは左目へのナノマシン(ヴォーダン・オージェ)の移植処理を受けた際に

その機能をコントロールすることが出来ず

部隊の中で落ちこぼれ扱いされていた時期があった。

 

そんなラウラを指導し、再び部隊最強の座に

返り咲かせてくれたのが、当時ドイツに軍の教官として

訪れていた織斑千冬だった。

 

「それが私の強くなりたい(織斑千冬になりたい)理由だ」

 

「…ラウラ…お前っ」

 

余りにも残酷な過去を顔色ひとつ変えずに告げたラウラ。

彼女にとってそれは当たり前の事で、疑問に思う事など

無かったからである。

 

そんなラウラの過去を一夏は悲痛な面持ちで聞いていた。

 

 

 

「なっ!?急にどうしたのだ?」

 

そして、突如ラウラを抱きしめた。

 

「いい、いいんだ。そんな奴の命令っ…!」

 

すぐ傍から聞こえる一夏の声には言い表しようのない

感情が混ぜこぜになった様な悲しみが宿っていた。

僅かに震えながらも優しくラウラを傷つけない様に

抱きしめる一夏の腕からは、ラウラを絶対に手放さない

そんな感情すら感じ取れる。

 

「一夏よ、どうした?」

 

「ラウラは…ラウラだっ…!」

 

一夏は続ける。己を生み出した存在が誰であっても

自分のゆく道を決めるのは自分自身である、と。

 

「そんな決定権は"奴ら"には無いんだ…!」

 

ラウラには自分の意思で、自分のために生きて欲しいと

一夏は涙を流しながら告げた。

 

「一夏…何故そこまで悲しむ?」

 

ラウラは疑問に思った。自分を抱きしめるこの少年が

たとえどれだけ情に厚い人間であっても、自分(人造人間)の事を

何故まるで我が事のように悲しむのだろうか、と。

 

 

一夏はぽつりぽつりとその訳を話し始める──

 

 

 





後編へ続く。
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