「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
VTシステム編、最終回です。
今回も所々エグい描写がありますので
ご注意ください。
とはいっても、ヘリがよく落ちるあの会社の
バイオなハザードのゲームを見れるなら
特に問題無いでしょうけど。
VTシステム事件から3日後──
(生きて…いる…?)
治療液に満たされたカプセルの中でラウラは目を覚ます。
麻酔の効果なのか全身の感覚が薄いが、身体へ伝わる
治療液の心地良い冷たさが生きている事を実感させる。
「…姉さんの寝顔…心配を掛けてしまったか」
ぼんやりとした思考を覚醒させると、カプセルの窓に
頭を預けて寝ている織斑千冬の寝顔がすぐ目に入る。
「よぉラウラ。目が覚めたか」
「兄さん!」
心配を掛けてしまった事を心の中で謝りつつ姉の寝顔を
堪能していると、白衣を羽織った一夏がカプセルの中を
覗き込んできた。
「今から麻酔を抜くから、色々質問に答えてくれ」
「うむ」
一夏がナノマシンの制御パネルをいじると、徐々に身体の
感覚が戻ってくる。
一夏の指示に従って手足を握り、首を左右に動かし
それぞれの部位が感じている感覚を報告していく。
「らーちゃんの回復力は凄いねぇ、想像以上だよ」
「ですね。もう動けるんじゃないか?」
神経細胞の回復も順調に進んでいる事が判明し
ラウラは一度カプセルから出て身体機能などの検査を
行う事となった。
「千冬姉~…起きろ千冬姉!」
「うあぁ…起こしてくれぇ一夏ぁ…」
姉の
「どうだ?動けそうか?」
「あぁ!少々反応は鈍いが…問題無いぞ!」
愛用のラバーナイフを手に身体を少し動かしたラウラ。
本人曰くまだ全然本調子ではないとのことだったが
これだけ動けるなら後遺症の心配も当分の日常生活も
何の心配も無いだろう。
「まぁしばらくカプセルは必要だけどな」
あとは定期的にカプセルでの治療を続けていけば
2週間もすれば完全に本調子を取り戻せるだろう。
「1週間はこのカプセルがベッド代わりだ」
「構わんさ。で──」
ラウラは気になった事をひとつ訊ねる。
「これから消しに行く所だよ♪」
自分のISにとんでもないシロモノを積んでくれた
組織はどうなったのかを。
束は嬉々とした表情で"殺しに行く"と宣言した。
その表情にラウラは少しゾッとしたが、それを聞いて
今回の騒動に自らの手でケリをつけたいと申し出る。
「私も…私も同行させて欲しい!」
「えっ?良いのか?」
自分の国の不始末は自分達でつけたい、特殊部隊の隊長を
務める者としての一種の責務だと思う、と。
「よし、では今すぐ準備をするぞ!」
「ちょっ…千冬姉!?待てって!」
ラウラの覚悟を見た千冬は、少々黒い笑みを浮かべながら
「準備をする」といってラボを飛び出していった。
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「何ですかね、この打鉄」
「分かる、分かるぞ兄さん」
学園のグラウンドに待機している小型輸送船の前に
集まった、千冬・束・一夏・ラウラだったが
目の前に立つ織斑千冬はとんでもない
「束さん特製だぞっ!」
「いやまぁそうでしょうね!」
千冬が身にまとう打鉄は装甲がほぼ全て撤去され
その代わりと言わんばかりに大量のスラスターが
背中に、足に、肩に、増設されまくっていた。
「ふふっ…これが雪片弐型か…!」
スっと振るわれたその太刀は、本来打鉄が標準装備する
「葵」ではなく、雪片に似た形状の大太刀だった。
柄の先端からはエネルギーサプライヤが伸び
機体と直結されていた。
「千冬姉なら扱えそうだけどさぁ…」
一夏からしてみれば
扱いにく過ぎるシロモノだが、千冬の手に掛かれば
デメリットを帳消しに出来てしまえるだろう。
「では行くぞ!」
「れっつごー♪」
──4人の刺客を乗せた船は学園から飛び立って行った。
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──ドイツ某所。
「…3…2…1…降下ッ!」
4人が輸送船から一斉に飛び出し、鬱蒼と茂る森へ
次々と降り立った。
「よし…データ上ではこの付近だな?」
「そうだよ~♪」
場所としてはドイツの山奥、周辺には住宅地など無い
辺境も辺境といった場所。
この大量の木と草しか無いこんな場所に人が使える様な
施設などあるのかと思ってしまうが、確かにこの付近に
あるとの事。
ピーッ!ピーッ!ピーッ!
「IS反応っ!?」
そんな辺境の地で突如ISの反応が捉えられる。
乗ってきた輸送船は高度なステルスを使用しているため
船が後を尾けられていた訳では無い。
となれば恐らくは偶然の出会いなのだろう。
「軍に気付かれたか!?」
「…待て!この反応は…っ」
接近してきているISの反応を見たラウラは、その反応に
何か気付いた事があったらしく、その2機のIS反応へ
専用の秘匿回線で通信を繋げる。
「こちらは黒兎隊隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒだ!」
『隊…長っ!?何故此処にっ?』
ラウラは今の織斑姓ではなく、かつて名乗っていた
ボーデヴィッヒ姓を通信相手に名乗った。
「ひょっとしてらーちゃんの部隊かな?」
「はい。間違いないです」
「隊長~っ!お久しぶりですッ!」
「すまないなクラリッサ。長いこと留守にして…」
何も無いドイツの山奥でラウラの所属する特殊部隊
「
「隊長、前にも増して可愛くなりましたよねっ!?」
「ええ。きっと日本文化に沢山触れたのでしょう!」
副隊長クラリッサ・ハルフォーフを含む隊の5人は
思わぬ場所で出くわした隊長にとても嬉しそうである。
「──なるほど。隊長もその研究機関を」
「あぁ。私の手でケリをつけにな」
クラリッサから詳しく事情を聞いた所、黒ウサギ隊は
ドイツ政府が掴んでいた不審な動きを見せる研究機関を
調査するよう依頼されて動いていたとの事だった。
様々な情報からこの付近に施設が隠されていると判断
IS2機と特殊装備の隊員3名による捜索を行っていた。
「どうする?」
「私は良いよ。ちーちゃんは?」
一夏は黒ウサギ隊との共同作戦を実行すべきとし
同行者2人へ意見を求めた。束はそれで構わないと頷き
千冬は──
「奴らを共に潰すぞ!良いなッ!?」
「はいッ!教官!!!」
黒ウサギ隊の面々共々、ドイツで教官をしていた時代を
思い出し割とやる気満々のようである。
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「ここだな」
鬱蒼と茂る森の中に突如現れた、頑丈なコンクリート製の
巨大なゲート。ゲートの脇に認証を行うための端末が
取り付けられている所を見るに間違いは無いだろう。
「隊長、ゲートを爆破しますか?」
「…いや、必要ないだろう」
ラウラの言う通り、ゲートの破壊は必要無かった。
隊員達がチラリとゲートの方へ目をやると
既に
「よしいっくん、やろうかぁ!」
「あぁ!セキュリティ侵入、隔壁解放」
電子機器を用いたロックである以上、この2人を前に
あらゆるロックはいとも容易く突破されるのである。
ズズズズ……
「我々黒ウサギ隊は施設の制圧を行うぞ!」
「「了解!」」
千冬とクラリッサが前衛として大きな障害を排除し
もう1人のIS乗りと特殊装備の3人が部屋の制圧
ラウラが後詰と作戦指揮、束達との連絡を行う。
「何者だ!ぐわあっ!?」
「侵入者だ!捕らえ…ギャアッ!!!」
早速飛び出してきた警備員、もとい
次々とアサルトライフルやグレネードの餌食になる。
ドイツ軍最強の特殊部隊に、世界最強が魔改造機を手に
合流したのだ。勝てる相手など居ない。
「いっくんはデータの吸い出しヨロシク!」
「腕が鳴るぜ…!」
一夏と束は施設の管理システムに侵入し、隔壁の解放や
警備システムのシャットダウンなどを担当する。
「さぁて…コンピューターは何処かなっ♪」
[警備員室]
「ここから侵入出来そうだな」
発見したのは、死屍累々となった警備員室に置かれた
1台の普通のパソコン。有線で施設内のネットワークに
繋がれており、これを利用すれば施設のシステムに
侵入出来そうである。
「セキュリティ解除、ぽちっとな♪」
「…研究データファイルはこれか」
あっという間に施設のセキュリティが解除され
あらゆるデータ、システムが丸裸にされていく。
厳重に保管されていたVTシステムなどに纏わるデータが
施設のデータベースから吸い出され、まるでそこには
元から何も無かったかの様に全てが消去されていく。
無論、侵入した形跡も含めて全てである。
「………いっくん!」
束が施設の警備システムと隔壁解放を行っていた時
部屋の名前に
[特殊培養室]
「あぁ。少し、行ってくる」
「終わったら合流するよ♪」
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「何故貴様ら黒ウサギがッ!グハアッ!?」
「制圧完了!」
ラウラ達制圧部隊は警備システムと隔壁が無効化され
格段に進みやすくなった施設を片っ端から
制圧しながら進む。
途中で一夏も合流し、白式と共に更に施設の奥へ進む。
「この部屋か…」
そして発見した、特殊培養室と書かれた部屋。
「一夏…まさかこの部屋は──」
「あぁ。俺の想像通りなら…」
ラウラはクラリッサを含む黒ウサギ隊は待機するよう指示
部屋の中で待ち構えている現実を直視しないように
配慮すると、一夏と千冬と共に扉を開ける──
「ゔっ…やはり、か」
「酷いな…」
その広い部屋には円柱状の水槽が何本も置かれており
ほとんどの中身は濁り切った液体で満たされていたため
確認は出来なかったが、満たされている液体の色が
どす黒く濁った
「強化人間試験体…ねぇ」
培養槽にはそれぞれ中に入っているモノの状態を
確認出来るモニターが付いているが、そのほとんどは
「一夏…この培養槽は…!」
「まだ生きている?」
しかし、培養槽のうちのいくつかはまだ稼働しており
人の形を保っているものが4人ほど確認出来た。
『今そっち行くから待ってて』
「束さん?助けるつもりなのか」
施設のデータを抜き終わった束から、培養槽の子供達を
回収し輸送船へと運ぶ旨の連絡が送られてくる。
束曰く、助手として育てるつもりだとの事。
「まぁ人手は足りなくなるだろうしなぁ」
今後宇宙開発を進めていくに当たって、ハロ達だけでは
出来ることに限りがある。人手が必要になった時に
求人募集で集めた人達と自分達の元で育った子達とでは
束の場合後者にしか信頼を置かないだろう。
「束さん到着だよっ」
「早いな相変わらず…」
あっという間に培養室へ駆け付けた束は
ハロ達が運んできた治療カプセルへ培養槽の4人を
素早く放り込み、輸送船へと送り返していく。
「──4人目バイタル安定っと」
まだバイタルが安定しただけで施さなければならない
処置はいくつか残っているが、一先ずは安心である。
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「最下層だ。気を引き締めていくぞ」
武装警備兵をなぎ倒し、エレベーターで階を降りて
ようやく研究施設の最下層へと辿り着く。
まだVTシステムに関する書類などは見つかっていないため
この階層で探し出し焼却処分する必要がある。
「IS用の整備ツールだ。…近いな」
「これほどの施設が隠されていたとはな」
[特別実験棟]
[セキュリティレベル4]
そして、ようやくお目当てと思しき区画を発見する。
ここのセキュリティは施設内でも最高クラスだが
既にそれらは解除されているので、ゲームのように
キーを探してあっちこっち往復したり、凝った謎解きを
いちいち解き明かしたりする必要も無い。
「来ると思ってたわよ…織斑一夏ぁッ!」
「お前がここの責任者か!」
特殊実験棟へ入るなり白衣の女がISを纏って現れる。
ここのエリアエントランスはかなり広いあたり
恐らくは一行を待ち構えていたのだろう。
「…逃がす訳には行かないわねェ」
女はナチス復興がどうだの超人兵士計画がこうだの
ベラベラと長話を始め、その為にはVTシステムや
人体改造は欠かせぬ技術だとのたまう。
そして、貴重な研究対象が自ら此処へ来てくれたのだから
細胞のひとつまで残らず研究し尽くしてやる──
作られた存在は黙って造物主に従っていればいいのだ、と
そう、一夏と千冬、ラウラを指差して叫んだ。
「…ほう?」
──女は致命的な失敗を犯した。
「私は…私の意思で生きると決めたのだ!」
「我らが隊長を侮辱するか!」
「命を…何だと…」
殺気立つ黒ウサギ隊とその他の面々にも怯まず
女は自らのISのVTシステムを何の躊躇いも無く起動する。
「ならここで殺してやるわ!人形どもッ!」
狂気的な笑みを浮かべ、システムに呑まれていく。
「この………分からず屋ーッ!!!」
「……!?」
一夏はそう叫ぶとフル出力で展開装甲を起動させる。
脚部、スカートアーマー、腕部、胸部と全身の装甲が
展開されていき、最後にカスタムウイングの装甲が
一段展開され、蒼い輝きが部屋を満たす。
「AICッ!!」
「…!」
身体がまだ万全ではないというのに、ラウラは機体の
スラスター全開で懐へ飛び込み、AICを一発で決める。
そして───
「一夏…やるぞ!」
「あぁ!千冬姉!」
[[単一仕様能力:零落白夜]]
╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌
「織斑ラウラ、以下6名!着任致しました!」
「ん、ようこそ白うさぎ隊へ♪」
──VTシステム事件。
禁止兵器を使用し、IS学園の襲撃を目論んだ一連の事件は
当該研究機関の爆発・崩壊および全容疑者の死亡により
強引に幕が下ろされる事となった。
この一件の責任を取る形でドイツ政府は篠ノ之束へ
黒ウサギ隊の隊員6名、IS3機を譲渡。
VTシステム禁止条約への違反については、ドイツ政府が
事件に関与していない点と発覚後の素早い対応を考慮し
罰則へは一定の酌量がされている。
黒ウサギ隊は名を白うさぎ隊へと改め、篠ノ之束や
織斑姉弟の身辺警護を主任務とする隊として再結成。
ISが3機追加配属され、白うさぎ宇宙開発所属として
IS学園の警備を担当する事になる。
ウサギ達はさらに一歩、宇宙へと羽ばたく──
VTシステム関連はこれで決着です。
雪片弐型、登場。エネルギーサプライヤは
GNフラッグやエピオンをイメージして頂ければと。
ちなみにその打鉄、学園の機体な模様。
束さん達白うさぎ宇宙開発は今回の施設の探索で
4人の強化人間と実験台にされていた孤児達数名を
死亡に見せかけて回収しました。
今後どこかで顔を見せるかもしれませんね。
次回からは夏休み~臨海学校編です!
あの等身大立像を見に行く回も予定してるので
…まぁ…あんま期待せず待ってて下さい。