「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す   作:高橋ヒナタ

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いよいよ臨海学校編突入でございます!

取り敢えず今回は出発から1日目昼間まで
次回で夕方──夕食やら温泉やらを。

で、後半は千冬達教師陣のパート。



5巻
第25話


 

 

 

今日は待ちに待った臨海学校の日──

 

「おぉ~♪海が見えてきたよーっ!」

 

「海が見えるとテンション上がるね!」

 

目的地へと走る貸切高速バスの中で1年1組の少女たちは

年相応のあどけない笑顔で大はしゃぎしていた。

 

臨海学校に限らず、クラスメイト達と学校以外の場所へ

観光に向かうというイベントは心が躍るものだ。

行く先での勉強が目的だとしても、非日常なのだから。

 

「着いたら何する?海行く~?」

 

「まずは海行って~!ゲームコーナーにも寄って~──」

 

初日は丸1日自由時間という事もあって、何処から行くか

何をするか──バスの中は黄色い声で満たされている。

 

 

「あたしはまず海行く。セシリアは?」

 

「私もご一緒させて頂きますわ!」

 

それは、専用機持ち達であっても変わらない。

普段あまりはっちゃける事はないセシリアも

いつもより更に良い笑顔でワクワクしていた。

 

「海か。任務で立ち寄る事はあったが…楽しみだ」

 

「僕もそうかな。そんな暇なんて無かったから」

 

プライベートで海を楽しむ機会にあまり恵まれなかった

ラウラとシャルも期待に満ちた表情を浮かべている。

 

そして、一夏はというと──

 

 

 

「なぁ一夏。お前…大丈夫か?」

 

「箒…少し…寝させてくれ」

 

目元に深いクマを作り、非常に眠たそうにしていた。

 

「何があった?」

 

先程から眠そうにしつつも喧騒で眠れていない彼氏に

流石の箒も心配し、その理由を尋ねる。

滅多に生活リズムを崩す事の無い一夏だが

果たして一体何があったのか。

 

「鈴の…パッケージを…な」

 

 

そう呟いた一夏は力尽きた様に眠気に身を任せ

隣の席だった箒の肩に身を預けて寝てしまった。

 

「ゆっくり休め。着いたら起こしてやるから…」

 

(確かデュノアの機体も手を掛けていたな、一夏は)

 

ティアーズと甲龍、ラファールリヴァイブカスタムIIには

それぞれ所属国家からパッケージが送られて来たのは

箒もセシリア達から聞いていたが、まさかその全員が

一夏にカスタムを頼んでいたとは想定に無かった。

 

相当疲れが溜まっていたのであろう一夏を休ませる為に

彼が寝やすい姿勢を維持する箒だった。

 

 

(………うぅ、落ち着かん…一夏の寝顔…っ)

 

──宿に着くまで箒の内心は穏やかでは無かったとか。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「──今日から3日間お世話になる花月荘だ」

 

「「「よろしくお願いしま~す!」」」

 

バスに揺られて辿り着いたのは風情ある和風旅館。

 

この旅館を宿泊先としてISの各種装備のテストを行うのが

今回の臨海学校の主な目的である。

 

 

「では、解散!」

 

「よぉ~し!遊ぶぞーっ!」

「ビーチバレーするぞー!」

「ワー!ウェミダー!!」

 

女将さんへの挨拶を済ませたら、昼食の時間までは

自由時間。部屋へ荷物を置いてきた後は海へ行くなり

近くの街を観光するなり好きに遊べる。

 

水着に着替えた少女達は全力ダッシュで浜辺の方へと

駆けていった。

 

 

「俺たちも行くか」

 

「そうだな」

 

一夏達もその後を追って浜辺へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「──10点先取でいくよ!」

 

「7月のサマーデビルの実力の実力、とくと見よっ!」

 

浜辺では早くもビーチバレーが始まっていた。

普段のトレーニングで引き締まった身体を持つ彼女達が

程よく育った双丘を揺らしてボールを打ち合う様は

耐性の無い男子が見たら卒倒してしまいそうである。

 

「僕だって負けないからねっ!」

 

「わわっ!?…点はあげないよシャル!それっ!」

 

シャルロットが飛び上がりスパイクを叩き込んだ。

オレンジ色のビキニを着こなす彼女の姿は

シャルル・デュノアと同一人物とは思えないほどに

女子高生としての魅力が際立っている。

 

「軍隊仕込みの体力、舐めるなよっ!」

 

「ぎゃー速いっ!流石ラウラさんだなぁ!」

 

以前一夏に選ばせた際どい黒のビキニを身にまとい

長い銀髪をラビットスタイルのツインテールで纏めた

ラウラが、落ちてきたチャンスボールを逃さず

強烈なスパイクをお見舞いする。

 

華奢な体躯と透き通った白い肌を持ちながら

しっかりと筋肉も備えた身体を黒いビキニが引き立てる

ラウラの姿はシャルとはまた違う魅力を放っていた。

 

 

 

「みんな楽しそうだな」

 

一夏は砂浜に置かれたビーチチェアに腰を下ろし

すぐ近くの海の家で買ってきたソフトドリンクを飲む。

 

彼は水着ではなくアロハシャツを着て寛いでいた。

昼食を挟んだ後もまた自由時間なので、午前中は休憩し

午後から本格的に海へ繰り出すことにしていたからだ。

 

「…ああ。良い光景だ」

 

箒もまた、彼が遊ぶのは午後からと宣言したのを受け

サマードレスで砂浜へとやって来ていた。

 

一夏と同じ様にビーチチェアに身体を預けてから

手に持っていたかき氷をひとくち口に放り込む。

 

 

「いーちかっ!」

「一夏さん、こんな所にいらしたのですね」

 

「おう、鈴にセシリアか」

 

最近一緒に行動する事が増えてきた鈴セシリアコンビも

水着に着替えて砂浜へと姿を見せた。

 

一夏達の居る所のすぐ近くまでやってきたセシリアは

手に持っていたパラソルを開いてレジャーシートを敷くと

サンオイルを取り出す。楽しむ気満々である。

 

「鈴さん、サンオイルをお願い出来ますか?」

 

「適当で良ければ塗ったげるわよ」

 

セシリアは鈴にサンオイルのビンを手渡すと

パレオを外してレジャーシートにうつ伏せに寝転び

水着の背中側の結び目を外す。

 

セシリアの準備OKを確認した鈴はビンのフタを開け

サンオイルを彼女の背中へ塗りたくった。

──一切温めないままで。

 

「ひゃっ!?鈴さん!オイルは温めてから──」

 

「いいじゃん塗れれば♪ほいほいほいっと」

 

オイルの冷たさと鈴の手つきに思わず悶えるセシリア。

 

 

(なんというか…刺激が強いなこりゃ)

 

(…後で私も一夏に…やってもらう…か…?)

 

つい顔を逸らした一夏と箒なのであった。

 

 

 

「さーて!早速泳ぐわよーっ!」

 

「ちょ…ちょっと!引っ張らないで下さいな!」

 

サンオイルも塗り終わり、海で遊ぶ準備が済んだ鈴は

セシリアの手を引いて波打ち際へと駆けていった。

 

 

 

そんな光景を見て一夏がひと言呟く──

 

「あれは溺れるな、多分」

 

「む?あいつが?」

 

そう、肝心な準備運動をせずに飛び込んで行った鈴。

本人は「前世はきっと人魚姫だから溺れはしない」と

そう豪語して海へと飛び込んで行ったのだが

幼なじみその2として鈴の事を良く知る一夏は

「足でもつるんじゃないか?」と予測する。

 

鈴は体力も十分あるし運動も相当出来る方だし

それは無いだろうと箒は返したが──

 

 

 

「げほっ…あたしが溺れるなんて」

 

ブイと浜を往復する競走の最中に足をつって溺れかけ

セシリアに抱えられてこのパラソルの下へと帰ってきた。

 

ここまで僅か数分、見事なまでのフラグ回収であった。

 

 

 

「お、いたいたおりむー」

 

鈴が少し落ち着いた辺りで、本音とその友人たちが

何かを聞きたそうな表情でこちらへとやってくる。

 

「ねぇ、織斑君の部屋ってどこになったの?」

 

「夜ご飯の後遊びに行きた~い」

 

少女達が気にしていたのは一夏が泊まる部屋の番号。

教員室から遠ければ遊びに行けるかもしれない、と

期待していた。IS関連にしてもプライベート関連にしても

一夏に関わる物事は聞いてて飽きがこないのだ。

 

宿泊学習なら少なくとも1人以上はやるヤツが現れる

「他の部屋の訪問」をやろうとしていた。

実際、五反田弾辺りなんかは中学でそれをやっている。

 

が──

 

「残念だが一夏は私と同室だ」

 

 

「千冬姉!?」

「千冬さん!?」

 

振り向くとそこには、大人の女性の色気を全開にした

黒いビキニを身につけた織斑千冬の姿があった。

 

「──って事だそうだ。遊びに来るのはやめとけ」

 

織斑一夏と同室になるのがまさかの一番の強敵

この部屋(教員室)から遠い位置だといいねーと話していた

その部屋の借り主と同室になっていたのだ。

 

「は~い」

「仕方ないなぁ」

 

少女達は「半分は予想していた」といった表情で

また海へ──砂浜へ──ビーチバレー会場へ──

各々が楽しみたい場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「──織斑先生!織斑先生!」

 

本音達と入れ替わりで、何やら少々慌てた様子の

山田先生が千冬のもとへと駆け寄ってくる。

 

「…何?束が来た?」

 

「はい、今さっき」

 

ここへ向かうのは明日になると言っていた親友の

一日早い来訪に千冬は踵を返して旅館へ戻って行った。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

花月荘の客室の1つ、教員用として取ってある部屋に

引率で来ている教師達のほとんどが集まっていた。

 

「──織斑先生!」

 

「すまん。遅れた」

 

浜辺へ出ていた千冬も山田先生と共に戻ってきた。

千冬の格好もビキニの上にロングシャツを羽織っただけで

かなり大慌てで戻ってきた事が伺える。

 

その部屋には空間投影ディスプレイが複数設置され

如何にも緊急会議といった様相を呈していた。

そして、ディスプレイの隣に立つドレス姿の女性──

 

「やあちーちゃん」

 

篠ノ之束が珍しく緊張感のある面持ちでそこに居た。

 

普段の束なら今の千冬の水着姿でもからかって

反撃のアイアンクローをお見舞いされているだろうが

今の束はおふざけナシの真面目モードであった。

 

「──ちょっと見過ごせない"動き"があってね」

 

「動き…ですか?」

「篠ノ之博士が動く程の…!?」

 

ISの登場以降今まで決して表舞台に現れることも無く

映像資料等でしか見た事の無かった篠ノ之束博士が

自分達の目の前に現れた事だけで、1年生担当の教師達は

彼女の掴んだ「動き」の重大さを何と無く感じ取る。

 

あの"身内以外は人とも思っていない"と言われた束が

一介の教師でしかない自分達にも声を掛けるほど

事は重大なのだろう──と。

 

 

「それじゃあ、心優しい束の~解説タ~イム♪」

 

束は掴んだ情報を事細かに解説し始めた──

 

「皆は『銀の福音』って知ってるかな?」

 

「確か…米国で試験稼働中の第三世代機ですよね」

「表向きは宇宙開発用とされていますが…」

 

──銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)

 

アメリカ・イスラエル共同開発の第三世代機であり

広大な宇宙での長距離移動に対応する巡航速度と

大量の宇宙デブリを破砕する為の広範囲殲滅能力を持つ

宇宙開発用をコンセプトとして建造されている機体だ。

 

「そそ。確かに宇宙は広いし、デブリはいっぱいだしね。

でも…『物は言いよう』って言葉があるのさ」

 

そう言ってモニターに映し出したのは、本来極秘情報で

アメリカ国内でも極わずかしか知る者の居ない

福音の詳細なスペックデータ。

 

「これは…!」

 

「やはり裏があったのね」

 

学園にある打鉄やラファール等は同じISとは言っても

元々訓練機ないし競技用として設計された機体であり

一応設定されているリミッターを解除したとしても

軍の脅威となるスペックにはとても届かない。

 

ティアーズやレーゲンら学園所属の第三世代機は

最終的なスペックは軍用機級であったとしても

厳重なリミッターにより能力を制限されているため

ややグレーではあるが問題の無い数値だ。

 

「…どう見ても"アラスカ条約"違反ですよね」

 

しかし福音のスペックというのはそれらを遥かに上回る。

リミッターを施した際の数値も測定されておらず

元より軍用機として使う為に開発された物と思っても

差し支えは何ら無いだろう。

 

これはISの軍事転用を禁ずるアラスカ条約に抵触する。

 

 

 

「…まぁ、ありふれた話よね」

 

──ここまではそう、教師の1人が言ったように

世界中で暗黙のうちに行われている行為だ。

 

「うんうん、そうだね。すっっっごくムカつくけど。」

 

束も額に青筋を浮かべたままそう言うように

アラスカ条約はほとんど形骸化していた。

 

 

「──で、ここからが本題」

 

束の表情がまた真剣なものへと切り替わる。

 

「福音は近々最終試験稼働が行われる予定だったの」

 

福音はあとはロールアウト直前の最終試験を残すのみ。

その旨を束が口にした瞬間、千冬を初めとするカンの鋭い

一部の教師がその"続き"にたどり着く──

 

「その日程はいつだ!束!」

「…まさか…篠ノ之博士…!」

 

 

「カンがいいね~ちーちゃん♪そ、明日」

 

 

 

"急遽試験稼働の日程変更を行う事になった"

 

何故か突然臨海学校と日が被る様にして変更された

福音の性能評価試験。それは最早「何かある」所ではなく

間違いなく大問題への発展が確定していると言えた。

 

この空間に張り詰めた空気が漂い始める。

 

 

「──装備テストは明日からだが訓練機は整備しておけ。

専用機持ち共は今日の午後3時から始める!」

 

千冬は頭の中で何をすべきか直ぐ様決断すると

集まっていた同僚達と共に慌ただしく動き出す。

 

 

「もしもし、くーちゃん?ちょっと非常事態だよ…!

"アレ"を何時でも出せる様にしておいてちょーだい!

ついでに"JOKER"もくっ付けておいて」

 

『JOKER隊もですか!?…分かりました』

 

束は束で学園のラボに居る自身のアシスタントである

「くーちゃん」に連絡を取り、一夏や箒の身に危機が

迫った時に直ぐ対応出来るよう策を打っていく。

 

 

 

大人達の邪な思惑が牙を剥くまで、あとわずか──

 

 

 





臨海学校1日目、半分ほどが終了しました。

7月のサマーデビルさんはとりあえず台詞だけ
引っ張ってきました。名前やらエピソードやらは
出すにはGX版に彼女の出番が無さすぎる…。
相川さんとか鷹月さんとかね。ちょっと残念…

さて。新しいキーワードが登場しましたね。
束さんの言う「アレ」と「JOKER」は
次回以降──福音戦で明らかになるかと。
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