「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
福音戦──までは行かないです
ごめんなさいね。
次回いよいよ福音戦!
第27話
──パールハーバー・ヒッカム統合基地
現地時刻、10時。
「これより、
「全作業員は作業終了後直ちに退避せよ!」
『防空隊、展開完了。準備よし』
アメリカがイスラエルと共同開発した第三世代型IS
銀の福音の稼働試験が行われようとしていた。
「…この機体が完成すれば、我が国の国防も安泰だろう。
無事成功してくれよ」
この基地を統括する男は緊張の面持ちで試験に臨む。
ISが台頭してからというものの、軍事衝突は増えており
既存の兵器が通用しないISという脅威に対し
どの様に国土を守るかは目下の課題であった。
銀の福音も宇宙開発用と銘打って開発された機体だが
既に国防に利用されることは決定されていた。
「ファイルス大尉、準備は宜しいですか?」
『…ええ。大丈夫よ』
管制官からの問いに操縦者の女性が答える。
彼女の名は「ナターシャ・ファイルス」。
福音開発の初期段階でテストパイロットに抜擢され
長い間福音の面倒を見てきた女性だ。
福音との相性も良いため正規パイロットへの就任も
既に決定されており、
早期発現も期待されている。
『……司令官。本当に宜しいのですか?』
そんなナターシャから司令官へ疑問が投げかけられる。
「それはあれか?篠ノ之博士の事か」
『ええ。これ程の機体──』
彼女が心配していたのは、かつて篠ノ之束がIS委員会に
突き付けていたある要求の事。
[アラスカ条約違反の機体の解体および凍結]
言うまでもないがこの福音もアラスカ条約違反の機体だ。
およそ2年半の猶予があるとは言え、こうも大々的に
試験稼働を行えば何かしら制裁が飛んでくるのでは──
ナターシャはそう考えていた。
「むぅ…私も分からんでも無い。が、これが上の決定だ。
それに、博士も今すぐ潰しに来ることはあるまい」
基地司令官の男も結局は宮仕えである。
その"上"が何とかなると言っているのだから
決定に兎や角言うのははばかられるのだ。
更に言えば、少なくとも博士自身が言った期限までは
何かされる可能性は少ないだろう、と男は考えを語った。
「──では銀の福音、起動開始!」
「電源投入」
「ブートローダ稼働を確認」
「OS、正常起動しました」
男の号令で銀の福音が起動し始める。
今回は初期セットアップから戦闘機動までを一通り
テストする予定だ。
『銀の福音、起動完了』
電源投入からOSの立ち上げまでは問題無く完了する。
「よし。では順次稼働テストを行う!」
そして、機体の動作テストへと入ろうとした時
福音に異変が起こる──
「っ!?福音との通信途絶!」
「何だと?」
常時開いておくよう指示した福音と基地との通信回線が
全て途絶したのだ。
「コアネットワーク経由でアクセスすればいい」
「防空隊!福音へのアクセスを試行してくれ!」
『駄目です!アクセスが拒否されています!』
それはIS固有の通信回線となるコアネットワークも同様で
文字通り全ての回線が不通となってしまっていた。
「何が起きている…っ!?」
まるで福音が起動する瞬間を狙っていたかのように
発生したシステムエラーに司令官の男は戸惑う。
まさか本当に彼女の言った通り"天災"が動いたのか──
そう考えるだけで額に冷や汗が走る。
自分達に派手な制裁を加えて見せしめとするのでは、と
嫌な考えが頭にまとわりついて離れなくなったのだ。
「福音、
「なっ…何ィッ!?」
双眼鏡で福音の動向を監視していた管制官の一人から
最悪の報告がもたらされる。
銀の鐘とは、大型スラスターと広域射撃武器の機能を
兼ね備える新開発の装備であり、福音の主兵装だ。
あれをこちらへ向けられたらひとたまりも無い。
「じ、自分達の武器で死ぬなんて嫌だぞっ!?」
「司令!ここは危険ですっ!退避しましょう!」
強引に事を推し進めた結果試験中の機体が暴走を起こし
作った者達は自分たちで作った兵器に蹂躙される──
アニメ作品では時折繰り広げられる光景だが
"それ"がまさに今自分達の目の前で起こっているのだ。
管制官達は震え上がった。
「福音、防空隊へ接近!」
『来るぞッ!抑え込め!』
しかし、福音は管制塔には一切目もくれず飛び立ち
周囲に展開していたIS部隊に襲いかかった。
『分かっていたけれど…早いッ…!』
『ぐっ!?武器をやられたわっ!』
防空隊のISパイロット達も軍属のベテランばかりなのだが
福音はそれを意に介さぬ戦闘を繰り広げ、防空隊のISを
次々と大破に追い込んでいく。
『くそっ!来るなぁッ!』
『抑え込めない…ッ!駄目だ、撤退す──ッ!?』
「──福音、現空域より離脱していきます……」
「そう…か」
基地を壊滅させた福音は、新たな敵を探すかのように
飛び去って行った。
「被害の…確認をしろ…」
「…はい」
──ISは全機が撃墜、パイロットも半数以上が死亡。
福音が放った無差別攻撃の流れ弾による被害も大きく
空軍基地に駐機中だったF-35一機、F-22三機が大破
海軍基地の方の被害はジェラルド・R・フォード級1隻
ズムウォルト級1隻が中破、サイクロン級哨戒艇が轟沈。
流れ弾による被害は基地所属の人員にも及んでおり
死者は100名超え、重傷者多数という悲惨な結果だった。
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──所変わって、花月荘。
日本時間は朝5時過ぎ。まだ日が登ってすぐの時間帯で
起きている生徒はあまり多くない。
「やはり…砂浜のランニングはいいな」
「あぁ。足腰が鍛えられるからな」
「お前達は学園でも毎朝走っていたな」
早朝のトレーニングを日課としている
砂浜でランニングをしているくらいだ。
ピリリリッ…ピリリリッ…
千冬のジャージのポケットから着信音が鳴り響いた。
「…学園長!?」
この連絡の差出人はIS学園の学園長轡木十蔵だった。
学園長は主な業務は自身の妻に任せているため
滅多な事では連絡など寄越さない。
がしかし、そんな学園長が直接連絡して来たため
千冬は頭を仕事モードに切り替えて電話を取る。
「──それは本当ですか!?冗談じゃないぞっ!
IS委員会め…無理難題を寄越してくれる…っ」
「千冬姉…一体何が?」
電話で連絡を受け取った千冬は一夏でも滅多に見ない
"敵を見る目"を海の向こうへ向けていた。
「束が予想した通りだ…一度旅館へ戻るぞ。
お前達は他の専用機持ちを起こしてこい」
「はっ、はい!」
「急ごう兄さん!」
千冬の言葉が纏う雰囲気は姉と弟妹のそれでは無く
生徒と教師のそれでも無い──軍の上官と部下のような
「口答えは一切許さない」とでも言いたそうな
重苦しい緊迫感が込められていた。
姉から各部屋の生徒名簿を渡された一夏とラウラは
教員室へ向かう千冬と分かれ、クラスメイト達が寝ている
客室の方へと駆け出して行った。
「──では、現状を説明する」
一夏達専用機持ち8名は宴会場へと集められ
千冬と束からの現状説明を受けていた。
「1時間半前、ハワイで試験稼働を行う予定だった
アメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型ISが
制御下を離れて暴走したと連絡があった」
福音はハワイ周辺に展開されていた警備網をすり抜け
およそ40分後にここより2km程先の空域を通過する
との事だった。
衛星画像から算出された福音の予想目的地は
日本──もといIS学園だという。
「──で、俺たちに迎撃しろ、と?」
「察しがいいな。その通りだ」
ISは汎用性の向上と引き換えに最高速度などといった
特化した性能を失ってしまっている。
アメリカ本土からIS部隊を飛ばしたとしても
福音の航行速度である時速2,500kmを追い越せない以上
何の役にも立たない。
更に言えば、日本との距離はハワイからでおよそ6,600km
カリフォルニアからでおよそ8,700km。
福音の最高速度にも匹敵するF-22やF-15であっても
補給を受けずにトップスピードで飛ぶ必要があるため
日本近海で追いついたとしても燃料切れ寸前だろう。
尤も、戦闘機ではISには勝てないのだが。
「あれは並の機体では歯が立たんからな」
「…第三世代軍用機ですものね」
おまけに福音自体の戦闘能力も非常に高いため
下手に中国や韓国、日本の自衛隊からISを派遣させても
返り討ちに遭ってしまう可能性すらあるのだ。
事実、ハワイでは防空隊が壊滅させられている。
つまり、福音に最も近い位置にいる一夏達が
専用機を以てして撃墜するのが最善策なのである。
「…しかし、問題はここからでな」
この時点でも問題無いとはとても言えないのだが
最大の問題点はまだ残っていた。それは──
「競技用リミッターの解除許可が降りない!?」
「"上"は何を考えているのだっ!」
何と、第三世代型の軍用機を相手するというのに
性能を抑える競技用リミッターを解除しないまま
戦えとIS委員会が言っているというのだ。
これには一夏もラウラも猛抗議を掛ける。
競技用リミッターは有るか無いかでスペックの差が
大きく変わる。
「上は相当紛糾しているようでな──」
まず第一に、福音のスペックが露見することを嫌った
米・イスラエルが福音の詳細の開示を拒否。
それにより相手の戦力を測りかねた各国政府は
新1年生に軍用スペックを扱わせる危険性を考慮し
競技用リミッター解除に対して否定的な意見を挙げだす。
更にそこへ米国が軍事機密流出を危惧したのか
暴走した福音を捕獲し直接本国へ返還する様要求──
これに再び各国政府代表が猛抗議したことで
会議は更に荒れ、結論が全くまとまっていないのだ。
「リミッター付きで何とかするしかあるまい」
「分かってる…分かってるけど…っ!」
IS委員会をはじめ各国国防軍はアラスカ条約など
お構い無しで動いてはいるが、一夏達がそれを放棄すれば
治外法権たる学園を支配下に置きたい委員会から
圧力を掛けられて恐ろしく厄介な状況になりかねない。
「──作戦を変えるぞ」
この劣勢に、千冬は当初考えていた作戦を撤回
新たに作戦を練り直す事にした。
「──
「ああそうだ。目標を奇襲し、一撃で仕留める」
当初の予定ではセシリア、本音、簪の遠距離部隊が
福音の動きを止め、一夏と箒、鈴の3人で切り込み
シャルとラウラがバックアップを行う方針だった。
が、それが使えないとなったため、最高速度に優れる
紅椿とウイングストライカー装備のティアーズが
必殺の一撃を、隙を生じぬ二段構えで叩き込む──
そういったプランへと変更したのだ。
「織斑隊は予定通り先行し敵を叩け。一撃必殺が理想だが
デュノア隊がバックアップに入る。教師陣は万一に備え
作戦空域周辺にて待機せよ」
「「「了解!!」」」
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「このサブグリップは向こうに着いたらパージしちゃって
構わないからね~」
「分かった」
「了解ですわ!」
場所を再び砂浜へと移した一夏達は30分後に控える
作戦開始に向け最終セットアップを行っていた。
ティアーズの装備換装と紅椿の新装備搭載は前日に
既に終えているので、今は紅椿とティアーズに
白式・レーゲン牽引用のグリップを追加している。
「よ~し、取り付け完了っと♪」
グリップとレッグレスト2つずつを取り付ける作業は
束がパパッと済ませる。機体側からパージ出来るので
戦闘行動の邪魔にはならない。
──そしていよいよ作戦開始時刻となる。
「一気に行くから掴まっていろよ」
「おう。頼むぜ箒」
最高速度と加速性に特化させた紅椿の展開装甲が
アクティブになり、フレームから紅い輝きが溢れ出す。
「ラウラさん、宜しいですか?」
「あぁ、何時でも構わん」
プラットフォームウイングに収まった4基のビットが
一斉に起動し、ティアーズの機動性能が一気に向上する。
「──では。織斑隊、出撃!」
バシュゥーーーッ!!!
千冬の号令を受け、先行の4機が一斉に飛び立った。
紅椿とティアーズはその加速能力を遺憾無く発揮し
あっという間に姿が見えなくなる。
「よし、僕達も続くよ」
「…ちゃんと決めなさいよ、一夏…箒…!」
「全システムオールグリーン…行けるよ、本音」
「私も行けるよぉかんちゃん!」
後続のデュノア隊も全ての準備が整う。
この隊は出番が無い方が良いのだが、何かあった時には
一夏達先行部隊のフォローに入る予定だ。
「──デュノア隊、出撃!」
バシュゥーーーッ!!!
デュノア隊も織斑隊を追うようにして戦場へと
飛び立って行った。
「無事に帰れよ、一夏…ラウラ!」
福音さん、早速ハワイで大暴れ。
「全てのISを敵と見なした暴走」との事で
原作でも描画こそされてませんがハワイ沖では
駐留IS部隊が全滅させられているかと。
ナターシャは軍属とのことでしたが
軽く探っても階級が見つからなかったので
とりあえず大尉ということに。
…アニメには出てないのよね…彼女。