「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
福音戦Part2です。
束さんの言っていた「アレ」と「JOKER」の
正体が判明する回でもあります。
情報量多め。解説は一応書き込んでますが…
今回、文書への特殊エフェクトとやらを
少しだけ採用してみました。
──すっかり日が高く登った太平洋の沖合で
未だに三つ巴の激戦は繰り広げられていた。
「まずはゼフィルスから墜とす!セシリア、ラウラ!
ヤツを追い立てられるか!?」
「任せろ兄さん!」
「ビットの対処はお任せ下さい!」
妹マドカを救出するべく、ゼフィルスの早期撃墜を目指す
一夏達。この戦闘に見切りをつけられ離脱される訳には
いかないため、徹底的に攻めあげて確実な撃墜を狙う。
「ちったァ腕が立つらしいなぁガキ共!」
幸いな事にもう一方の乱入者であるアラクネの女は
仲間意識が薄めなのかゼフィルスに信頼を置いているのか
理由は定かでは無いが分断する必要も無かった。
彼女の職業は戦争屋か何かだろうか、戦闘が楽しいのか
鈴と簪&本音ペアを相手に大立ち回りを演じていた。
「伊達に代表候補生やってるんじゃないのよッ!」
「ケッ…一丁前な口利きやがる!」
鈴は優れた反射神経でアラクネの装甲脚からのビームを
器用に躱し、反撃にスパークを纏った拳を叩き込む。
距離があったにも関わらずアラクネの女に回避を行わせた
その兵装の名は「ドラゴンハング」。
多重関節で繋がれたクローを相手へと投げつけたり
改造元の武器「
浴びせることも出来るという武装。
電撃攻撃はISの持つ絶対防御で軽減こそされるものの
操縦者に強烈なダメージを与え最悪気絶させる。
アラクネの女もそう迂闊に食らう事は出来ないのだ。
「いつでもロックオン出来るよかんちゃん!」
「マルチロック完了、ミサイル全弾発射…っ!」
「閉所じゃねェと分が悪ィな…!」
アラクネの女は予想以上の苦戦に舌打ちする。
先程から
正確な軌道で飛んできているというのもあるが
何よりアラクネの本領は潜入任務等の閉所戦闘。
壁面にすら張り付ける装甲脚の機動性能も
敵の拘束やトラップにも使える「糸」も
海の上では効果を発揮する場面が無かったのだ。
「箒!"向こう"に寄り過ぎてる!離脱して!」
「分かった!福音の追い立ては頼む!」
三つ巴とは言ったが、現在福音は一夏達のいる空域から
少し離れた場所で箒とシャルロットが足止めしていた。
IS反応に対し無差別に攻撃を仕掛けていると思しき福音を
あちら側に放り込めば、銀の鐘による広範囲砲撃で
戦場が滅茶苦茶にされるリスクがあった。
『………!!!』
「──僕にそれは通用しないよ!」
その銀の鐘から放たれた無数の光弾をシャルロットは
手の甲から広げた輝く盾で払い除ける。
「無事か!?」
「うん。流石は"光の盾"だね」
ラパンデュノアと白うさぎ宇宙開発が共同制作した
防御パッケージ「ガーデン・カーテン」──
それによって増備されたシールド3枚のうち
両手の甲に装備されている2枚のエネルギーシールド
「
モノフェーズ化されたエネルギー波が
相手から放たれる光学兵器のみを防御するのだ。
燃費が悪いのがこの盾の欠点だが、ほんの一瞬だけ
シールドを展開する事でエネルギーの浪費を防いでいた。
シャルロットの装備切り替えの早さが光る。
「悪いけど、向こうへ合流させる訳にはいかないんだ」
そして、残る1枚である実体シールドの裏側に装着された
ダブルビームガトリングが火を吹き福音を追い立てる。
箒の握る雨月・空裂から飛んでくるビームの斬撃も
福音の高機動を一方的に封殺しこの空域から逃さない。
劣勢ではないが優勢とも言えない、拮抗した戦況が
しばらく続いた時──
『織斑隊、デュノア隊各機!聞こえるか!』
「織斑先生!?」
いつもより厳格さ5割増しな声で一夏達8人全員に
通信を寄越してきたのは織斑先生。
その声には「口答えは決して許さない」と言わんばかりの
緊迫感が込められていた。
「千冬姉、何が──」
『ターゲットを追い込み、合図と同時に散開!
指定空域に再集結せよ!』
突然の連絡の内容を問おうとした一夏の言葉を
被せる様に遮って作戦内容を通達してきた織斑先生。
『──指示に従わなかった場合の安全は保証しかねる!』
「!?」
そして、指示に従わなければ死ぬぞ、と暗に告げたのだ。
織斑千冬は戦場において冗談など言う人物ではない。
姉が一体どんな情報を掴んだのかは知る由もないが
これを無視すれば確実に死ぬ、と一夏は察する。
『10!9!8!──』
「全機!ただちに散開!」
一夏は戦闘空域にいる僚機の7人にすぐさま通信を繋ぎ
指示通り散開を行う様大声を飛ばす。
優れた判断能力を持つ一夏と彼に信頼を置く7人は
速やかに敵機の誘導と散開の準備を済ませていく。
アラクネの女が一夏達の動きに何かを察した様だが
8人の素早い行動の前にはもう遅い──
『──4!3!2!1!』
ドォォォォーンッ!
戦闘空域を超極太のビームが突き抜けていった。
「福音の足を止めた!?」
あわや直撃という所だった福音は大きくバランスを崩し
損傷こそしていなかったものの足が止まる。
アラクネもダメージは負っていなかったものの
一夏達から大きく分断される。
「後方より高熱源体接近っ!」
「何っ!?」
続けて、戦況の変化を見ていたラウラからの報告。
丁度極太のビームが飛んできた方向から
超高速で飛翔体が接近して来たのだ。
その飛翔体はあっという間に戦闘空域へと飛来し
美しい巨躯を露わにする。
「兄さん、あれはっ!?」
「…っ、何も聞いて無いぞ!?」
未確認機は背負っていた4本のブースターをパージしたが
信じられない程の加速力で逃げ回る福音を追い回す。
巨大な外装を身に纏う未確認機はISより遥かに大きいが
脚部と思しき部位のスラスターを器用に吹かして
福音の圧倒的な巡航速度に食らいついていく。
「識別信号解析……ISっ!?」
白式のUIに映し出された未確認機の詳細に一夏は驚く。
[アリス・イン・ワンダーランド]
あれ程の体躯を有していながらISだというのだ。
確かによく見れば機体の中央部には人型のような
恐らくは機体のコアとなっているであろうISが見える。
搭乗者の顔はアンドロイド風のフェイスマスクに覆われ
直接見ることは叶わないが、機体名が似合う意匠の
ドレスの様な形状の装甲から察する事は出来た──
「この束さん自ら出てきてあげたんだよ…?
光栄に思って貰いたいものだねぇ」
アリスを駆るのはそう、大天災篠ノ之束である。
ISの生みの親であり世界から追われるお尋ね者の彼女が
自分専用機を持っていない筈は無いのだ。
「行くよ!JOKER!」
『了解。レイ・クロニクル、JOKER隊発進する!』
束は自身と共にこの戦場へやって来ている「JOKER隊」に
戦闘開始の命令を下す。
落ち着いた声色の
アリスを覆っていた巨大な外装の一部──
4つのコンテナがパージされ、そのコンテナを
ビームサーベルで切り裂いて4機のISが姿を現した。
『まずはクイーンだ。一夏達への支援を急げ。
ジャックは俺と来い。敵を足止めするぞ。
エースは援護射撃を頼む。いいな?』
『『『了解』』』
それぞれクイーン、ジャック、エースと呼ばれた機体は
機械音声で「キング」を駆るレイに応える。
レイ達4人はそう、アリスを守護するトランプの騎士。
中世の騎士を想起させる甲冑を纏った彼らは
不思議の国の女王となったアリス──束に忠誠を誓い
迫り来る敵を返り討ちにしていくのだ。
「束さんも負けてられないねぇ♪」
レイ達の援護を受けて攻勢へ出た一夏達に負けじと
束も高速で逃げ回りながら光弾をばら撒く福音へ
闘志の乗った視線を向ける。
そして、2本のプラズマナイフを取り出し──
[単一仕様能力:
そのブレード部分だけを大きく延長させる。
その名に相応しい単一仕様能力、手にしている装備の
あらゆる「規模」を自由自在に変える能力を活かし
プラズマナイフを大型プラズマサーベルへ変えたのだ。
ここへ来た際に戦場へぶち込んだ
標準的な火力のライフルを超火力化したものである。
「さぁて…お母さんの言うことを聞かない悪い子には
少しお仕置してあげないとね…♪」
束は生みの親の声も聞かずに暴れ回る
お灸を据えに掛かった。
「ぐ…天災が直接出て来るとは…っ」
「何だ…何なんだありゃあッ!」
「………!?!?」
ゼフィルスとアラクネ、福音の3機は一夏達を相手に
あっという間に追い込まれていく。
第4世代機を駆る一夏と箒、AICという切り札を持つラウラ
規格外のスペックを誇るアリスとその騎士達を前に
連携もクソもない敵3機が勝てる筈など無かった。
「やーっと捕まえたわ!凶暴な妹ね…ッ!」
「くそぉっ離せっ!」
悲壮な覚悟を揺らがされた妹マドカは戦闘の精彩さを欠き
鈴のドラゴンハングに絡め取られる。
伸ばされた多重間接が縄代わりになっていた。
「少し…寝てなさいッ!」
「あ゙ぁっあ゙あ゙ァっ!!!…ぐっ…う…」
鈴が「ドラゴンハングスパーク」を発動させると
ゼフィルスの装甲に噛み付いたクローの先端から
高圧電流が流し込まれ、操縦者の意識を奪う。
まだゼフィルスのシールドエネルギーは残っているが
操縦者が失神してしまえば動く事も出来ない。
「束さん!」
「お手柄だねぇリンちゃん!でかしたっ!」
『博士。撤退を支援します。
レイが支援を終えたクイーンと手の空いたエースを寄越し
束は気絶したマドカを抱えて撤退の準備に入った。
花月荘にくーちゃんを治療設備とセットで送ってあるので
あとはマドカを連れて戻り治療を施すだけだ。
「いっくん、箒ちゃん。そっちは大丈夫?」
「あぁ。アラクネも離脱していったし。」
「姉さんの紅椿があるからな。心配はない」
増援が到着しゼフィルスが敵の手に落ちたことで
アラクネの女は早々に見切りをつけて撤退していた。
味方を見捨てる判断、撤退する判断が早いというのは
色々と言いたい事が多いものではあったが
今この場では都合は良かった。
「じゃあ、福音は任せるよ」
「任せてくれ!行くぞ箒!」
「やるぞ一夏っ!」
2人にまだまだ余裕がある事を確認した束は福音の撃墜を
一夏達8人に任せ、レイ達と共に撤退した。
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──花月荘。
「くーちゃん!カプセル!」
「用意してあります。こちらへ!」
マドカを花月荘まで連れ帰ってきた束は
ラウラによく似た銀髪の少女「クロエ・クロニクル」に
案内してもらい、ナノマシン調整用カプセルへ
マドカを放り込む。
「自死プログラムは…まだ起動してないね」
束はまず、考えられうる最悪のパターンに対処する。
彼女に投与されている監視用ナノマシンのプログラムの
"口封じ用"プログラムを素早く無効化する。
幸いな事にマドカのナノマシンはそのプログラムが
まだ起動していなかったが。
マドカが亡国機業のメンバーであるのは想像がつくが
そういった秘密結社の中核に居るエージェントともなると
情報漏洩防止の為の自決手段が用意されているものだ。
「プログラム消去、ナノマシン稼働停止…っと」
「バイタル安定。お疲れ様です束様」
束は見事なリプログラミングでシステムを停止させた。
この辺りは彼女の得意分野なのだ。造作もない。
「束!マドカは無事か?」
「うん。流石はちーちゃんの妹だね♪無駄に頑丈──」
ギリギリギリッ!
「いだだだっ!ちーちゃんギブ!待って!」
マドカの体調は電撃攻撃のダメージが多少残る程度で
致命的な異常は特に残っていなかった。
駆け込んできた千冬に対して束がジョークを吐き
返しのアイアンクローによって"数秒"撃沈させられる
そんないつものやり取りが出来る位には
マドカのバイタルに不安は無かったのだ。
「一夏達も順調のようだな」
「ま、8vs1じゃあね…」
すぐ近くに置かれているモニターへ目を通せば
教師達バックアップ部隊から送られてきている
一夏達と福音の戦闘映像が確認出来る。
クイーンが配った補給物資で状況を立て直し
福音を墜とすべく最後の攻勢に出ていた。
「これならば問題は無さそうだな」
「だね~♪あとは事後処理、どうしようかな」
千冬はリミッター付きで軍用機相手に良くやっていると
弟へ感心の眼差しをやり、束は可愛い妹と我が子達を
危険に晒してくれた奴らへの報復を考えながら
モニターから視線を外す──
ピーーーッ!
「っ!?何だ?」
「いっくん…!?」
突如鳴り響いたアラート。
一瞬とはいえ気を抜いていた千冬と束は外した目線を
再びモニターへと戻した。2人の目に入ってきたのは
たった一箇所だけ赤色のサインが映る戦況モニター。
それが指していたのは──
[白式:SIGNAL LOST]
織斑一夏が撃墜されたという事実だった。
はい。一夏君は撃墜されてしまいました。
何があったのかは次回。
あとはレイさんの詳細も次回以降にね。
篠ノ之束専用機にして本作オリジナルのIS
「アリス・イン・ワンダーランド」
ようやくの見参でございます。
考えたネタ全然出し切れて無いので
今後も時折出番は作るかと。
JOKER隊の元ネタは本家アリスのトランプ兵と
DQMジョーカーシリーズの神獣たち。