「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す   作:高橋ヒナタ

34 / 72

超久しぶりの更新です。
長らくお待たせしてしまい申し訳ありません…

今回はレイ君とくーちゃんについて。
レイ君の大まかな設定は原作の本人を基準に
本作独自の要素も加えた形です。
くーちゃんの方は、目とかの詳細に関しては
個人的解釈を多分に含んでいるかと…。



第32話

 

 

 

──銀の福音暴走事件から一夜明け、7月8日。

 

 

 

「さて、簡単な問診をしていくから答えてくれ」

 

一夏が眩しい朝日が差し込む宴会場で

前日負傷したシャルロットと福音のパイロットへ

簡単な治療後の経過観察を行っていた。

 

 

「──うん、痛みも無いし僕は平気だよ」

 

「OK。まぁ軽い火傷だもんな」

 

シャルロットの負傷は特に問題なく完治していた。

一時撤退中に負った火傷は前日のうちに

応急処置でほとんど回復していたのもあって

彼女の綺麗な肌には傷一つ残っていない。

 

何ならシャルロットが2回目の交戦に出られなかったのは

専用のラファールが損傷していたのが理由の大半であり

彼女自身は大した怪我はしていないのだ。

 

「じゃあ僕は部屋へ戻ってるね」

 

シャルロットは更衣スペースで病衣から制服へ着替え

寝間着を抱えて部屋へと戻って行った。

 

 

 

「──で」

 

シャルロットに続いて一夏の前へやってきたのは

綺麗な金髪に青色の瞳と一目見ただけで

白人系だと分かる、スタイル抜群の美女。

 

穏やかな笑みを浮かべていながらも

どこか"軍人然とした強さ"を感じさせる視線──

 

「ナターシャ・ファイルスよ。よろしく♪」

 

「お、おう…」

 

銀の福音正式操縦者、ナターシャ・ファイルス大尉だ。

 

 

 

「どうです?体の調子は」

 

「何一つ問題無いわ。"あの子"のお陰ね」

 

ナターシャは軽く軍人流のストレッチをしてみせ

不調が一切残っていない事をアピールする。

 

銀の福音の戦闘機動に振り回されていた彼女だが

彼女自身は福音の搭乗者保護機能によって

厳重に保護されていたこともあって

以前ラウラに起こった様な負傷はしていなかった。

 

 

「…肩の傷も?」

 

「ええ、勿論」

 

一夏は少し申し訳無さそうに、彼女の左肩に残る

大きな傷跡の事を気にかける。

 

それは、零落白夜の傷跡。

既に完全に塞がってかなり薄れているとはいえ

胸の中心部から左肩にかけて残っている

大きな裂傷の跡だ。

 

「ナイトさんは気にしなくていいのよ」

 

しかしナターシャはそれを一切気に留めない。

 

傷跡に関しては、学園に立ち寄ってくれれば

いつでも文字通り最先端の再生医療で

前よりも綺麗な状態へ治療してあげるよ、と

束自身から申し出を受けている。

傷の"お礼"も、一連の事件を引き起こした主犯へ

たっぷりとくれてやれば良いのだから、と

特段気丈に振る舞うことも無く答えた。

 

 

「じゃ、ナターシャさんも問題ナシだな」

 

 

一夏を除けば今ここにいる者達の中で

一番大きな負傷を負ったであろうナターシャも

特に問題無く快復した、という結果だった。

 

 

 

 

 

「──いつまで隠れてるんだ?」

 

「べっ別に私は隠れてなどっ!」

 

ナターシャへの問診も終えた一夏が

すぐ近くの間仕切りに向かって声を掛けると

一夏や千冬によく似た少女が飛び出してきた。

そう、織斑マドカだ。

 

彼女は目立った外傷はもちろん内臓や神経にも異常は

一切確認されておらず、昨晩には意識を取り戻していた。

 

 

 

「………その……えっと…」

 

間仕切りの影から顔を出したマドカだったが

戦闘中の鬼気迫る表情はどこへやら

悪さをして叱られている小学生のような

可愛いしょんぼり顔をしている。

 

 

「俺を殺そうとした事、まだ気にしてるのか?」

 

「うっ…」

 

彼女は、亡国機業に命を握られていたとはいえ

兄を手にかけようと襲いかかった事を

ずっと気にしていた様だ。

 

 

そんなマドカを、一夏はそっと抱きしめる。

 

「俺もマドカも生きてる。それでいいさ」

 

2人ともこうして無事に生きている以上

再び共に並び立って歩む意思があるのなら

一度殺し合った事など些細な事だ、と。

 

 

「ありがとう…一夏兄さん…っ!」

 

 

 

この銀の福音暴走事件は、IS学園側に最終的な死傷者が

誰1人として出ない形で終わりを告げたのだった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「──とりあえず福音の件は一区切りついたし

この子達を紹介しないとね」

 

一夏達専用機持ち8人は、束に呼び出される形で

教職員が借りている部屋の一室を訪れていた。

 

目の前には、くーちゃんと呼ばれていた銀髪の少女と

レイ・クロニクルと名乗った金髪の少年が立っている。

 

 

「クロエ・クロニクルと申します」

 

「改めて…レイ・クロニクルだ」

 

2人は、それぞれ同じ苗字を名乗った。

 

「あ、そうそう、分かってるとは思うけど

2人は血の繋がった姉弟ではないよ」

 

髪色からみても分かる通り、クロエとレイの2人に

血縁関係は無い。一応はクロエが姉でレイが弟だが

それは束が2人を拾った順番でしか無く

2人の正式な生年月日は不明だ。

 

 

 

「とりあえず俺から話そう。作戦終了後に話すと

約束しているからな」

 

まずはレイが1歩前へ歩み出て自己紹介を始める。

 

「俺は篠ノ之束直属護衛部隊『JOKER隊』所属

カードナイツ1号機『キング』正式パイロット

レイ・クロニクルだ。」

 

レイの所属する「篠ノ之束直属護衛部隊 JOKER隊」は

束が所有するもう1つの専属部隊──ドイツ軍から移籍し

公的な立場が存在する「白うさぎ隊」とは異なり

正式なデータが一切存在しない特殊部隊で

今後想定される敵対組織への潜入任務や施設の破壊工作

白うさぎ隊を派遣しにくい状況への介入など

より柔軟で秘匿性の高い行動を可能とする部隊だ。

 

現状JOKER隊はレイ1人と無人機3機の小さな隊だが──

 

 

「その辺は適当でもいいだろう」

 

「でしょうね。やはり"キング"が気になりますか」

 

この場にいる殆どが気になっているのは

レイが何故ISを持っているのか、何故動かせるのか

これに尽きる。

 

 

「それは俺の出生に理由がある。

知っている人は居るだろうが、俺はクローン人間でな」

 

「クローン…ですって?!」

「それって一夏やラウラと同じ…!?」

 

一夏やラウラ、千冬は特に表情を変えなかったが

ドイツの秘密研究所襲撃を知らないセシリア達は

流石にレイがクローン人間である事に驚く。

 

「俺は超人兵士計画の一環で生み出された。

高い身体能力を持つ者のクローンとしてな」

 

ドイツ、もといナチスの研究者達の手によって

進められていた超人兵士計画のプロジェクトのひとつで

何人かの"兄弟たち"と共に生み出されたのがレイだった。

 

俗に言う「強化人間」を生み出すプロジェクトで

レイは一夏やラウラと同じく先天的に能力を──

彼の場合は、戦闘機同士によるドッグファイトへの対応や

身体能力を活かした単騎突入の際の状況把握の高速化を

目的に高い空間認識能力を持たされ生み出された。

 

 

「…だが俺は生まれつきテロメアが短くてな」

 

「テロメア?」

 

テロメアとは簡単に言うなら、細胞が持つ免疫力から

DNAを保護し必要の無い分解や異常な融合を防ぎ

遺伝子の安定性を保つ機能がある。

 

しかし、人間の細胞は培養するとこのテロメアが

短くなる傾向にある。そして、テロメアが短くなると

その細胞は徐々に老化を始めてしまう。

それがどういう事を引き起こすのかというと

寿命が極端に短い状態で生まれて来てしまうのである。

60歳の人間のクローンであれば、どれだけ見た目が

幼い少年少女であっても、精々20年ほどしか生きれない。

 

一夏やラウラはこのテロメアの短縮を克服していたが

レイは細胞培養の際の不具合かテロメアが短かったのだ。

 

「俺はあの数日後には処分されてしまう筈だった」

 

心臓などの一部臓器にも異常が現れていたレイは

一夏達が施設に突入しなければ、その数日後には

不要品として殺処分されてしまった所だった。

 

 

 

「──そんな俺を助けてくれたのが"コレ"だ」

 

ざっと経緯を説明したレイは、徐にシャツを脱いだ。

 

彼の胸元にあったのは、光るコアの様な物体。

レイの身体に埋め込まれており、鼓動するかのように

輝きが揺らめいている。

 

 

「それはまさかっ!?」

 

「かんちゃん、何か知ってるの?」

 

真っ先にそれに反応したのはなんと簪だった。

 

彼女の瞳は、強い憧れを抱いていた者を前にしたような

子供たちがヒーローを見つめる目と同じ目をしていた。

彼女の脳裏に浮かぶのは、1人のヒーローだ。

 

「…それって、心臓と何か関係が?」

 

「よく分かるな。そうだ、これが俺の心臓だ。

これがあるから俺は生きているし、ISも使える」

 

レイの胸に埋め込まれているのはそう、ISコアだ。

テロメアの短縮を防ぐ機能を兼ね備えた人工心臓であり

これがあるからこそレイはISに乗れる──

否、ISに"なれる"のである。

 

レイの持つIS「キング」とは、彼の愛機にして

彼自身でもある機体なのだ。

 

 

 

「次は──」

 

「私ですね」

 

レイが自己紹介を終えると、後ろで控えていた

クロエがスッと前へ出てくる。

 

「私も弟と同じような経緯で束様に拾っていただいて。

お会いした事もあるかと思いますが、学園のラボにて

束様の助手を務めております」

 

「という事は…クローン人間ってこと?」

 

「はい」

 

クロエ・クロニクルもまたレイに似た出生を持つ。

 

束は過去にもドイツで研究機関を壊滅させているのだが

クロエはそこに収容されていた実験体の1人だった。

様々な実験を繰り返され、多くの"姉妹たち"が

命を落としていく中で、束が施設を訪れた時に

かろうじて命を繋いでいた事で彼女に拾われたのだ。

 

 

「ならばその目は──」

 

「その通りです」

 

ラウラが指摘した"クロエの目"とは、瞼を閉じたまま

一切それを開こうとしない彼女の目だ。

かつてヴォーダン・オージェのコントロールに

四苦八苦していたラウラは、その閉ざされた瞳は

何か能力の制御がままならないからなのではと

推察するが、まさにその通りであった。

 

クロエの瞳には電子機器をハッキングしたり

他者に幻覚を見せたりなど、相手を惑わす力が

秘められているとのことだが、瞼を開いている間は

常にその効果を周囲に振りまいてしまうらしい。

束と共にそのコントロール方を模索中であり

現在は応急的に瞼を閉じたままにしている。

 

 

 

──ただ、今セシリア達が一番気になっているのは

そんな事では無い。

 

「ラウラに似てるのって偶然なの?」

 

「あまりにも似すぎていますわね」

 

実際2人を並べてみるとその似通い具合は凄まじく

髪の色やその質はもちろんの事、2人の顔つきなども

やたらそっくりだ。

 

しかしラウラはデザインベビーであるため

明確な親というものは存在せず、ラウラ自身でさえ

自分に親族は存在しないと明言していたはず。

となれば、目の前の彼女は何者なのか。

 

 

「…まさかとは思うが…!」

 

「そう、らーちゃんのお姉さんだよ」

 

期待と困惑が入り交じった表情で問うたラウラに

ウサギが正解を告げる。

 

そう、ラウラとクロエは元となった遺伝子の提供者が同じ

下手をすると普通の姉妹より近しい間柄なのだ。

2人は生まれた研究施設が違ったために出会う事が無く

ラウラの同期たちも本人以外は生き残れなかったために

自分には親族は居ないと認識していたが

クロエは間違いなくラウラの姉なのである。

 

「私に…こんなにも…家族がっ…!」

 

義兄弟の契を交わした最初の家族一夏と千冬

将来的に親戚になる織斑箒もとい篠ノ之箒とその家族

先程から部屋の隅でどうも居心地悪そうにしている

一夏と千冬の妹だという織斑マドカ。

そして、初めて会えた本当の姉クロエ。

 

あれほど切望した家族が、既にラウラには大勢いる。

そんな事実に、彼女は思わずウルっときていた。

 

 

 

「──立派なナイトさんね」

 

「騎士になるのは、これからさ」

 

人と人とを繋ぎ、この光景を作りだした一夏を

ナターシャは流石は自分を救ったナイトだと賞賛するが

そんな言葉を貰った一夏は覚悟の決め直しをしていた。

 

彼の戦いは、この光景を守り抜くことなのだから。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

「──未確認機はサンフランシスコ上空へ入った!」

 

「撃墜許可が出た!撃ち落とせ!」

 

 

銀の福音暴走事件から数日後。

 

 

『……………』

 

 

アメリカ上空に一機のISが現れていた。

 

 

「クッ…全身装甲のクセに足が早いっ!」

 

「エドワーズからの増援がすぐに合流する!

それまでここを死守するよッ!」

 

 

それは、4枚の翼を広げた素顔の見えぬ白い天使。

 

 

『……通らせてもらう…!』

 

機械的な加工音声で冷徹に告げ、天使は再び加速する。

 

 

「クソッ!地対空ミサイルはやはり回避された!」

 

「いいからISを出せ!全機スクランブルだ!」

 

 

スクランブルに出た空軍のISや戦闘機の尽くを無視し

内陸へと飛翔を続ける天使に、米軍は翻弄される。

 

 

「いいや、ヤツは福音ではない!新型機だ!

目的は分からんが東へ向かっている!」

 

「エドワーズの隊を追撃に向かわせるんだ!

我々の隊は補給を終え次第そちらのカバーに入る!」

 

 

天使は、ただ飛ぶのみだ。反撃すらもせずに。

 

 

「──目標ロスト…ヤツめ、何が目的だ…!」

 

 

瞬く間に天使は内陸部へと消えていった。

 

 

 

 

 

『6-Dエリアに侵入者を確認!繰り返す──』

 

天使が再び現れたのは、とある軍事基地だった。

 

 

「居たぞッ!」

 

『……………』

 

目の前に現れた警備のIS部隊を前にしても

天使は何も声を発さず、指先1つ動かさない。

何かを見定めるような…そんな構え。

 

 

「此処へ侵入した目的は何だ!言え!」

 

ジャキッ!

 

警備隊が一斉に銃を向ける。

 

 

 

『…この基地が所有しているISを頂きに来た』

 

天使は静かに、抑揚の無い機械音声でそう答えた。

 

その刹那、折りたたまれていた剣が閃き───

 

 

 

「グッ…お前は何者だ…ッ!」

 

『………』

 

天使はひとつのISコアを手にしていた。

 

そして、再びその翼を広げる。

 

 

 

『そうだな…アストレアとでも名乗っておこう』

 

──簡潔にその名を告げると、天使は飛び去って行った。

 

 

 





1期ラスボス編はこれで一区切り。

次回からは学園祭までの色々になります。
GX版は学園祭の「灰被姫」で終わりなので
それ以降は…基本オリジナルで行きます。
アニメの方だと学園祭で巻紙さんが
白式を奪いに接触してくるようですが
GX版は特にな~んも無いんですよね…。

たぶん次回はだいぶ先になると思いますが
どうか気長にお待ちください。
…完結出来るといいなぁ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。