「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
超久しぶりの更新です。
長らくお待たせしてしまい申し訳ありません…
今回はレイ君とくーちゃんについて。
レイ君の大まかな設定は原作の本人を基準に
本作独自の要素も加えた形です。
くーちゃんの方は、目とかの詳細に関しては
個人的解釈を多分に含んでいるかと…。
──銀の福音暴走事件から一夜明け、7月8日。
「さて、簡単な問診をしていくから答えてくれ」
一夏が眩しい朝日が差し込む宴会場で
前日負傷したシャルロットと福音のパイロットへ
簡単な治療後の経過観察を行っていた。
「──うん、痛みも無いし僕は平気だよ」
「OK。まぁ軽い火傷だもんな」
シャルロットの負傷は特に問題なく完治していた。
一時撤退中に負った火傷は前日のうちに
応急処置でほとんど回復していたのもあって
彼女の綺麗な肌には傷一つ残っていない。
何ならシャルロットが2回目の交戦に出られなかったのは
専用のラファールが損傷していたのが理由の大半であり
彼女自身は大した怪我はしていないのだ。
「じゃあ僕は部屋へ戻ってるね」
シャルロットは更衣スペースで病衣から制服へ着替え
寝間着を抱えて部屋へと戻って行った。
「──で」
シャルロットに続いて一夏の前へやってきたのは
綺麗な金髪に青色の瞳と一目見ただけで
白人系だと分かる、スタイル抜群の美女。
穏やかな笑みを浮かべていながらも
どこか"軍人然とした強さ"を感じさせる視線──
「ナターシャ・ファイルスよ。よろしく♪」
「お、おう…」
銀の福音正式操縦者、ナターシャ・ファイルス大尉だ。
「どうです?体の調子は」
「何一つ問題無いわ。"あの子"のお陰ね」
ナターシャは軽く軍人流のストレッチをしてみせ
不調が一切残っていない事をアピールする。
銀の福音の戦闘機動に振り回されていた彼女だが
彼女自身は福音の搭乗者保護機能によって
厳重に保護されていたこともあって
以前ラウラに起こった様な負傷はしていなかった。
「…肩の傷も?」
「ええ、勿論」
一夏は少し申し訳無さそうに、彼女の左肩に残る
大きな傷跡の事を気にかける。
それは、零落白夜の傷跡。
既に完全に塞がってかなり薄れているとはいえ
胸の中心部から左肩にかけて残っている
大きな裂傷の跡だ。
「ナイトさんは気にしなくていいのよ」
しかしナターシャはそれを一切気に留めない。
傷跡に関しては、学園に立ち寄ってくれれば
いつでも文字通り最先端の再生医療で
前よりも綺麗な状態へ治療してあげるよ、と
束自身から申し出を受けている。
傷の"お礼"も、一連の事件を引き起こした主犯へ
たっぷりとくれてやれば良いのだから、と
特段気丈に振る舞うことも無く答えた。
「じゃ、ナターシャさんも問題ナシだな」
一夏を除けば今ここにいる者達の中で
一番大きな負傷を負ったであろうナターシャも
特に問題無く快復した、という結果だった。
「──いつまで隠れてるんだ?」
「べっ別に私は隠れてなどっ!」
ナターシャへの問診も終えた一夏が
すぐ近くの間仕切りに向かって声を掛けると
一夏や千冬によく似た少女が飛び出してきた。
そう、織斑マドカだ。
彼女は目立った外傷はもちろん内臓や神経にも異常は
一切確認されておらず、昨晩には意識を取り戻していた。
「………その……えっと…」
間仕切りの影から顔を出したマドカだったが
戦闘中の鬼気迫る表情はどこへやら
悪さをして叱られている小学生のような
可愛いしょんぼり顔をしている。
「俺を殺そうとした事、まだ気にしてるのか?」
「うっ…」
彼女は、亡国機業に命を握られていたとはいえ
兄を手にかけようと襲いかかった事を
ずっと気にしていた様だ。
そんなマドカを、一夏はそっと抱きしめる。
「俺もマドカも生きてる。それでいいさ」
2人ともこうして無事に生きている以上
再び共に並び立って歩む意思があるのなら
一度殺し合った事など些細な事だ、と。
「ありがとう…一夏兄さん…っ!」
この銀の福音暴走事件は、IS学園側に最終的な死傷者が
誰1人として出ない形で終わりを告げたのだった。
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「──とりあえず福音の件は一区切りついたし
この子達を紹介しないとね」
一夏達専用機持ち8人は、束に呼び出される形で
教職員が借りている部屋の一室を訪れていた。
目の前には、くーちゃんと呼ばれていた銀髪の少女と
レイ・クロニクルと名乗った金髪の少年が立っている。
「クロエ・クロニクルと申します」
「改めて…レイ・クロニクルだ」
2人は、それぞれ同じ苗字を名乗った。
「あ、そうそう、分かってるとは思うけど
2人は血の繋がった姉弟ではないよ」
髪色からみても分かる通り、クロエとレイの2人に
血縁関係は無い。一応はクロエが姉でレイが弟だが
それは束が2人を拾った順番でしか無く
2人の正式な生年月日は不明だ。
「とりあえず俺から話そう。作戦終了後に話すと
約束しているからな」
まずはレイが1歩前へ歩み出て自己紹介を始める。
「俺は篠ノ之束直属護衛部隊『JOKER隊』所属
カードナイツ1号機『キング』正式パイロット
レイ・クロニクルだ。」
レイの所属する「篠ノ之束直属護衛部隊 JOKER隊」は
束が所有するもう1つの専属部隊──ドイツ軍から移籍し
公的な立場が存在する「白うさぎ隊」とは異なり
正式なデータが一切存在しない特殊部隊で
今後想定される敵対組織への潜入任務や施設の破壊工作
白うさぎ隊を派遣しにくい状況への介入など
より柔軟で秘匿性の高い行動を可能とする部隊だ。
現状JOKER隊はレイ1人と無人機3機の小さな隊だが──
「その辺は適当でもいいだろう」
「でしょうね。やはり"キング"が気になりますか」
この場にいる殆どが気になっているのは
レイが何故ISを持っているのか、何故動かせるのか
これに尽きる。
「それは俺の出生に理由がある。
知っている人は居るだろうが、俺はクローン人間でな」
「クローン…ですって?!」
「それって一夏やラウラと同じ…!?」
一夏やラウラ、千冬は特に表情を変えなかったが
ドイツの秘密研究所襲撃を知らないセシリア達は
流石にレイがクローン人間である事に驚く。
「俺は超人兵士計画の一環で生み出された。
高い身体能力を持つ者のクローンとしてな」
ドイツ、もといナチスの研究者達の手によって
進められていた超人兵士計画のプロジェクトのひとつで
何人かの"兄弟たち"と共に生み出されたのがレイだった。
俗に言う「強化人間」を生み出すプロジェクトで
レイは一夏やラウラと同じく先天的に能力を──
彼の場合は、戦闘機同士によるドッグファイトへの対応や
身体能力を活かした単騎突入の際の状況把握の高速化を
目的に高い空間認識能力を持たされ生み出された。
「…だが俺は生まれつきテロメアが短くてな」
「テロメア?」
テロメアとは簡単に言うなら、細胞が持つ免疫力から
DNAを保護し必要の無い分解や異常な融合を防ぎ
遺伝子の安定性を保つ機能がある。
しかし、人間の細胞は培養するとこのテロメアが
短くなる傾向にある。そして、テロメアが短くなると
その細胞は徐々に老化を始めてしまう。
それがどういう事を引き起こすのかというと
寿命が極端に短い状態で生まれて来てしまうのである。
60歳の人間のクローンであれば、どれだけ見た目が
幼い少年少女であっても、精々20年ほどしか生きれない。
一夏やラウラはこのテロメアの短縮を克服していたが
レイは細胞培養の際の不具合かテロメアが短かったのだ。
「俺はあの数日後には処分されてしまう筈だった」
心臓などの一部臓器にも異常が現れていたレイは
一夏達が施設に突入しなければ、その数日後には
不要品として殺処分されてしまった所だった。
「──そんな俺を助けてくれたのが"コレ"だ」
ざっと経緯を説明したレイは、徐にシャツを脱いだ。
彼の胸元にあったのは、光るコアの様な物体。
レイの身体に埋め込まれており、鼓動するかのように
輝きが揺らめいている。
「それはまさかっ!?」
「かんちゃん、何か知ってるの?」
真っ先にそれに反応したのはなんと簪だった。
彼女の瞳は、強い憧れを抱いていた者を前にしたような
子供たちがヒーローを見つめる目と同じ目をしていた。
彼女の脳裏に浮かぶのは、1人のヒーローだ。
「…それって、心臓と何か関係が?」
「よく分かるな。そうだ、これが俺の心臓だ。
これがあるから俺は生きているし、ISも使える」
レイの胸に埋め込まれているのはそう、ISコアだ。
テロメアの短縮を防ぐ機能を兼ね備えた人工心臓であり
これがあるからこそレイはISに乗れる──
否、ISに"なれる"のである。
レイの持つIS「キング」とは、彼の愛機にして
彼自身でもある機体なのだ。
「次は──」
「私ですね」
レイが自己紹介を終えると、後ろで控えていた
クロエがスッと前へ出てくる。
「私も弟と同じような経緯で束様に拾っていただいて。
お会いした事もあるかと思いますが、学園のラボにて
束様の助手を務めております」
「という事は…クローン人間ってこと?」
「はい」
クロエ・クロニクルもまたレイに似た出生を持つ。
束は過去にもドイツで研究機関を壊滅させているのだが
クロエはそこに収容されていた実験体の1人だった。
様々な実験を繰り返され、多くの"姉妹たち"が
命を落としていく中で、束が施設を訪れた時に
かろうじて命を繋いでいた事で彼女に拾われたのだ。
「ならばその目は──」
「その通りです」
ラウラが指摘した"クロエの目"とは、瞼を閉じたまま
一切それを開こうとしない彼女の目だ。
かつてヴォーダン・オージェのコントロールに
四苦八苦していたラウラは、その閉ざされた瞳は
何か能力の制御がままならないからなのではと
推察するが、まさにその通りであった。
クロエの瞳には電子機器をハッキングしたり
他者に幻覚を見せたりなど、相手を惑わす力が
秘められているとのことだが、瞼を開いている間は
常にその効果を周囲に振りまいてしまうらしい。
束と共にそのコントロール方を模索中であり
現在は応急的に瞼を閉じたままにしている。
──ただ、今セシリア達が一番気になっているのは
そんな事では無い。
「ラウラに似てるのって偶然なの?」
「あまりにも似すぎていますわね」
実際2人を並べてみるとその似通い具合は凄まじく
髪の色やその質はもちろんの事、2人の顔つきなども
やたらそっくりだ。
しかしラウラはデザインベビーであるため
明確な親というものは存在せず、ラウラ自身でさえ
自分に親族は存在しないと明言していたはず。
となれば、目の前の彼女は何者なのか。
「…まさかとは思うが…!」
「そう、らーちゃんのお姉さんだよ」
期待と困惑が入り交じった表情で問うたラウラに
ウサギが正解を告げる。
そう、ラウラとクロエは元となった遺伝子の提供者が同じ
下手をすると普通の姉妹より近しい間柄なのだ。
2人は生まれた研究施設が違ったために出会う事が無く
ラウラの同期たちも本人以外は生き残れなかったために
自分には親族は居ないと認識していたが
クロエは間違いなくラウラの姉なのである。
「私に…こんなにも…家族がっ…!」
義兄弟の契を交わした最初の家族一夏と千冬
将来的に親戚になる織斑箒もとい篠ノ之箒とその家族
先程から部屋の隅でどうも居心地悪そうにしている
一夏と千冬の妹だという織斑マドカ。
そして、初めて会えた本当の姉クロエ。
あれほど切望した家族が、既にラウラには大勢いる。
そんな事実に、彼女は思わずウルっときていた。
「──立派なナイトさんね」
「騎士になるのは、これからさ」
人と人とを繋ぎ、この光景を作りだした一夏を
ナターシャは流石は自分を救ったナイトだと賞賛するが
そんな言葉を貰った一夏は覚悟の決め直しをしていた。
彼の戦いは、この光景を守り抜くことなのだから。
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「──未確認機はサンフランシスコ上空へ入った!」
「撃墜許可が出た!撃ち落とせ!」
銀の福音暴走事件から数日後。
『……………』
アメリカ上空に一機のISが現れていた。
「クッ…全身装甲のクセに足が早いっ!」
「エドワーズからの増援がすぐに合流する!
それまでここを死守するよッ!」
それは、4枚の翼を広げた素顔の見えぬ白い天使。
『……通らせてもらう…!』
機械的な加工音声で冷徹に告げ、天使は再び加速する。
「クソッ!地対空ミサイルはやはり回避された!」
「いいからISを出せ!全機スクランブルだ!」
スクランブルに出た空軍のISや戦闘機の尽くを無視し
内陸へと飛翔を続ける天使に、米軍は翻弄される。
「いいや、ヤツは福音ではない!新型機だ!
目的は分からんが東へ向かっている!」
「エドワーズの隊を追撃に向かわせるんだ!
我々の隊は補給を終え次第そちらのカバーに入る!」
天使は、ただ飛ぶのみだ。反撃すらもせずに。
「──目標ロスト…ヤツめ、何が目的だ…!」
瞬く間に天使は内陸部へと消えていった。
『6-Dエリアに侵入者を確認!繰り返す──』
天使が再び現れたのは、とある軍事基地だった。
「居たぞッ!」
『……………』
目の前に現れた警備のIS部隊を前にしても
天使は何も声を発さず、指先1つ動かさない。
何かを見定めるような…そんな構え。
「此処へ侵入した目的は何だ!言え!」
ジャキッ!
警備隊が一斉に銃を向ける。
『…この基地が所有しているISを頂きに来た』
天使は静かに、抑揚の無い機械音声でそう答えた。
その刹那、折りたたまれていた剣が閃き───
「グッ…お前は何者だ…ッ!」
『………』
天使はひとつのISコアを手にしていた。
そして、再びその翼を広げる。
『そうだな…アストレアとでも名乗っておこう』
──簡潔にその名を告げると、天使は飛び去って行った。
1期ラスボス編はこれで一区切り。
次回からは学園祭までの色々になります。
GX版は学園祭の「灰被姫」で終わりなので
それ以降は…基本オリジナルで行きます。
アニメの方だと学園祭で巻紙さんが
白式を奪いに接触してくるようですが
GX版は特にな~んも無いんですよね…。
たぶん次回はだいぶ先になると思いますが
どうか気長にお待ちください。
…完結出来るといいなぁ。