「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す   作:高橋ヒナタ

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新年明けましておめでとうございます。

2024年の初投稿はISになりました。
今回はアストレアのお話。



第34話

 

 

 

──イスラエル国防軍本部。

 

 

アメリカと共同開発した銀の福音が没収された事で

イスラエル本国は極度の緊張状態に陥っていた。

 

銀の福音の試験データはイスラエルにも残っているので

そのデータを元に復元することは可能ではあるが

コアの数には限りがあるうえ莫大なコストが掛かる。

極秘開発中だった事もあり表立って再建する事は難しく

仮に再建したとしてもアラスカ条約違反の機体なので

あと2年も経てばあの大天災が堂々と粛清に来る。

加えてアメリカとの折り合いなどもあるため

福音の再建は絶望的と言えた。

 

「"軍事演習"開始まであと300」

 

「了解。全機、システム起動」

 

そこでイスラエルは福音を含む新型機の建造を諦め

既存機体のアップデートへと方針を転換。

福音暴走で痛手を負ったアメリカ軍と共同で

軍全体の更なる練度向上を名目に大規模軍事演習を計画

改良した機体の性能評価試験を同時に実行したのだ。

 

「──これならば介入される余地はあるまい」

 

イスラエルが名目を軍事演習としたのは言うまでもなく

篠ノ之束の武力介入を避ける為である。

福音の暴走は反米主義者によるサイバーテロが原因と

正式に発表されているが、実際の福音鎮圧作戦に

篠ノ之束本人と思しき巨大な機体が出張ってきた事は

日本近海を航行中の米国艦隊が確認している。

故に、露骨にISを実戦投入でもしようものなら

"期限前"であっても武力介入が行われる可能性はある。

イスラエルとしては流石に避けたい事であった。

 

 

 

「想定される作戦エリアの状況は?」

 

「現時点で変化無し。"仮想敵"には勘づかれていません。

篠ノ之博士の所在も学園内にて確認済みです」

 

「そうか、周辺空域は国防空軍で封鎖しておけ。

…まぁアメリカ側も同じ事をやってはいるだろうが

作戦行動中に余計な邪魔は入れさせるな」

 

「ハッ!」

 

軍部の司令官は緊張した面持ちを崩さない。

 

ただでさえここ数年で国内の情勢が悪化の一途を辿り

過去に類を見ない程に緊迫した状況にあるのだ。

政府や軍上層部のストレスは相当なものだろう。

 

 

 

「…錚々たる戦力ですね」

 

彼らの目の前で待機しているのは米・イスラエル連合軍。

IS9機を含む大規模な戦力であり、これ程の規模は

大国同士での戦争にも匹敵しうる。

 

「──あと3年も無いのだからな」

 

「まさか上は?!」

 

これ程の戦力を米・イスラエルが揃えているのには

大きな理由があった。およそ2年半後に控えている

「アラスカ条約違反の機体の無期限凍結および解体」に

両国家は──特にアメリカは正面から反発する気なのだ。

 

「豪州首相とも連携を取っているそうだ。

『如何に篠ノ之博士と言えども隠密に動かせる戦力には

限りがある。彼女がどれだけ優れた技術を持っていても

あくまで技術屋、戦術家ではない』と言ってな」

 

「…そうですか」

 

ISが台頭してからまだ四半世紀すら経っていないが

その戦力は既に各国軍部の中核を担うまでになり

旧来の航空機や戦艦などの立場を急速に奪いつつある。

そんな中でISを誕生させた当人から唐突に告げられた

ISの戦争行為への使用禁止(手のひら返しに等しい発言)」は多大な反発を呼び

軍備増強路線へ走る国家も増えてきている。

 

イスラエルもまたその内の一国家だった。

 

 

 

「…さて。時間だ」

 

いよいよ軍事演習が始まる。

 

 

 

「──これよりイスラム系テロ組織殲滅作戦を開始する!

IS部隊を先行させ敵ISを叩く!その後航空隊による爆撃と

地上部隊の突入で組織の主要メンバーを拘束!

19世紀に端を発するこの紛争にケリをつけるぞ!」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

─???─

 

 

 

「確かなのか?ISが出るというのは」

 

米・イスラエル連合軍が動き出すのとほぼ同時刻

世界のどこにあるのかも分からない極秘のラボで

出撃の準備を進める者の姿があった。

 

 

『たった今両陣営からの出撃を確認した。

適当に暴れて来い、とのオーダーだ』

 

「…そうか。気乗りはしないんだけどな」

 

ヘルメット付きのパイロットスーツを身にまとい

"もうひとつの愛機"の元へと辿り着いたその人物は

通信先から聞こえてきた情報に苦い表情を浮かべる。

 

 

 

「起動完了、全システムオールグリーン」

 

前傾姿勢の状態のままカタパルトに接続され

4枚のカスタムウイングを後方へ向けた愛機へ乗り込み

ジェネレーターへと火を入れた。

 

『カタパルト起動。発進準備完了だ』

 

「了解」

 

リニアカタパルトが起動し、発進ゲートが開き

パイロットの視線の先には綺麗な星空が広がる。

 

 

 

キュィィィーーーン…!

 

機体の全スラスターが一気に出力を高めていく。

 

 

 

『すまない、こんな出撃になってしまって。

思ったより我々の動向を警戒されているみたいでな。

"降下"に問題は無い筈だ』

 

「別にいいさ。問題無いんなら」

 

『了解。突入まではうちの隊員2名がエスコートに入る』

 

「助かる」

 

インターフェースに飛行ルートが表示され──

 

 

 

「…ISY-001アストレア、発進する!」

 

 

 

白い翼を広げた天使が空へと飛び立っていった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

テロ組織を奇襲するため直前まで本来の目的を隠して

実行された殲滅作戦は、連合軍側の優勢で進んでいた。

圧倒的な侵攻ペースで彼らに立て直す隙を与えず

市街地や避難民への多少の被害を容認するという

アメリカにしてはかなりの強硬策を取ったことも

この優勢の理由であった。

 

アメリカとしては、長年続いてきた中東地域の紛争を

ISを用いた大規模作戦で以て制圧することで

福音暴走で失墜した米国IS部隊の権威回復を図ると共に

徐々に低迷しつつあるIS装備開発産業の活性化を促し

反篠ノ之派勢力の集結および増強を狙っているのだとか。

 

 

「西岸地区は既に交戦に入ったようです。

…テロ組織が新たにIS1機を投入とのこと!」

 

「想像以上に抵抗が根強いな…情報が漏れていたか?」

 

優勢とは言ったが、当初の想定からしてみれば

まだまだ押し切れていない状況だ。

テロ組織側の反応が想像以上に素早く、それに加えて

想定されていた敵勢力の保有IS数よりもう1機多く

敵ISが出てきているなど、想定通りとは言えなかった。

 

ダダダダッ!

 

ドンッ!ドォンッ!

 

「クッ…張られているな!」

 

「焦るな!先行部隊との連携を忘れるなよ!」

 

如何に連合軍側が戦力差で優れているといっても

ここはテロ組織にとってはホームグラウンド。

かなり巧妙に待ち伏せや罠が張られていて

歩兵部隊は思うように侵攻出来ずにいたのだ。

 

それでも、先行するIS部隊はかなり順調であり

交戦した敵ISを確実に追い詰めている。

 

 

 

「こちらIS隊α1(アルファワン)。そちらを援護する!」

 

「頼む!アテにしてるぜ!」

 

手の空いたISが地上部隊の突入を少しでも支援しつつ

テロ組織の本拠地を目指す。

 

ほどなくして敵ISは次々と撤退に追い込まれ

戦況の傾きが決定的となろうとしていたその時──

 

 

 

『上空より未確認機の反応!』

 

「何っ!?」

 

作戦本部の光学レーダーが未確認機を捉えたのだ。

 

「ここ一帯の空域は封鎖されているハズだろ?!」

 

「俺に聞くな!…早期警戒機も相当数出ているが

それを抜けるとも思えん。一体どこから…」

 

 

その直後、現場に居合わせていた両軍のIS全てに

未確認機の反応が表示される。

 

[IS:UNKNOWN]

 

「ISだと?!どうやって侵入した!」

 

それはあまりにも異質な出現方法であった。

この空域は連合空軍機によって大規模封鎖が実行され

かなりの高高度まで監視の目が届くようになっている。

それは電波や赤外線によるセンサーに限らず

各隊員達の目視による光学観測も含まれているので

部外者がこの空域に侵入するなどまず不可能なのだ。

 

 

『学園からのIS出撃は確認されていない!』

 

「何?あの兎は無関係だというのか!?」

 

しかも、唯一そんな規格外をやってのけそうな勢力

篠ノ之束お抱えの第四世代機(白式・紅椿)は出撃しておらず

IS反応も両機共に学園内から出てすらいないという。

 

であればUNKNOWNは一体何者なのか?

 

 

 

「まさか…!」

 

『警告と威嚇射撃を行え!邪魔されてはかなわん!』

 

 

謎の侵入者に対し複数種類の通信回線による警告を行い

対空ミサイルを数十発射掛けて撤退を促す。

 

が──

 

 

 

『………やる気のない弾だ』

 

翼を持つそのISは機体を何度かロールさせて

最高速を維持したまま最低限の機動でミサイルを回避。

一切動揺を見せずに戦場へと舞い降りた。

 

 

「やはりお前か!アストレア!」

 

『………知られているか』

 

その正体は、数日前にアメリカ東海岸の基地に現れ

ISコアを奪っていった人物「アストレア」だった。

 

冷徹な機械音声で会話を行う、全身装甲の4枚羽。

突如現れた謎のIS乗りアストレアの特徴は

アメリカ軍には嫌という程知れ渡っていた。

 

 

 

『……………』

 

「…クッ…!」

 

アストレアの出現に、両陣営へ一気に緊張が走る。

 

現時点ではアストレアの明確な行動理由は不明だが

前回出現時の傾向から察するに恐らく目的は

ISコアの奪取あるいはIS本体の破壊。

米イスラエル連合軍にとってもテロ組織にとっても

攻撃対象とされる可能性のある危険人物となるのだ。

 

 

『………ッ!!』

 

「来るぞッ!」

 

アストレアが動いた。

 

両腕に装備した折り畳み式のブレード(GNソード)を展開

目の前にいたISのライフルを切り捨てると

ミサイルや弾丸をも切り落とすという神業を見せつつ

後方にいた他のIS──遠距離特化の重武装機(厄介な支援機)

滑らかな軌跡を描きながら飛翔。

 

「当てられないだとっ!?」

 

『…遅いな』

 

左腕のブレードで袈裟斬りを放ち敵の大口径ライフルを

真っ二つにすると、背後へと回り込みながら

ブレード内蔵ライフルを両肩の遠距離武装へ連射。

 

「背後がガラ空き──これを避けるかっ?!」

 

『…まず1機…!』

 

遠距離型を攻撃していたアストレアの背後から

レーザーライフルが数発射掛けられるが

アストレアは即座に反応し上昇移動のみでこれを回避

直後に機体を後方へ宙返りさせつつ牽制射撃を放つと

そのまま遠距離型の後方へ下側から潜り込み

ブレードを再展開して急上昇しつつスラスター部を一閃。

最も高火力だった1機が排除される。

 

 

『次は………指揮官を潰させてもらう』

 

「囲い込んで討ち取れっ!」

 

続いてアストレアが目を付けたのは両軍の指揮官機。

敵の頭を潰すのは有効な選択と言えるのかもしれないが

どちらの指揮官も僚機が護衛としてついている為

指揮官機から墜とすのは至難の業。

だがアストレアはそれも承知の上であった。

 

 

『…厄介だな…なら"コレ"を使わせてもらう』

 

「何っ?!」

 

カスタムウイングだと思っていた4枚の翼のうち

2枚がバインダーから切り離され、シールドビットとして

周囲からの攻撃を防ぎ始めたのだ。

 

飛んでくる弾丸の雨を防ぎ、立ち塞がる敵機を押し退け

そうして切り開かれた僅かな隙間を縫うようにして

アストレアが翔ける。

 

 

『分かりやすいな』

 

「この私が撃墜されるとは…っ」

 

「中佐っ!」

 

指揮官機の懐へ潜り込んだアストレアは

手元へ取り出していた二刀のプラズマブレード(ビームサーベル)

切り払い、続けて取り出した2丁のハンドガン(GNビームピストル)を接射

鮮やかな手捌きで連合軍指揮官機を撃墜する。

 

分離していたビットも流れるような動きで回収し

再び次の敵を見据えた。

 

 

 

「大尉!おのれまたっ!」

 

「早すぎる!何よこの機動性は…!」

 

「ビットが邪魔っ!あぁもうッ!」

 

圧倒的な戦闘センスと汎用性の高い機体性能に翻弄され

連合軍側もテロ組織側も次々とISを撃墜されていく。

特に、()()()()()()()()()()()()()()()には

支援砲撃込みでもロクに攻撃を命中させられなかった。

 

しかもそんな戦闘の中で、撃墜された兵士達の中に

アストレアの攻撃で戦死した者は1人も居なかったのだ。

 

 

 

『……………』

 

戦場にいたISを残らず撃墜したアストレアは

興味を失ったかの様に無言で飛び去っていった。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

「アストレアめ…引っ掻き回してくれよって…!」

 

 

その後、テロ組織殲滅作戦は一応の成功を収めた。

 

IS戦力はアストレアによって失われてしまったが

それはテロ組織側も同様だったため、残る地上部隊が

時間は掛かったものの首謀者捕縛に成功したのだ。

 

 

「ヤツの行方は?」

 

「…不明です。上空、としか」

 

けれど、散々事態を引っ掻き回してくれた張本人

アストレアの素性については全く判明しなかった。

 

「諜報部総出で情報の洗い出しと裏付けを急いでますが

徹底的に対策がされているようです。出現が突発的ですし

何より出撃および帰還が確認出来ていません」

 

「単独で地球中を飛び回っている等という冗談は無い──

どこかに母艦か補給基地が必ずあるはずだが…」

 

戦況観測のため、光学はもちろん赤外線センサーや

コア反応観測機など様々な観測機および観測員が

軍事演習場周辺に加えて学園周辺にまで配置されており

アストレアの動向も当然ながら警戒されていたが

アストレアがどこから出撃してどう移動したのか

そしてどこへ帰還したのかは結局不明のままだった。

 

唯一分かっている事といえば、学園周辺の観測員からは

未確認機発進の報告が一切上がっていない事くらいだ。

 

「素顔を見たというやつは居るか?」

 

「いえ、居ません」

 

全身装甲の機体であるため、年齢や性別といった

パイロットの身体的特徴も一切不明のままだ。

頭部のフェイスマスクもマジックミラー状になっていて

外側から素顔を窺い知ることは出来ていない。

 

 

「…博士本人は?」

 

「あらゆる情報網を探って調査させましたが

彼女が学園から出た形跡は一切ありませんでした」

 

当然ながら篠ノ之束の動向も追っている訳で

アメリカ・イスラエル両国総出で情報を精査しているが

篠ノ之束の関与を決定づけられる証拠は見つからず。

 

彼女の関与はほぼ確定的だとの声も上がっているが

音声記録や物的証拠など決定的証拠の無い状態で

下手にアクションを起こすと、それが原因で思惑を悟られ

逆に事態が悪化してしまう危険性があったため

迂闊な手出しは出来なかった。

 

 

 

「アストレア…。軍備増強路線を走る国家群への牽制…

いや、警告と見るべきか」

 

「このまま本国が黙って見ているとは思えませんが…」

 

──アストレアの目的についてだが、2度の出現において

攻撃対象とされたのは今の所どちらも完全に軍事関連。

ISを標的とした攻撃を繰り返していたにも関わらず

学園や装備開発企業にその矛先が向いていない辺りから

アストレアの目的は何となく察せられた。

 

現時点でアメリカとイスラエルの他にオーストラリアが

IS軍備増強の実施を仄めかしており、それらに加えて

韓国とメキシコ、インドとの連携も視野に入れた

交渉作業が既に行われている以上、少なくとも2年以内に

アストレアは大きな動きを見せる事になるだろう。

 

「…世界規模の大波乱になるかも知れんな」

 

「世界大戦、ですか?」

 

「可能性はある。フランスを筆頭とするEU諸国は

IS軍備増強に対して軒並み反対しているらしいからな。

形はどうであれ大きな波乱は必ず起きるだろう」

 

アストレアの動きを知った軍人達の多くは

大戦の機運が高まるのを確かに感じ取っていた。

 

 

 





…イスラエルを舞台にするのは余り良くないとは
思っていたんですが、福音からお話を繋げやすく
なおかつ紛争が頻発している地帯という事で
思い切って物語に組み込んでみました。
福音は米・イスラエル合同での開発なので…。

アストレアの元ネタは言うまでも無いでしょうが
機動戦士ガンダム00F METAL BUILDシリーズ
「ガンダムアストレアTYPE-F GNHW」です。
アストレアFは元々好きな機体だったんですが
メタルビルドGNHWを見て更に好きになりまして。


今年もまたのんびりマイペースにではありますが
少しづつ投稿を進めてまいりますので
どうかよろしくお願いいたします。

修正情報:2丁のハンドガンの装備方法を
「呼び出した」から「取り出した」へ変更しました。
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