「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
セッシー&鈴のプール回はカットしました。
たぶん鈴はチケットを取らないし
2人で大暴れする事も無いでしょうし…。
何なら8巻で皆で行ってるのでね。
今回はちょっと別の場所へ。
──軍用IS銀の福音暴走と謎のIS乗りアストレアの出現に
世界がざわめき立っていた頃。
「私達はどちらへ向かっているのでしょう?」
「ふふん♪もうちょっとで分かるよ~♪」
一挙手一投足が注目される大天災篠ノ之束は
セシリアが丁度イギリスから帰国したことを受け
一夏を除いた1年生の専用機持ち7人と
大型シャトルに乗り、「遠足」へ向かっていた。
行き先は一切告げられないままであり、それに加えて
1人今ここに居ない一夏が何処にいるのかも同様だった。
「──にしても、次世代の移動手段かぁ」
「快適だよねぇ~♪」
行き先はともかく、今乗っているこのシャトルは
まさに次世代の移動手段と言って差し支えの無い
とても快適なものであった。
ISのPIC機能を流用した機体制御を取り入れたことで
シャトル内に殆ど振動が伝わらないのが大きい。
本音がコップに入ったジュースをジーッと眺めているが
中身がこぼれる気配どころか波ひとつ立っていない。
今回は「サプライズがあるから」という理由で
ラウンジに集まっているが、搭乗時にちらりと見た客席も
最新鋭航空機のビジネスクラスと同等かそれ以上で
景色を大パノラマで堪能出来る大窓仕様という徹底ぶり。
「実際に乗るならいくらかかるんだろう?」
「数百万くらい平気でしそうよね」
東京からニューヨークまでファーストクラス利用で
およそ200万前後かかるが、このシャトルで行くとなれば
金額は更に跳ね上がりそうである。
「こちら、1945年産ロマネ・コンティでごさいますわ~」
「分かるよセシリア。出てきそうだよね」
「馬鹿者。あれが幾らすると思っている?」
「勿論ですわ織斑先生。1本6000万は下らない、と。
確か私の実家にも1本ありましたわ」
何せこのラウンジもロマネコンティは流石に言い過ぎだが
高級ワインが当たり前のように提供されそうな
簡潔ながらも高級感溢れる内装となっているのだから。
束曰く「試作機だから見た目も拘らせた」との事。
尤も、彼女が航空機輸送に手を出すとは思えないが。
『束様、ランデブーポイントに到着しました』
「りょーかい♪」
シャトルが学園に隣接する白うさぎ宇宙開発所有の
ステーションを発ってから僅か1時間ほどで
目的地へと到着する。
『──全エンジン停止、乗降タラップ接続を確認。
搭乗口ドアロック解除、降車可能です』
「箒ちゃん、ちーちゃん、みんな、行くよ!」
僅かな振動の後にクロエから到着アナウンスが行われる。
それを確認した束は箒の手を取ってゆっくり歩き出す。
「すご~い!SF映画みたいだよかんちゃん!」
「…博士のラボ…なの?」
降り立った先で9人を待っていたのは、どこか近未来的な
研究施設のような景色。清潔感のある白を基調とした
スマートな内装と、上下対称になっている床と天井に
まるで誘導灯かのように走る照明のラインは
SF映画に出てくる研究施設を連想させる。
そんな廊下を少し進んでいくと、広めのスペースに出る。
広いとはいっても豪邸のリビング程度の広さだが。
そこで待っていたのが──
「よぉ箒、千冬姉、マドカ。待ってたぜ」
「一夏?!…道理で学園で見ない訳だ」
「「「「「お待ちしておりました、隊長!」」」」」
「なっ…お前達はここで仕事をしていたのか…!?」
何故か姿を見かけなかった一夏と、クラリッサ以下5名
白うさぎ隊の面々であった。
「──そういえば…何故一夏はここに?」
「ちょっと用事があってな」
合流した一夏達9人と千冬は、白うさぎ隊が持ってきた
ドリンクを飲みながら少し休憩を取る。
「なんか独特な容器だよね」
提供されたドリンクだが、ペットボトルでもビンでもない
独特な形状の容器に入っていた。束曰くこのボトルは
宇宙空間対応型の飲料ボトルであり、無重力下で
内容液がこぼれないようにする仕組みが飲み口部分に
備わっているのだという。
「ちーちゃん、味はどう?」
「ふむ…まぁ、悪くは無いんじゃないか」
鮮度保持機能も備わっているため、長期間の宇宙滞在にも
難なく対応出来る優秀なボトルなのだ。
曰く、NASAが使用しているものより格上との事。
「…ねえ、あのディスプレイって他に何か映るの?」
休憩の途中でシャルロットがそんなことを口にする。
「確かに気になりますわね。この画も美しいですが」
そこに映っているのは、宇宙空間から撮られた地球。
ユーリ・ガガーリンが「地球は青かった」と言ったように
海の青色が美しい母なる大地の姿だ。
入り口とは反対側に、まるで窓ガラスかのように
埋め込まれたディスプレイにそれが表示され
宇宙に浮かぶ秘密基地の様な雰囲気を醸し出す。
「…アタシ達の星ってこんな綺麗なのね」
鈴が少し画面へ近寄って地球の姿を眺める。
「宇宙へ行ったら実際にこんな景色が…」
ドリンクを飲み終えたシャルロットも立ち上がり
画面に近寄ってその雄大な姿に目を向ける。
「───あれ?」
しかしその直後、違和感を感じる。
「何よシャルロット」
「…地球の位置が変わらないんだ」
シャルロットがもう一歩画面へと近寄ると
その違和感は更に酷くなっていく。
部屋中央のテーブルで画面を眺めていた時には
地球はおよそ画面の中央付近に映っていた。
相当な横幅のあるこの巨大モニターの場合は
画面に近寄れば近寄るほど地球の姿は視界の中心から
外れていってしまう。だが──
「そりゃあアンタ、地球が派手に動くわけないじゃない。
太陽の周り回ってるけど…………嘘でしょ?!」
鈴も画面へ近付いてみてようやく理解した。
その地球は、常に一定の位置に居るのだ。
「…おい束。まさかここは…!」
今度は千冬が画面へと近寄る。画面に触れられる距離で
視線を地球から外し辺りを見回す動作をしてみれば
先程まで画面に映っていなかった月の姿が見える。
そう、それは映像などでは無い──
「勘がいいねぇ。そう…ポチッとな♪」
千冬達の反応を見た束は、手元に小さな端末を取り出し
擬似重力発生装置の電源ボタンをタップした。
「うわっ?!わわっ!身体がう、浮かぶっ!」
「一夏っ!ちょっ…どうすればいいのだ?!」
すると、その場にいた全員の足が床板を離れ
フワフワと空中浮遊し始めたのだ。
「ここは高軌道ステーション、宇宙空間だよっ♪」
ここは地球からおよそ36,000km離れた静止軌道の上。
つまり、宇宙である。
「──ここが何処なのかは分かった。…っと。
しかし何の為に此処へ呼んだ?……姿勢がっ」
「今後宇宙で活動する機会は増えていくからな。
俺たち全員が丁度暇を確保出来るこのタイミングで
宇宙空間へ慣れておこうって事になったんだ。
特に千冬姉は最近忙しいだろ?」
「そういうことか」
無重力状態でも動揺1つせずケロッとしている一夏が
今回の「遠足」の目的をその場にいた全員に説明する。
白うさぎ宇宙開発が本格始動するに当たって
束が絶対の信頼を置く箒と一夏、千冬にマドカ
織斑ラウラ以下白うさぎ隊メンバー6名
白うさぎの親会社ラパン・デュノア所属のシャルロット
束達に対してかなり好意的なイギリス所属のセシリア
中国政府よりも一夏の意向に沿って動く2nd幼なじみ鈴
一夏へ技術者としても信頼を置く簪とその従者本音
この面々は、確実に何度も宇宙へ出向く事になる。
その際に宇宙で"溺れる"事などあってはならないのだ。
「──これを壁へ撃てっ!」
「これを?!うわっ?」
一夏と束に、ラウラを除く白うさぎ隊の面々は
マグネットアンカー式フックショットと
各所の手すり等を器用に使って泳いでいるが
箒達は慣れない無重力に見事に溺れていた。
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『一角獣の騎士、発進どうぞ』
「了解。発進する」
『束様、発進準備完了です』
「アリス・イン・ワンダーランド、行くよ~♪」
高軌道ステーション備え付けのカタパルトデッキを蹴って
一夏と束が広大な宇宙へと飛び立つ。
箒達の慣熟飛行を行う前の準備運動として
そして、目標とすべき空間機動の実演として
一夏が指定されたルートの飛行に入る。
「……行くぞ。白式ッ!」
一角獣の騎士が音もなく飛び立った。
展開装甲を起動させていないにも関わらず
爆発的な加速を発揮し、その姿はあっという間に
宇宙の彼方へと消えていってしまう。
箒達に見えるのは彼が飛んだ軌跡のみだ。
「すごい…綺麗…!」
「まさしく白き流星、ですわね」
それは、たとえ誰かの目に触れたとしても
一瞬の幻にしか見えない様な、白き流星が如く。
「もっと踏み込んでみて!」
『了解…ッ!』
通信越しになった一夏の応答が聞こえた瞬間
白い流星は一際強い青白い輝きを放ち更に加速する。
流星は青白い尾をたなびかせたままデブリ群へ突入
「上下」という概念の無い本来の三次元機動を発揮し
直径数メートルの小惑星片を、役目を終え廃棄された
人工衛星の残骸を、直撃すれば宇宙船すらも破壊する
スペースデブリの隙間を難なくすり抜けていった。
「──打鉄…と言っていいのか?織斑千冬、出るぞ」
「ラファール・リペア、行きます!」
一夏達が準備運動を終えた所で千冬とシャルロットが
それぞれ宇宙用の調整を施した専用機を身に纏って
ステーションのカタパルトから飛び立つ。
空間機動の指導役とするならばこの2人だろうとの事で
一夏から真っ先に覚えて欲しいと指名が入ったのだ。
箒、セシリア、鈴の3人は教え方に癖がありすぎるし
残る面々の中で指導役に付けるとするならば
千冬とシャルロットが頭1つ抜けていると言えよう。
「これが…宇宙…!」
「…お前が憧れるのも分かる気がするよ」
2人の視界に飛び込んできたのは、満天の星空だ。
雲、大気、排気ガス──遮る物など何も無い本来の姿。
その光景は見た者全てを虜にするだろう。
力強い輝きを放つ太陽とそれに照らされた月
宝石のような美しさを見せる青い星地球
神秘的に光り輝く天を流れる川天の川
そして暗闇の中に無数に散らばった煌めく星々──
宇宙の神秘の一端を垣間見るようなこの景色が
ハイパーセンサーによって更に引き立てられれば
目を奪われない者などいない。
だが、宇宙が齎すのは感動だけでは無かった。
それは空間機動の訓練に入って少しして起こった。
少々星空に夢中になり過ぎたシャルロットが
高軌道ステーションの位置を見失ってしまったのだ。
それによって何が起こったのかというと──
「一夏っ…!博士っ!僕今どこ向いてるの?!助けて!」
そう。平衡感覚を完全に失ってしまったのである。
宇宙空間には海も空も無ければ水平線も無いため
自分が今上を向いているのか下を向いているのか
どの辺りの位置に居て、ステーションは何処なのか。
それらが全く分からなくなってしまう。
俗に言う「空間識失調」に近い状態に陥っていた。
無論シャルロットはIS操縦訓練に於いて空間識失調時には
機体の計器に頼るべきとの指導を受けてはいたが
宇宙空間という漆黒の空間が冷静な判断を封じていた。
シャルロットは現状を脱しようとスラスターを吹かすが
闇雲に動いた結果どんどんステーションから離れていく。
「──シャルロット!一度機体を固定するんだ!
座標の動きを良く見てその場に留まれ!」
見かねた一夏が助け舟を出す。
「わ、分かった!」
シャルロットは指示に従って機体を固定する。
インターフェースに表示されている位置座標の数値を
変動させないように慎重にブレーキを掛けるのだ。
「次は?!」
「ひとまず姿勢を戻そうか。基準はそうだな──」
今度は滅茶苦茶になってしまった姿勢を、y軸を上下に
x軸とz軸のある面を地面に見立てて元に戻す。
ISの宇宙空間用インターフェースでのx軸とz軸は
地球の公転軌道とほぼ並行になっているので
首を左右に振れば太陽や月が視界に入る形だ。
「──まさにフロンティア、だね。宇宙って」
何とか無事に宇宙空間での慣熟飛行を終えて
ステーションへ帰還したシャルロットは
カタパルトデッキに足を着けてほっと一息つく。
「デュノアさんもこの世界に挑むのですね?」
「うん。宇宙の本当の姿を…いつか見てみたい。
一夏や博士と──この機体も一緒に」
落ち着きを取り戻したシャルロットの見る宇宙は
もはや手の届かぬ幻想的な星々の世界では無かった。
数多くの試練と新たな発見が待ち受けているであろう
未開の地へと変わっていく。
あの篠ノ之博士と共に宇宙を目指すと宣言した自分は
このフロンティアに挑む開拓者なのだ、と
相棒の手のひらを眺めながら決意を新たにしたのだった。
この後、残った7人もシャルロットと同じように
宇宙空間の"洗礼"を受けたのは言うまでもない。
その頃、同伴していた戦女神はというと──
「ふふふ…ここならば人目を気にせずに暴れられる…
少~しストレス発散に付き合ってもらうぞッ!」
「ひえぇっちーちゃんが本気だ!助けていっくん!」
「俺に振るんじゃねぇっ!」
好き放題してくれる兎と戦い甲斐のある弟を
物凄くいい笑顔で追いかけ回していたとか。
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───アメリカ某所。
「代表。例の要請を学園へねじ込む事に成功しました」
「…そうか。中々に苦戦したのではないか?」
立ち並ぶ高層ビルの一室で、会議を行う者達が居た。
「学園所有機の無断改造および無許可運用と
コーリング元国家代表引き抜きの件を突いてやれば
渋々といった様子でしたが了承を返してきました」
「ふむ…やはり波風を立てたがらないと来たか…。
分かった。第四世代機の性能調査は委員会任せで構わん。
学園祭の来賓にミューゼルを出す予定なのでな。
アストレアとの関連性については追加の調査を待て」
「了解です」
高級そうなコートを羽織り本革製レザーソファに腰掛ける
初老の男は、自社グループの業績に渋い顔をしつつ
出席した幹部達との会談を続ける。
「…急務となるのは各国企業の業績回復でしょう。
20年前と比較すると明らかに低迷しています」
「やはり航空機と船舶の需要低下が著しいですな…
我が国の離職率も少しづつ高まりつつある」
「うちも同様だ。経営方針の転換を余儀無くされた企業は
着々と増えてきている。幸いにも影響はまだ軽微だが…」
彼らの企業グループは19世紀以前より世界経済を支配し
世論誘導によって情勢をも大きく変えうる力を持つが
ここ十数年で立ち位置は大きく揺らいでいた。
この場に集まっている10人は現状の立て直しを図るべく
本格的に動き出す為に会談を行っていたのだ。
「…彼女が今進めているプロジェクト…なんだったか…
代表、その辺は突っつけないのか?」
「ほう…悪くは無いな。中東諸国やロシアにとっては
いい火種になるだろう。特に中東諸国はアストレアが
暴れ回ったせいで危機感が高まっているだろうからな。
あぁ、米国の方は私が焚き付けておこう」
しかし、そこに穏やかさと言ったモノは無かった。
彼らにとって利潤確保は何より優先されるべきものであり
そこに倫理観など存在しないのである。
「しかし…イギリスもあちら側に傾きつつある。
代表候補生との接触を図らせているが中々食いつかん。
あの貴族令嬢、ただの小娘という訳では無いらしい」
「なら両親が遺した"剣"を使ってやったらどうだ。
あれの運用権限はまだお前の所にあるのだろう?
上手くやれば情勢を取り戻せるかも知れん」
──世界の悪意は、再びその鋭い牙を剥こうとしていた。
宇宙へ遠足に行く回でした。
まだ7巻冒頭といった所なので
学園祭はまだちょっと遠いですね…。