「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
前回の後書きから予定を変更しまして
更識姉妹回です。
この回の序盤パートに関して
雰囲気重視で一部を透明文字としましたが
ネタバレ等は殆ど含まれていない筈です。
別にそこ込みで読んでもらっても構いませんが
まだプロット段階の部分となりますので
一応ネタバレ無しの保証はしません、とだけ。
ドォンッ!ドォーンッ!!!
ダダダダッ!!
──イギリス郊外のとある街が火の海に包まれていた。
「くそぉっいい加減にしろっ!」
その中心で、ラファール・リヴァイブのカスタム機を駆り
孤軍奮闘する1人の"男"がいた。彼の名は織斑一夏。
顔も知らない街の住民が次々と戦火に飲まれる中
彼は悲痛な面持ちで戦い続ける。
『死ね、織斑一夏ッ!!』
一夏のラファールへアサルトライフルが向けられる。
「っえぇいッ!」
『何ぃッ?!』
一夏は地を蹴って飛び、銃口が自身を追ったのを
視認した瞬間スラスターを吹かして敵機へ突撃する。
下から上がってきた射線を軸にバレルロールを決め
銃弾を全て躱して敵機をブレードで一閃。
切り裂かれた女パイロットは驚愕の声を上げながら
"闇へ溶けるように消えていく"。
『居たぞ!織斑一夏だッ!』
『我々の地位を脅かすイレギュラーめ!』
「ハァッ…ハァッ…まだ来るかッ!」
男は幾度となくやってくる敵機をこうしてただひたすら
切り刻み続けていた。
「ここから居なくなれェッ!」
『ぎゃあっ!!』
『おのれぇっ!!』
また敵機が闇に溶け消える。
「………大丈夫か?」
敵機の襲撃が収まり、一夏は"何故かそこに立っていた"
小さな1人の少女とその家族の様子を気にかけた。
少女の名はアイリス。一夏がこの街に引っ越してきた時に
近くに住んでいた事で知り合った幼い町娘だ。
「…うん!平気っ!」
「そうか…良かった…!」
アイリスは彼に自身の無事を告げ──
バシュゥーーーッ!!!
次の瞬間、両親の身体がレーザーに焼かれていた。
「…お父さんっ?!お母さんっ?!」
吹き飛ばされた両親のもとへ少女が駆け寄る。
だがそこに残されていたのは、全身が焼け爛れ
血に塗れて倒れた痛々しい亡骸だけであった。
一夏が怒りと悲しみに満ちた視線を背後へと向ければ
そこには醜悪な笑みを浮かべた敵がまた立っている。
そして、その銃口を今度は──
ジャキッ!!
「やっ、やめろッ!!」
何の罪もない少女にまで向けた。
バシュゥーーーッ!!!
「やめろォォォーーーッ!!!…………っ?!」
布団を跳ね上げ、一夏が飛び起きた。
「…くそっ…また同じ夢を見るようになっちまった…」
額の冷や汗を拭う。酷く嫌な夢だ。
最近は見なくなったというのに、学園へ来てから──
クラス対抗戦を過ぎた辺りからまた夢に見るようになり
最近特にそれが酷くなってきた気がした。
「……………」
洗面所の鏡に写るのは、生気が失せ青ざめた自分の顔。
(………ここが…ここが戦場になるのか…)
己の内に固く張り付いて剥がせない"嫌な予感"は
酷く鮮明にIS学園が戦火に飲まれるさまを想起させ
ずっと警鐘を鳴らし続けていた。
それはあくまでも"予感"だ。それはあくまでも"夢"だ。
そう断じようとしても出来ない何かがソレにはあった。
確信めいた何かがソレにはあったのだ。
「…それでも………それでも…っ!」
だが、ここまで来て誰が止まれるというのか。
たとえ世界を敵に回してでも、命を奪う剣にされた翼を
再び宇宙へ羽ばたく翼へ戻す──そう決めたのは
他でもない自分だったではないか。
覚悟など"相棒"を手にした時からとうに決めていた筈だ。
一夏は軽く顔を洗って青ざめた顔色を元に戻すと
日課のトレーニングへ向かったのだった。
──その"火種"を、誰にも気付かれる事無く
心の奥底で静かに燻らせたまま。
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「山嵐っ!行けぇっ!」
「くっ…ティアーズっ!」
『ブルー・ティアーズ、シールドエネルギーエンプティ!
勝者、更識簪!』
今日もまた、アリーナに戦いの音が響いていた。
「簪さんも随分と強くなられましたわね」
「そ、そうかな?」
『強くなったよぉ!さすがはかんちゃん!』
戦っていたのはセシリアと簪だ。
山嵐のマルチロックオンシステムと荷電粒子砲「春雷」
未完成であった打鉄弐式の武装を全て完成させた簪は
遅れを取り戻すように一夏達と猛特訓を繰り返し
日本代表候補生に相応しい実力を手に入れていた。
セシリアやシャルロット、鈴とはほぼ五分にまで至り
AIC抜きであればラウラとも渡り合える程。
本音とタッグを組ませれば、上級生のタッグチームとも
いい勝負が出来るのではという噂まで流れている。
「ミサイルの使い方が上手くなって来てるな。
こいつは俺もうかうかしていられないかもなぁ」
「あれはもう…誘導ミサイルの動きじゃないね。
なんだっけ…ファンネルミサイルだっけ?のソレだよ」
戦闘を終えて観客席に戻ると、試合を見ていた面々から
先程の戦闘の評価が為される。
様々なタイプのIS乗りが集まるこのグループは
戦闘経験を積むには打って付けの場であり
アリーナさえ借りられればいつでも鍛錬が行える
専用機持ちの特権も相まって、近々マドカが転入し
9人になるIS学園1年生専用機持ちの面々は
大国を相手に戦争が起こせる実力を手に入れているのだ。
「プログラムをもう少し戦術的なものへ切り替えるか?」
「う〜ん…そろそろ視野に入れるべきかもな」
この場に集まっている全員は、公表してこそいないが
いずれ篠ノ之束が目指す宇宙開発へ参加する身だ。
実力は付けられる時に付けておくのがベストだろう。
そう思案しつつ、一夏は手元で遊ばせていた空き缶を──
ヒュンッ!!!
凄まじい勢いで近くの観客席出入口へ向けて放り投げた。
「一夏何をっ?!」
「ダメだよぉ空き缶をポイ捨てしちゃあ~?」
一夏の突然の奇行に驚く女性陣。
しかし、彼がその理由を答えるよりも前に
空き缶を放り投げた方角から"答え"が出てくる。
「──ちょっと織斑く〜ん?危ないじゃない…!」
「…お姉ちゃん…っ?!」
顔を出したのは、IS学園生徒会長更識楯無であった。
勢いよく投げ付けられた空き缶は彼女の手の中に
綺麗に収まっている。
「俺たちを…いや、"俺を"か。尾けている理由は何だ?」
得体の知れないモノを見る目で楯無を睨む一夏。
「失礼しちゃうわね~。むしろ君に会う為に来たのに」
しかし楯無は「事実無根」と書かれた扇子を広げ
飄々とした態度で一夏の追求をはぐらかす。
きちんとした理由があってあの場に居たのだ、と。
(散々俺の周りを嗅ぎ回っておいて今更何を…)
「………俺への要件ってのは何なんだ?」
実際に要件があるならと一夏は楯無への不満を飲み込み
話に応じる姿勢を見せる。
少しだけ態度を軟化させた一夏へ楯無は──
「織斑君、貴方このままだと死ぬわよ」
「……………」
鋭い視線と共にそう言い放った。
「死ぬ?一夏が死ぬだと?ふざけた事を言うな!」
「貴様…兄さんを侮辱するかッ!」
「…2人ともよせ。考えがある」
「一夏…」
「兄さん…?」
その場が一気に険悪な空気に包まれ、箒とラウラが
怒りのあまり得物を手に食ってかかろうとするが
一夏はそれを制して楯無の方へ向き直る。
「このアリーナはまだ空いているか?」
「…空いていた筈よ。けどそれがどうかしたの?」
「そうか。…俺と戦え…!」
「!!」
そして、雪片・零を突きつけて宣戦布告をしたのだ。
わざとらしく挑発的な視線もついでに向けてやって。
これならば簡単に実力が分かるだろう?と。
「………良いわ。受けてあげる。手続きはしてあげるから
ゆっくり準備をしておく事ね」
楯無はこれを受諾し、アリーナ使用申請のために
一度校舎の方へと戻って行った。
「………簪」
「はっ、はいっ!」
楯無の気配がアリーナから出ていった事を確認した一夏は
アリーナピットへ歩みを向けながら、簪に耳打ちする。
「この試合、よく見とけ」
「…それって!!」
楯無が何をどう思ってあんな発言をしたのかは不明でも
実力を示してやれば多少なりとも黙ってはくれるだろうし
ここに後々生徒会長へ挑むであろう少女も居るのだから
少しでも彼女の参考になる戦いが出来れば御の字──
それこそが一夏の"考え"だったのだ。
「分かった。精一杯参考にさせてもらう」
多くの人の力を借り自身の相棒たる専用機も作り上げた。
強敵を相手に腕を磨き国家代表にも匹敵する実力も得た。
そして今、目の前に"敵を知る機会"がやって来た。
ならばこれを逃す手はあるまい──
簪は何がなんでもこの戦いから姉攻略の糸口を掴むと
覚悟を決め、ピットへと向かう一夏を見送った。
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『──それではこれより、織斑一夏、更識楯無両名による
模擬戦を開始します!』
静まり返ったアリーナで、2人の生徒が対峙する。
「…君は確かに強い。けどね、世界っていうのは
歌のようには優しくないの」
楯無はどこか飄々としていながらも油断や隙は無く
目の前に立つ少年を諭すような態度を見せる。
このままでは権謀術数渦巻く世界に飲み込まれ
守るべきものも守れなくなってしまうぞ、と。
「……………」
そんな言葉に対し一夏はただ無言を貫くのみ。
「…手加減はしないわよ?」
「…あぁ」
そして、お互いに得物を手に取った。
『試合開始まで───』
(──感情が篭ってる…?いくら強いとは言っても
やっぱり中身は高校男子って事かしら…。
それでは裏社会を相手にはして行けないわよ)
更識楯無にとって織斑一夏とは、優秀な人間ではあった。
ただしそれは綺麗事の通じる世界に於いてだったが。
けれどそれでは人の悪意が渦巻く裏社会を相手にした時
あっという間にそれに飲み込まれて破滅してしまう。
楯無がこうして一夏と刃を交える事を受け入れたのは
そういった環境を相手にしても最低限抗える程度に
織斑一夏を鍛え上げて貰いたい、と"家"を通して
とある人物から依頼を受けていたからであった。
彼が裏社会に飲まれれば世界の混乱を招きかねない、と。
(………こんな浮気野郎に簪ちゃんはあげられないわ…!
返してもらうわよ、織斑君!)
だが、今この時の楯無にとって致命的であったのは
自身が感情に呑まれていると自覚出来なかった事だ。
学園入学以前を含め彼の素性をあまり調べないまま
半ば周りが見えていない状態で彼に喧嘩を売る事が
どれほど迂闊だったかを知るのは──
『試合開始っ!!』
「…まずは小手調べと行こうかしら!」
先に動いたのは楯無。彼女が独自に組み上げた機体
全身に水のベールを身に纏う淑女を思わせる風貌のIS
「ミステリアス・レイディ」が、右手に取り出した
ランス状の複合兵装「
一夏目掛けて適度に射掛けた。
「……!」
小手調べと言いつつ、狙いはキッチリ定まっており
回避先まで読んだ上での嫌らしい射撃だ。
近づいてくる気配の無い一夏を一方的に攻め立てる。
「…それなら、俺からも動くとするかな」
それに対し一夏は。右腕の折り畳み式レーザー砲ではなく
取り回しの良さを買って拡張領域に搭載した
一般的なビームライフルを取り出して反撃に出た。
「その程度じゃ私には当てられないわよ」
「そういうそっちこそ」
しかし、戦況はすぐさま膠着状態に陥った。
両者共に攻撃を仕掛けてはいるのだが
どちらかといえば腹の探り合いという側面が強く
楯無は飄々とした笑み、一夏はポーカーフェイスのまま
一定の距離を保って銃を撃ち合うだけだ。
一夏の攻撃はミステリアス・レイディを覆う
水のベールによって防がれ、対する楯無の攻撃も
前方へ向けられた白式の大型シールドに阻まれる。
「…それとも、織斑君の実力はその程度なのかしら?」
中々攻めてこない一夏に内心業を煮やした楯無は
表情に少しだけ嘲りの色を込めて挑発を始めた。
妹を奪っていった男が中々本気を引き出せずに
自分の掌の上で踊らされているようなその光景を見て
気分を良くしたのか、その嘲りの色は徐々に濃くなり
ガトリングの攻撃にも更なる鋭さが加わる。
『一夏!何をモタモタやっている!』
『兄さんならば勝てる相手であろう!』
観客席にいる面々もまた焦れてきているようで
調子に乗った破廉恥女を叩きのめせ!と
主に箒とラウラから喝が飛んで来はじめた。
「ほらほら!期待されてるわよ、織斑君?」
そして、それに秒で便乗して楯無が煽ってくる。
何処か愉しそうな顔色まで浮かべて。
ここまでされて一夏は──
「………俺は嫌いだなアンタのその戦い方…!
幾つも手札を隠しておいて相手を弄ぶようなのは…な!
戦場で出会いたくないタイプのヤツだッ!」
その戦闘ギアを1段階引き上げた。
次回とセットなので今回は少し短め。
私は楯無ちゃん嫌いじゃないですね
裸エプロンと見せかけて下に水着着てる所とか
恋を自覚した途端キャラが崩れる所とか。
どこかポンかわ感が漂うというか…。
更識姉妹に関しては次々回かそこらで
一旦のまとめとする予定でいます。
ラウラ&シャルロット回はそれ以降
学園祭編はまぁだまだ先になりそうです…。