「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
これだけで1話分書けちゃいました。
──IS学園アリーナ内ピット。
「そろそろ届くはずだ」
一夏と箒はアリーナのピットである物の到着を待っていた
篠ノ之束から送られてくる織斑一夏の専用機「白式」と
篠ノ之箒の専用機「紅椿」だ。
「試合時間には間に合うだろうが…姉さん、遅いぞ」
セシリアとの決闘までの時間が短かったために
機体の搬入がだいぶ遅れていたが。
「織斑く~ん!篠ノ之さ~ん!」
「「来たか!」」
ピットへ来るための廊下を、豊かな双丘をたゆんたゆんと
揺らしながらこちらへ走ってくる山田先生。
「………なぁ箒、転びそうじゃないか?」
「分かる。一万円賭けてもいい」
別に彼女の走りが不安定という訳では無い。がしかし
彼女は天然であることに加えドジっ子属性があるらしく
こういった何も無い状況でも何かが起こる時があるのだ。
「あわわっ!?」
さも当然のように山田先生は何も無い廊下で足がもつれ
すっ転びそうになる。
「「………」」
一夏と箒は視線だけ交わし、彼女を受け止めにかかる。
「わぁぁ~っ!?」
「…ナイスキャッチだ」
特殊合金製の床へダイビングしかけていた山田先生は
見事に2人の伸ばした腕の中に収まっていた。
山田先生は顔だけを一夏の方へ向け、待ちわびた報告を
彼へと告げる。
「…来ましたっ!織斑君と篠ノ之さんの専用機が!」
ウィー………ン
運び込まれたコンテナが開かれ、美しい純白の装甲を持つ
白式の姿が顕になっていく。
「やっと来たか…白式!」
一夏はすぐさまコアの移植に取り掛かる。この白式には
まだコアがセットされておらず、今まで使っていた
ラファールカスタムからコアを移植する必要があった。
「相変わらず器用だな織斑」
「まぁ、ISなら散々弄ってますから」
コアの移植は特に問題が起こることも無く完了し
試合時間には余裕を持って間に合わせることが出来た。
「
ただし
しばらく初期設定のまま戦う羽目にはなったが。
「行ってくるよ、箒!」
「頑張れよ一夏!」
一夏は白式を身に纏うと、既に歓声が上がり始めている
アリーナの方へと飛び出していった。
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「待っていましたわよ」
「遅れてすまん」
セシリアは既に専用機「ブルー・ティアーズ」を身に纏い
アリーナのど真ん中で待機していた。
ブルー・ティアーズはセシリアの専用ISとしてイギリスで
製造された射撃特化の第三世代型ISで、BT兵器と呼ばれる
「…全力で参りますわよ」
「あぁ、受けて立つ」
両者共に素早く武器を構える。一夏はアサルトライフルと
「雪片・改」と銘打たれた近接戦闘用の長刀を。
セシリアは「スターライトmark.3」と名付けられた
巨大なレーザーライフルを。
『それでは…試合開始!』
「いただきですわ!」
バシュゥッ!
先手を取ったのはセシリア。素早いロックオンと共に
スターライトの砲口が輝き、正確な射撃が一夏に迫る。
「…!」
「これを避けるなんて流石ですわね」
一夏は機体をほんの少しだけずらし、紙一重で回避する。
「こっちの番だっ!」
「そうはさせませんわ!」
始まるのは嵐のような射撃の応酬。相手から飛んでくる
射撃はヒラリヒラリと機体を滑らせて回避する。
まるで2人で円舞曲を踊っているかのようである。
「貰いましたわ!」
「危ねぇっ!…そう簡単に直撃は貰わないぜ!」
どちらかと言うと優勢なのはセシリア。機体名を冠する
BT兵器ブルーティアーズはオールレンジ攻撃が可能であり
一夏の死角となる場所からでも攻撃が出来るのだ。
それでも一夏は致命的な直撃は全て回避しており
シールドエネルギーはまだまだ残っている。
『一夏…気が付いているか?』
突然、一夏の脳内に少女の声で言葉が響いた。
これはセシリアの声ではない。ではこの声はどこから
聞こえてきているのかというと──
「あぁ"マドカ"。ビットの挙動だろ?」
彼が「マドカ」と呼ぶ、ISのコア人格からである。
ISにはそれぞれ個性と言えるような僅かな差があり
その個性を作り出しているのが、コアに眠るコア人格だ。
長年同じ機体──もとい同じコアを使い続けていると
そのコア人格と意思疎通が可能となることがあるのだ。
『あの女はビットと本体を同時に操作出来ないらしいな』
そう、セシリアはティアーズを操作している時は動きが
ほとんど止まっていたのだ。スターライトを撃つ時も
機体を回避させる時もティアーズは動いていなかった。
これに気付いた一夏は少し攻勢に出ることにした。
『ビットごと巻き込めるか?』
「上手いこと狙ってみせるさ!」
一夏がセシリアの弱点に気付いた辺りから、彼の動きが
少しずつ変わり始めた。
「当てるっ!」
「…っ!?嫌な狙い方しますわね…」
一夏はライフルを撃ち込む時、セシリアとティアーズを
纏めて巻き込むような掃射をし始めたのだ。
こうなるとセシリアはティアーズの攻撃を全て中断し
ティアーズと本体両方を射線から回避させねばならない。
出している4機のティアーズのうち1機は既に何度か被弾し
あと数発貰えば機能が停止してしまうような状態だ。
しかしセシリアも一夏の隙を突いたカウンターを放つ。
「ぐあっ!…やるな」
『油断するなよ一夏、あの女もいい腕前だ』
スラスターなどの致命的な部分に貰うことは避けられたが
シールドエネルギーはしっかりと削れている。
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「織斑君の回避、凄く華麗ですよね」
アリーナの管制室で真耶は感嘆の声を漏らす。
教師という目線で見ても一夏の回避スキルは評価に値する
素晴らしいもの、というのが真耶の感想だった。
「あぁ、あいつは殺気の類に恐ろしく敏感な様でな」
千冬が入学試験の実技テストを思い出しながら呟く。
「殺気…ですか?」
「この3年間、あいつはそういったモノに晒され続けた」
そう言われて真耶は「彼の身に迫る魔の手」というのを
軽く想像してみる。身柄を狙う者、命を狙う者、更には
所持するISを狙う者──軽く考えただけでゾッとする程に
何らかの理由で彼を付け狙う者が多いのだ。
「敵の一挙手一投足を見て、続く行動を読む──それが
一夏の身に付けた生き抜くための戦闘スキルだ」
実際にソレを体感した千冬は、彼のそのスキルがどれほど
洗練されたものなのかを良く理解していた。
向こうの攻撃に当たることこそ無いが、こちらの攻撃も
すんでのところでガードや回避を合わせられる──
これが、世界最強たる織斑千冬が弟を沈めるのに10分も
掛かった理由であった。
「む、あいつめ…面白い戦い方をする」
「目的はオールレンジ攻撃の封殺…でしょうか?」
千冬と真耶が白熱する試合の方へ再び目を向けると
一夏は地面や壁を背にした戦い方を始めていた。
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「…ティアーズの弱点を分かってらっしゃいますわね」
シールドエネルギー残量という意味ではやや優勢なのに
とてつもない劣勢に立たされているかのようなこの戦況に
セシリアは思わず歯ぎしりする。
「当然…だッ!これぐらいッ!」
一夏はアリーナの壁面や地面に沿うように動くことで
死角から撃たれることを防ぎ、正面からの砲撃の尽くを
回避し、剣で弾き、撃ち返す弾で相殺していた。
オールレンジ攻撃をほぼ完全に封殺された挙げ句
撃ち返してくる弾はセシリアに回避を強制させる。
「…くっ…入り込めねぇっ!」
「近づけさせるものですか!」
セシリアは、一夏のこちらへ飛び込もうとする動きを
徹底的に潰しにかかった。数日前に行われた試合で
彼は篠ノ之箒と熾烈な近接戦闘を繰り広げたのだ。
となれば、近接戦闘が苦手なセシリアにとって彼を懐へ
入り込ませることは負けを意味する。
「…貰ったッ!」
「早いっ!?」
ほんの僅かな隙を突き、ライフルから弾をばら撒きながら
一夏が凄まじい加速で懐へと飛び込んでくる。
相も変わらずセシリアとティアーズの両方を巻き込む
タチの悪い弾のばら撒き方をしてくれる一夏。
セシリア自身は機体を回避させることに成功したが
狙われていたティアーズの回避は間に合わず
すぐ脇をすり抜けていった一夏によってティアーズが一つ
雪片改で一刀のもとに切り捨てられていた。
「私のビットが!?」
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「何故奴があそこまで戦えるのよ…!?」
一夏とセシリアの戦闘の内容に冷や汗を流す集団がいた。
スーツに付けられている名刺には「女性権利団体」と
書かれている。
「これじゃあ奴を叩けないじゃないの!」
「私も知らないわよ!こんな腕前持ってるなんて!」
彼女たちは己の地位を脅かす唯一の男性IS操縦者に
同じクラスにいたイギリス代表候補生をぶつけさせ
負けた彼を徹底的にこき下ろすつもりでいたのだ。
男がISに乗れたところで力になどならない──と。
『これで2つ目ッ!』
しかし蓋を開けてみれば、イギリスの少女は織斑一夏に
翻弄され、あっという間にビットを2つも失っている。
しかも織斑一夏はまだ余裕そうな表情である。
『…負ける訳にはいきませんわ!』
『甘いなッ!』
再びビットが切り裂かれる。一夏は残るビットの反撃を
華麗なバレルロールを決めてすり抜けていく。
3つ目のビットを切り裂いた彼は偶然女権団が陣取る
席のすぐ側のアリーナシールドに足を着いた。
『…』
一夏と女性達の目が合う。
「……あいつ…ッ!!」
彼女達は一夏がニヤリと笑ったような気がした。
計画が台無しになった自分たちを嘲笑っているような──
自分達で色々と仕組んで盛大に自爆しただけであって
被害妄想もいいところなのだが、彼女達にとってそれは
とても耐え難い屈辱だった。
『これで最後ッ!』
しかし、彼女達に降り注ぐ屈辱はこの程度では無かった。
4機目のティアーズを切り裂いた白式から突如として
光が溢れ出したのだ。それは戦闘中に見ることなど
まずありえない光──
「一次移行…ですって!?」
「なんて男…めちゃくちゃじゃないの…ッ!」
機体が
彼女達に突きつけられたのは、彼がここまで約30分もの間
「初期設定のままの機体」という大きなハンデを背負って
戦っていたという事実だった。
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「そんな…まだ上があるのですか」
セシリアは一夏がまだ余力を残していたことに対して
僅かながら恐怖を抱いてしまう。
振るわれるかもしれない圧倒的な力に。
目の前に立っているのは一次移行した白式。
肩のスラスターは翼を広げた様に一回り大きくなり
初期状態よりも全体的に厳つさが増している。
「決着を付けるっ!」
「…させませんわっ!」
セシリアは迫り来る一夏に対し"奥の手"を切った。
「ミサイルっ!?」
ブルーティアーズのリアスカートアーマーとして
隠していた5機目と6機目のティアーズだ。
こちらはレーザーを放つ他4つのティアーズとは異なり
誘導ミサイルを放つ。
「当たって…ぐっ…たまるかッ!」
「なんて回避…っ」
一夏はミサイル直撃の寸前で機体をかなり強引に捻り
セシリアのすぐ側を通り抜けていく。
勢い余った白式はセシリアから離れていき、壁からも
地面からも遠い中途半端な位置で旋回へ入った。
「ティアーズっ!」
すぐさま振り向いたセシリアは白式の背中目掛けて
ミサイルを追加で2発撃ち込む。
更に早くなった白式の足には中々追いつけないが
ここからスターライトや追撃のミサイルを
撃ち込んでやればいいのだ。
「貰いましたわッ!」
大きく旋回して来た一夏は正面から突っ込んでくる。
その後方には先程放った誘導ミサイル。
セシリアは追撃のミサイルを目いっぱい撃ち込んだ。
ズドォーンッ!!!
叩き込まれたミサイルが誘爆を起こし、爆煙が広がる。
「…やりましたわ!」
そして───
「貰ったッ!」
爆煙の中から飛び出してきた白式にメインスラスターを
思いっきり持っていかれたのだった。
「そん…なっ!?」
続けてセシリアに追撃を仕掛けたのは、ティアーズから
放ったはずの誘導ミサイル。一夏がセシリアの背後へと
すり抜けた結果、盛大に自爆させられたのだ。
「かはっ!?…まだ…ですわ」
フラフラと地面に降り立ったセシリアだったが…
「チェックメイト、だ」
気が付いた時には首筋に雪片改を添えられていた。
「………降参ですわ」
『セシリアオルコットの降参により、勝者織斑一夏!』
かれこれ40分近くにもなる激闘がついに幕を閉じた。
激闘を終えた2人を讃える大歓声がアリーナ中から轟く。
IS学園のアリーナは今回も熱気に満ち溢れていた。
試合が終わると、一夏の表情が戦闘中の鋭い目つきから
いつもの爽やかな笑顔に戻り、へたり込んだセシリアへと
手が差し伸べられた。
「大丈夫か?セシリア」
「…お優しいのですね、貴方は」
強さと優しさを秘めた一夏の瞳に、卑屈になる以前の
立派な父の姿が重なって見えたセシリア。
自分が求めていた理想の男性といえる織斑一夏の
差し伸べられた手を取った彼女は──
(…篠ノ之さんが羨ましいですわっ)
彼と恋仲と言われている箒を少しだけ羨むのだった。
ようやく原作1巻終盤。
紅椿のお披露目は次回以降になります…
次はおそらく中華娘襲来かと。