「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
続けて投稿、更識姉妹回です。
「行けぇッ!」
バシューーーッ!!
バシューーーッ!!
神経を逆撫でする様な戦い方を続ける楯無に
一夏は戦闘のギアを1段階引き上げた。
「君にこんな才能があったなんてね…っ!」
BT兵器としての機能を持った2枚の大型シールドを分離し
ビームライフルの攻撃に対応しようとする楯無へ
その回避先や迎撃の瞬間を狩る横槍を入れ始めた。
彼女が嫌がらせを軸に撃ってくるなら、こちらも同様に
嫌がらせを軸として撃ち返すまで。
「くっ…やるわね…!」
「そいつはどうもっ!」
楯無も回避先を読んでの攻撃は造作もない事だったが
一夏のソレは更に一つ上の次元を行っていた。
──敵の一挙手一投足を見て、続く行動を読む。
こちらから仕掛ける時どう対応してくるのか
あちらが仕掛けてくる時どう攻めてくるのか。
相手がどの様な戦闘スタイルであるかを見極めた上で
彼の並外れた情報処理能力を以て行われるソレは
あの織斑千冬すらも認める神業なのである。
それが攻撃へ転用されると一体どうなるのか
常人ならば避けようの無い回避狩りが飛んでくるのだ。
「あぅっ!…被弾した?!」
「呑気なもんだな!」
ナノマシンによって構成される水のベールで守られ
ダメージは少ないが、徐々に被弾が目立ち始める楯無。
熟練した戦士であれば反応可能な攻撃とはいえ
その全てを回避し切るのは難しかった。
一夏は相手が見せるほんの一瞬の動揺を決して逃さず
右腕の折り畳み式レーザー砲で追撃を加えていく。
彼女の"癖"を分かりやすく引き出し、観客席にいる
次の挑戦者が攻略のヒントを掴めるように。
(私は生徒会長よ…!学園最強でなくちゃいけないの!
簪ちゃんを魔の手から…家の責務から守る為にッ!)
この時楯無には普段の様な精神的余裕が無かった。
妹の事を考えるあまりヒートアップし過ぎていたのだ。
それでも学園最強たる生徒会長としての意地と
妹を守りたい想いだけで食らい付き続けている。
──その想いが却って簪を苦しめている事に
気付けるだけの余裕があれば、一夏を相手にしても
その余裕を崩す事無く戦う事が出来たのだろうが
妹の事になると途端にポンコツになる楯無にとって
「一夏を倒して簪を取り返す」と臨んだこの戦いで
それに気付く事など不可能なのであった…。
(…早々に"アレ"を切るのは癪だけど…仕方無いわね)
一夏より先に手の内を見せるつもりは無かった楯無だが
あまり彼を侮るのも良くないと気持ちを切り替え
出し渋っていた武装を切っていく事にした。
「ちょっと本気を出すしか無いみたいね」
「あぁそうかい」
蒼流旋のガトリング砲に加えて、もう一本の近接武器
蛇腹剣「ラスティー・ネイル」による攻撃も絡め
一夏を己の戦闘ペースに乗せようと試みる。
蒼流旋もラスティー・ネイルもただの近接武器ではない。
水のベールを構成するアクア・ナノマシンと併用し
超高圧水流や高周波振動で攻撃力を更に高められるのだ。
さらに、攻撃のリーチもその見た目以上に長くなり
当たれば白式の装甲とて無傷では済まない。
「…いいや、アンタはまだ手を隠してるな」
「あら。バレちゃうかしら」
自分が今何をしようとしているかまでは分からずとも
"何かをしようとしている"というのは一夏にバレている。
ナノマシン操作によって自由自在に剣戟の軌道を操れる
ラスティー・ネイルも相当奇抜な武装なのだが
それを切り札と誤認させる事は失敗してしまった様だ。
けれど、その切り札がどんなモノなのか悟られなければ
この切り札は無類の強さを発揮する。
少なくとも、展開装甲を使わず戦力を温存している
今の白式で直撃しようものなら大ダメージは必至。
("アレ"を当てる…!何としてでもっ!)
楯無はその切り札に賭けた。
たとえその存在を知っていようとも回避を許さない
不可視の切り札に。
そしてそれはすぐに訪れる──
「…ッ!」
(来たっ!)
一夏が更に攻めの手を強めた。
カスタムウイングに格納されていたプラズマサーベル
雪片・白を抜刀し斬り込む構えを取ったのである。
(ここで…敢えて守りに穴を開けるっ!)
ほんの僅かに。決して悟られないよう僅かに。
蒼流旋から放つガトリングの射線をほんの少しだけ逸らし
上手く立ち回れば斬り込めそうな隙を楯無はワザと作る。
それは、フランス代表候補生シャルロットが見せる
砂漠の逃げ水に似た戦闘技能。彼女ほど完璧で無くとも
熟練の戦士としての技能が可能とするものであった。
「くッ…墜ちろッ!!」
「掛かったわねッ!!!」
「──ッ!」
ドォォォーーーンッ!!!
"ソレ"は起動した。
ほんの一瞬だけ空気に白くもやが掛かったと思った刹那
凄まじい大爆発が巻き起こったのだ。
「…『
先程から少しづつその量を減らしていた楯無のナノマシン
その行き先がこの「清き熱情」である。
霧状に散布されていた水分がナノマシンによって熱され
一斉に気化を起こして水蒸気爆発を引き起こす
ミステリアス・レイディの主兵装とも言える能力だ。
その熱と衝撃は凄まじく、まともに巻き込まれれば
大ダメージでは済まされない威力を誇る。
唯一の欠点としてはナノマシンの拡散距離の都合上
射程があまり長くない点があるのだが
攻撃の予兆が湿度の増加のみという隠密性が
その欠点を微々たるものにしている。
「……………しぶといわね…っ!」
煙の中から溢れ出た蒼い輝きに、楯無は嫌気が差した。
見間違えようもない。あれは展開装甲の輝き。
「…流石にヒヤッとしたよ」
「………そう」
白式は生きていた。周囲を舞う大型BTシールドに
焼け焦げた跡が付いている辺り無傷では無いようだが
あのシールドの破壊が出来ていない時点で
清き熱情によるダメージは期待できないようなものだ。
織斑千冬曰く、攻撃の回避に関しては超一流との事だが
見えもしないセンサーにも殆ど反応しない攻撃を
一夏は一体どうやって察知したというのか。
「なら、当たるまで仕掛けるまでよ!」
「しつこいヤツめっ!」
それを確かめるべく、楯無は再び攻勢に出る。
蒼流旋へも螺旋状に高周波振動するナノマシンを纏わせ
より鋭く、侮りを捨てた戦いへと切り替えていく。
こんな所で出すことなんて無いと思っていた"顔"を
ロシアの国家代表としての意識すらも持ち出して。
しかし──
「何故当たらないの…ッ?!本気でやってるのに!」
「感情を抑えなきゃ俺には当たらないぜっ!」
何度清き熱情を使っても、「完璧に決まった」と
確信を得るようなタイミングで発動しても
清き熱情だけは決して直撃させられなかった。
一切の油断を捨て、顔色から悟られる事も無いように
普段の飄々とした顔色を丁寧に張り付けたというのに。
それこそ「第六感」とやらの領域だろうか。
もはや心の中まで見透かされている気すらした。
『さ…更識楯無、シールドエネルギーエンプティ!
勝者、織斑一夏っ!!』
そして、およそ一時間に渡る激戦が終わった時
シールドエネルギーが枯渇したのは楯無の方だった。
僅差ではあった。白式のシールドエネルギーも
あと少しでも削れていれば枯渇していたのだ。
「私…何でこんなことしたんだろう…?」
けれど、楯無は自然と負けを認める事が出来ていた。
自分はなんて滑稽な事をしてしまったのだろうか。
彼の実力も素性も、妹の事でムキになっていなければ
少し調べるだけでも分かっただろうに。
確かに手札は可能な限り多く取っておく方だが
あそこまで煽ったのも間違いなくやり過ぎだった。
あまりにも冷静さを失っていたな、と。
「…大丈夫か?」
「織斑くん…!…迷惑かけちゃって…ごめんなさいね」
「何か事情があったんだろ?それ位は分かるさ」
試合を終えて再び目の前に現れた一夏の顔付きは
いつもの優しさを帯びたものに戻っていた。
(…良い目をしてるわね…ほんと)
こうして落ち着いて見てみれば、戦闘中のあの目付きが
優れた兵士の──否、もはや暗殺者のそれに近い
人の死が身近にある者の射抜くような鋭い目であったと
気付く事も出来た。
そしてそれと同時に、自分が複雑な事情を抱えている事を
見抜く洞察力の高さや、あんな戦い方をした自分にさえ
心配するような言葉を掛けられる境界線の無い優しさにも
ようやく気付く事が出来たのだ。
「……………その…簪ちゃんの事で、ね」
そうなれば、自然と妹の事を口にしていた。
本当は何とかして仲直りをしたいのだ、と。
「──アイツの覚悟は決まってる。後はアンタ次第だ」
「そう、だったの…」
一夏は1枚の封筒を取り出した。
その封筒には昔からよく見てきた妹の筆跡で
ただ一言「果たし状」と記されていて、中の手紙には
「私が勝ったら全てを話して」とだけ書かれていた。
"貴方は、無力なままで居なさいな"
楯無の頭の中で過去に簪へ掛けた言葉が反芻される。
あの時。「お姉ちゃんの力になりたい」と言ってきた簪は
きっと自分と並び立って歩んで行きたかったのだろう。
姉に守られるだけの自分が嫌になったのだろう。
いくら妹を危険から遠ざける為であったとしても
それを事もあろうに自ら突っぱねてしまったのだから
嫌われてしまっても不思議のない事であった。
「…簪ちゃん………」
今その妹は辛い過去と向き合う覚悟を決めているという。
ならば、自分がここで燻っていて良い訳が無い。
「………簪ちゃんに伝えて。いつでも受けて立つ、って」
「あぁ。しっかりと伝えておくよ」
楯無もまた、自身が長らく抱え込んできた問題と
正面から向き合う覚悟を決めたのだった。
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「…………………」
更衣室備え付けのシャワールームで、先の戦闘を──
織斑一夏の戦いぶりを思い返していた楯無。
(………格好良かった…)
何故か思い返せば思い返すほど、彼の事ばかりが
脳裏に浮かんでくる。裏社会にすら通用するであろう
相手の心を見透かすほどの洞察力、学園最強を誇る自分に
こちらが万全で無かったとはいえ打ち勝った戦闘能力
自分と妹の仲を取り持ってくれたその人柄の良さ
そして彼が確実に手にするであろう絶大な影響力。
どれを取っても──
(…"更識"に嫁ぐのに相応し過ぎるわ…!)
彼の手はもしかすると
更識の家系に於いてそれは気にする程のことでも無い
むしろ"慣れている"のは必要事項とも言える。
100点満点中120点…否、200点を付けてもいいくらいに
楯無にとって一夏という男は魅力的に映った。
(うぅ~…優良物件が過ぎる…っ!)
聞いた話では凄く美味しい手料理も作れるという。
見た目もキリッとした目付きに爽やかな笑顔で
細身ながら筋肉質な鍛え上げられた肉体も持つ。
(……………彼に抱かれたら…私は…)
『なぁ…いいだろう?』
『あぁダメよあなた…心の準備が…』
(~~~っ!何を考えてるのよ私っ!?)
力強い腕に抱かれて、自分の"初めて"を彼に──
そんな光景まで思い描き始めた辺りでようやく
顔を真っ赤にさせながらも何とか正気に戻った楯無。
「…あっ、やばっ…鼻血が…」
何せあれだけ周囲に女の子を侍らせておきながら
篠ノ之箒以外との浮いた話は全く流れて来なかった男だ。
仮にアタックを仕掛けた所で結果は恐らく──。
(い、一夏君はともかく、その裏にいる篠ノ之博士は
『更識』と繋がりを持つ事を嫌うでしょうし…ねぇ。
………一夫多妻制を導入させた上で、あの名を継ぐ
大きなメリットを何か用意出来れば…あるいは…?)
鼻血の応急処置をしつつシャワーから上がる楯無。
まだ彼を諦める気にはなれないのだった。
なお彼女はこの直後にのぼせと貧血でぶっ倒れ
ほぼ全裸同然のまま医務室へ担ぎ込まれる事になるのだが
そればかりは戦闘後にシャワールームでエロ妄想に耽った
楯無の自己責任である…。
とりあえず書き溜めはこれだけなので
次回以降の投稿日は未定です
どうか気長にお待ちください。
次が簪vs楯無になるかどうかは…不明。
評価・感想は勿論ですが、「ここすき」の方も
して頂けると作品執筆の参考になりますので
良いと思ったフレーズなどありましたら
どんどんここすきして貰えると有難いです。