「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す   作:高橋ヒナタ

48 / 72

ひとまず「1期」はここまでとなります。



第46話

 

 

 

やはりと言うべきか、学園祭は無事には終わらなかった。

 

 

 

「避難中の転倒が19名、ガラス片による負傷が3名。

体調不良を訴えたのが来賓6名に生徒37名です」

 

「来賓の方々への案内は終了しました。

生徒の方は学生寮で待機と指示してあります」

 

「分かったわ。あなた達も少し休みなさい」

 

生徒会メンバーが校庭を慌ただしく駆け回る。

 

──亡国機業による学園祭襲撃事件。

事前に行われた避難経路の再確認などの効果もあり

死者および重傷者が出る事は無かったが

生徒会主催「灰被姫(シンデレラ)」を初めとする午後の部は中止

安全確認が取れるまで生徒には学生寮での待機指示、と

イベント直後とは思えない雰囲気が漂う結果となった。

 

 

「…織斑先生、どうします?『灰被姫』中止ですけど」

 

「楯無か。ふむ…確かに困るな」

 

中でも特に生徒会や教師陣を困らせていたのは

午後の部最大のビッグイベントでもあった

「灰被姫」が中止になってしまった事だ。

 

このイベント、専用機持ち9人の頭に付いた王冠を

奪い取ることに成功した生徒が属するクラスには

その王冠を持っていた相手を特別講師として指名し

授業をしてもらえるというものだったのだが

これがおじゃんになってしまった結果

「1年1組だけ専用機持ちが大勢いてズルい!」という

無数に来ている陳情を解決出来なくなっていた。

 

 

「………なら、そうだな」

 

「何か良い考えが?」

 

「あぁ。生徒会にも色々動いてもらうがな」

 

そこで千冬はある計画の前倒しを決めた。

 

「元は一夏のヤツが持ってきた案なんだが──」

 

それは、学園の隣の人工島がまだ建設し始めだった頃

弟が親友と共に練っている計画の一環として

学園へ持ち込んだとある計画のこと。

 

 

「………先生!もっと早く教えてくださいよソレ!

…流石織斑君ね…!凄く面白そうじゃない!」

 

「そうか。なら次の職員会議にも出してみよう」

 

楯無も絶賛したその"計画"はすぐに職員会議に持ち込まれ

あっという間に行事として成立することになる。

 

その正体が判明するのは、約1週間後だ。

 

 

 

「あぁそうだ、引越し祝いのパーティーを開くから

お前もどうか?と言っていたぞ」

 

「何これ。カードキー(「ゲスト・パス」)?」

 

「招待状だとさ」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

「──しかし…学園にいなくて良いのか?」

 

「ああ。俺のやる事は粗方終わらせたからな」

 

学園祭から数日が経ち、騒動に一区切り付いた頃。

本社ビル最上層に新たな織斑宅が完成したその日

一夏は最近雇った専属秘書「アキ・ニシガキ」もとい

名を変えたオータムと共に街に居た。

 

 

ヴゥーーン…

 

一夏が"休憩"の為に泊まった行きつけのホテルを出ると

美しいアイビスホワイトのカラーが眩しい

「Audi RS e-tron GT」が目の前に現れた。

いかにも織斑一夏専用車といったカラーリングで

彼の目の前にピタリと停車する。

 

「高校生でこの車たぁ…お前今幾つだ?」

 

「まだ15だ。あと数日だけな」

 

「ほぉ〜そいつはおめでとさん」

 

一夏とオータムは2人で"後部座席"に乗り込んだ。

すると、なんと勝手にドアが閉まって車が走り出す。

 

 

『目的地未設定!目的地未設定!』

 

「ハロ、本社ビルまで頼むぞ。海沿いルートでな」

 

『了解!了解!』

 

運転席に置かれた専用台座の上で、フタをパカパカさせる

如何にもマスコットロボットのような見た目のハロが

この車を動かしているのだ。最新鋭の自動運転である。

 

車はすぐにホテル街を抜け、オーナーの指示通りに

海に面した大通りへ。かなり遠くにではあるが

IS学園などのある人工島も見えてくる。

特別何かあるという訳でもないが、爽やかな潮風と

打ち寄せる波の音が素敵なストリートだ。

 

 

 

「…ホントえげつねぇ車だこと。幾らするんだ?」

 

「本体価格は大体13万ユーロ(約2000万円)だ。けどフルカスタムしたし

バッテリーやモーター辺りは再設計して差し替えたから…

幾らになるかは買い手次第だろうな」

 

「こんなモンスターマシン1億ドルでも足りねぇだろ。

売るなんて言ったら世界中が食いつくぜ」

 

「はっはっは!だろうな!」

 

パッと見はただのアウディRSe-tronGT。

しかし、バッテリーや回生システムの改良により

航続距離は2,000kmオーバー、改良型モーターが生み出す

力強いパフォーマンスにより最高速度400km/h台

0-100km/h加速2秒にも迫る圧倒的加速性能を発揮。

最高グレードよりも遥かに高い性能を獲得している。

 

そして何より自動運転機能に対応したシステム系。

人間と同等以上の思考能力を持つH.A.L.O.が

車載センサーなどから状況を把握し運転を行う

現時点でも完全な実現には至っていない技術。

 

果たして売ると言ったら幾らで売れるのだろうか。

 

だが真に忘れてはならないのは、このカスタムが

一夏にとっては暇つぶしでしかないという事だ。

 

 

 

「アキはこの後どうする?一応この後俺の家で

引越し祝い兼誕生日パーティーをやるんだが」

 

「あー…いいのかい?」

 

俺の妹(マドカ)が居てもいいなら」

 

「……………まぁ、どうせそのうち顔合わせるんだ。

お邪魔させて貰うぜ。酒はあるんだろうな?」

 

「もちろん。色々揃ってるぜ」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

─白うさぎ本社ビル38階─

 

 

ピーッ

 

V.E.N.U.S.(ヴィーナス)!今帰ったぞ」

 

『お帰りなさいませ、一夏様』

 

ラビッツ・ワークショップから更に階を上がると

そこに新織斑宅の玄関はあった。

 

扉の鍵に「マスターキー」と書かれたカードを通せば

合成音声とは思えない自然で穏やかな女性の声と共に

扉が開かれ、帰還した家主を出迎える。

 

『お客様は既にいらっしゃっていますよ』

 

「そうか。遅れてすまない」

 

『パーティー・スペースにお通ししておきましたので

そちらにいらっしゃるかと』

 

「オーケーV.E.N.U.S.。あとの対応は俺がやるから

休んでていいぞ。必要なら呼ぶ」

 

『了解しました。省エネルギーモードへ移行します…』

 

 

「ほらアキ。上がってけよ」

 

「…お、おぅ。……凄ぇテクノロジーだなオイ

 

 

パーティー・スペースはエントランスを抜けてすぐだ。

こういったイベント時など大勢の来客を招く時に

パーティー会場としても使える大きな部屋である。

 

サブのキッチンも併設されていて、作った料理を

すぐに皆へ手渡すことが出来るようになっているし

奥にはシアタールームまで併設されている。

キッチンでポップコーンを作りグラスにコーラを注いで

ちょっと歩けばすぐに映画館へ行けるという訳だ。

 

 

「やぁ織斑君!先日の会談ぶりだな!」

 

「アルベールさん!?ということは──」

 

「僕も、あと母さんもあっちにいるよ」

 

まず出会った来客はデュノア一家。

アルベール、ロゼンダ、シャルロットの3人。

3人でビリヤード勝負をしていたようだ。

 

「ラウラは白うさぎのみんなと篠ノ之博士

クロエさんを連れてシアタールームに行ってる」

 

「だろうな。真っ先に飛びつくと思ってたよ」

 

それに加えて、ラウラにクラリッサと白うさぎ隊隊員4人

束とクロエも。今彼女たちが見ているのは

一夏が某ヒーロー好き少女から布教され集めていた

アイアンマン──MCUシリーズとのこと。

 

丁度シアタールームの方から「アベンジャーズ──」と

続きを期待させるような途中でぶつ切りにされた

キャプテン・アメリカの声が聞こえたあたりからして

見ているのはエイジ・オブ・ウルトロンだろうか。

 

 

「あら一夏さん。いらしてたのですね」

 

「今さっきな。ナイスショットじゃないか」

 

「ええ。私は『ホークアイ』ですからっ」

 

ダーツを遊んでいたのがセシリア。

スコアはなんと1200点台。数発外したらしいが

殆どを20トリプルに撃ち込んだその手腕は

まさに名狙撃手といった腕前だ。

 

「なら"バートン"、これでブルを狙ってみてくれ」

 

「任せろ。………えっ…三本同時に、ですか?

 

一夏が手渡したのは三本まとめられたダーツ。

あの時トニーの顔の目の前を通り抜けてブルに刺さった

バートンのダーツは見えづらいが三本同時投げである。

 

セシリアは深呼吸し──

 

 

スッ!!

 

「…流石だな」

 

彼女が放ったショットは、2本が内側のシングルかつ

ブルにかなり近い位置に刺さったうえで

残る1本がダブルブルに刺さるスーパーショット。

 

だがセシリアはちょっと悔しそうな顔をした。

 

「さすがにホークアイを名乗るには早かったですわ…」

 

弓1本でアベンジャーズに入った男は格が違ったのだ。

 

 

 

 

 

「なっ…兄さん!何故アイツがここにいるっ!?」

 

刺さったダーツを回収しようと一夏が手を伸ばした時

少女の驚愕したような声がパーティースペースに響く。

 

「アキの事か?」

 

「アイツはオータムだぞ?!」

 

そう、マドカだ。

 

亡国機業ではオータムの下にいたマドカにとっては

ガラの悪い上司と再会してしまった様なものなのだろう

納得し切れない部分があるらしい。

 

「いや、アイツは『専属秘書アキ・ニシガキ』だ。

もう『亡国機業のオータム』じゃあない」

 

「しかしだな──」

 

「簡単に割り切れない部分があるのはよく分かる。

だから別に親しくしろって言うつもりはないさ」

 

「むぅ…」

 

今は立場が違う以上そう絡むこともあるまい、と

一夏は兄としての優しい顔でマドカを諭す。

 

お兄ちゃんっ子なマドカにはよく効いたようで

オータムへの態度が若干軟化する。

仲良くなるような事は無いにしても、関係が冷え込んで

周囲にまで影響を与えることは無くなっただろう。

 

 

 

 

 

──で、そのオータムはというと。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

「良い景色だろう?」

 

「あぁ…ワインが美味く感じるぜ」

 

マドカが自分の方に視線を向け何か喋り始めた辺りで

ワインセラーから1本ワインを拝借して階を1つ上がり

39階のバルコニーで箒と雑談をしていた。

 

2人の視界に映るのは、雄大な太平洋。

そして真っ直ぐ左右に伸びる水平線と

雲ひとつ無い澄み切った青空。

このオーシャンビュー・バルコニーから見れる

最高の眺めだ。

 

 

「どうだった?一夏は」

 

性格も年齢も国籍も何もかもが違うこの2人だが

世界でも数少ない共通点を持っている。

 

「トぶかと思ったよ。いや、実際トばされた」

 

「ふふっ。そうだろうな」

 

そう。一夏と一晩を共にしている事。

 

静まり返った39階バルコニーで、2人はそれぞれ

初めて彼に抱かれたひとときを思い返す。

 

 

「あんな良い男、今時2人といねぇだろ」

 

「あぁ。力に溺れない良い男だ」

 

以前よりも更に女を支配しづらくなったこのご時世

女を己のものに出来ると知った途端突如豹変して

乱暴になる男は増えた。だが一夏にはそれがないどころか

自分たちへの配慮を決して欠かさなかった。

それでいて卑屈だったり奥手だったりという訳でもなく

いざ肌を重ねると貪欲に自分たちの事を求めてくれる。

 

「アレを相手によく耐えれてるな?」

 

「いや、正直アキが来てくれて凄く助かった。

あのままじゃ一夏に溺れすぎていたから…」

 

「そいつぁよく分かる」

 

幸せすぎて彼以外の事が疎かになりそうなのが

唯一の欠点だろうか。

 

 

 

しかし、彼も万能ではない。

 

「そういやアイツ朝軽く魘されてたが、平気なのか?」

 

「………いや…平気とは言えないと思う」

 

翌朝目覚めてみると、すぐ隣で寝ている一夏が

苦しそうに呻いていることがたまにあるのだ。

実際、オータムも今日の朝起きた時に

少し顔色の悪い一夏の姿を見かけていた。

 

彼曰く、そうなるのは夢見が悪かった時とのことだが

酷い時はもがき苦しんだりする。

 

「そうなった時は…もう一度肌を重ねてやってくれ」

 

「あぁ…分かった」

 

だからこそああして命の温もりを激しく求めるのだろう。

 

 

 

「………アキ」

 

「なんだ?」

 

箒がオータムの方へ向き直る。真剣な目付きで。

 

 

「私は…姉さんを見ていたから分かるんだ。

アイツを…一夏を絶望させちゃいけない、って」

 

「あの天災をか」

 

「──白騎士事件。あれは、世界に失望した姉さんが

なりふり構わなくなった結果なんだ」

 

「!!」

 

箒の話を聞いたオータムは、一瞬ゾッとした。

 

世界に失望した篠ノ之束が白騎士事件を起こしたのなら

篠ノ之束に匹敵する頭脳を持つ一夏が世界に絶望したら

果たしてどんな大事件を引き起こすのだろうか、と。

 

(アイツのトラウマが何なのかは分からねぇが

病んだ天災と結託されたら世界が滅ぶぞ…!)

 

ましてや2人揃って人類に牙を剥いた日には──

考えるだけで恐ろしい。世界に核ミサイルをブチ込んだり

小惑星を落としたりで地球を人の住めない星にしておいて

自分達は親しい人だけ連れて悠々自適な宇宙の旅へ出る。

そんな話だって有りうるだろう。

 

 

「篠ノ──いや、箒。アタシも力を貸すよ」

 

もはや他人事だとは言っていられなくなった。

 

「いいのか?助かる」

 

かつて亡国機業に属していた者として

彼と一晩を共にした者として

そして、秘書と言えるかは微妙だが彼の専属として。

自分はそういうガラじゃないと思いもしたが

一夏を暴走させないよう支えていくことを決意した。

 

 

(こりゃあ早いとこスコールを引き込まねぇとな…)

 

情熱的な2人の愛人と共に深宇宙とやらを目指す──

それもまぁ悪くないなと思えてきたばかりなのだから。

 

 

 





灰被姫の代案は次回以降で。

後半はちょっとセンシティブな話題だけど
R18には当たらないとは思う…。

オータムの偽名の元ネタは
声優「西墻由香」さんから苗字「ニシガキ」
オータムを日本語訳して名前「アキ」。
織斑一夏専属秘書アキ・ニシガキは戸籍上では
日系アメリカ人という扱いにしているので
名前の表記が名→姓の海外式。

最近ハマってるアクロニム第4弾
「V.E.N.U.S.」の正式名称は
Very-intelligence
Experimental
No-discomfort
Utility
System
で、訳するなら
「とても賢い実験的な不快感の無い役に立つシステム」
ハロとは違ってお家のこと専門。
名前の元ネタはF.R.I.D.A.Y.。

では、第2期をお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。