「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
凰鈴音転入+αです。
第5話
「では、ISの基本的な飛行操縦をしてもらう」
グラウンドへ集められた1組の生徒たちに、織斑先生が
今日の授業内容を告げる。
今日行うのは学園が所有する訓練機を用いた基本的な
空中機動の実践訓練である。
「専用機持ちには手本を示してもらう」
千冬の合図を受けた一夏と箒、セシリアが専用機を展開
アクセサリー状の待機形態から完全に展開を終えるまでを
3人とも一秒前後という一瞬で済ませている。
「オルコット、篠ノ之、織斑の順で飛べ」
セシリアはふわりと浮き上がるとスラスターを吹かし
美しい動きであっという間に上空へと飛び上がる。
箒も機体の高い推力を活かし、セシリアに続いて一気に
上空へと飛び立った。
(俺を最後にしたのはワザと…か?)
「……んじゃ、行きますっ」
一夏は、まるで大トリに期待するかのような眼差しを
生徒たちだけではなく姉からも向けられていることに
気付き、少しだけパフォーマンスをしてやることにした。
バシュゥッ!!!
「「「おお~っ」」」
軽く膝を曲げて地面を強く蹴り、スラスターを目いっぱい
吹かしてトップスピードまで加速しつつ上昇。
スラスターの光の帯が真っ直ぐ空へと伸びていく。
「「「カッコイイ~!」」」
姿勢制御スラスターをほんの僅かに吹かし、機体を一回転
バレルロールと言えるほどのマニューバでは無かったが
白式のスラスターの軌跡は綺麗な螺旋を描いていた。
『早速だが今度は急降下と完全停止だ』
かなりの高度まで急上昇した3人に、織斑先生から通信で
次なる指示が飛んでくる。
「了解ですっ。一夏さん、お先に」
急上昇の順と同様にセシリアが真っ先に降下していった。
「先に降りているぞ、一夏」
続けて箒が一気に高度を下げていく。
「…俺の番だな」
指示された高度は地表から10cm。ISの機体サイズは人体と
比べてかなり大きいため、制度の高い急停止を行うには
特に精密な機体制御を要求される。
(まだだ…もう少し………ここだッ!)
「やるじゃないか織斑」
セシリアも箒も一夏もほぼ10cmでピタリと停止していた。
「では、皆さんも訓練を開始しましょう」
山田先生の指示でグループごとに用意された訓練機で
飛行操縦の訓練が始まった。
一夏、箒、セシリアは山田先生と共に各グループの
リーダーとしてアシストを行うことになった。
「スラスターからロケットの炎を噴射するイメージだ」
「おっ、こんな感じかぁ!織斑君教え上手だね」
一夏はそれ程でもないよと謙遜していたが実際に指導は
順調そのもので、グループの生徒達はすぐに飛び方を
マスターしていく。
「コツは自分の前方に角錐を作るイメージ、ですよ」
「山田先生の指導はやっぱ分かりやすいね~」
山田先生は言うまでもないが教え方がとても分かりやすく
この2つのグループはあっという間に課された訓練を終え
実践内容の復習へと突入した。
一方でセシリアと箒が教えるグループはというと…
「オルコットさん、そんな細かい数字を言われてもっ…」
「私これでも抽象的に教えているつもりなのですが?」
セシリアは操縦方法を教える時、スラスターへ回す出力は
幾つ幾つだ─というように細かい数字の指示が非常に多く
その度合いは具体的を遥かに通り過ぎている。
「篠ノ之さん!ずかーんって何!?ずかーんって!」
「だからずかーんはずかーんだろう!?」
一方で箒の指導はというと、その指示に擬音が混ざる。
それもその全てといっていいほどに擬音の指示が多く
イメージする事が得意な生徒も置いていく程に抽象的だ。
「………山田先生!織斑!応援へ行ってやれ!」
織斑先生はこの授業中、ずっとしかめっ面だったとか。
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──放課後。
「織斑君、クラス代表就任おめでとう!」
「「「おめでと~~~!!」」」
貸し切り状態の食堂にクラッカーの音が鳴り響く。
自分達が公然と大騒ぎ出来るから──という思惑が少々
含まれてはいるのだろうが、クラスメイト達が準備を進め
開催された代表就任記念パーティーだ。
「…人気者だな、一夏」
「色んな意味でな」
パーティー開催の噂はあれよあれよという間に広まり
学園中から野次馬が訪れていたのだが。
「新聞部でーす!インタビューいいかしら?」
2年生の新聞部部長も取材道具片手にやって来ていて
一夏達へインタビューを申し込んでくる。
「ま、それっぽく書いといてくれればいいさ」
「えーー…まぁそのつもりだからいいけど」
面倒事は避けたい一夏はインタビューを適当にあしらう。
マスコミというのは取材内容をある程度脚色するもの、と
一夏は思っているからだ。
「専用機持ちで、写真の方いいかしら?」
「あぁ良いぜ」
「構わんぞ」
「仕方ないですわね」
専用機持ち個人の写真、3人の集合写真、一夏と箒の写真
色々な組み合わせで写真を撮りまくった新聞部だった。
これらの写真は生徒会の手でブロマイドとして販売され
生徒会と新聞部の懐を大いに潤すこととなる。
「一夏さんは聞きましたか?転入生の噂」
パーティーが純粋にパーティーとしての盛り上がりを見せ
一夏達に話しかけてくる人が減ってきた辺りで
セシリアが2組に転入生が来るという噂を拾ってきた。
「この時期に?…相当の実力者って訳だ」
IS学園は世界中から入学志願者が集まるため競争率が高く
途中入学ともなると入試試験の難易度は恐ろしく高い。
基本的にコネで入学出来る学校でもないため、転入生は
相当の実力を持った者ということになる。
「来るのは中国出身の代表候補生らしいぞ」
「鈴…である可能性は高くはないか」
一夏は、中国へ帰る時に「絶対に日本へ戻ってくる」と
宣言した親友凰鈴音のことを思い出した。
彼女の決意は相当のものだったが、元々人口の多い中国で
代表候補生の座を勝ち取れるかどうかは分からない。
2組に来る代表候補生が鈴であればいいなという期待を
淡い期待程度に留めておいた一夏なのだった。
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「織斑君、クラス対抗戦頑張ってね!」
「私達のデザートが君に賭かってるんだから!」
クラス代表による試合「クラス対抗戦」を数日後に控え
各クラスの熱気も高まっていた。何故なら対抗戦の賞品が
優勝クラスは学食のデザート半年間無料という
女子高生にとってこれ以上無いものだったからである。
「一夏くんならヨユーだろうけどねっ」
「専用機持ちが代表なの4組とここだけだもんね」
専用機を持っているのは1組と4組だけで、代表候補生にも
打ち勝てる一夏がクラス代表なら勝ったも同然だろう。
「その情報、もう古いわよっ!」
──そこへ待ったを掛ける少女が現れた。
「鈴!鈴なのか!?」
黄色いリボンで結ばれたツインテールが特徴的な
活発そうな雰囲気を纏う小柄な少女、凰鈴音だ。
「宣言通り戻って来てやったわよ、一夏」
かつての親友との再会に眩しい笑顔を浮かべた鈴は
そのまま1組の教室へ足を踏み入れようとして、彼の表情
まるで自分の後ろに"何か"がいるかのような表情に
首を傾げる。
「どうしたのよ一夏、そんな顔して!」
「おい」
突然後ろから声をかけられて鈴は振り向いた。
そこに立っていたのはやや不機嫌そうな織斑姉の姿。
「SHRの時間だ。教室へ戻れ」
「千冬さん、アタシは一夏に話があって──」
ゴッ!
「織斑先生だ。早く2組へ戻れ」
鈴の頭頂部に鋭い出席簿アタックが直撃したのだった。
──昼休み。
「改めて、久しぶりね一夏」
注文した料理をゴトンとテーブルへ置き
一夏へ再会の挨拶を送った鈴。
「あぁ、元気そうでなによりだ」
「ずずっ…アンタこそ。風邪くらいひいたら?」
ラーメンを啜りながら鈴がそう一夏へ返事を返す。
妙な言い回しだが要するに元気そうで良かった、である。
「弾はどうしてる?変わってないでしょうけど」
「最近は会ってないな…近いうちに会いに行くか」
弾の父親が営んでいる定食屋で昼食ついでにでも話を
しにいこうとトントン拍子で予定が決まる。
鈴はIS学園へ来る時もボストンバッグひとつだけ抱えて
やって来た程フットワークが軽く、どこか行こうとなれば
その予定が決まるまで一瞬である。
「…で、隣に座ってるのが1st幼なじみ?」
「あぁ…名前は──」
「…!?ん゛んっ…篠ノ之箒だ」
隣で黙々と味噌汁を飲んでいた箒は、こちらをチラリと
見ている一夏に気付き、慌てて名を名乗った。
「なるほどね…」
ここで鈴は日本で一夏に会ったら聞こうと心に決めていた
ある質問を彼へ投げかけた。
「ねぇ一夏、"答え"は出たの?」
鈴は中国へ帰る直前、一夏にある質問をしていた。
いつか自分が日本へ帰ることがあったら、一夏と出会う
ことがあったら。自分と以前の幼なじみのどちらが好きか
答えが出ていたらハッキリ聞かせてくれ、と。
「……あぁ。すまない、鈴」
鈴の気持ちには答えられない、と一夏は頭を下げた。
「きっとそう言うだろうと思った」
何となくこうなるだろうと想像していた鈴。
当時の一夏は好きな女子の話題になった時などに
遠くへ行ってしまった誰かの事を考えているような
遠い目にすることが何度かあったのだ。
母国への引越しが決まり思い切って告白をした時も
「その気持ちには応えきれない気がする」と遠回しに
断られていた。故に鈴は特別不機嫌になることもなく
一夏に対しケジメとして1発だけ殴らせろと告げる。
「…いいのか?一夏」
「良いケジメだ。甘んじて受けるさ」
好きな人が1発とはいえ殴られようとしていることに
箒は少しだけ不安になったが、女の子の告白への返答を
3年以上先延ばしにした罪を償おうとする一夏の姿勢に
事態を黙って見守ることにした。
「……ふんッ!」
ゴスっと強烈なパンチが一夏の頬に炸裂する。
「改めてよろしくね、一夏。それと箒も」
一夏には「親友とバカ騒ぎするのは楽しいからね」と
箒には「一夏を任せたわよ」といって手を差し出した鈴。
「おう、よろしくな」
「一夏は任されたぞ」
固い握手を交わした3人。
パチパチパチ…
「おぉードラマチック~!」
「いいねぇいいねぇ、素敵な物語だわ」
「メモ取った!?これで1本書けちゃうわよ!」
盛大な拍手と黄色い声が聞こえてきたことでようやく
一連のやり取りがガン見されていたことに気づいた3人は
食堂からそそくさと撤退したのだった。
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──IS学園、とあるアリーナ前。
「1組からのタレコミだから…はあっ…確かよっ」
部活上がりと思しき少女達がかなり汗だくなまま
学園内のひとつのアリーナを訪れる。
1組にいる友人から「このアリーナで専用機持ちが試合を
するらしい」と聞き、部活の片付けを全力で終わらせ
猛ダッシュでやって来たのだ。
「ちょ…既に歓声やばいじゃん」
「まだ始まったばかりのハズよ!」
本来であれば精々銃声くらいしか聞こえないアリーナから
大人気歌手が来ているコンサートホールかのような
凄まじい歓声が外まで聞こえてきていた。
前々回の一夏対箒、前回の一夏対セシリアを見逃していた
彼女たちはワクワクしながらアリーナへ入っていった。
「鈴ちゃんファイトっ!行け行けー!」
「篠ノ之さん最高にカッコイイー!」
「オルコットさん流石♪ビューティフル~♪」
「織斑君やっぱイケメン~!最高だわ~!」
他のアリーナが静寂に包まれている中で
専用機持ちたちが模擬戦を行っているアリーナだけは
相も変わらず大盛況であった。
生徒会はお小言でも言われたのか特に何もしていないが
それでも専用機持ち同士の戦いから何か学びを得ようと
大勢の生徒たちが押しかけていた。
女子高生の情報伝達の早さのなせる技だろう。
ガキィンッ!
「アンタ良い腕前してるわねっ!」
「剣の腕なら一夏より上だからなっ!」
鈴が駆る専用機「
箒が駆る紅椿の刀とぶつかり合う。
箒も鈴も二刀流が出来る武装構成をしていることもあり
2人の間には無数の剣閃が迸り、打ち合って火花が散る。
「相変わらず綺麗に避けますわね!」
「セシリアこそ!」
一方では飛び交う弾丸の雨の中一夏とセシリアが
華麗な動きで銃撃戦を繰り広げている。
鉛玉が、ミサイルが、レーザーが、グレネードが。
あらゆる飛び道具が飛び交っていた。
「うわっ!?ちょっ…危ないわね!?」
「ええいっ一夏!流れ弾が酷いぞ!」
近接組の模擬戦にまで流れ弾が飛んでいたが。
「ふぅ…少し休憩しようか」
このアリーナで行われていたのは、専用機持ち4人による
模擬戦。アリーナの使用申請をしにいった時に偶然
一夏達3人とセシリアが出くわしたことで、どうせなら
専用機持ち4人で試合をしようという運びになったのだ。
「剣じゃ箒には勝てないわね…ちょっと」
「ですわね…正直ゾッとしますわ」
近接戦闘のみに限定した時の勝率は箒が1位、一夏が2位
鈴が3位、セシリアが4位だった。
「そういうセシリアには銃があるだろう」
「さすがの俺でも銃オンリーだと辛いな」
逆に銃撃戦となるとセシリアが1位に躍り出る。
次いで一夏、鈴と続き、箒が4位という結果だった。
「ねぇ一夏…毎回"こう"なの?」
観客席をぐるりと見回した鈴が一夏に疑問をぶつける。
これほど観客がいるのが当たり前なのか?と。
「慣れないと辛いぜ?」
「うわぁ…」
今は一夏達が休憩中だからか観客達もトイレ休憩などで
席を外している者が多いが、先程まではほぼ満員だった。
(それもそうよね…こんなドリームマッチ)
大盛況の理由は軽く考えればすぐに分かることだった。
専用機持ち同士のタッグマッチが他に見れるとすれば
かのISの祭典モンド・グロッソ以外には無いだろう。
「じゃ、続きやるか!」
「「「おおおぉ~~っ!!」」」
「「「わあぁ~~っ!」」」
「待ってましたーっ!」
「熱い試合期待してるよーっ!」
クラス対抗戦までの数日間、IS学園は異様な盛り上がりを
見せるのだった。
恋愛絡みのゴタゴタはあんまし詳しくないんで
サクッと和解してもらいました。
鈴ちゃんなら違和感はそんなに無い…ハズ。
専用機4人によるタッグマッチはモンドグロッソに
タッグ部門が無ければ恐らくはIS学園限定…
盛り上がらない訳がないですね。
シャルとラウラが来たらどうなるやら。