「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す   作:高橋ヒナタ

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セッシー回。

中盤ちょっとオカルト有り。



第51話 イギリス編③

 

 

 

一夏達によるイギリス来訪は大成功に終わった。

 

多くのものを得ることが出来たと喜んだイギリスだが

その中でも特にIS技術の転用法は大いに喜ばれた。

何せあと2年半ほどでISは軍事面に於ける力を失うのだ

であれば、それを見越した技術発展を狙うべきだろう。

 

そういった風潮はフランスを中心にEU諸国に広まり

新たな流れを作りつつある。

 

 

 

「ここが私の実家になりますわ」

 

そんな流れを生み出した張本人である一夏とその一行は

今日の宿泊先でもあるセシリアの実家を訪れていた。

 

明日12月24日はそう、クリスマスイブ──

もとい、セシリア・オルコットの誕生日でもある。

どうせ自分はパーティーの準備やらで

実家に戻らなければならないのだし

良ければ泊まっていかないか、という提案に

変にホテル取るよりいいかもなと一夏が乗ったのだ。

 

 

「流石セシリア、良い家持ってるんだな」

 

「一夏さんがそれを仰いますか?」

 

「俺の家とは方向性が全く違うだろ」

 

「それはそうですけども…」

 

英国随一の資産家貴族の名は伊達では無いといった所か

彼女の実家は中世ヨーロッパの建築デザインを踏襲しつつ

先進技術を随所に採用した格式高いもの。

美しく整えられた庭園もある超豪邸であり

炊事洗濯などを担う使用人も大勢雇われている。

 

AIアシスタント付きの超ハイテクな豪邸を持つ一夏が

それを褒めるのは何だか皮肉な感じがするが

2人の自宅の方向性は同居出来るようなものではないので

この場合は純粋な賞賛だろう。

 

「なら改築を手配しようか?」

 

「…いいえ、それは遠慮しておきますわ」

 

持ち掛けられた改築の提案をセシリアは断る。

 

一夏からの提案なら悪くは無いかなとは思ったのだが

この話が出た瞬間、すぐそこのソファに腰掛けて

特大アリスぬいぐるみを幸せそうな顔で愛でていた束が

「お、何か面白そうな話!?」とでも言いたそうな

キラキラした瞳でこちらを見てきたので断っておいた。

 

ここで首を縦に振れば家中アリスまみれにされて

束の別荘扱いになりそう──そんな気がしたのだ。

プライバシー皆無のオマケ付きで。

 

 

 

「──では残りの荷物はあちらへ。それはお土産ですので

メモの通りに仕分けて学園へ送っておいて下さいまし」

 

「随分大荷物になったもんだな」

 

「学園の皆さんへのお土産ですもの」

 

まるで自宅かのように寛ぐウサギは置いておいて

一夏とセシリア、マドカと白うさぎ隊隊員2人は

山のように積み上がった荷物をメイド達と一緒に

送り先や使い道ごとに仕分けていく。

 

アリス服、アリス服(ロングスカートver.)を筆頭に

()用か従者(クロエ)用かアリス服(ティーンズ)×複数

アリスショップ限定クッキー缶に限定キーホルダー

白うさぎ特大ぬいぐるみやチェシャ猫特大ぬいぐるみ

帽子屋のお茶会セットなどなど──

 

「殆ど篠ノ之博士の買われたものですわね」

 

「今日だけで幾ら使った(溶かした)んだ…」

 

積まれている荷物の大半は、諸々の日程ガンスルーで

オックスフォードへお忍び旅行へすっ飛んで行った

篠ノ之束がアリスショップで買い漁ったものだったが。

必要な手続きのあれやこれやをきちんと踏んでいた辺り

まだ冷静さを保ってはいたのだろうが

たった半日でこの量を買い込んでくる辺りは

流石篠ノ之束と言ったところか。

 

一行がここへ着くのとほぼ同タイミングで

荷物を満載にしたどこかの輸送業者らしき軽トラが

束を乗せてやって来た時は飛び上がる程驚いたものだ。

 

 

 

「…ん、この本は何だ?『経営学入門』?」

 

「あぁそれですわね?」

 

荷物を整理していた時、一夏が一冊の本を見つける。

 

「『飲食チェーン成功の秘訣』に『料理店経営の手引き』

…セシリア、料理店でも開くのか?」

 

それは、見ての通り店舗経営に関する参考書だ。

特に飲食チェーン店や個人経営の料亭など

「食」に関する経営学を学べるものが中心となっている。

確かにセシリアは最近手料理にハマっているらしいが

企業経営についてコレ(入門編)を読む必要は無さそう。

 

では誰に宛てるモノかといえば──

 

「これは鈴さんへのお土産ですわ」

 

猪突猛進元気ハツラツ中華娘、凰鈴音宛てである。

 

「あいつに?!…あいつが…経営学…?!」

 

「鈴さんに失礼ですわよ。…確かに分かりますけれども

 

鈴は学園を卒業したら実家の料理店を継ぎたいと

そう考えているらしく、中華料理の手ほどきと引き換えに

セシリアから料理店経営の仕方を学んでいるのだとか。

 

「あいつこういうの読めるタイプじゃないだろ」

 

「でしょうね。読む度に唸り声を上げていましたわ。

こう虎のように…ガルルルルーッ!と」

 

セシリア曰く飲み込み自体はかなり早い方とのこと。

しかしやはり文字の羅列を読むのには向かないようで

毎日参考書と向き合っては頭から蒸気を吹き出しながら

猛獣のように唸っている──と、鈴のルームメイトである

ティナ・ハミルトンから愚痴られているらしい。

 

「…なるほど。まずは五反田食堂と勝負だな」

 

「五反田…というとあの時の赤い髪にバンダナの。」

 

「あぁ。ソイツの爺ちゃんが営んでる店だ」

 

「一度行ってみたいですわね」

 

「帰ったら紹介するよ。厳さんのメシは美味いぞ〜!?」

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

──その日の夜。

 

 

「さて…そろそろ寝るか」

 

シャワーを浴び終え、用意された寝巻きに着替えた一夏は

割り当てられた寝室へと向かっていた。

 

もう夜も更け、あと少しで日付が変わろうかという頃合。

 

 

 

「…誰かいる…?」

 

庭園を一望出来るテラスに人影──というよりは

そのすぐ近くの照明が点けっぱなしになっていた。

少し近付いてみればそこには特徴的な縦ロールをほどいた

儚げな貴族令嬢の後ろ姿があった。

 

 

「眠れないのか?風邪ひくぞ」

 

「いっ、一夏さん?!」

 

セシリアはだいぶ物思いに耽っていたようで

声を掛けられただけで驚きで肩が跳ねる。

 

「また昔を…思い出してしまって…」

 

「…そうか」

 

窓際は冷えるぞ、と一夏は彼女を広間の中へ誘い

薪ストーブへ数本薪を入れて火を点ける。

 

 

 

「……………」

 

「落ち着いたか?」

 

「…えぇ」

 

ホットミルクを口にし少し落ち着いたセシリア。

 

とはいえ、昼間の試合で見せていた凛々しい姿が

まるで別人のように思えてしまうほどには

纏う雰囲気がガラリと変わっている。

 

 

「少し………甘えても…宜しいですか?」

 

「あぁ」

 

「では、お言葉に甘えて………」

 

一夏の胸に顔を預けた彼女の姿はどこか幼い少女のよう。

 

 

………お父様…お母様…っ

 

力強い青年の腕の中で、少女はかつてを思い出す。

父と母を喪ってしまったあの時を。

 

 

「私のお父様とお母様は…数年前の列車事故で…

帰らぬ人となってしまいました…ぐすっ」

 

「………」

 

──イギリスのとある街で起こった列車爆破テロ。

セシリアの両親はその日、別の街での会談のために

たまたまその列車に乗り合わせていた。

死者数百名という悲惨な事故、その犠牲者名簿に

セシリアの両親の名も刻まれていたという。

 

「あの日以降、両親の遺産を狙う者が増えました…

だから私は強くなければならなかったんです…。

決して侮られたりしないように…と……。

…一夏さん。…あの日は…申し訳ありませんでした」

 

「………いい。何度も謝らなくていいさ」

 

オルコット家当主とその妻の葬儀が行われる前から

家が持つあらゆるモノを我が物にしようと

僅かでも家に縁のある者達が次々と遺産に集った。

そんな邪な者達から両親の遺産を守るべく

10歳と少しにしてオルコット家現当主を継いだ

セシリアはひたすら努力を重ねてきた。

 

入学式の日、ああして高慢な態度を取ってしまったのは

その努力が裏目に出たからだった。

 

 

「一夏さんは…まるでお父様のようですわ…。

力に溺れず、そして周りを気遣うことを忘れない…

自身の行動に責任を持てる素晴らしいお方」

 

「……………」

 

ISが台頭し男が力を失った時セシリアの父は

表舞台から身を引き、当主代理の妻に尽くす道を選んだ。

学園へ入学するまではそんな父を卑屈だと嫌っていたが

一夏と出会い考えを変えられ、あの時の父の行いが

全ては母や自分を守るためであったと知って。

 

失くした後だった。偉大な父だと気付いたのは。

そんな父に、何も言ってあげられなかった。

もう一度言ってあげたかった。「大好きだ」と。

 

「うぅっ……お父様ぁ…お母様ぁっ………」

 

 

 

 

 

 

 

「──セシリア。お前はよくやった。幼くして私の跡を

継いだ時はどうなるかと心配に思ったものだが

これほどまでに立派になるとは…。父さんは嬉しいよ。

お前は私の最高の娘だ…大好きだよ、セシリア…。」

 

「おとう…さま…!?」

 

泣きじゃくるセシリアを見て、()()()自然と口を開いた。

 

何故そう言おうと思ったのかは分からなかったが

考えるまでもなくそう言葉を紡いでいた。

何故セシリアが娘に見えたのかは分からなかったが

考えるまでもなく彼女の頭を撫でていた。

 

「よしよし…良い子だセシリア」

 

うわぁぁぁんおとうさまぁぁぁっ!!

 

優しい微笑みを向けてくれる一夏の姿が

大好きな父の姿とダブって見えたセシリアは

感極まって大粒の涙を流し泣き始めてしまう。

泣いて、泣いて、泣き疲れて寝てしまうまで

一夏は彼女の頭を優しく撫で続けた。

 

言葉を口にした時一夏は気付けなかったが

もしかしたら、彼女の父がそこに居たのかもしれない。

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

 

 

 

「なんだか凄く素敵な夢を見ていた気がしますわ」

 

「…そうか。良かったじゃないか」

 

翌朝。広間のソファで眠りに落ちていた2人は

起きてきたマドカに叩き起こされた。

 

今日12月24日はクリスマスイブであるほかに

セシリアの誕生日でもある。今年は学園生活で忙しいため

かなり親しい家柄の人間しか呼んでいないが

それなりの人数がここを訪れるので、屋敷のメイド達は

朝からバタバタと大忙しである。

 

 

「これなら今日のパーティーも乗り切れそうですわ」

 

「誕生日に良い思い出が無いのか」

 

「例年通りであれば大勢"親族"が来ますから」

 

「そういうことか」

 

今日来るのは主に両親の兄弟家族、セシリアから見て

伯父や叔母に当たる人たちが訪ねてくる程度なので

金やら権力やらを気にする必要はほとんど無い。

 

「──君がセシリアの言っていた織斑一夏君か。

確かに雰囲気が兄さんに似ているね」

 

「そんなにですか?」

 

「あぁ勿論。セシリアが『お父様』って呼び間違えるのも

よく分かるよ」

 

「ちょっ…えっ…伯父様!?ど…どこでそれをっ!?

い、一夏さん…どうか聞かなかったことに…!」

 

「同い年で良ければ養子にしてやろうか?」

 

「乗らないでくださいましっ!」

 

「一夏君が義兄か?私はぜひとも歓迎しよう!」

 

「おぉう…意外な反応」

 

こんな気楽に話せる位に気のいい人達ばかりなのだから。

 

 

その後セシリアの誕生日パーティーはささやかに──

とはいっても一夏達5人に屋敷のメイド

招待された親族と人数は並では無かったので

一般的な家庭の誕生日パーティーよりも賑やかに進められ

最後にセシリアが沢山のプレゼントを受け取って

パーティーはトラブルもなく無事に終了した。

 

 

 

「冬休みはやっぱりあっという間に終わりそうだな」

 

「楽しい時間はあっという間とも言いますもの」

 

翌日明朝に英国空軍・IS軍の護衛と共に日本へ帰国し

あと数日もすれば年が明けて3学期だ。

 

テラスから庭園を見渡しながら、イギリス王室御用達の

フォートナム&メイソンの紅茶を堪能する2人。

北風で冷えた身体に淹れたての温かい紅茶が染み渡る。

 

「今度応接室用にハロッズ辺りを試してみるか」

 

「では少々仕入れておきますわね」

 

「ありがとう。領収書はここ宛てで頼むな」

 

どこそこの会社は売れ行きが良いらしい、とか

あの商品とこの商品は仕入れて正解だった、とか

話をしていると自然と内容が経済や商売のお話になるのは

2人が大企業のトップ同士だからだろうか。

結構話していて楽しいらしい。

 

 

 

 

 

「──織斑一夏様!セシリアお嬢様!」

 

そんな時だった。何やら慌てた様子でメイドが数人

一夏達の方へと駆け寄ってきた。

 

「何がありましたの?!」

 

「お2人共、早くテレビへ!」

 

そして、2人の手を掴むやいなや再び駆け出し

テレビが置かれている広間へと向かう。

 

どうやら騒ぎになる様な内容が放送されているようだ。

 

 

ヴーーーッ…ヴーーーッ…

 

[発信者:H.A.L.O.SupportSystem]

 

一夏のスマホも緊急事態だと騒ぎ立てる。

 

 

 

辿り着いた広間のテレビで流れていたのは───

 

 

 

 

 

『──円卓の騎士王の剣は我らが頂いた!

かの剣を裏切りの魔剣としたくないのならば

我らの要求に応えよ!我らが求めるものは2つ!

織斑一夏と篠ノ之束、この2人の身柄だ!

イギリス政府はこの放送の終了より12時間以内に

2人の身柄を拘束し我らへ引き渡せ!

さもなくばロンドンは光の中へ消えることになるだろう!

繰り返す──』

 

 

 

イスラム国を起源とする中東系テロ組織による

電波ジャックだった。

 

 

 





この回でパート数が53に。
とうとうエヴァに追いついてしまった…。
エヴァの方は中々モチベが上がらなくて…。

流石にそろそろ鈴ちゃんを活躍させたいけど
思った以上に彼女周りの構築がスカスカで
どう活躍させようかかなり迷ってる。
欧州組はある程度固まってるんですけどね…。

次回からエクスカリバー編。
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