「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
セッシー回。
中盤ちょっとオカルト有り。
一夏達によるイギリス来訪は大成功に終わった。
多くのものを得ることが出来たと喜んだイギリスだが
その中でも特にIS技術の転用法は大いに喜ばれた。
何せあと2年半ほどでISは軍事面に於ける力を失うのだ
であれば、それを見越した技術発展を狙うべきだろう。
そういった風潮はフランスを中心にEU諸国に広まり
新たな流れを作りつつある。
「ここが私の実家になりますわ」
そんな流れを生み出した張本人である一夏とその一行は
今日の宿泊先でもあるセシリアの実家を訪れていた。
明日12月24日はそう、クリスマスイブ──
もとい、セシリア・オルコットの誕生日でもある。
どうせ自分はパーティーの準備やらで
実家に戻らなければならないのだし
良ければ泊まっていかないか、という提案に
変にホテル取るよりいいかもなと一夏が乗ったのだ。
「流石セシリア、良い家持ってるんだな」
「一夏さんがそれを仰いますか?」
「俺の家とは方向性が全く違うだろ」
「それはそうですけども…」
英国随一の資産家貴族の名は伊達では無いといった所か
彼女の実家は中世ヨーロッパの建築デザインを踏襲しつつ
先進技術を随所に採用した格式高いもの。
美しく整えられた庭園もある超豪邸であり
炊事洗濯などを担う使用人も大勢雇われている。
AIアシスタント付きの超ハイテクな豪邸を持つ一夏が
それを褒めるのは何だか皮肉な感じがするが
2人の自宅の方向性は同居出来るようなものではないので
この場合は純粋な賞賛だろう。
「なら改築を手配しようか?」
「…いいえ、それは遠慮しておきますわ」
持ち掛けられた改築の提案をセシリアは断る。
一夏からの提案なら悪くは無いかなとは思ったのだが
この話が出た瞬間、すぐそこのソファに腰掛けて
特大アリスぬいぐるみを幸せそうな顔で愛でていた束が
「お、何か面白そうな話!?」とでも言いたそうな
キラキラした瞳でこちらを見てきたので断っておいた。
ここで首を縦に振れば家中アリスまみれにされて
束の別荘扱いになりそう──そんな気がしたのだ。
プライバシー皆無のオマケ付きで。
「──では残りの荷物はあちらへ。それはお土産ですので
メモの通りに仕分けて学園へ送っておいて下さいまし」
「随分大荷物になったもんだな」
「学園の皆さんへのお土産ですもの」
まるで自宅かのように寛ぐウサギは置いておいて
一夏とセシリア、マドカと白うさぎ隊隊員2人は
山のように積み上がった荷物をメイド達と一緒に
送り先や使い道ごとに仕分けていく。
アリス服、アリス服(ロングスカートver.)を筆頭に
アリスショップ限定クッキー缶に限定キーホルダー
白うさぎ特大ぬいぐるみやチェシャ猫特大ぬいぐるみ
帽子屋のお茶会セットなどなど──
「殆ど篠ノ之博士の買われたものですわね」
「今日だけで幾ら
積まれている荷物の大半は、諸々の日程ガンスルーで
オックスフォードへお忍び旅行へすっ飛んで行った
篠ノ之束がアリスショップで買い漁ったものだったが。
必要な手続きのあれやこれやをきちんと踏んでいた辺り
まだ冷静さを保ってはいたのだろうが
たった半日でこの量を買い込んでくる辺りは
流石篠ノ之束と言ったところか。
一行がここへ着くのとほぼ同タイミングで
荷物を満載にしたどこかの輸送業者らしき軽トラが
束を乗せてやって来た時は飛び上がる程驚いたものだ。
「…ん、この本は何だ?『経営学入門』?」
「あぁそれですわね?」
荷物を整理していた時、一夏が一冊の本を見つける。
「『飲食チェーン成功の秘訣』に『料理店経営の手引き』
…セシリア、料理店でも開くのか?」
それは、見ての通り店舗経営に関する参考書だ。
特に飲食チェーン店や個人経営の料亭など
「食」に関する経営学を学べるものが中心となっている。
確かにセシリアは最近手料理にハマっているらしいが
企業経営について
では誰に宛てるモノかといえば──
「これは鈴さんへのお土産ですわ」
猪突猛進元気ハツラツ中華娘、凰鈴音宛てである。
「あいつに?!…あいつが…経営学…?!」
「鈴さんに失礼ですわよ。…確かに分かりますけれども」
鈴は学園を卒業したら実家の料理店を継ぎたいと
そう考えているらしく、中華料理の手ほどきと引き換えに
セシリアから料理店経営の仕方を学んでいるのだとか。
「あいつこういうの読めるタイプじゃないだろ」
「でしょうね。読む度に唸り声を上げていましたわ。
こう虎のように…ガルルルルーッ!と」
セシリア曰く飲み込み自体はかなり早い方とのこと。
しかしやはり文字の羅列を読むのには向かないようで
毎日参考書と向き合っては頭から蒸気を吹き出しながら
猛獣のように唸っている──と、鈴のルームメイトである
ティナ・ハミルトンから愚痴られているらしい。
「…なるほど。まずは五反田食堂と勝負だな」
「五反田…というとあの時の赤い髪にバンダナの。」
「あぁ。ソイツの爺ちゃんが営んでる店だ」
「一度行ってみたいですわね」
「帰ったら紹介するよ。厳さんのメシは美味いぞ〜!?」
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──その日の夜。
「さて…そろそろ寝るか」
シャワーを浴び終え、用意された寝巻きに着替えた一夏は
割り当てられた寝室へと向かっていた。
もう夜も更け、あと少しで日付が変わろうかという頃合。
「…誰かいる…?」
庭園を一望出来るテラスに人影──というよりは
そのすぐ近くの照明が点けっぱなしになっていた。
少し近付いてみればそこには特徴的な縦ロールをほどいた
儚げな貴族令嬢の後ろ姿があった。
「眠れないのか?風邪ひくぞ」
「いっ、一夏さん?!」
セシリアはだいぶ物思いに耽っていたようで
声を掛けられただけで驚きで肩が跳ねる。
「また昔を…思い出してしまって…」
「…そうか」
窓際は冷えるぞ、と一夏は彼女を広間の中へ誘い
薪ストーブへ数本薪を入れて火を点ける。
「……………」
「落ち着いたか?」
「…えぇ」
ホットミルクを口にし少し落ち着いたセシリア。
とはいえ、昼間の試合で見せていた凛々しい姿が
まるで別人のように思えてしまうほどには
纏う雰囲気がガラリと変わっている。
「少し………甘えても…宜しいですか?」
「あぁ」
「では、お言葉に甘えて………」
一夏の胸に顔を預けた彼女の姿はどこか幼い少女のよう。
「………お父様…お母様…っ」
力強い青年の腕の中で、少女はかつてを思い出す。
父と母を喪ってしまったあの時を。
「私のお父様とお母様は…数年前の列車事故で…
帰らぬ人となってしまいました…ぐすっ」
「………」
──イギリスのとある街で起こった列車爆破テロ。
セシリアの両親はその日、別の街での会談のために
たまたまその列車に乗り合わせていた。
死者数百名という悲惨な事故、その犠牲者名簿に
セシリアの両親の名も刻まれていたという。
「あの日以降、両親の遺産を狙う者が増えました…
だから私は強くなければならなかったんです…。
決して侮られたりしないように…と……。
…一夏さん。…あの日は…申し訳ありませんでした」
「………いい。何度も謝らなくていいさ」
オルコット家当主とその妻の葬儀が行われる前から
家が持つあらゆるモノを我が物にしようと
僅かでも家に縁のある者達が次々と遺産に集った。
そんな邪な者達から両親の遺産を守るべく
10歳と少しにしてオルコット家現当主を継いだ
セシリアはひたすら努力を重ねてきた。
入学式の日、ああして高慢な態度を取ってしまったのは
その努力が裏目に出たからだった。
「一夏さんは…まるでお父様のようですわ…。
力に溺れず、そして周りを気遣うことを忘れない…
自身の行動に責任を持てる素晴らしいお方」
「……………」
ISが台頭し男が力を失った時セシリアの父は
表舞台から身を引き、当主代理の妻に尽くす道を選んだ。
学園へ入学するまではそんな父を卑屈だと嫌っていたが
一夏と出会い考えを変えられ、あの時の父の行いが
全ては母や自分を守るためであったと知って。
失くした後だった。偉大な父だと気付いたのは。
そんな父に、何も言ってあげられなかった。
もう一度言ってあげたかった。「大好きだ」と。
「うぅっ……お父様ぁ…お母様ぁっ………」
「──セシリア。お前はよくやった。幼くして私の跡を
継いだ時はどうなるかと心配に思ったものだが
これほどまでに立派になるとは…。父さんは嬉しいよ。
お前は私の最高の娘だ…大好きだよ、セシリア…。」
「おとう…さま…!?」
泣きじゃくるセシリアを見て、
何故そう言おうと思ったのかは分からなかったが
考えるまでもなくそう言葉を紡いでいた。
何故セシリアが娘に見えたのかは分からなかったが
考えるまでもなく彼女の頭を撫でていた。
「よしよし…良い子だセシリア」
「うわぁぁぁんおとうさまぁぁぁっ!!」
優しい微笑みを向けてくれる一夏の姿が
大好きな父の姿とダブって見えたセシリアは
感極まって大粒の涙を流し泣き始めてしまう。
泣いて、泣いて、泣き疲れて寝てしまうまで
一夏は彼女の頭を優しく撫で続けた。
言葉を口にした時一夏は気付けなかったが
もしかしたら、彼女の父がそこに居たのかもしれない。
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「なんだか凄く素敵な夢を見ていた気がしますわ」
「…そうか。良かったじゃないか」
翌朝。広間のソファで眠りに落ちていた2人は
起きてきたマドカに叩き起こされた。
今日12月24日はクリスマスイブであるほかに
セシリアの誕生日でもある。今年は学園生活で忙しいため
かなり親しい家柄の人間しか呼んでいないが
それなりの人数がここを訪れるので、屋敷のメイド達は
朝からバタバタと大忙しである。
「これなら今日のパーティーも乗り切れそうですわ」
「誕生日に良い思い出が無いのか」
「例年通りであれば大勢"親族"が来ますから」
「そういうことか」
今日来るのは主に両親の兄弟家族、セシリアから見て
伯父や叔母に当たる人たちが訪ねてくる程度なので
金やら権力やらを気にする必要はほとんど無い。
「──君がセシリアの言っていた織斑一夏君か。
確かに雰囲気が兄さんに似ているね」
「そんなにですか?」
「あぁ勿論。セシリアが『お父様』って呼び間違えるのも
よく分かるよ」
「ちょっ…えっ…伯父様!?ど…どこでそれをっ!?
い、一夏さん…どうか聞かなかったことに…!」
「同い年で良ければ養子にしてやろうか?」
「乗らないでくださいましっ!」
「一夏君が義兄か?私はぜひとも歓迎しよう!」
「おぉう…意外な反応」
こんな気楽に話せる位に気のいい人達ばかりなのだから。
その後セシリアの誕生日パーティーはささやかに──
とはいっても一夏達5人に屋敷のメイド
招待された親族と人数は並では無かったので
一般的な家庭の誕生日パーティーよりも賑やかに進められ
最後にセシリアが沢山のプレゼントを受け取って
パーティーはトラブルもなく無事に終了した。
「冬休みはやっぱりあっという間に終わりそうだな」
「楽しい時間はあっという間とも言いますもの」
翌日明朝に英国空軍・IS軍の護衛と共に日本へ帰国し
あと数日もすれば年が明けて3学期だ。
テラスから庭園を見渡しながら、イギリス王室御用達の
フォートナム&メイソンの紅茶を堪能する2人。
北風で冷えた身体に淹れたての温かい紅茶が染み渡る。
「今度応接室用にハロッズ辺りを試してみるか」
「では少々仕入れておきますわね」
「ありがとう。領収書はここ宛てで頼むな」
どこそこの会社は売れ行きが良いらしい、とか
あの商品とこの商品は仕入れて正解だった、とか
話をしていると自然と内容が経済や商売のお話になるのは
2人が大企業のトップ同士だからだろうか。
結構話していて楽しいらしい。
「──織斑一夏様!セシリアお嬢様!」
そんな時だった。何やら慌てた様子でメイドが数人
一夏達の方へと駆け寄ってきた。
「何がありましたの?!」
「お2人共、早くテレビへ!」
そして、2人の手を掴むやいなや再び駆け出し
テレビが置かれている広間へと向かう。
どうやら騒ぎになる様な内容が放送されているようだ。
ヴーーーッ…ヴーーーッ…
[発信者:H.A.L.O.SupportSystem]
一夏のスマホも緊急事態だと騒ぎ立てる。
辿り着いた広間のテレビで流れていたのは───
『──円卓の騎士王の剣は我らが頂いた!
かの剣を裏切りの魔剣としたくないのならば
我らの要求に応えよ!我らが求めるものは2つ!
織斑一夏と篠ノ之束、この2人の身柄だ!
イギリス政府はこの放送の終了より12時間以内に
2人の身柄を拘束し我らへ引き渡せ!
さもなくばロンドンは光の中へ消えることになるだろう!
繰り返す──』
イスラム国を起源とする中東系テロ組織による
電波ジャックだった。
この回でパート数が53に。
とうとうエヴァに追いついてしまった…。
エヴァの方は中々モチベが上がらなくて…。
流石にそろそろ鈴ちゃんを活躍させたいけど
思った以上に彼女周りの構築がスカスカで
どう活躍させようかかなり迷ってる。
欧州組はある程度固まってるんですけどね…。
次回からエクスカリバー編。