「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
また少し間が空いてしまいましたね…
フワライドとトリトドンの色オヤブンを捕まえて
レジェアル熱が再燃しつつある私です。
ちょっとシリアス強めとのことで
今回は日常回を挟んでみました。
ラブコメになってるかは不明ですが…。
ともかく、次回まで日常回の予定。
ピピピピッ…ピピピピッ…
普段は余り使われない
目覚まし時計の音が鳴り響く。
「…朝…か」
部屋の主は、織斑千冬。
仕事がある日は基本的に学園の寮長室を使うため
この部屋を利用する機会は少なめであった。
「……………」
つまるところ、今日は仕事は休み。
それを理解した千冬は、起き上がろうとしていた身体を
再びベッドへと投げ出す。如何せんここ最近クソ忙しい。
束といいイーリスといい──自由奔放な友人達が
好き放題やった尻拭いに走らされている記憶しか無い。
『千冬様。朝食のご用意は出来ておりますよ』
「ん…そうか」
自由奔放さで言えば一夏も結構やりたい放題しているが
一夏はその分色々と気を回してくれるから別だった。
「メニューは?」
『"いつもの"ですね』
「そうか。今行く」
『では、温めをしてお待ちしております』
サポートAIヴィーナスの言う「いつもの」とは
まだ千冬が学園教師ではなかった頃から定期的に
一夏が作ってくれるお気に入りのメニューである。
焼き鮭に卵焼きに味噌汁に──と、内容としては
どこにでもあるような和風の朝食なのだが
千冬にとっては色々な意味でお気に入りの内容。
今さっきまでベッドでぐでーっと寝転んでいたのに
シャキッと目が覚める。
「おはよう姉さん」
「おはようマドカ」
階をひとつ降り、ゲーム中のマドカに軽く声を掛け
メインダイニングへと向かう。
寝巻きから着替えてダイニングへ来る頃には
丁度ヴィーナスが朝食を温め終えている頃であり
ファミレスで見かけそうな配膳ロボットが
トレーに乗った朝食をテーブルまで届けてくれる。
[13時まで航空宇宙技術開発部にいます 一夏]
「全く…病み上がりだろうに…」
年明け早々過労で倒れかけたというのによくやる、と
一夏のことを心配しつつも、焼き鮭をほぐして
綺麗に解凍された白米にかけて口の中へ放り込む。
(塩辛さがいい塩梅だ。流石は一夏だな)
今日も一夏の作った飯が美味い。
カップラーメンやらファーストフードやらが
以前にも増して普及してきたこのご時世
こんな"ザ・和食"を味わう機会は減ってきたというのに
焼き鮭の塩味も卵焼きの甘さも絶妙なのだ。
続けて味噌汁をすすれば、冬の朝の冷えた身体が
心身ともにポカポカ温まるというもの。
学園の食堂の料理も悪くはないし普通に美味しいのだが
千冬にとって一夏の作る"いつもの"に勝る料理は
今の今まで食べたことが無かった。
「今日は休みだし飲むか」
おまけで冷蔵庫から缶ビールを1本取り出し
グビッと1杯。もう1つ階を降りてワインセラーへ行けば
一夏が
このメニューに合うのはこの缶ビール。
たまに家に帰ってくればある、この何気ない時間。
弟が作ってくれる馴染みの飯と、ただの缶ビール。
それが、周りに問題児を何人も抱えていながら
千冬が潰れてしまわない理由であった。
プルルルルッ…プルルルルッ…
「…はい、織斑です。何?仕事?!………」
だからと言って、貴重な休日に仕事を追加されて
不機嫌にならない訳では無いのだが…。
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時刻は進んで、4時過ぎ。
季節が季節なだけに既に日は沈み始めており
凍てつく風が千冬の頬を撫でた。
「はぁ…全く、疲れた……」
千冬が呼び出された主な理由は、学園所有の訓練機を
束が無断改造した事に対する処分として求められた
今現在どの国家にも所属していない扱いの2機について
どれ程の性能を有しているのか詳しい調査を行うとして
わざわざ委員会の専属パイロットまで寄越すのだとか。
「結局あの打鉄は私の専用機扱いだからな………」
あの魔改造打鉄の件については千冬も乗り気だったため
安易に「あんの馬鹿兎が!」とキレる訳にもいかない。
まるで黒歴史を掘り返されているような気分だった。
「………飲みにいくか」
こういう時の気分転換にはアルコールが一番。
千冬は愚痴を聞いてくれそうな同僚に声を掛け
行きつけのバーに飲みに行くことにした。
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「──すまないな。急に呼び出したりして」
「いえいえ、家で暇してたくらいでしたから」
真耶と共にバーを訪れ、早速ワインを1杯。
「今日はペースが早いですね?」
「あぁ。飲まんとやってられん」
一夏が病み上がりなのに仕事の虫で気が気じゃないと
愚痴りながら1杯目のワインを飲み干し。
イーリスの移籍で大量に事務手続きをさせられたから
自分とナターシャの胃が死にかけたと言いつつ更に1杯。
束があれこれ新事業を展開するせいで自分のスマホが
ひっきりなしに鳴りまくっててキレそうと言いながら
一段お高い高級日本酒を開ける。
「ほら、お前も飲め」
「良いんですか?」
「構わん。金はあまり使わないからな」
「ではお言葉に甘えて」
一夏がバンバン稼いでくるうえ千冬本人も高給取りで
織斑家の家計はラウラとマドカの学費を差し引いても
強気で株に手を出せるくらいには余裕がある。
だからというのもあるのか、千冬は次のワインを開ける。
その結果──
「あ゛〜っ全くやってられるか!あんの馬鹿兎が!
少しは私の胃を気遣ってほしいものだ!
次やらかしたら徹底的にシメてやる!」
ものの見事に酔っ払った。
真耶は彼女のダル絡みに慣れているから平気だが
傍から見れば千冬は相当な残念美人に映るだろう。
まぁ実際残念美人な所はあるのだが。
「──隣、いいかい?」
千冬が新しく開けたワインを1本飲み終えた辺りで
2人が座っていた席の隣に男が1人やってくる。
「構わん構わん。気を遣わなくてもいい」
「では遠慮無く」
優しげな声と見た目をした茶髪の男だった。
見た目の割にかなりゴツゴツした手をしている辺り
エンジニアだったりするのだろうか。
「織斑先生…その人──」
「まだ飲み足りないな…山田君、もう1杯いくか?」
世には男が隣に座ることを毛嫌いする女も普通にいるが
千冬は別にそんな些細な事は気にしないとばかりに
アルコールを追加しようとメニューに手を伸ばす。
この時点でワインをボトル2本分に日本酒を4合瓶1本分と
結構な量を飲んでいるわけだが、千冬の身体能力の高さは
アルコールに対する強さまで及んでいるらしく
千冬はまだまだ酒を飲む気でいた。
「随分酔ってるみたいだね?千冬」
「何だ?別にいいだろう。何本飲もうが…」
ふと、隣に座った男が千冬に声を掛けた。
飲むのはその辺にしておけ、と。
少しイラッとした千冬は、文句を言おうと振り向いて
男の顔を見た瞬間今までの酔いが全部吹き飛んだ。
「お前っ…笹沼か!?」
「久しぶりだね、千冬。真耶君」
「総一朗さんですよね!お久しぶりです!」
2回のモンド・グロッソで愛機暮桜の面倒を見ていた
IS業界としてはかなり珍しい男性整備士である。
学生時代は千冬と2人で学級委員やら生徒会やらを担当し
当時の束にも認識されていたという極めて珍しい人物だ。
千冬が現役引退を発表した後はIS整備士を離れ
どこかの町工場に再就職したとのことらしかったが…。
「いつ戻ってきたんだ?確かお前は…」
「束君に呼ばれてね。また試合に出るんだって?」
「あ、あぁ。確か…モンド・ベローチェと言ったか」
「イタリア語で世界最速?面白そうだね」
「一夏のヤツが考えたらしい。期待しておけ」
「一夏君の噂は僕も聞いてるよ。大活躍だ、ってね」
「ふっ、私の自慢の弟だからな」
束と同レベルの付き合いなだけあって
2年半ぶりだというのに驚くほど話が弾む。
真耶とも候補生時代からの知り合いだったのもあり
なおさら昔話に花が咲くというもの。
「あ、そういえば」
そんな中、総一朗がひとつ話を切り出す。
「千冬は恋人の一人や二人、作らないの?」
「ぶふっ!?ゲホッゲホッ…急に何を言い出すんだ」
恋愛に関する話題を。
想定していなかった話題にむせる千冬。
昔からそういった事を無駄に詮索しない男だっただけに
余計に驚いたというのもあった。
で、一旦口元を拭ってから、彼に真意を問う。
「束君に旦那様が出来るって聞いたからね。
君にもそういう人がいるのかな…って」
「いや、居ないさ。最近はいつにも増して忙しいからな」
なるほどそういう事か、と話を流しかけ──
「まっ…待て待て待て!お前今何と言った?!」
総一朗がとんでもない事を口走った気がした。
「ん?いや、恋人とか居るのかなって」
「違う!その前だ!」
そう、この話の流れで出てくるはずのない人物の名前が
目の前の男の口から出てきたような…。
「束君に旦那様が、って話?」
「そうだ!アイツに旦那!?冗談だろ?!」
「本人から聞いたから多分本当だよ」
千冬は、空いた口が塞がらなくなった。
あの超絶人見知りが一体誰と?と。
そして思い至った。たった1人だけ候補がいる。
その瞬間、千冬の脳裏にある幻影が過ぎった。
"千冬お姉ちゃぁ〜ん♪"
猫撫で声でこちらを姉呼ばわりする"兎"の姿が…。
その瞬間、千冬は叫んだ。声の限り叫んだ。
娘が彼氏を連れてきた時の父親の如く叫んだ。
「お前に一夏はやらんぞーッ!!!」
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千冬のテンションがおかしくなる前にバーから撤収。
3人は飲みの場を織斑宅へと移す。
「で?お前はどうなんだ?恋人なんかは」
「ああ言っといてなんだけど僕も恋人はいないよ」
「意外ですね…総一朗さんモテそうですけど」
しかし話題は変わらず、国家代表時代を懐かしみながら
互いに浮いた話が無いかを探りあったり。
「では、私がブレイクですね。えいっ!」
「中々綺麗に当てるじゃないか」
「流石は真耶君、射撃スキルの賜物かな?」
パーティースペースにあったビリヤード台で遊びながら
3人は話を続ける。
「──想い人ならどうだ?いるだろう」
「ええ、いますよ」
真耶はブレイクショット含め割と綺麗にショットを決め
着実に相手2人の持ち玉をポケットへ寄せていくのだが
ガッツリ酔いが回っていて射撃も不得手な千冬は
手玉には当たりこそすれどそこから先がまるで当たらず。
「可愛い人なんですよ。不器用だけどとても優しくて。
…あー…これは真耶君に落とされちゃうかな」
「では総一朗さんの11番球、頂きますね。
続けて私の番なので、先輩の7番球もついでにっ」
「…待て…私の持ち玉がもうあと1つなのだが…。
しかし、可愛くて優しい…か。私とは真逆だな」
「そうかなぁ?僕はそう思わないけど…」
結果、ファウル頻発もあって千冬が真っ先に脱落。
真耶と総一朗の対決になる。
「先輩ってどんな人がタイプなんですか?」
「タイプ?忙しくて恋愛どころでは無かったからな…。
少なくとも落ち着くまでは恋愛なぞ出来んさ」
「…確かに最近世界情勢がすごく不安定だもんね。
一夏君も色々やろうとしてるみたいだし」
その後は真耶が先に総一朗の持ち玉を全て落とし
彼女の勝利で終わった。
「総一朗、お前明日の予定は大丈夫なのか?」
「明日は22階のIS技術開発部に顔を出すくらいだね。
君の専用機について一夏君と話し合ってくるよ」
「そうか。なら今日は泊まっていったらどうだ?
この通り広い家だからな、部屋は余ってるぞ」
「学園までもモノレールで1本ですからね〜」
「なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな。
僕は少しワークショップを見学してくるよ」
「分かった。では私は風呂の準備をしてこようか」
時間ももう遅いだろうと千冬が泊まりを提案し
真耶と総一朗は織斑宅に泊まっていくことになった。
「はぁ〜…いい景色ですねぇ」
風呂上がり。
真耶はホットミルク片手にバルコニーへ出て
太平洋とそれに面した工場地帯の夜景を眺めながら
色々と考え事をしていた。
(来年度から1年生の専用機持ちを全員うちのクラスに
集めるだなんて…トラブルが増えそうですね…)
学園の事とか──
(先輩と総一朗さん、ひょっとして…?)
リビングで静かにテレビを見ている2人から感じる
淡い恋の予感の事とか。
織斑宅の夜は、そうして更けていった。
新オリキャラ、笹沼総一朗さん登場。
途中で設定が生えてきたキャラなせいで
ちょっと唐突な登場になってしまった。
千冬のcv.は豊口めぐみ氏
→豊口めぐみ氏といえばミリアリア
→ミリアリアといえばディアッカ
→ディアッカのcv.は笹沼晃氏
→笹沼氏は保志総一朗氏と仲がいい
…と名前を決めました。
シリアス成分が少しでも抜けてるといいな
非リアなせいか日常回描くのが苦手すぎる…っ
アンケートの方はしばらく設置しておいて
様子を見つつ日常回を挟んでいきます。
大まかなアイデアは一夏君卒業までどころか
後日談と更なる続編まで浮かんではいるのに
意外と形になって行かないもので。
まぁ、読者様達の高評価感想を糧にして
少しずつ書き進めていきますね。