「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
シャトル打ち上げ編。
ただしそう簡単に打ち上げさせてくれる訳じゃない。
つまり、戦闘パートって訳さ。
「よし、全員集まってるな」
輸送シャトルの艦橋へ、会見を終えた一夏が顔を出した。
先程までのカッチリしたスーツ姿とは一転して
ISスーツの上から白うさぎグループの作業着を着ただけの
なんともラフな姿をしているが、表情は真剣そのもの。
普段の学園生活では決して見せないような顔色だ。
これからする事と言えば、シャトルで宇宙へ上がり
宇宙ステーションの増築工事を行うくらい。
では何故これほど緊張感が漂っているのか?
「それじゃ、ブリーフィングを始めるぞ。
既に広域レーダーが太平洋上に移動物体を捕捉してる。
戦闘は確実に起こるものだと思ってくれ」
そう、襲撃が予測されたからである。
「ドイツ軍の監視衛星から映像を回してもらったが
ニミッツ級らしき空母が1、巡洋艦と補給艦らしきものが
複数隻確認されてる。かなりの大部隊だ」
ホロスクリーン上に映像が映し出される。
太平洋のど真ん中、パールハーバーの米軍の哨戒網に
ギリギリ引っかからない位置に展開されるその部隊は
今回のシャトル打ち上げに備えているようで
既にかなりの数がその海域に滞在していた。
「ニミッツだと?随分なモノを引っ張り出してきたな…。
しかしアレが払い下げられたなど聞いていないぞ?」
艦隊の中心に居るモノの名にラウラが驚きの声を上げる。
──ニミッツ級航空母艦。
世界初の量産型原子力空母にして世界最大級の軍艦、と
その名が広く知られている航空母艦である。
ジェラルド・R・フォード級の増備やISの台頭により
既に過去のものとなりつつあるニミッツ級だが
それはあくまで国有戦力の1つとして見た場合の話。
テロリストの所有する戦力としては、あまりにも危険だ。
「他はともかく、ニミッツ級にそんな予定は無い。
ただ、アメリカは亡国機業との繋がりが根強いらしいから
解体処分された扱いにして裏から回したんだろう」
「ありがちな話だが…まさか原子力空母でやるとはな」
それに加えて、既に退役扱いとなっている艦船を
現地改修したと思しき艦影も複数確認されており
ただ事ではないというのはハッキリ見て取れる。
「とはいえ。これはあくまでも予想の範疇だ。
ニミッツまで引っ張り出してきたのには驚いたが…」
「想定内?襲撃を誘ったってこと?」
「あぁ。来ると分かっていれば対処は容易だからな」
「さすがおりむーだねぇ〜軍師おりむーだねぇ〜」
しかし一夏は余裕を崩さなかった。
簪の疑問に答え、ディスプレイの内容を次へ進める。
「ここからが本題だ。予想される亡国機業の襲撃を
俺たちで撃退し、シャトルを無事に宇宙へ上げる。
これが、今回の作戦の内容になる」
一夏が空間に指を滑らせると、小気味いい音と共に
ディスプレイ上にデフォルメされたメンバーが現れ
それぞれの受け持つ役割へ割り振られていく。
「まずは操舵士。このシャトルの操縦は少し特殊でな。
IS用インターフェースを応用したものになってる。
だから、ここにはIS操縦が出来て情報処理能力に長ける
簪に担ってもらうことになる」
「分かった。やってみる」
「次だ。本音には戦況観測と各種データリンクを
"天眼"の機能を使って担ってもらう。シャトル上部で
戦況を見つつ撃ち漏らしの対処をしてくれ」
「りょーかーい!」
簪と本音がシャトルの枠へ割り振られ
そこから更にシャトル乗組員との情報伝達や
役割の連携などを説明し、次へ進む。
次はシャトルの周囲に配置された枠への割り振り。
つまりは、戦闘要員の配置だ。
「最前線についてだが、ここは俺と箒で担当する。
高速で飛行するシャトルを護衛しつつの戦闘になるから
機動力の高い白式と紅椿で敵を蹴散らしていく」
ディスプレイ上で最も「ENEMY」の表示に近い位置へ
デフォルメされた一夏と箒が配置される。
輸送シャトルはP.I.C.フローターを内蔵しており
従来のロケットよりも要求される速度は低めなものの
それでも相当な速度で飛行する必要がある。
追随しつつの戦闘には非常に高い推力が求められるため
最前線に配置されるのは必然的に白式と紅椿になるのだ。
それも展開装甲を機動力特化にした状態で。
「ラウラ達白うさぎ隊には遊撃を頼みたい。
俺たち2人を抜けて入り込んだ敵を墜としてくれ。
敵はなるべく入り込ませないようにするつもりだが
シャトルにはステーション建設作業を担当する
うちのエンジニアが大勢乗り込んでるからな。
シャトルは絶対に撃墜させる訳にはいかない。」
「「「了解!」」」
その間となる
そう、輸送シャトルの防衛である。
シャトル製造にIS技術がふんだんに盛り込まれており
P.I.C.フローターの存在などもあって、並の宇宙船より
何倍も頑丈で墜落事故のリスクなど殆ど無い訳だが
ISの耐久力の要であるシールドエネルギーが無い時点で
どこまで行っても"並より上"程度の耐久力でしかない。
しかも、H.A.L.O.用ワークローダーを投入するとはいえ
重要な部分の仕上げは人力で行う必要があったため
白うさぎ宇宙開発所属エンジニアが数十名乗船している。
もしシャトルが撃墜された場合、一夏達専用機持ちは
ISを展開することで生き延びることは出来ても
彼らエンジニアはどう足掻いても助からない。
ステーション用のパーツは最悪作り直しが効くが
今回のミッションは決して失敗してはならないのだ。
「──ブリーフィングはこんな所だな。
打ち上げ開始が近い。皆。準備を始めるぞ」
おおまかな作戦概要を説明し終えた一夏は
出撃メンバーを引き連れ格納庫へと向かっていった。
「いやぁ、いっくんは今日もカッコよかったねぇ〜♪
どっかの軍服でも取り寄せといた方が良かったかな?」
「あの…篠ノ之博士」
「んー?何かな?かんちゃん」
「織斑君と結婚するって本当なんですか?」
「そだよー♪もしかしていっくんに惚れちゃった?
う〜ん…かんちゃんなら"いっくんのお嫁さんズ"に
入れてあげてもいいかなぁ…?」
「…え?…えぇ?…ええっと…別に惚れたとかじゃ…。
確かにカッコイイとは思うけど…むしろ私よりも
お姉ちゃんの方が惚れてるというか──」
「あ、やっぱり?」
「この前お姉ちゃんが『更識を抜けたい』とか
『"楯無"を降りるには』とかどうとか言ってたから…」
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『──こちら管制室。シャトル打ち上げまであと
300秒です。準備をお願いします』
「こちら簪、了解。打ち上げシークエンススタート」
程なくして、シャトル打ち上げ時刻寸前となり
艦橋も慌ただしく──尤も、基本的に無人化が図られ
ここには束と簪以外にはオペレーターが2人いるだけだが
ともかく漂う雰囲気が確かに変わる。
「1番核融合炉、2番核融合炉、安定稼働を確認。
エネルギーバイパス1番から4番までを切り替え。
プラズマジェットエンジン初期稼動へ」
『リニアレール、ボルテージ上昇。電圧安定』
「マスドライバーオンラインを確認。
シャトルをリニアレールへ接続………接続完了」
『シャトルの接続を確認。ステータスオールグリーン』
複雑な打ち上げプロセスが、高度な簡略化と無人化により
操舵手である簪含めたった数人で進められていく。
「打鉄弐式とのデータリンクスタート。
操舵システムへの接続を確認、思考操舵へ移行。
輸送シャトル各ステータス、最終確認を実行」
『了解。マスドライバー各ステータス最終確認を開始』
静かな励起音と共にブースターに青い輝きが灯り。
ガイドレールの間の電磁誘導システムが電磁力を帯び。
ついにシャトル打ち上げは最終フェーズに入る。
『シャトル打ち上げまであと60秒』
「了解。プラズマジェットエンジン出力上昇」
簪がエンジンのスロットルを少し開ける。
すると、船体後部の4基のノズルから光が迸り
ギィーンと甲高いを超えた割れるような高い音が
その出力の高さを物語る。
推力自体は低いプラズマジェットエンジンだが
2基の200万kw級の核融合炉から供給される電力と
P.I.C.フローターの効力が合わさることで
既存のどのエンジンをも置き去りにする速度となり
数百トン以上あるシャトルを容易く打ち上げるのだ。
『打ち上げまであと30』
「………ふーっ…」
簪は一旦目を閉じ、深呼吸を挟む。
操舵席がロボットアニメの操縦席に似ている事から来る
えも言われぬ高揚感と、世界を動かしうる大事業が
自分の手に掛かっている事から来る緊張感を
少しでも落ち着かせようと。
『カウントダウンスタート!』
「…!」
ついに、カウントダウンが始まる。
それに合わせてゆっくりスロットルレバーを倒し
エンジン出力を少しずつ上げていく。
そして──
『3!2!1!射出!!』
「行きます!!」
打ち上げが始まった。
全ての景色が急速に後ろへ流れだす。
割れそうだったエンジン音が轟音へと変わり。
P.I.C.フローターの影響で機内に慣性は働かないはずだが
身体がシートへ強く押し付けられるような感覚を覚え。
背中がシートから離れた時には、シャトルは既に
青い海の上を悠々と飛行していた。
(…!駄目!感動してる場合じゃない!)
感動のあまり魂が抜けそうになった簪だったが
様子を見るように覗き込んできた"兎"を見て
操舵に集中し直す。
目の前のホロスクリーンに映し出された飛行ルートを
なぞるようにして船体を慎重に動かしていく。
IS用インターフェースが流用された操舵システムにより
シャトルは簪が思い描いた通りに空を泳いでいった。
そうして大空を飛ぶこと数分。
ピ-ッ!ピ-ッ!ピ-ッ!
[!ATTENTION!]
[!UNKNOWN APPROACHING!]
やはりというべきか。
そこに居る"彼ら"は、招かれざる客であったようだ。
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『織斑君!』
「やはり来たか…ハッチを開けてくれ!」
『後部ハッチ解放。しゅ、出撃どうぞ!』
未確認機接近。格納庫でその報を聞いた一夏達は
一切の迷いなく出撃態勢に入った。
「一角獣の騎士、出るぞ!」
「篠ノ之箒、紅椿改弐型、出る!」
後方から吹き込んでくる冷たい風を背中で感じながら
一夏と箒が格納庫のデッキを自機の脚で蹴る。
背中から大空へ身を投げるように飛び出した2人は
ワンテンポ置いてブースターを点火
シャトルと並走する軌道へと入る。
「ナイトライダー、出るぞ!」
続けて、ラウラが白うさぎ隊隊員を伴って飛び立ち。
「九尾ノ魂、行くよ〜!」
最後に本音が"天眼"を起動しつつ飛び出し
シャトル上部へと足を下ろす。
「うわぁ〜…お客さんいっぱいだねぇ」
並の第3世代機を遥かに凌駕する九尾ノ魂のセンサーは
シャトルの性能では正確に捉えられなかった敵影を
余すことなく視界に収めていた。
「えーっとね、ISが14──」
「14?!…待った、本当に14か?」
「うん。天眼は14って言ってるよ」
あまり知りたくは無かった数まで捉えていた。
「あとは熱源が9かな?あとその後ろからも熱源が
いくつも来てる!みんなに共有するよ〜!」
九尾ノ魂が捉えていたのは、想像以上の大部隊。
現時点で仮に大国同士でISによる戦争を行うとなると
ISの運用法は基本的にワンマンアーミーとなり
小隊を組むことがあっても精々3機構成が限度だ。
何故かと言われれば、配備数の少なさもそうだが
なにより過剰戦力になってしまう点が大きい。
ましてや10機を超える中隊規模が組まれることなど
それこそ世界大戦クラスでも無ければ有り得ない。
だがその世界大戦クラスの編成が今まさに目の前に。
展開の仕方からして、恐らくは4機編成の小隊が3つ。
そしてそれを指揮する中隊長機が1機。
突出している足の速い1機は単独のエース機だろうか。
ともかく、大国同士の戦争に匹敵する戦力が
たった数人の少年少女を相手に差し向けられたのだ。
「YF-48A…!まさか"ハウンド"までお出ましとはな」
「何だ一夏、ハウンドとやらはそんなに強敵なのか?」
「強くは無いんだが…奴らの対IS用徹甲弾はかなり痛い。
単独なら大した事は無いが編隊を組まれるとキツイな」
しかし厄介な敵はそれだけでは無かった。
本音が確認した熱源9。後続に複数の熱源を引き連れた
その航空機がまた中々に厄介な相手だったのだ。
──YF-48A 対IS用支援戦闘機「ハウンド」。
IS台頭黎明期に米国で少数のみ製造された戦闘機で
IS部隊に随伴し支援攻撃を行うことを目的とした機体だ。
開発コスト以上の戦果を挙げられなかったことや
パイロットに掛かる負担が大きかったことなどから
程なくして生産が打ち切られた形式だったのだが
この襲撃のためにわざわざホコリを被っていた試作機を
蔵から引っ張り出してきたのだろう。
「少し想定が甘かったか…先制して敵を叩くぞ!
ラウラ!前に出て箒と2人で側面の2個小隊に当たれ!
後方の小隊はネーナとファルケが見ればいい!
本音は艦を防衛しつつ"天眼"で戦況を教えてくれ!
敵エースは、俺が抑える…!皆、頼むぞ!!」
太平洋上空で、熾烈な戦いの幕が開けるのだった。
次回、本格的な戦闘パート。
鈴ちゃんとたてなっちゃんは学園でお留守番。
あとついでにアキちゃんもお留守番してます。
鈴ちゃんは出番増やしたいなと思ってるんだけど
中々思うようには行かんなぁ…。