「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
お久しぶりです。
期間が空いてしまいましたね…。
いつか描きたいパートだったつもりなんですが
以外にも中々筆が乗らなかったというか
元ネタ側にセリフが少なかったせいで
中身がスカスカになりそうだったというか…。
とりあえず、今回はシャトル打ち上げ完結編。
『スラストリバース、60秒前。2番艦逆加速防御完了』
「了解。始めるぞ」
ヨーロッパ上空。
二度の襲撃を退けた白うさぎ宇宙開発輸送シャトルは
ついに大気圏離脱へと入ろうとしていた。
『バリュート展開』
クロエの声と同時に上空に赤い光が現れる。
先に物資打ち上げを行い待機していた2番艦が
非常時用大気圏突入パラシュートを展開し
熱圏上層に当たる高度500km付近へ降下してきたのだ。
それと同時にシャトル1番艦が船体上部に備え付けられた
ケーブルコネクタを解放、テザー接続の準備を進める。
『…いっくん、緊張してる?』
「してない──と言いたい所だが、若干な」
今回一夏達が行おうとしているのは、言うなれば
故障車の牽引。自動車や鉄道車両でもまれに行われる
非常事態への対処としてはよく見られる対応。
それを輸送シャトルにも適応しようという訳だ。
ただし、今回のソレはあまりにもスケールが違った。
長編成の鉄道車両よりも重い数百トンクラスの機体を
道路もレールも無い空で宇宙へと運ぶ。
流石の一夏もこれには緊張するらしい。
『もう1回操作手順言おうか?』
「いや、いい」
ケーブルコネクタの横に一夏が降り立つ。
「マニュアル操作とはいえ、構造は単純なんだ。
これぐらいは出来るさ」
表情にはまだまだ余裕があった。
『テザー、射出します』
そこから数十秒ほどしてテザーが射出される。
軌道エレベーター建設などに利用することも想定した
超強化カーボンナノチューブ製のケーブルだ。
そのケーブルが時折太陽の光に照らされて
キラキラ輝きながらシャトルの方へと降りてくる。
「よし。コネクタを確認した」
先端部の位置を確認した一夏はシャトルから飛び立ち
ケーブルコネクタをキャッチ。
「接続プロセスに入る。簪、頼む」
『了解』
それを手に再びシャトルへと降り立つ。
『接続部解放。織斑君!』
「接続する!」
だが。
そのコネクタを接続しようとしたまさにその瞬間だった。
ギュウゥゥン………
ガゴンッ!!
「うッ!?」
嫌な音と共にシャトルが大きく揺れる。
そして、ギギギギッと軋み始めるケーブル。
「どうした?!」
凄まじい力で上空へ引き上げられそうになるケーブルを
全力で引き留めながら一夏が現状を問うた。
ビ-ッ!!ビ-ッ!!ビ-ッ!!ビ-ッ!!
『エンジンにトラブル発生…っ!出力が上がらない!』
[PLASMA JET ENGINE No.2 !!BREAKDOWN!!]
鳴り響く警告音と共に帰ってきた答えは
極めて危険性の高いものであった。
"エンジン故障"
パワーダウンを起こしていた左上側のエンジンが
ついに負荷に耐えきれなくなり停止してしまったのだ。
併設されているサブエンジンは生きているらしいが
とてもではないがメインエンジンの代わりにはならず。
「なんとか踏ん張れないのか!?」
『これでめいっぱい!』
簪はバランスを崩さないようエンジンを吹かすが
ケーブルの張りは確実に強まっていく。
ギギギッ…ギギィッ…!
「ぐッ…ぐおぁァッ…!!」
[SHIELD ENERGY:!!DANGER!!]
『いっくん!そのままじゃいっくんが!』
そしてそれはケーブルを掴んでいた一角獣の騎士に
凄まじい負荷を掛けた。圧倒的な性能を持つISと言えど
超重量の物体を引き上げるための構造ではないのだ。
腕部フレームの軋む音と、がなり立てる警告音と共に
とんでもない勢いでシールドエネルギーが減っていく。
第4世代機の──適応型骨格の異常な剛性が無ければ
今頃一夏はシールドや絶対防御もろとも引きちぎられ
真っ二つになってしまっていただろう。
しかしそれでも危機的状況には変わりはなく。
手を離さなければ一夏の命は無い。
だが手を離せばシャトルは墜落する。
艦内に残っていたネーナとファルケ、本音や
状況を見ていた箒、ラウラ、セシリアも
スラスター全開でシャトルを押し上げようと動いたが
多少負荷が増すスピードを抑えられる程度であり
根本的な解決には至らず。
(このままでは一夏が…!もっと力を貸してくれ紅椿っ!)
(一夏さんの力になる!私はそう誓ったのですわ!)
(頼む…私の想いに応えてくれ…レーゲン…ッ!)
(お願い…上がって…!私も…"未来"を見に行きたい!)
(おりむー頑張って!私もかんちゃんも応援してるから!)
しかしその時。
(──必ず成功させなさいよ。一夏。
パーティの準備して待っててあげるんだから)
(お母さん…どうか、一夏を守ってあげて。
僕に新しい道をくれた彼を…)
(織斑君。きっと貴方なら成し遂げられるわ。
だからどうか、簪ちゃんと一緒に無事に帰ってきて)
(ノワールよ…私の想いを兄さんに届けてくれ…。
形の無いものでしかないが…それでも…!)
不思議なことが起こった。
箒とラウラが、一夏の手に自身の手を添え。
黄金の輝きが3人を包む。
「!」
そしてその輝きは、一角獣の騎士に取り込まれ
赤かった内部フレームの輝きが緑色に変わると同時に
虹色を帯びたような美しい緑色へ変わっていく。
輝きはシャトルを柔らかく、暖かく包み。
ケーブルを伝ってその先とを繋ぎ。
『何なの…この光は…?!』
一夏と、彼を想う者達の意志を乗せたその光は
不可能すらも可能にした。
「シャトルが…上がっていく…!?」
静かに、だが確実にシャトルが上昇していく。
その場にいた誰もが思わず息を飲む光景。
先程まで凄まじい負荷に悲鳴を上げていた一角獣の騎士が
まるで重さなど存在しないかのようにそれを繋ぎ止め
ゆっくりと宇宙へと導いていた。
光に包まれ人智を超越した事を成すその様は
まさしく"奇跡"と言うほかは無く。
(──分かるわ。一夏。あんたは成し遂げたのね)
その光は、ヨーロッパやユーラシアで広く観測された。
空に美しく煌めく"虹"として。
それを見た多くの者は各々様々な感想を抱いたが
ごく一部の者はそこに強い意志を感じたのだとか。
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
『マイクロウェーブの受信を確認しました!
電力量200万kw突破も確認!』
「やったねいっくん!!」
「あぁ」
結果として、発電衛星は無事に完成した。
発電量も当初の想定通り200万kwクラスを達成し
白うさぎ宇宙開発は外部からの電源供給が不要となる。
それどころか、今後のステーション改築に合わせて
本格的に電力事業への参戦も表明。
世界がまたひとつ大きく動く結果となった。
──しかし。
「ところでいっくん…身体の方は平気なの?」
「…特に何とも」
一角獣の騎士が見せたあの現象については
篠ノ之束すら解明することが出来なかった。
[IS:UNICORN KNIGHT]
[
[!
「稼働データは一応記録には残ってるみたいなんだけど
どれもロクに解析出来ない状態になってる」
「うわっ!?何だこの…文字化けと言うかなんと言うか…」
「どうも規則性はあるみたいなんだけどね〜」
一角獣の騎士に残されていた稼働データを開くと
あの未知の形態へ移行している状態のデータだけが
見たことも無い言語のような何かで記された
解明不可能なデータへ変貌していた。
「いっくん…大丈夫だよね?人を超えたナニカになって
私と…箒ちゃんの前からいなくなったりしないよね?」
珍しく弱気な顔を見せる束。
「束さん…」
「また"さん"付けしてる」
「あっ、悪い」
「………」
「………」
「…いっくんしかいないんだよ。私には。
最初に"私"を見てくれたのはちーちゃんだけど
ちーちゃんじゃ私の話には着いて来れない」
少し前の束であれば気にもしなかっただろう。
しかし、一夏と正面から向き合ったことで
彼女はあの光景に少しばかり不安を垣間見ていた。
自分にすら理解出来ないあらゆる法則を超えた現象に
彼が再びそれを発現させ消えてしまう可能性を見たのだ。
「大丈夫」
「あっ」
深い宇宙の闇を見つめる儚げな彼女を
一夏はそっと抱きしめて伝える──
「俺の事を必要としてくれる人がいる限り。
俺の事を想ってくれる人がいる限り。
戻ってくるよ。必ず」
その時彼女は、彼の想いを確かに視た。
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
──亡国機業アメリカ本部。
「そうか…襲撃は失敗か」
白うさぎ宇宙開発の太陽光発電システム完成を受け
亡国機業は相も変わらず騒然となっていた。
米国海軍へ圧力を掛けて原子力空母を横流しさせ
あちこちから戦力を掻き集めて実行した作戦が
何だかんだ成功しそうだという所だったのに
意味のわからない現象を起こされ失敗したのだから
それも仕方ないと言えよう。
「で、どうだ?奴らが公開した技術は。」
とはいえその失敗は想定にあった事。
代表は軽く咳払いしその後の展開を尋ねた。
「世論は荒れてるな。だが…」
「彼は…想像以上にやり手らしいネ」
それに対し、幹部の反応は苦々しいものであった。
「どういう事だ?」
「奴らはアレのコストカットに"宇宙"を利用してる。
資源採掘然り、素材加工然り──。」
「他にも未公開の技術は山ほどあるのでしょうが
地上で作るにはコストが高すぎます」
それは、確かに現在の人類文明の技術力であれば
問題なく形にすることの出来る内容ではあった。
ISコアのように、複雑怪奇な理論が使われている訳でも
生成する事すら困難な素材を要求される訳でも無い。
とはいえ、要求されているのは大量のチタンを筆頭に
クロムやニッケルなどといったレアメタルの数々
無重力状態や真空状態を活用した素材加工技術など
地球上で実現しようものならとても採算が取れないような
希少な素材と高度なテクノロジーが要求されていた。
「実現の可能性が見えているのが上手い所だネ…」
「あぁ。実際に宇宙産業に力を入れるべきとの意見は
既にあちこちで噴出してはいるらしい」
「…痛い所を突いてきたな」
一応、宇宙産業の基盤というのは存在している。
NASAが月面に設営したアポロ・イレブン仮設拠点を筆頭に
中途半端な状態で止まっている開発計画はいくつもあり
それらを再始動させれば実現は近いのだ。
そしてその甘い誘惑は毒のように世論を蝕み
亡国機業の足元すらも大きく掻き回していた。
「やはり奴らを放置しておく訳にはいかんな。
物理法則を超越したあの光の正体も掴めん以上は
人類文明に対する脅威であるとでも適当に理由付けして
消えてもらうしかないだろう」
代表は再三認識させられた織斑一夏という脅威に
手段を選ばない本格的な排除を視野に入れた。
尤も、すでに白うさぎグループは世界経済に根付いていて
排除など容易ではないことは彼も分かってはいたが
それでも多少の損耗は覚悟の上らしい。
「──だから私は言ったのですよ、代表。荒神だと」
そんな中、亡国機業日本担当が口を開いた。
彼は以前こう警告していた。
"アレは我々が手を出してはいけない荒神だ"
"ウサギはウサギでも殺人ウサギだ"
と。
あの時提示された"計画"が実行に移されてもなお
この有様なのだ。とてもではないがこれ以上兎を追えば
亡国機業は壊滅してしまいかねない。
彼は暗にそう言っていた。
「貴様…亡国機業を裏切る気か?」
「裏切る?ご冗談を。私は組織の為を思った迄です」
両者の間にピリピリとした空気が漂う。
「では、私は傾いた日本支部を立て直す仕事があるので
これで失礼させてもらいますよ」
一触即発の空気をそのままに日本担当は退室していく。
そして、その後を追うようにイギリス担当が
フランス担当が、ドイツ担当が退室する。
長らく仮初の平和を享受していたその世界に
静かに、だが確実に不穏な足音が迫りつつあった──
いつぞや展開装甲について触れた時に
"石ころを押し出す力"は与えないと言ったはずが
結局そういう力を与える形になってしまった…。
おや?亡国機業のようすが…?
またシリアスが増えそうな予感。
次回以降はまだちょっと未定なので
時間が掛かる事になるかな、と。