「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
今回は鈴ちゃんのパート。
ヒロインズの中でも特別な立場を持たないせいで
どう特色を出していこうか困る娘でしてね…。
今のところ今後の彼女の立ち位置としては
バナージにとってのタクヤやミコット
キラにとってのサイやミリアリア
みたいなサブキャラ的立ち位置になりそうかな、と。
セカン党の方々、申し訳ございません。
「太陽光発電システム完成を祝して、乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
正式に太陽光発電システム完成が宣言された日の夕方。
白うさぎ本社ビル38階のパーティースペースでは
[発電システム完成記念パーティー 二次会]と銘打たれた
凰鈴音企画、織斑千冬主催の宴会が開かれていた。
「いい音頭だったわよ一夏。んじゃホラ、後のことは
私達に任せてパーティーを楽しんできなさい!」
「ありがとな鈴。そうさせてもらうよ」
「はい一夏、カクテル──は流石に無理だけど
それっぽく作ったソフトドリンクをどうぞ」
「おっ!いいね。
日中少し下の階で開かれた完成記念式典とは違って
今ここに招かれているのは一夏と彼に身近な者ばかり。
束とクロニクル姉弟、1年生専用機持ちを除けば
年長組と2組の生徒が数名参加している程度だ。
一夏はシャルロットからソフトドリンクを受け取って
パーティーの輪の中へと入っていった。
「──入れ入れ入れっ…ダメか」
「ではナインボールは私が頂きますわね」
「箒がビリヤードか。意外だな」
まず目に入ったのは、箒とセシリアのビリヤード対決。
そもそも自宅にビリヤード台がある高校生が珍しい事は
この際横に置いておくとしても、大和撫子篠ノ之箒が
ビリヤードの興じているのは中々に珍しい。
その理由は、あるルートで流れてきた噂にあった。
ビリヤードの強さはISでの射撃戦の強さと
相関があるのではないか?という噂。
何でも、ISにおいては無敵とまで言われたある人物が
これでもかという程ボロ負けしたとのこと。
「なるほど。それで箒が」
「織斑先生…千冬さんには何故か断られてしまいまして」
「で、結果はこれ…と」
「手球には当てられるのだがな…」
降参とばかりに両手を上げた箒。
スコアボードに書かれていたのは、2連続での黒星。
この負けで3敗目らしい。噂は真実に近いようだ。
「一夏さんも遊んでいかれます?」
「そうだな。3ゲームくらいやっていこうか」
ポケットインしたボールを全て台上へ戻した所で
セシリアが一夏をビリヤードに誘った。
「私のブレイクショットですわね」
まずはセシリアが初手のブレイクショット。
落ちたのは3番と6番。だが続く二打目ではポケットせず。
ということで一夏へ手番が回ってきたのだが──
「おいおい…こりゃ無理じゃねえか?」
カクテルの追加注文で通りかかったアキがちらりと見て
思わずそう呟いてしまう中々に凶悪な配置と化した。
具体的に言えば、手球と1番球の間に他の球がある。
しかも、周囲にも他の球が多いと来た。
セシリア曰く狙ってはいないとの事だが…。
それはそれとして、これをどう攻略するか。
一夏は実に面白そうにこの盤面に挑んだ。
「まぁ何とかするさ。物理学だ」
「物理学?」
「なるほど。反射角やらを考慮して…ここだ」
ス-ッ…カンッ!!
一夏は台をぐるりと回って盤面をざっと眺めると
少し思案した後、キューで手球を突く。
弾かれた手球は、ドンドンドンと3回ほど跳ね返り──
ゴンッ
ガコンッ
「おー…!」
「やるじゃないか」
1番球にクリーンヒット、8番球をポケットさせた。
一夏はビリヤードの才能はそこそこある方らしい。
「よーっし!料理の準備が出来たわよ!!」
そんなこんなで相手を変えつつ3ゲームほど
ビリヤードを楽しんでいると、アイランドキッチンで
あれこれ準備を進めていた鈴から声が掛かった。
「はい、これメニューね」
「メニュー?」
そちらへ目を向けると、大量の食材に囲まれる中で
鈴とそのクラスメイトが忙しなく駆け回っている。
簡易ながらそれっぽく作られたグランドメニューには
トップに彼女の得意料理であろう「凰家直伝酢豚」が並び
それに続くように実家の料理店があるという広東省の
代表的料理である広東料理が、後半のページには
今ある食材で作れるその他中華料理が並ぶ。
「では、私達も頼ませてもらおうか」
「そうだね。僕も後で何か一品頼もうかな」
「俺は酢豚と雲呑スープをひとつだな」
「承りましたー!酢豚1雲呑スープ1入りまーす!」
「あいよーっ!!」
注文が入ると、
鈴が屋台用ガスコンロを使って豪快に調理していく。
小柄な体格ながらも巨大な中華鍋を難なく振るい
ジュウジュウという美味しそうな音と共に
白米が、野菜が、肉が、繰り返し宙を舞う。
一夏曰く"昔は壊滅的だった"という鈴の料理の腕だが
今厨房に立つ彼女の姿はまさに敏腕料理長といった風貌。
「お待たせいたしましたー!」
「うむ、ありがとう」
程なくして、続々と料理が各テーブルへ運ばれてくる。
「中々良い出来だな」
酢豚や焼売、蒸し餃子や雲呑スープに加えて
回鍋肉や麻婆豆腐、青椒肉絲や棒棒鶏などなど。
どれも店に出しても違和感のない仕上がりだった。
「榊原先生、凰の進路はひょっとして…?」
「はい。実家の料理店を継ぎたい、と」
「国家代表も十分狙えるだろうに。国には興味は無いか」
「そう言ってましたね」
他の専用機持ちにも負けず劣らずな実力を持ちながらも
彼女はIS操縦者としての道を選ぶ気は無いとの事。
「学園に入学した目的が織斑君だそうですから」
「ははっ、あいつらしいな」
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パーティーは
「…何度見てもホント豪華な家よね」
白うさぎ本社ビルの事実上の最上階となる40階
温水プールとジャグジーが備え付けられたバルコニーに
その少女──凰鈴音はいた。
高級コーヒーメーカーで淹れたホットカフェオレを片手に
夜景を眺めながら
纏うバスローブに、やや背伸びしている感覚を覚えつつ。
「この家だけで幾ら掛かってるのかしら…」
「──知りたいか?」
「いっ、一夏!?…やっぱいいわ、遠慮しとく。
とんでもない額なのは確かなんだし」
口の中に広がっていくカフェオレの慣れない苦味に
こっちは間違いなく背伸びだった──なんて思っていると
バルコニーへ一夏が姿を現した。
「似合ってるわね」
「そうか」
「アンタのそれ、ブラックコーヒー?」
「まぁな。リラックスには丁度いい」
彼もまた風呂上がり──使ったのは39階のバスルームで
鈴と混浴した訳ではないのだが、ともかくバスローブ姿に
手にはホットコーヒーの入ったマグカップ。
その装いや振る舞いから漂う凄まじい"金持ち"感──
実際一夏は世界でもトップクラスの金持ちなのだから
その評価で合っている訳だが、それにしても
自分とほとんど同じ装いだとは思えないと鈴は感じる。
「………」
「………」
暫し、無言が続き。
冷たい夜風が吹き抜ける音だけが響く。
「………鈴。お前はいいのか?」
不意に一夏が口を開いた。
それは、鈴の顔色にひとつ"迷い"が見えた気がして。
「何がよ?」
「俺のこと、諦め切れないんじゃないのか?」
「………朴念仁は卒業したのね」
「そう思いたい」
──それは、鈴の中では終わったはずのものであった。
その恋敵の実力は今や鈴も十分に認められるものであり
彼女にその初恋の男を確と託したはずであった。
だが、あと3ヶ月ほどで施行される
そんな鈴の心をほんの少しだけ揺らがせていた。
こうして今日一晩織斑宅に泊まることにしたのも
その心の揺らぎに決着を付けようとしての事だった。
「やっぱね、アンタ、カッコイイ」
"織斑千冬の弟"だとか"世界一の若手社長"だとか
そういったネームバリューを抜きにしても
織斑一夏は鈴が見てきたどんな男よりも格好良いのだ。
鈴は今でも一夏のことが好きだった。
「…へっくしゅっ!!」
「やっぱ寒いんだろ。ほら、中入るぞ」
今もこうして、身体が冷えすぎている事を心配し
わざわざ温かい紅茶まで用意してくれている。
「………」
「………」
また暫し無言が続く。
階を降りて戻ってきたリビングルームには
鈴が淹れたての紅茶をすする音のみが響いた。
「箒は…なんて言ってるの?」
今度は鈴が先に口を開く。
気を使ってかバルコニーへ出て外を眺める
「鈴がその気ならあとは俺次第だ、って言ってた。
俺は、鈴の事を受け入れる気も、覚悟もある」
彼のその返答に、"律儀なヤツだ"と鈴は感じた。
ケジメとして1発ぶん殴って済んだ事だというのに、と。
「……………」
「……………」
再三、場を沈黙が支配する。
鈴は己の心に問う。が、そう易々と答えは出ず。
「3年、待たせてもいい?」
「あぁ。ゆっくり考えてくれ。鈴の人生だ」
少しだけ回答を待ってもらう事にしたのだった。
「話は終わったのか」
「一先ず、な。バルコニー、寒かったろ」
「バスローブじゃなかったからそれ程でもないさ」
一通りの話を終え、箒がバルコニーから戻ってくる。
「テレビは………これといったものは無いな」
「なら少しジャズでもかけるか」
箒はハロッズの紅茶をすすりながらテレビをつけたが
時間帯が時間帯なだけにめぼしい番組はやっておらず。
代わりにと一夏がかけたゆったりとしたジャズが
織斑家のリビングルームに癒しをもたらす。
「んー……お茶菓子をつまみたくなってくるわね」
ジャズがかかっているからか、もう11時になるというのに
飲み物をちびちび飲んでいるだけでは物足りず
テーブルの上の
ポリポリ…
ザクザク…
「そういえば一夏はさ、宇宙行ったら何したいの?」
「宇宙へ行ったら…か」
そんな中、鈴がひとつ疑問を呈した。
一夏が語る"宇宙を目指す"という夢について。
「そうだなぁ…」
一夏は少し悩み──
「木星を直に見に行きたいかな」
そう答えた。
「木星?」
「あぁ。木星は太陽系の中でも特に面白いんだ」
一夏は、単なるテーブルにしれっと組み込ませていた
ホロスクリーンを起動し、木星の画像を表示させる。
「何…これ…!」
「本当にこれが木星なのか…?!」
それは、NASAが2011年に打ち上げた木星探査衛星
「ジュノー」が捉えた木星の画像の数々。
今まで明らかにされていなかった極付近を中心に
新たな木星の姿を顕にしたものだ。
木星といえば、横向きの縞模様の入った茶色い星と
デフォルメされて描かれることが一般的だが
実際には多数の渦や対流が入り乱れる複雑な模様があり
南北の極地域は青みがかった色をしている。
神秘的でありながらどこか不気味さも孕んでいる
宇宙の在り方を体現しているような姿だった。
「中でも面白いのがこれでな」
「…これって…台風?」
「2、4、6…全部で9つあるのか」
そんな木星の姿の中でも一夏が特に注目しているのが
南北の極にある極めて特徴的なサイクロンの集団。
なんとこのサイクロン、中心の巨大サイクロンの周囲に
北極では8つ、南極では5つのサイクロンが随伴するという
地球上では信じられないような配置をしているのだ。
合体してひとつの超巨大サイクロンになるわけでもなく
それぞれが独立して渦を巻いているのである。
「しかもこれ、撮影当時から殆ど形が変わってないんだ」
「えっ?」
それだけでも特徴的だというのにこのサイクロン集団
初めて観測されてからそれなりの月日が経つというのに
今なお合体も消滅もせずに存在し続けているのだという。
「な?面白いだろ?」
「そうね。確かに興味が湧くわ」
「うむ。宇宙の事に疎い私でも気になるな」
まるで"事実は小説よりも奇なり"とでも言わんばかりの
宇宙の一幕に、箒も鈴も興味をそそられたのであった。
──更に夜も更け、日が変わろうかという頃。
「ねぇ一夏」
一段照明の落ちたダイニングで、鈴が一夏に声を掛けた。
「アンタの腕を見込んで、ひとつ頼みがあるの」
「頼み?」
彼女の真剣な目付きに一夏は姿勢を直して鈴と向き合う。
「…アタシのお父さんの事、調べて欲しいの」
「確か…
「そ。…実はね…離婚、しちゃったのよ」
鈴の頼みとは、彼女の父親についての調査であった。
3年前、彼女が唐突に国へ帰る事になってしまったのは
彼女の父が突然妻に対して離婚を切り出したからだった。
鈴は母に対して離婚の理由を尋ねたことはあったものの
未だに理由は教えてもらえていなかった。
「アタシの父さんは中国じゃ名の通った人だったわ。
そんな父さんが突然離婚するだなんて考えられないの」
「そうだな。あの人に限ってそれは無さそうだ」
一夏も昔鈴の父とは何度か顔を合わせたことがあったが
その時の印象からして大した理由も無しに離婚するなど
考えられないことであった。
「分かった。可能な限り探ってみよう」
「ありがと」
故に一夏は、鈴の父について調査する事にしたのだった。
「じゃ、おやすみ」
「おやすみ。鈴」
鈴ちゃんは一夏とくっつかないとしたら
そのうち代表辞めて料理店継ぎに行くかな、と。
そう思いましたので、彼女はその方向性で。
やはり「投稿が遅くなるかも」と書くと
逆に筆が進んで投稿が早くなる気が…?
次回の内容は…投稿時点では決まってません。