「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
学園内に売店…もといスーパーマーケットって
あるんですかね?都内のスーパーなんかよりも
遥かに大きいものが有りそうですけど…
実は私、パラパラ炒飯を作るのが得意でしてね
ネットで見かけた方法でよく作ったものです。
…なぜこんな話をするかは直ぐ分かりますよ。
「うん、特に異常は残ってないね」
クラス対抗戦での無人機襲撃から数日後、一夏が負った
ダメージは何事も無く完治した。
「じゃあ俺はこれで」
負っていた打撲のダメージが抜け身軽になった身体で
軽くストレッチし、本調子が戻ったことを確かめた一夏は
保健医にお礼を告げて医務室を後にする。
「…もう夕方かよ…一旦部屋へ戻るか」
今日は休日だったが、既に空は茜色に染まりつつある。
何をするにしても遅かったため自室へと歩を進めた。
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「ただいま~」
「…味付けには…どれを…おお一夏!」
自室の玄関を開けた一夏の目に飛び込んできたのは
割烹着を着てキッチンに立つ箒の姿。
醤油や塩のビンを手に持ってウンウン唸っていた。
どうやら料理の味付けを何にするか迷っていたらしい。
「何を作ろうとしてたんだ?」
「炒飯をな。でも中々に難しくて…」
キッチンには焼豚のパックと冷凍青ネギ入りのタッパー
そしていくつかの卵とごま油のビンが置かれており
炊飯ジャーは炊きあがりまでの時間を表示している。
コンロにはここにある中で最も大きいフライパン。
「俺にも手伝わせてくれよ」
最近食事を学食に頼っていた一夏は、久しぶりに料理でも
するか、と料理の手伝いを申し出た。
「む…そうだな。頼む」
箒が頷いたのを確認した一夏は何か良い材料が無いか
冷蔵庫を覗き込んだ。
「うーん…地味に減ってきてるな」
最低限の物は残っているが、炒飯のお供になりそうな品は
作れるか微妙な量だ。青ネギもかなり減ってきている。
チラリとキッチンの時計へ目をやると、学園内の売店は
まだまだ営業している時間帯──
「色々買いに行こう、箒」
一夏は2人で買い物へ向かうことにした。
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「目当ての物は決まっているのか?」
「あぁ。冷凍餃子もあるといいかな」
2人は私服で学園内の売店へやってきた。
売店とは言っても都心部のスーパーマーケットよりも
規模が広く、生活必需品などは大抵の物が揃う。
切らしかけだった青ネギやごま油、炒飯に使えそうな
ペースト状調味料辺りが今回目的とする品である。
「餃子とネギは私が探してこよう」
箒はまず冷凍食品コーナーへと歩いていった。
一夏は調味料コーナーで足を止め、棚に並んだ調味料達へ
サッと目を通す。一つ一つチェックせずとも見た目だけで
ある程度棚のどの辺にあるかは絞りこめる。
「お、コイツだ」
手に取ったのは鶏ダシをベースにこがしニンニク油等の
香味料を配合したペースト状の調味料。
炒飯は勿論、中華風スープや肉野菜炒めなど様々な料理の
味付けに便利な調味料だ。
「ごま油と…鶏がらスープもあるといいな」
炒飯に合いそうなスープの材料として鶏がらスープの素も
手に取ってカゴへ放り込む。
「青ネギと餃子は見つかったぞ」
「こっちも大方探し終えたところだ」
お目当ての品を見つけた箒が一夏に合流する。
あとはざっと店内を見て回って、必要な物の買い忘れが
無いか確認してから会計するだけである。
「ご飯も帰れば炊けている頃だろうな」
セットした時間からしてそろそろ炊けている頃合だ。
戻ればすぐに料理を始められる。
「…なんか楽しそうだな、箒」
「一夏と料理、楽しみじゃない訳が無いだろう」
照れた表情ながらも胸を張って堂々と言い放った箒。
一夏と付き合っているという実感が出てきたからなのか
最近の箒は以前ほどツンツンしなくなったのだ。
「美味しく作れるといいな」
2人は良い笑顔で自室へと引き上げて行った。
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自室へと戻ってきた2人は早速準備に取り掛かった。
今日の献立は炒飯と餃子、中華風コーンスープである。
「さて。卵を半分ご飯に混ぜるんだったな」
箒は溶いた卵を半分、ボウルへよそったご飯へとかける。
木ベラではなく菜箸で混ぜ、卵でコーティングすることで
ご飯がパラパラに仕上がると一夏から教わったのだ。
「よし!これをフライパンへ?」
「残った卵が先だ。そっちが具になる」
中華風コーンスープと餃子の準備を進めている一夏が
箒に次の工程を教える。
「おお…確かにパラパラになっていく!」
適当に作るとご飯がベチャッとしてしまったり
パラパラにしようとして焦げてしまったりする炒飯だが
箒の持つフライパンの中で炒められているご飯は
くっつく事無くパラパラに仕上がっていく。
「そろそろ塩コショウだな」
「分かった。焼豚とエビもそろそろか」
フライパンをコンロへ置き、塩とコショウを少量入れる。
「俺の方も塩コショウを、と」
コーンを入れた鶏がらスープへ塩コショウを追加し
とろみ付け用の水溶き片栗粉を準備していく一夏。
「うむ、焼豚とエビも入れて良さそうだ」
「溶き卵はここだな」
箒は丁度いい大きさに切っておいた焼豚とボイルえびを
投入しさらにご飯を炒めていく。
鶏がらコーンスープへ溶き卵を流し入れていく一夏。
熱湯へ注がれた卵がふわふわの状態で固まる。
「青ネギを…美味しそうな炒飯だ」
「さすが箒、良い出来だ」
箒が炒める炒飯へ小口切りした青ネギが投入される。
ネギの緑色が投入されたことで一気に美味しそうになる。
とても食欲をそそる見た目だ。
「「最後はごま油で仕上げだな」」
炒飯とコーンスープへ仕上げのごま油を入れる2人。
ごま油の香りがさらに食欲をそそる。
「餃子も丁度良い頃合か」
フライパンにフタをして蒸し焼きにしていた冷凍餃子も
羽根にこんがりと焼き色がついてきている。
最後にこれらを器へ移せば今日の夕飯は全て完成である。
テーブルには美味しそうに湯気を立てる炒飯と餃子
中華風コーンスープが置かれている。
誰が見ても食欲をそそられる素晴らしい仕上がりだ。
「「いただきまーす!」」
2人はそれぞれ自分達が作った料理を口へ運ぶ。
「んーっ美味い!最高だな!」
「一夏と作った料理…至福のひと時だ…!」
好きな人と一緒に作ったという事実は最高の調味料となり
その料理に格別の美味しさを与える。
一夏も箒もその美味しさに思わず舌鼓を打った。
「少し多かったか?まぁいいか」
「モグモグ…美味しい」
ピンポーン!
唐突に来客を告げる音が鳴らされた。
「来客?」
「俺が対応してくるよ」
中華料理の気配を感じた鈴でも来たかな、なんて思いつつ
一夏は玄関へと向かった。
「どちら様で…山田先生!?」
予想外の人物の訪問に一夏は少し驚く。
学生寮で何か問題を起こしたりでもすれば、寮長を務める
自分の姉がすっ飛んで来るのだろうが、山田先生となると
何が理由で来たのかは分からなかった。
「織斑君と篠ノ之さんにお話があって来ました」
山田先生の表情は相変わらずほんわかしているが
教師として何か2人に要件があるらしい。
一夏は山田先生を部屋へ上げて話を聞くことにした。
「美味しそうな夜ご飯ですね!2人で作ったんですか?」
早速話をするかと思いきや、テーブルへ並べられた料理に
目を奪われた山田先生。本人は気づいていないようだが
口からヨダレがこぼれそうになっている。
「…山田先生、ヨダレこぼれそうですよ?」
「はわわっ!?す、すみません、料理が美味しそうで」
箒の指摘にハッとなってヨダレを拭った山田先生。
それでも美味しそうに料理を見つめる彼女を見て一夏は
自分の炒飯と鍋のスープを小皿へと取り分けた。
「どうぞ。多めに作っちゃったんで」
山田先生の目の前にお茶碗一杯分の炒飯と餃子が2つ
マグカップに注がれた中華風コーンスープが並べられる。
「いいんですか!?…それじゃあ…いただきます!」
炒飯をひと口、コーンスープをひと口、餃子をひとつと
食べていく度に山田先生の表情は美味しさで蕩けていく。
彼女が何の要件でここへ来たのかは分からないままだが
とにかく美味しそうに食べてもらえるのは嬉しい事だ。
「ん〜っ、凄く美味しかったですお2人とも!」
食べ終わった食器をカチャリとシンクへ置いた山田先生。
置かれた食器は箒がひとつひとつ丁寧に洗っていく。
「そいつは濯いだやつだ」
「あいよっ」
箒が食器を洗い、濯いだ食器は一夏が水切りラックへ
手際よく置いていく。幼なじみとして育ち、同じ剣の道を
歩んだ2人の連携はこんな所でも遺憾無く発揮される。
しかしそれは今までもあったこと。今の2人には恋人同士
という要素が加わっている。故にこれを見た山田先生は
キッチンに立つ2人の姿にピッタリの感想を抱く──
「お2人とも、本物の夫婦みたいですね~羨ましいです」
「な…なっ、ふ、夫婦!?」
「あっ!コップが…」
箒が手に持っていたマグカップはガチャリと音を立てて
シンクへ落ち、陶器のカケラと化してしまった。
「ご迷惑をお掛けしました~。それじゃあお休みなさい」
後でお礼の品を持ってきますから、と言って山田先生は
一夏達の部屋を後にした。
「話って何だったんだろうな?」
「さぁ?私にも分からん」
山田先生から学園生活やISに関する話はされなかった。
急ぎの用事では無かったのだろう、と2人は結論付けた。
──数十分後。
「織斑、篠ノ之!いるか?」
箒がシャワーを終え、一夏が部屋へ戻ってきた頃に
今度は織斑先生が2人の部屋を訪ねてきた。
「千冬姉…織斑先生?山田先生まで!?」
「やはり何か重要なお話が?」
何やら感情の整理がついていなさそうな表情の織斑先生と
その隣で申し訳なさ全開で縮こまる山田先生。
ここまでの流れ的に、先程山田先生が訪ねてきたのは
何か伝えなければならない案件があったからなのだろう。
改めてそれを伝えるため織斑先生が口を開く──
「一夏!炒飯とスープはまだあるかっ!?」
「「「…織斑先生!?」」」
「…はっ!?」
──顔を真っ赤にして撃沈した織斑先生が復活するまで
待つこと数分。
「ゴホン…部屋の整理がついたので篠ノ之は引っ越しだ」
告げられた内容とは箒の引っ越しだった。
元々一夏の入学が唐突だったために部屋が用意出来ず
織斑先生の判断で一時的に2人が同室にされていたのだ。
「…うむ、仕方あるまい」
「…俺たちまだ学生だもんな」
2人は好きな人と一緒に居られる時間が減る事を嘆くが
クラスメイトに茶化されて変に意識する事も減るだろうと
思考をポジティブな方向へと切り替える。
何せ、夕方のトレーニングを早々に切り上げた翌日や
朝2人揃って食堂に顔を出さなかった日には
クラスメイト達から「ゆうべはお楽しみでしたね」やら
「こいつらロマンティクスしたんだ!」やら
「リア充爆発しろ!」やらと言われる事が多かった。
それが減るのなら有り難い話だ。
「それと、だ」
引っ越しの件についての話題が終わったその直後
織斑先生の目が一際真剣な眼差しへと切り替わった。
一夏でもあまり見たことの無いほどの真剣さへ。
「転入生?」
「フランスとドイツから…か」
一夏に手渡された2枚のバインダーにはそれぞれ
数日後に転入してくるという転校生のプロフィール等が
事細かに書き記されていた。
これ程の物は一介の生徒に見せるような代物ではない。
そんな資料に軽く目を通した一夏と箒は、ある一点を見て
表情が驚きに染まる──
「コイツ…男…なのか?」
「随分な美少年だな」
──シャルル・デュノア。
フランスの国家代表候補生で「織斑一夏に次ぐ2人目の
"男性IS操縦者"」だと記されている。
箒は特に変わった点に気付いてはいないようだが
一夏はこの資料を見て妙に引っ掛かる感覚を覚えていた。
「コイツの監視をお前に頼みたい」
「お…おう」
織斑先生が次一夏と同室になる相手が彼だと告げる。
謀略や敵意に鋭い一夏を、同じ男同士だからという理由で
彼の監視へ付けるのはある意味合理的とも言えた。
「ドイツの方は…軍人なのか」
──ラウラ・ボーデヴィッヒ。
ドイツの国家代表候補生で、ISが配備された特殊部隊
シュヴァルツェ・ハーゼの隊長を務めている人物との事。
この年齢で特殊部隊の隊長を務めているとなれば
凄まじい実力の持ち主なのだろう。
「癖の強いヤツだろうが…上手くやってくれ」
「マジか…」
織斑先生は過去に1年間ドイツで軍の教官を務めていた
経歴があり、ラウラはその時の教え子だとのこと。
姉がそう言うとなると相当癖の強い人物なのだろうと
一夏は確信した。
「んじゃ、箒の引っ越し作業だな」
2人の転入生のプロフィールにざっと目を通した一夏達は
山田先生の本来の要件だった箒の引っ越し作業に
取り掛かった。
「なに。大した量も無いさ」
織斑先生と山田先生、一夏と箒が力を合わせたことで
箒の引っ越し作業はあっという間に終わったのだった。
(部屋、こんな広かったんだ…少し寂しい感じもするな)
半分がさっぱりしてしまった自分の部屋を見て
少し寂しさを感じた一夏だった。
一夏君と箒ちゃんのお料理回でした。
…料理の味がしないなんてあるんですかね?
次回はシャル&ラウラ転入回を予定してます
R18編は裏で少しずつ書き進めておきます
今のところ一夏&箒ペアは確定。
他は現状もう1組が構想にあります。
追記:更新情報
本文の一部に書き加えを行いました。