「知力」の一夏君、果てなき宇宙(そら)を目指す 作:高橋ヒナタ
違和感あるかもです
箒といいセシリアといい鈴といい
教え方にクセのあるメンツが多い事この上ない…
第9話
──IS学園、第2グラウンド。
「「すみません遅れました」」
「織斑、デュノア!遅いぞ!」
ISスーツを身につけた男2人が第2グラウンドへと現れた。
噂の転校生を一目見ようとした女子生徒達に追い回され
グラウンドへ着いた時には既に授業開始寸前だったが。
1組の生徒は勿論、今回合同で訓練を行う2組の生徒も
ほとんどがグラウンドへ待機している。
「一夏さん、一体何をしていらしたのですか?」
グラウンドへ来るのがやけに遅かった一夏に対し
セシリアは何かあったのか訊ねる。彼は理由無く遅刻する
タイプでは無いのはセシリアも知っていたが故に
遅刻する理由が何だったのか気になったのである。
「散々追いかけ回されたんだよ」
「…本当に苦労人ですわね、貴方は」
入学初日にも似た様な光景をセシリアは見ている。
客寄せパンダという言葉がピッタリなまでに人に囲まれ
質問攻めに逢っていた彼の姿を。
「本日より射撃・格闘を含む実戦訓練を開始する」
「「「はい!」」」
織斑先生の一声によって授業時間の開始が宣言され
場にピリッとした空気が漂う。
「凰とオルコットには先に模擬戦を行ってもらう」
「模擬戦?セシリアと?」
「私は受けて立ちますわよ」
名前を挙げられた鈴とセシリアはお互いをチラリと見て
闘志を燃やすが、織斑先生によって待ったが掛けられる。
「慌てるな…対戦相手は──」
空からISの飛ぶ音が聞こえてくる。
「…ラファール?」
一夏は空を見上げ、接近する機影に注目する。
四枚のスラスターウイングが特徴的なダークグリーンの
機体──ラファール・リヴァイブだ。
「山田先生だな」
箒も同じく空を見上げ、搭乗者の髪の色が緑色である事を
確認した。この合同訓練にやってくる緑髪の女性と言えば
山田先生しか居ないだろう。
「なぁ一夏………」
「嫌な予感、するよな」
前にも似た様な事があった気がするが、山田先生とは
天然気味のドジっ娘であるため何でもない場面でも
何かしらが起きる事があるのだ。ただグラウンド目指して
飛行するだけであったとしても。
「何よ、嫌な予感って?」
クラスが2組で山田先生の特徴をあまり知らない鈴は
不安気な表情を浮かべる一夏と箒を見て顔をしかめる。
「………ぁぁぁあああーーーっ!!」
こちらへ向かってきていたラファールは突如バランスを
大きく崩し、地面へと落下を始めたのだ。
「な?」
「えぇ…」
山田先生はIS学園で教員を務める以上、IS操縦の腕前は
並の人間よりも高いハズである。
しかし空を見ればどうだろう、彼女はロクな立て直しも
出来ないまま勢いよく落下を続けている。
鈴は困惑するしかなかった。
「来い白式!受け止めるぞ!」
『細かい調整はこちらで引き受ける!』
一夏は流れるように白式を呼び出し、空へと飛び立つ。
落下してくるラファールに相対速度を合わせて接近し
白式で押し上げる様に強引に軌道を変更させる算段だ。
コア人格であるマドカもその思考を読み取ると
すぐに軌道変更のための計算を始める。
「ど、どいてくださぁ~~いっ!」
「よし…行くぞ」
山田先生の後方から一気に地面へ向けて加速しつつ
相対速度を合わせにかかる。しかし山田先生がパニックに
陥っているのかラファールの軌道が非常に不安定で
上下左右へフラフラ曲がりながら落下している。
『…安定しないな…難しい』
一歩間違えれば一夏共々地面へ叩きつけられるため
丁寧にかつ素早く速度を合わせる必要があるのだ。
『…よし今だっ!』
「ぐっ…確保ッ!」
「わわっ!?あわわっ!?」
山田先生のラファールを確保した一夏はすぐさま白式の
スラスターをフルスロットルで吹かし、軌道修正を開始。
地面スレスレの所で上昇へ転じることに成功し
白式とラファールは空高くへと舞い上がった。
「山田先生、落ち着いて下さい!」
「おっ、織斑君!?」
山田先生が少しずつ落ち着きを取り戻すと同時に
ラファールの動きも静まっていく。
「スミマセン…ISスーツ、恥ずかしくて」
「……しっかりして下さいよ」
確かにこんなにピッチリしたスーツを大人になってから
着るのは嫌だなと思った一夏だったが、IS学園の教師が
そんなことでパニックになられては困る。
「良い対応だ織斑」
山田先生のラファールは白式に手を繋がれて降りてきた。
「………ゴホンっ、対戦相手は山田先生だ」
無様を晒してしまった山田先生をチラリと見た織斑先生は
何とも言えない表情で鈴とセシリアにそう告げた。
「2対1で…ですか?」
「大丈夫なの?」
「まぁ…お前達では勝てんハズだ」
山田先生は本来、織斑先生も認める実力者なのである。
彼女は元日本代表候補生であり、日本代表の座を賭けて
織斑千冬と争っていた程の人物なのだ。
ここは堂々と「絶対に勝てないから安心しろ」とでも
言いたかった織斑先生だが、墜落しかけた人物を指して
そう言い切ることは少々躊躇われた。
「…め、名誉挽回してみせますっ!」
山田先生は気合いを入れ直して空へと上がっていった。
「手加減はしませんわ!」
「全力で行くわよ!」
セシリアと鈴もすぐさま自身の専用機を身に纏うと
空へ上がって行った山田先生を追って飛び立った。
「デュノア、ラファールの解説をしてみろ」
3人が空へ飛び立ったのを確認した織斑先生は
対戦を見ている生徒達へのちょっとした解説として
山田先生の駆るラファール・リヴァイブの説明を
シャルルに求めた。
「第二世代型の汎用機ラファール・リヴァイブは──」
ラファール・リヴァイブはフランスのデュノア社が
開発を手がけた第二世代型の汎用量産機である。
シャルルもフランス出身なだけあってラファールの解説を
スラスラと詰まる事無くこなしていく。
「量産機の中でも最後発ですがシェアは世界第三位──」
拡張領域が広いために後付武装を追加しやすく
安定した性能と合わせて高い汎用性を誇る。
とても扱いやすく柔軟な対応が可能な機体という事で
12ヶ国で正式採用されている人気機体である。
「空は…良いようにやられてるな」
「代表候補生とはいえまだまだヒヨっ子だな」
一夏とラウラは解説を聞き流しつつ空を見上げた。
意気揚々と空へ上がって行ったハズの鈴とセシリアは
山田先生1人を相手にして悪戦苦闘していた。
「ちょっ…セシリア!」
「射線に入らないで下さる!?」
山田先生の牽制射撃に見事に誘導されている様で
鈴の背後からセシリアの射撃が何度か直撃している。
「さては通信繋げてないな?あいつら…」
そう、地上まで2人の大声が聞こえてきているのだ。
通信を繋げているならこれ程大声では喋らないだろう。
「…彼奴ら、連携が下手過ぎやしないか?」
「2人の相性の問題もあるんだろうさ」
「ふむ…それもあるのか」
代表候補生だというのにあまりにも連携が取れない鈴と
セシリアに呆れたラウラだが、一夏の言う相性に関しては
納得がいくような気がした。あれは3年程度の鍛錬で
治るようなものでは無いだろうな、と。
「…へぇ、上手いな」
山田先生は接近していた鈴へ牽制を加えて離脱させる。
続けてセシリアへはやる気のない弾をばら撒いた。
セシリアは当然難無く回避して見せたが──
「ちょっとセシリア!?こっち来ないでよ!」
「凰さんこそ!回避の邪魔ですわ!」
ドゴッ!
「隙あり!ですね!」
完全に回避先を読まれていたセシリアは離脱中だった鈴と
見事に正面衝突、晒してしまった大きすぎる隙を突かれ
弾丸の嵐を食らって2人共ノックアウトさせられた。
「教師の実力と連携の重要性は分かったな?」
織斑先生は鈴とセシリアに連携の重要性を説く。
互いの位置や動きを把握し、臨機応変に役割を分担すれば
負担の軽減に繋がり戦闘を優位に運ぶことが出来ると
周りの生徒達にも聞こえるように説明した。
「連携ねぇ…一夏にでも教えてもらおうかしら」
「私にもまだまだ学ぶべき事がありますわね…」
専用機2機を以てしても量産機1機落とせなかった2人には
特に良く効いたようで、2人の目の色は慢心や油断が
少し抜けたような色へ変わっていた。
「専用機持ちは6人か。グループ分けは…そうだな」
今日行う訓練は今までよりもレベルが少し上がるため
専用機持ちをリーダーに据えたグループごとで訓練させる
予定だったが、箒やセシリアの指導のクセの強さを
思い出した織斑先生は急遽予定を変更。
「篠ノ之が近接、オルコットが遠距離の手本を見せろ」
グループを2つに分け、近接戦闘訓練を行うグループには
箒を、遠距離戦闘訓練を行うグループにはセシリアを
見本を見せる役として配置──
「残る4人は私達と共にその解説と指導だ」
一夏と鈴、シャルルとラウラは1組・2組の教師陣と共に
訓練機に乗る生徒達への指導を行う事になった。
「織斑一夏よ、少しいいか?」
「ん?いいぜ」
合同訓練を始めるに当たってラウラは一夏に1つ質問を
投げ掛ける。
「…軍との差が分からん。基準を教えてくれ」
特殊部隊の隊長として隊員達を鍛えた事はあったが
命のやり取りとはまるで縁が無さそうな少女達に
実戦訓練の指導を行った事などラウラには一切無かった。
しかし、尊敬する教官から指導役として任命された以上
その任は果たさねばならない。そこでラウラはこの中で
最も命のやり取りに近く、かつクラスの少女達とも近い
一夏に訓練のレベルの基準を聞いたのである。
「う〜ん…新兵よりも甘くて大丈夫だと思うぞ」
「…む?分かった」
少しばかり甘いのではないかとも思ったラウラだったが
自分よりも長くこの学年と接している彼がそう言うなら
間違いは無いだろうと、訓練内容の構想を固めていった。
「こうだね?分かってきたよ織斑君」
「デュノア君って教え上手だよねホント」
最高の見本と優秀な指導役を得た1組・2組の生徒達は
基本的な戦闘行動をスポンジが水を吸う様に覚えていく。
「銃を握る時には力みすぎるな。狙いがブレるぞ」
「おおっ!当たるようなってきました!」
ラウラの指導も本人からしてみればかなり甘いものだが
1年生の生徒達にとっては程よく厳しい良い指導であり
武器を扱う際のコツなどを着実に会得していった。
「ご指導ありがとうございます!"教官"」
「私がきょ、教官!?」
「良い指導っぷりだったぞ。ボーデヴィッヒ"教官"?」
「教官!?」
ノリのいいクラスメイト達と織斑先生に教官と呼ばれて
ラウラが慌てふためくという珍事も起きたが、午前中の
戦闘訓練は特に何事も無く幕を閉じた。
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──昼休み。
「良い天気だなぁ」
「夏服で丁度良かった」
一夏と箒は一緒に作った弁当を持って学園の屋上へと
やって来ていた。学校の屋上は基本的に殺風景な場所だが
ここIS学園の屋上は花壇やベンチなどが置かれており
まるで庭園のような憩いの場所の1つとなっている。
「ふふっ、一夏と作った弁当…!」
「今日も上手く作れたよな」
2人の弁当のメニューはだし巻き玉子や唐揚げの入った
「ザ・お弁当」と言うべき在り来りなものだが
ここ最近一緒に料理する事が増えた影響でその出来栄えは
誰が見ても美味しそうに見えるものになっていた。
「手作りの弁当か。美味しそうだな」
そこへ姿を現したのはラウラ。カーキ色のカーゴパンツに
タンクトップというシンプルな服装だ。
「なんで此処に?」
「トレーニングでもしようと思ってな」
あまり人の邪魔にならない所でトレーニングを行うため
人気の少ないエリアを探して移動した結果ここへ
辿り着いたとのこと。
「少し食べていくか?」
ラウラの視線が時折2人の弁当へ向いている事に気付いた
箒はだし巻き玉子を、一夏は唐揚げを1つずつ弁当箱の
フタの方に乗せて差し出した。
「良いのか?」
「コレの感想と引き換えで良ければな」
ラウラは一夏のこの提案を快諾。だし巻き玉子と唐揚げを
一つ一つしっかり味わう様に食べていく。
「まぁ、良い出来じゃないか」
「…そうか、ありがとうな」
やや素っ気ない口調で感想を述べたラウラ。
しかし、一夏と箒には絶賛である事が分かっていた──
((顔がニコニコしてる…美味しかったんだな))
ラウラの表情が実に良い笑顔だったからである。
「シャルルの事…どう思う?」
「シャルル?…あぁ、フランスの代表候補生か」
弁当を食べ終えた一夏がラウラへ訊ねる。
ドイツの特殊部隊出身として、シャルルの存在について
どう思ったのかを訊ねた。
「………あれはどう見ても女だろう?」
「気付くよな、そりゃあ」
ラウラもまたシャルルの正体について勘付いていた。
それもそのはず、2人目の男性IS操縦者だというのに
容姿や仕草以外にも何から何まで不自然なのだ。
「よく見つけたものだな?"一企業"が」
「企業というと…デュノア社か」
一夏がISを動かせると判明した瞬間、世界中のIS関係者が
他にISを動かせる男性が居ないかを血眼で探している。
それも基本的に国家が主導となって、である。
一夏の発見からそれなりの時間が経っているにも関わらず
企業が男性操縦者を──シャルルを発見したのだ。
しかも企業名は「デュノア」と来ている。
「発見から転入まで早すぎるのも──」
「フランス政府も一枚噛んでそうだな」
シャルルの存在はまだ大きなニュースにはなっていない。
にも関わらず、彼は用意するのが非常に難しい専用機を
手に入れているのだ。国家代表候補生の座もセットで。
であれば、そこにどんな目的があろうとフランス政府が
情報統制や事実隠蔽に一枚噛んでいる可能性は大きい。
デュノア社との裏取引も行われているだろう。
「どうする?情報でも吐かせるのか?」
「…そうだな、やるなら早い方が良い」
──シャルルの正体が完全に発覚する日も近い。
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一方その頃シャルルはというと──
「ねぇねぇデュノア君!好きな子っているの?」
「パリの景色ってどうなの?教えてちょうだい!」
「ちょ…ちょっと待ってよ!」
昼休みが始まった瞬間から大勢の女子生徒に囲まれ
嵐のような質問攻めに遭っていたのである。
一夏に助けを求めようともしたが、なだれ込んでくる人で
あっという間に姿を見失ってしまっていた。
「デュノア君が逃げた!?」
「追うわよーっ!」
凄まじいプレッシャーに耐えかねたシャルルは教室から
逃げ出し、何処か落ち着ける場所を探して走り出した。
「「「待ちなさ~~~いっ!」」」
「わあっ!?こ、来ないでよっ!」
ドドドドドッという轟音に思わず後ろを振り向くと
目をギラギラと輝かせた女子生徒達がシャルルの後ろから
濁流のように迫ってきていた。
今まで感じたことの無い圧倒的な恐怖にシャルルは
もつれそうになる足を必死に動かして逃げ続けた。
「見つけたわよ!フランスの転入生!」
「質問に答えてもらうわ!デュノア君!」
逃げても逃げても行く先々で必ず女子生徒と出くわし
追いかけ回され待ち伏せに逢い、シャルルは一夏が言った
「3倍」の恐怖を嫌という程体感した。
「はあっ…はあっ…もう勘弁してよぉっ!」
──シャルルの逃走劇は昼休みが終わるまで続いたとか。
ラウラは原作よりわだかまりが少ないので
むすーっとする事は少なめにしてます。
屋上が静かだったのはそう、多くの生徒が
シャルルを追っかけ回していたから。
彼?はまだ屋上の存在を知りません。