枯れた大地に水を   作:鞍馬エル

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 推敲に時間がかかった割には内容がない様(・・・)です(会長的激ウマジョーク)

とはいえ、『聖戦の系譜』自体割とFE二次創作では使われている方だと思うので、多少はね?


無駄に長くなったけど、状況説明回という事で見逃して欲しい

それでも「仕方ねぇな、読んでやるよ」
と思われる方は読んでいって欲しいと思います


 それぞれの明日の為に

 ドズル公爵ランゴバルドとフリージ公爵にしてグランベル王国宰相レプトールにより親友であるエルトシャンを喪ってまで守ろうとした平和は砕かれた

 

それどころかシグルド達はグランベルから『叛逆者』の汚名を着せられ、傷心のままシグルド達に協力しているシレジアの天馬騎士フュリーの生国であるシレジア王国へと逃れる事になってしまう

 

シレジア女王ラーナは心身共に深く傷ついたシグルド達を労わる為にシレジア西部にあるセイレーン城を彼等に提供し、そこで傷を癒す事を提案した

シグルドとしては自身もそうだが、自分についてきてくれた仲間達の事も考えるととても魅力的な提案である

 

 

しかし

 

 

恐れながらラーナ様。私や仲間たちにとっては本当にありがたい提案なのですが、何故ここまでしてくださるのでしょうか?

 

シグルドは騎士である

しかも剥奪されたとはいえ、グランベル王国でも数少ない『聖騎士』の称号を与えられていた身。しかし、生憎とシグルド自身は騎士としての武力や軍の統率ならばそれなりのものであると自負していても、グランベル王国の一公爵家の跡取りに過ぎない

本来であれば『聖騎士』というものは『他の騎士達の範となる騎士』であり、そこには武技や統率能力のみではなく『交渉能力』も高いものが必要とされる

 

しかしながら、ウェルダンによるグランベル侵攻という危急な事態であった事やその後シグルド達は殆ど休みなくウェルダンへの逆侵攻やアグストリアへの介入を行なってきた

その為、本来身に付けねばならない筈の『交渉能力』についてはせいぜい士官学校の教育レベルという有様になってしまっていた

本来、アグストリア南部を制圧して半年以上時間的猶予があった筈なのだが妻ディアドラが息子であるセリスを出産したり、グランベルから来た南アグストリアに赴任してきた役人達の監視。更に北部アグストリアに残っているマディノ王宮にいるアグストリア国王シャガールの動向を探り、更に南アグストリアを併合した様な動きを見せているグランベル王国に不信感を募らせていたエルトシャンへの対応

これに加えて、アグストリアの現状を国王アズムールへと報告し、出来る限り早期にアグストリアからの撤退をシグルドは求めていた

 

だが、それでもグランベル王国本国から常ならば(・・・・)聖騎士に相応しい能力を身につけさせる教育係的な人物が派遣される筈だった

 

 

 

なお、その時点におけるグランベル王国庶民からのシグルドの評価は高く『無法にも攻め入ってきたウェルダンの蛮族を撃退』し『攫われたユングウィ公女エーディンを助け出し』更に『混乱するアグストリアの隙をつき南部を平定した』騎士の中の騎士

というものだった

 

概ね高評価といえるだろう

 

 

ところがグランベル王国関係者、特に政務に携わる者からすればシグルドは『無法者』であり『厄介者』でしかなかった

 

これはウェルダンに攫われた公女エーディンを取り返すまでは良かったが、ウェルダンを制圧した事がまず一つ

ウェルダン制圧などと市民は喜んでいるが、それを統治せねばならない立場の者からすれば最悪だった

 

ウェルダンは国土の3割にも及ぶ巨大な湖を国土の中心に持ち、残りの7割のうち約半分程度は森林地帯

食糧自給率は極めて高いが、娯楽などに乏しい

とは言え、大陸全土にある闘技場はあるのだが

 

ウェルダンは制圧される直前に亡くなったバトゥ王が国を治めており、何にしても『力技』や『強引』に物事を進めがちなウェルダンの人間としてはかなり理性的な人物だった

長男ガンドルフ、次男キンボイス、三男ジャムカ

 

長男と次男はウェルダンの男らしく腕っ節が強く、その実力をもって部下達を纏めていた

三男は上の兄弟と異なり、どちらかと言えば父バトゥの様に物事を理性的に考える男

それ故にウェルダンにおいては異端視されていた部分もあったが、ガンドルフとキンボイスはそんな事は些細なことと笑い飛ばすだけの度量があった

 

 

グランベルの役人には到底理解できないが、バトゥ王とその息子達によるウェルダンの治世は上手く行っていたと言っても過言ではない

それ故にジャムカ以外を亡き者としたグランベル王国の統治を果たしてウェルダンの民が素直に受け入れるのか?

という一点において役人達は頭を悩ませる事になる

 

しかも、ウェルダンでは山賊のみならず、湖賊。つまり湖付近を縄張りとする賊徒も確認されており、グランベル王国では全く存在しない湖賊の対応に苦慮せねばならなかった

 

余談ではあるが、トラキア王国内において野盗や山賊の類は確認されていない

何せ成人男性がいるという事は現役の傭兵がいる事と同義であり、またトラキアの女性達も『自分の身を護る』程度の事は出来るからだ

まあ、根本的に賊という者は『奪う』者だ

当たり前の話だが奪う物がないところに彼等は好き好んで行く事など決してない

加えてトラキア王国は大陸中を見ても修羅の国(イザーク)と並び立つ程に庶民に至るまで戦意が高い。常日頃からトラキア王国を衰退させた原因であるレンスター王国に対して憎悪を募らせており、いつレンスターとの全面衝突となっても決して足を引っ張る事のない様に傭兵経験のある成人男性を中心として各村落単位での自衛組織を有している

戦争となれば、幾ら騎士と言えども命令されたならば村落からの物資の徴収をしてくるのは明白

事実過去レンスターとの戦いにおいて、国境近くのミーズ城付近にあった村落がレンスター騎士により襲撃されており、そんな村落は現在存在したが、現在では存在しない

如何に王子であるキュアンが清廉潔白な人物だとしても、彼に従う者はレンスター騎士だけではなかった

正確にはレンスターで叙勲を受けた正式な騎士である。が、彼等はアルスターやコノートと言ったレンスター王国内の別拠点に配置されたもの達であり、いつまでもレンスター本国に戻れない者達だった

彼等からすれば『いつまで辺境に居れば良いのだ?』と言った不満があり、それがトラキアの民への攻撃的衝動に変わったといえる

 

 

騎士だ何だと言っても所詮はトラキアから富を奪った盗人

 

そうその話を知っている者や語り継がれた話を聞いたトラキアの者達はレンスター王国のやり方を嫌悪し、憎悪した

 

 

 

 

 

 

話は戻るが、予定になったとしても制圧した以上はマトモに統治せねばグランベル王国の権威に傷が付きかねぬと関係者は必死に政策などを考え、施行した

 

 

 

ところが、ウェルダンの統治が漸く軌道に乗るかと思った矢先。何をトチ狂ったのかシグルド達はアグストリアの内乱に首を突っ込んだ

 

ノディオンがハイライン軍により攻撃され、ノディオンのラケシス姫より救援要請を受け、ノディオンへの救援を行なう

そんな内容の書状がグランベル王国王都バーハラに届いた時、役人達は

 

 

んなもん、ほっとけや!!

 

と声を揃えて|絶叫し(ブチギレ》た

 

 

 

はっきり言えば

 

何故ノディオンに軍を出した?

しかも、グランベル王国の許可も取ることなく?

というのが役人達の偽らざる本音である

 

ウェルダンは先に手を出して来た事と、ユングウィのエーディンが攫われたから反撃としての逆侵攻を後から渋々(・・)追認した

 

だが、今回の件はそうではない

確かにシグルドからの報告によれば、ウェルダン侵攻時アグストリアのハイライン軍がエバンスへと攻め寄せる動きを見せた。とある

が、それを阻止したのは同じアグストリアのノディオン軍だった

 

しかもエバンス方面に向かったのは事実だが、決してエバンス城にハイライン軍は手を出していないし、周辺の村落にも手を出したという報告はない

エバンスにハイライン軍が攻め寄せた

というのはあくまでもシグルドの推測の域を出ないとも判断出来る

しかもそれを撃退したのがノディオンとなれば、アグストリア内の内輪揉めでしかない

 

今回もそうである

少なくとも北のマッキリーは静観を決め込んでいる以上、これはノディオンとハイラインの争いに過ぎない筈

 

 

そこにアグストリアの諸侯ですらないグランベル王国のシグルド軍が介入するとなるとどう考えてもロクな結果にならないのは明らか

親友の妹の危機?

 

それがどうした?

騎士として、国や王、主君に仕えるべき立場の者が身内の安全を気にする事自体は悪では無いし、問題にもならない

 

が、そうであるならば『守るべき者を守れる』だけの備えをせねばならない

今回の場合、ノディオンがハイラインに攻められているのはハイライン侯爵ボルドーの息子エリオットとエルトシャンの妹姫ラケシスの縁談を最初から断った事に起因する

別に断る事自体が問題なのではない

断り方が問題なのだ

 

アグストリア建国の功労者である黒騎士ヘズルの末裔であるノディオンのトップであるエルトシャン

先王イムカに重用されていたが、だからとて彼はまだ若い

対してハイライン侯爵ボルドーはエルトシャンの倍以上生きている上に統治者としての経験もエルトシャンに比べ物にならない程積んでいる

当然アグストリアの諸侯への影響力はエルトシャンよりもボルドーの方が遥かに上

 

エリオットとラケシスの縁談を持ちかけたのはボルドーであり、当然国王イムカの許可も取り付けていた

別に断るのはボルドーとしても問題にする事はない

 

しかし、である

エリオットに対して「お兄様(エルトシャン)の様な方でなければお受け出来ません」と直接言ったのは大問題

断るにしても言葉を選ばねばならないのがエルトシャンやラケシスの立場なのだ

 

確かに騎士としても統治者としてもエリオットはあらゆる点でエルトシャンに劣る

それは当のエリオットとて理解していた

だが、事もあろうにそれを縁談の話をする前に言われたのであれば自覚のあるエリオットでも腹が立つというもの

 

騎士にとって名誉とは時に命よりも重んじられるもの

 

それを侮辱されたに等しいのがその時のエリオットだった

なお、その場にハイライン側の護衛として居たフィリップは主君の息子への余りの仕打ちに『小娘(ラケシス)をこの場で殺してしまおうか?』とかなり怒り狂っていたりする程の事

 

 

当然縁談の話は流れる

それどころか、エルトシャンはボルドーというアグストリアでも有数の戦力を持つ人物にその在り方を疑問視される事となってしまう

 

更にエバンスを巡るハイラインとノディオンの戦闘

当時は確かにイムカが存命していたが、既に政務に耐えうる体調になく息子であるシャガールがイムカに変わって国王の職務を代行していた

シャガールから『エバンスを攻めることにより、ウェルダンに侵攻を続けているグランベル軍の勢いを削ぐ』という命令をボルドーは受けており、その為に嫡男であるエリオットを指揮官としてエバンス攻略に派遣した

が、シャガールからの命令には『エバンス付近にて圧力をかけるに留め、ウェルダンに侵攻しているシアルフィ公子の軍が後退したならばそのまま帰還せよ』ともあった

血気に逸った様に見えるグランベル軍の足を止めさせ、理性的な解決をシャガールは望んでいたのである

もしもグランベル王国が望むのであれば、ウェルダンに対してある程度の譲歩をさせる事にシャガールとイムカは同意していた

紛争レベルにあるグランベル王国とウェルダンのソレをどうにかして鎮めようとしていたのがシャガールだった訳である

ところが、エルトシャンは病床の身であるイムカの意に反するとエリオットに発言し、エリオットが退かない事によりハイライン軍に剣を向けた

 

トドメはグランベル王国への『大陸統一の野望を持っているのではないか?』という疑惑を持っていたシャガールへ謁見しグランベル王国、正確には親友であるシグルドを擁護したエルトシャンがシャガールの命によりアグスティにて囚われの身となった事だろう

既にシャガールからすればエルトシャンは『自身の命令を無視して、グランベル王国に与した挙句ウェルダンを滅亡させる片棒を担いだ人物』にしか見えていなかったのだから

 

貴族は何よりも孤立する事(・・・・・)を恐れる

何せこの大陸の貴族は軍事力として私兵を有する事が認められているが、それでも国や主君()他の貴族(同僚)などに妬まれたり、恨まれたりした場合自分のみであるとかなり危険な事になるからだ

であるからこそ、ある程度の協調性は持つ

 

 

だが、若くしてノディオンのトップとなり、才気溢れるエルトシャンにそれを教える者はいなかった

強く、賢く、そして魔剣(ミストルティン)を使いこなせるエルトシャンは彼の部下達や領民からすれば仰ぎ見るべき太陽とも言える存在だったのだから

 

だが、太陽を直視すれば目を灼かれる様に、彼等はエルトシャン様(主君)であれば間違う事なく正しき事を成してくれる

とある意味では盲目的になってしまった

 

 

そんな異様な者達が居揃うノディオンに関わりたいと果たしてどれだけの者が思うだろうか?

しかも、隣の領地を有する。という理由でエルトシャン達との繋がりを強めようとしたアグストリアでも屈指の軍事力と影響力を持つボルドーの気遣いを無駄にした男と

 

仮定の話になるが、もし仮にエルトシャンが他のアグストリア諸侯とそれなりに友好的な関係を築けていたならばエリオットがノディオンに攻め入ったとしても他の諸侯が仲裁に入ったのではなかろうか?

 

マッキリーのクレメントはノディオンの北にあり、領地の境界に兵を置いている

更にマッキリー付近の高台に魔道士部隊を配置している以上、ノディオン付近の様子を全く把握していなかったという事はないだろう

ノディオンはグランベルのエバンスに接している。つまり国境地帯なのだから

 

それにも関わらず、クレメントが静観を決め込み兵を動かさなかったのはエルトシャン(ノディオン)に対して好意的な感情を持っていなかったのではないだろうか?

 

ハイラインの北に位置するアンフォニーのマクベスは簡単に言えば『理に聡い男』であり、そうであるからこそハイラインのボルドーの動きを注視していたとも言える

ハイライン侯爵ボルドーは確かに気難しい人物と言われているが、だからと言って自領の民に対してそこまで苦しませる様な統治方法を認める人物ではなかっただろう

 

言ってしまえば南アグストリアの要と言って良いのがハイライン侯爵であるボルドーであり、それをシグルド達が破った事によりアンフォニーのマクベスは私欲に走り、マッキリーのクレメントもまたシグルド達への危機感を覚えたのではなかろうか?

 

それでもクレメントからすれば当事者であるハイラインが一時的に(・・・・)シグルド(グランベル)の手中に落ちる事までは許容したのだろう

 

そこが恐らく引き返せる最終ラインだったのだ

 

アンフォニーのマクベスは確かに傭兵ヴォルツ率いる傭兵騎士団をシグルド達に差し向けた

しかし、これは『国内を蹂躙しつつあるグランベルへ対抗する』という一点において何の問題もないものだろう

 

この時点でシグルド達がハイラインを制圧したのは『エルトシャンの妹ラケシスのいるノディオンを護る為』でしかなかった訳で制圧したとしてもアグストリア側と協議するならするのが普通だし、正当性を主張する為に王都であるアグスティへと使者を出すなりしなければならなかったのだから

 

最悪、シグルドはここでエバンスかノディオンへと引き下がれば外交問題となったとしてもそこまで大きなものとはならなかっただろう

シグルドが処罰される可能性は非常に高かったが

 

敵が向かってくるから倒す

成程確かに道理だろう

 

しかし、シグルド達がその時点で居たのはアグストリア(他国)であり、グランベルとアグストリアのこれまで築いてきた関係もシグルド自身がアグストリアへと攻め込んだ事により全て崩壊している

 

敵国に踏み込んで、敵が向かってきたから斃す

それは相手からすれば『攻め込んできた侵略者に攻め掛かる』事と同義である

 

 

その点においてマクベスはアグストリアの諸侯として正しい事をしたとすら言えるだろう

勿論、集落の襲撃など褒められた事ではないが、あくまでもそれは『アグストリア国内』の話。しかもグランベルとの国境付近であればその賊がグランベル国内に流れる事もあり得るから交渉次第では介入出来るだろうが場所はアグストリア中心部てまあり、そうでもない

 

『民が苦しんでいるから』と言って他国に介入出来る理由とはなり得ないし、仮にそうだとしてもそれなりに踏むべき手続きというものがあるものなのだ

 

 

それを全部スルーしてのやり方は到底認められない

 

 

言うまでもないが、何処ぞの王族が他国で『民が苦しんでいるから』と賊討伐するのも本来大問題である

アグストリアとシレジアが友好関係にあるのであれば、まだ多少はどうにかなるだろうが

 

というか、『国の継承問題』から逃げ出した王族が他国で『民の為に戦う』とか宣うのであれば、シレジアのマイオスやダッカー(女王の弟達)が聞けば憤慨する事間違いないだろう

 

そもそも曲がりなりにもシレジアを代表する『シレジア四天馬騎士』の末席に名を連ねるフュリーが『王子の捜索』任務に着く時点でその重要性は疑うまでもなかろう

 

 

シレジア王国は中立を守る事により国を護ってきた

友好関係にあるイザークに対するグランベルの侵攻について、抗議はしたが武力抗争などシレジア女王ラーナの望むところではなかったといえる為の措置であった

 

であればこそ、『国を放置して諸国を巡る』様な王子について女王の弟達が懸念を示すのも無理はなかった

野垂れ死ぬのであれば、シレジア王国として関知しない。そう言って方便も使えるのだが、王子は風使いセティの血を色濃く残しており『シレジア人特有の緑髪』に『類い稀なる風魔法』の実力を持っている

庶人はともかくとして、それなりに学のあるものであれば王子の身分に気づく可能性は高い。しかも、自分達が盛り立てようとしている女王の息子がしでかしたとなれば問題にせねばならない上に、相手がアグストリアであり、しかも王子の動きがグランベルのアグストリア侵攻の一助となった事を踏まえればグランベルの主流派からも睨まれるのは間違いない

 

グランベル国内にで強硬派として名が知られているドズルのランゴバルド公爵とて、戦はおろか戦後(・・)の準備もする事なく戦争をする事がどれだけ無意味な事かくらいは理解している

彼とてグランベル、いや大陸に名の知られた聖戦士が一人『斧騎士ネール』の末裔なのだ

偉大な先達の名に泥を塗る事など耐えられる筈もなかったのだから

 

 

そういう意味においてはシグルドや王子のした事は己が立場のみならず、彼等の一族達も誇りとする『名誉』に大きな、そして消し去れぬ程の傷を付ける事にもなりかねない

 

 

そうであるからこそ、彼らは決してシグルドや王子のした事を認めるわけにはいかないのだ

 

加えて女王の弟であるマイオスはシレジア最北端であるトーヴェの領主なのでまだ良いが、マイオスの兄でラーナの弟でもあるダッカーの領有するザクソンはグランベル最北端のリューベックと接している

しかも此処は強硬派として有名なドズル公爵ランゴバルドの領地。問題しかなかった

 

 

 

 

ランゴバルドがシアルフィのバイロンやユングウィのリングと決定的に対立する事になったのは、クルト王子によるイザーク遠征が理由だった

 

そもそもの話として、グランベルの北東にあるイザーク。そこに近い所領を持つのはグランベル最西部のメルゲンを領するフリージ家と先に挙げたリューベック

であれば、動員のしやすさなどにおいてイザーク遠征は両家が主導する形にするのが最も都合が良い

仮に両家が主導しないならばしないで、両家の面目を潰さないやり方が必要な筈

 

ユングウィとシアルフィはグランベル南西部に領地を持つ。つまりイザークから最もグランベル国内で離れているとも言えた

イザークの情報などフリージやドズルからの情報頼りな両家はある意味、最もグランベルにおいてイザークの事に疎いとも言える

 

そんな連中が王子のそばにあって、イザーク遠征を主導している

その事実はランゴバルドにとって何よりの侮辱だった

 

確かに自分は王子の事を良く思ってはおらぬ。しかしそれでもグランベルの公爵として王子に対してすべき事は欠かさず行なったし、王子に忠言するのも全ては次世代のグランベルの為

煩わしいと思われるのも仕方ないが、まさかこの様な仕打ちを受けるなどグランベル公爵として長年国に仕え続けてきたランゴバルドからすれば到底理解できないし、看過し得ないものでしかない

 

なまじ現国王であるアズムールのソレを見ていたが故に、あまりにも目立ってしまう点をランゴバルドはレプトールは事あるごとに指摘した

クルト王子の中では二人は『自分を軽く見ている』と思っているのだろうが、逆であろう

 

好意の反対は嫌悪ではない

無関心なのだから

 

 

逆に年若いクルト王子を長い目で見ようとするバイロンやリングはそこまで指摘することはなく、結果としてクルトはこの二人を重用した

 

レプトールとて内心不満だらけだったが、正直なところとしてそんな事(王子の不満程度)に付き合えるほどグランベル王国宰相の立場は暇でもない

その内レプトールはクルト王子について何も言わなくなった(・・・・・・・・・)

つまりはそういう事である

 

 

レプトールはそうだったが、ある意味実直なランゴバルドは王子に忠言し続け、王子から遠ざけられる結果となったともいえる

 

別に自分が遠ざけられるのは構わない。自分の息子であるダナンやレックスが王子に認められるのであれば、ドズル公爵家としては何の問題もないのだから

だが、イザーク遠征においてランゴバルドは勿論、嫡男であるダナンの帯同すら議論にもならなかった

これを見て、ランゴバルドはグランベルを

いや、正確にはクルト王子(グランベルの未来)を危険だと判断

 

 

元々イザーク侵攻に否定的だった文官やウェルダンやアグストリアを巡る一連の争乱にて、あまりにも先鋭化した(と思われている)シグルド達を危険視したレプトール達と結託してイザーク遠征を主導するバイロン、リング。そしてクルト王子の排除を決断。更にアグストリア北部における戦闘後、叛逆者としてシグルド達を捕らえようとした訳だ

 

 

それはシレジアにより邪魔されたが、そこについては何ら問題としていなかった

『風の王国』などと言われてこそいるが、あくまでシレジア王国が今まで中立を保ってこれたのはグランベルやアグストリアなどがこれを黙認していただけなのだから

 

しかし、今回叛逆者として討伐すべきシグルド達を匿った。その上シグルドの軍勢にシレジアの王子や天馬騎士の中でも有名な騎士が参陣している事も既に判明している

大義名分を用意するなど難しくなかった

 

 

 

 

そしてそれを何より危惧しているのが、シレジア国内で『反女王派』とされるマイオスとダッカーなのだからこれ以上ない喜劇だろう

女王ラーナはグランベル国王アズムールにシグルド達の赦免を求める国書を送っているが、二人は望み薄だろうと見ている

 

 

元々レヴィン王子の行動に不満があった理由の一つが『次期後継者』が国内にいない事で国内の貴族達の中で不穏な動きが活発になっている事があった

女王を支える事をしながら、表向きは『反女王派』の重鎮として振る舞わねばならない

 

余りにも皮肉な立ち位置だった

 

 

 

 

 

そんなシレジアでも屈指の影響力を持つ二人に注視されているシレジア王子レヴィンは自身の護衛をしているフュリーに連れられて、シレジア城へと来ていた

 

 

…なぁ、フュリー。今からでも遅くないから、戻らないか?

 

レヴィン様。ダメですよ

そんな事をしたら、マーニャお姉様たちに

 

シレジア城門前でレヴィンは最後ともいえる抵抗を試みていた

が、説得相手であり幼馴染であるフュリーは彼女らしくない事に一切退いてくれない

 

というのも

 

 

 

 

ねぇ、フュリー?いつまでレヴィン王子はラーナ様に会わないつもりなのかしらね?

 

あ、あの。その

 

やめろ、マーニャ。フュリーの奴が怖がっているではないか

 

 

フュリーは『シレジア四天馬騎士』の一人であり、あくまでも『レヴィン王子の捜索』は女王ラーナからの主命

当然それを果たしたならば、ラーナの元へと報告せねばならない

 

のだが、フュリーは半年以上に渡ってレヴィン共々アグストリアに滞在し、部下の騎士に報告を任せていた

一応報告自体はなされているので、形式としては(・・・・・)問題ない

が、敬愛する主君であるラーナを多大な心配をかけたレヴィンにマーニャ(天馬騎士筆頭)はおかんむりであり、シレジアに帰国して半月以上経つのに未だ女王のところへすら来ないレヴィンとレヴィンを引っ張っても来ないフュリー(実妹)にかなり不満を溜めていた

フュリーの幼馴染であるレヴィンにとって、フュリーの姉であるマーニャは頭の上がらない人物であり、苦手意識を持っていたのだがそんな事は言い訳にもならないしさせる訳もなかった

 

不甲斐ない妹に内心怒り心頭なマーニャ。その為、シレジア城へと『単身』来たフュリーにその不満をぶつけるのは、まあ仕方のないことなのだろう

 

それを苦笑まじりに諌めるのはマーニャとフュリーと同じく『シレジア四天馬騎士』のパメラ

彼女はマーニャに次ぐ実力を持つといわれるシレジア王国屈指の天馬騎士であり、マーニャとフュリーとは異なり女王の弟でありザクソンを領するダッカーの元に付けられている

 

 

まあ、フュリーでレヴィン王子を動かすのは少し難しい。それはお前とてわかっているだろう?マーニャ

 

…そうね

 

 

苦笑いしながらマーニャを諌めるパメラだが、フュリーにもはっきりと言っている

『しっかりしろ』と

 

その気遣いが分かるだけにマーニャもこれ以上フュリーにいう事は出来なかった

 

 

しかし、我ら『シレジア四天馬騎士』が一堂に会する事は今後ないのだろうな

 

 

少し寂しそうな顔をするパメラ

『四天馬騎士』という事はあと一人いる訳だが

 

最後の一人であるディートバは北方トーヴェのマイオスについており、現在女王に反旗を翻した貴族の私兵を討伐するべく、トーヴェの天馬騎士隊を率いていた

 

 

レヴィン王子の帰国は諸手を挙げて歓迎されたのだが、グランベル王国から叛逆者として手配されているシグルド達を受け入れた事にシレジア国内の一部貴族が反発していた

無理もないだろう

シレジア国内に主要な城は僅か四つ

 

北部のトーヴェ

王都のシレジア

グランベル国境を守る南東のザクソン

そして西部のセイレーン

 

女王ラーナは問題が起きぬ様にセイレーンをシグルドたちに貸し与えた。これはシグルド達を一纏めにする事でグランベル王国に対してもグランベルへの隔意がない事のアピールだった

一箇所に纏めれば、いざとなれば纏めて始末出来る

 

そう主張出来るからである

勿論、ラーナとしてはそんなつもりは毛頭なく、シグルド達にはゆっくり休んでもらいたいが故の決断だったが

 

 

だがシレジアの貴族からすれば『他国の厄介者達』に貴重なセイレーン城を明け渡したと見える訳で、それ故の反乱だった

マイオスとダッカーは出来る限り彼等貴族達をコントロールしようとしたのだが、どうしても行き届かない部分は出てくる

結果、余りにも目に余る貴族については最初から放置し、反乱を起こした所で叩き潰す事にしていた

 

パメラにとってライバルでもあるマーニャや妹分であるディートバとフュリーは気心知れた間柄であり、それなりに話の出来る友人とも言えるだろう

 

とはいえ

 

 

だがなフュリー。いつまでも王子の我儘を許す必要はない

分かるな?

 

そうよ

今度は必ず連れて来なさいいいわね?

 

職務について妥協する事はパメラとて許さなかった

言うまでもないがマーニャもである

 

 

 

 

 

 

レヴィン様。今回も逃げるならお姉様やパメラさん達が連行しますが、それでも良いですか?

 

すまん。俺が悪かった

マーニャだけでも無理なのに、そこにパメラとディートバまで加わるとか絶対どうにもならんやつだろう

 

 

フュリーが遠くを見る表情で最後通告してきたのを理解したレヴィンは無条件降伏(項垂れる)しかなかった

 

 

シグルドがラーナの元を訪れる少し前の事である

 

 

 

 

私の息子であるレヴィンが貴方に相当お世話になったとフュリーから聞いています

シレジア女王として、そしてあの子の母として貴方には感謝しているのですよ?シグルド殿

 

レヴィンが、シレジアの王子だったのですか!?

 

 

少しシレジアの祖である『風使いセティ』の知識があれば分かる話なのだが、グランベル王国において他国の聖戦士達について知識を得ようとすると自身で調べる他にない

寧ろ、槍騎士ノヴァの末裔であるキュアンや黒騎士ヘズルの直系であるエルトシャンと親友であるシグルドが異常であったりするのだが

 

 

 

シグルドは納得し、その後ラーナ女王と少し話をした後にシレジア城を去った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、トラキア王国では

 

 

なるほどな。武器の配備数などを充実させるか

 

はっ

今後の我がトラキアにおいて、これは何より重要となりましょう

既にイザークの一部鍛治師はトラキアへの移住を開始しております。この者達は前線に程近く、薪などが不足する事のないであろうカパトギアと此処トラキアに分散して移住させまする。此処についてもカパトギアのハンニバル殿から伐採した後に加工した薪をマゴーネ将軍やパピヨン将軍に新兵たちを率いさせ、輸送させます

これにより陛下がアグストリアにて得たモノについての増産が可能であれば進める事となりましょう

 

ふむ、パピヨンとマゴーネならば間違いないな

だが急げよ。アレはレンスターとの決着をつけるのに必ず必要となるだろうからな

 

はっ

あとアグストリアにて失態をおかしたパピヨン殿ですが、今後は国内の竜騎士達への指導に当たってもらう様にすべきかと

 

任せる

 

 

トラキア城にて帰国したトラバントとクェムは報告と今後の事を話し合っていた

 

現在トラキア王国はアグストリアにて獲得した資金を元にして中規模な農地拡大政策を実行しており、現在農地として利用しているルテキア北部地域以外にカパトギア付近にも農地を増やすべく動いている

トラキアにおいて、騎竜スキルは成人男性であれば強弱の差こそあれど誰もが習得している

なので、農業従事者や森林伐採者などの移動も容易であり、問題となる農地とその周辺に建設すべき農業従事者の家屋。それを作るだけの資材が揃えば然程の手間をかける事もない

更にトラキア城付近の比較的低い山地の一部では水が豊富に供給出来る可能性が高い場所も発見され、現在グランベルにより滅ぼされたウェルダンの住人をトラキアへと移住させるべくグランベル王国と交渉していた

 

 

グランベル王国としてもシグルド側についているレンスターと現在敵対するトラキアは態々敵に回す必要のない相手であり、統治の難しくなっている要因の一つであるウェルダンの民が少しでもトラキアに移住するのであれば、歓迎こそすれど非難するつもりはない

この件についてグランベル王国として少額とはいえ資金を対価として用意する事により、トラキア王国の関心を買うと共に叛逆者シグルド討伐の際、高い確率で援兵を派遣するであろうレンスターに対する備えとした

この資金については、接収したシアルフィ公爵家のものを流用しておりいる

仮にバイロンが生きていたとしても、シグルドを討ち損なったとしても彼等に同調する可能性のあるシアルフィの資金を減らす事により彼等の蜂起を防いだり、規模を小さく収められる効果を期待していた

ユングウィは当主リングが亡くなり、長子であるエーディンはシグルド側にいる為、長男であるアンドレイが跡を継ぐ事になった

 

 

アンドレイは父リングに反発していたが、それでも姉であるエーディンに弓を向ける事に抵抗していた。しかしそうなればユングウィ公爵家を断絶する事となると宰相レプトールから告げられる

そう告げられたアンドレイは跡を継ぐ他にユングウィ公爵家を存続させられぬと諦め、自身が新たなユングウィ当主となる事を受け入れた

 

なお、ユングウィよりもそれなりの資金を徴収しており、これはウェルダンとアグストリア統治に役立てられる事になる予定である

 

 

 

シアルフィは断絶したも同然。ユングウィは当主交代

エッダも当主クロードがシグルド側に手を貸している為、断絶する事のとなった

エッダの資金についてはグランベル国内の整備の為に使われる事となるだろう

 

別にレプトールにせよ、ランゴバルドにせよ他の公爵家を無理矢理断絶させるつもりはない

グランベル王国の基盤を創り上げた聖者ヘイムを始めとした聖戦士達に対して少なからぬ畏敬の念を二人とて持っているのだから

しかし、だからと言って自身の立場を理解せず守るべきグランベル王国が弱っていくのを助長する連中に配慮する必要を彼等は認めなかった。それだけなのだ

 

そう、レプトールとランゴバルドは残すべきは『グランベル王国』であり、その為に国王アズムールや王子であった(・・・)クルト王子を支えたし、糺すべき事については一切妥協しなかった

 

グランベル王国ありきの我が身(公爵家当主)であり、国を滅ぼしたとなれば、それこそロプト帝国を滅ぼす為にグランベル王国を安定させる為に犠牲となった者達が報われない

より良き未来(明日)を創り上げる事は彼等の魂に対する鎮魂ともなると二人は考えていた

 

 

中立の立場であり、グランベル王国近衛を束ねるヴェルトマーのアルヴィス公爵については二人からすれば『味方に敢えて引き込む必要のない』人物だと認識していた

かの人物は近衛であり、それこそ政治的立場を表明してはならない立場である

近衛が優先すべきは『グランベル王国国王の命』ただ一つであり、宰相レプトールやクルト王子の命令を聞く必要はないのだから

 

 

勿論、この様なバイロンとリング。更にクルト王子すらも贄とする様な非情の策を巡らした以上、もし仮にシグルド達に敗北したとしても構わないとすら思っていたりする

 

シグルド軍にはレプトールの愛娘であるティルテュやランゴバルドが密かに長男であるダナンよりも期待しているレックスが参加しているからであった

シアルフィ公子シグルドは騎士として足らぬ部分も多いが、少なくとも国や立場にこだわる事なく様々な人物が彼に協力している。その事から一人の人間としての魅力がある事についてはレプトールもランゴバルドも認めてはいたのだから

 

 

レプトールとしては嫡男であるブルームとティルテュの仲は決して悪くない事。ブルームの妻であるヒルダにティルテュはかなり親身に接していた事。そのティルテュのおかげでヒルダはフリージ家になれていった事。などから仮に自身が破れたとしてもティルテュがフリージ内で孤立しないと判断していたのも大きかった

 

ランゴバルドとて、レックスに対してダナンが良い感情を抱いていない事は理解していたが、それでもダナンとて自身の感情をコントロール出来るだろうと考えていた

 

 

しかしレプトールとランゴバルドは見落としていた

自分達は歴代当主の中でも優秀どころか最優秀と言われてもおかしくない位の能力と高潔な考え方の持ち主である事を

 

 

 

 

この致命的とも言える考え方のズレ(・・)が後に悲劇を生み出す要因となるのだが、この時誰もそれを予想していなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やれやれ、クェムすらもレンスターとの戦に乗り気だとは、な

 

トラバントは自室にてため息混じりの独り言を呟く

 

 

トラバントに近しい文官であるクェム。彼の父親は先王つまりトラバントの父親とトラバント、トラバント国王二代に渡って仕えた老臣であった。だが、二年前にクェムの父親は病により還らぬ者となり、父親の薫陶を受けたクェムは若いながらに地道な努力を怠る事がなかった事などからトラバントも重用している

 

決して議論を絶やす事なく、周りの意見も聞く人物である事から次第に文官達の中でも中心的な存在となっていった

それ自体はトラバントとしても歓迎すべき事だった(・・・)

 

だがクェムは父親と決定的に異なる点が一つだけある

レンスター王国に対する姿勢

 

父親は硬軟使い分けてレンスターと交渉を行うことができた人物だが、クェムは『レンスター側に譲る』という事を認めない

勿論、表向きレンスターに配慮している様な政策もあるが、必ずレンスターに被害を与えられる様に裏で手を回している

 

 

トラバントとて、レンスター。いや正確にはマンスター地方を取り戻してこのトラキアの大地に住む者達の生活を良くしたいと考えているし、その為であればどんな非道とて行なうつもりではある

 

が、時々思うのだ

 

 

血に濡れた刃の先に民が安らげる世界があるのか?

あったとしても、それは一時的なものにしかならぬのではないか?

 

トラバントは最近特にそう思う様になった

 

 

 

というのも、アグストリアにて国王シャガールの依頼を受け、一時的とはいえアグストリア側に立って傭兵として参戦した訳だが、トラキア国王としてアグストリアを見ると違和感が拭えなかったからである

 

無論、シャガールに味方する以上それなりにアグストリアの情勢は調べさせている

シグルドがノディオンに味方し、ハイラインを攻め潰し更にアンフォニー、マッキリーをも陥落させた。更にアグストリアの近衛隊長である騎士ザイン麾下のアグストリア近衛騎士団をも討ち破り、遂には王都であるアグスティをも制圧せしめたのも

 

 

だが、トラバントは思うのだ

 

シグルド公子とやら

これが貴様の望んだ未来なのか?

 

 

シグルドが制圧したハイライン、アンフォニー、マッキリーにはシグルドがアグスティを制圧して程なくグランベル本国の役人が入り、『グランベル王国』の統治方法にて統治体制を確立していった

当然だが、戦火に巻き込まれたアグストリア国民はそこまで多くなく、殆どのアグストリアの民は「何故グランベル王国が?」と不思議に思う事だろう

 

その後、アグストリアの一部地域では『反グランベル』の機運が高まったそうだが、これをグランベル王国は武力にて制圧したらしい

それもそうだろう

いきなり属する国が変わった。などと平然と受け入れられる者はそこまで多くないのだから

 

シグルドやシグルドの親友であるレンスターのキュアン。それにその二人と友誼のあるエルトシャン達からすればアグストリア北部に遷都した王都マディノで挙兵したシャガールの気持ちは理解出来まい

如何に『愚王』と蔑まれようとも『王』とは民があってのもの

 

そうであるが故にアグストリアに想いを寄せるアグストリア南部地域の民の嘆きをシャガールを座視し得ない

仮に放置すれば、シャガールは『アグストリアの王』足り得ないのだから

 

シグルドがノディオンに兵を出した理由

トラバントには些か理解し難いが、それでも『親友の妹』を守る為

という理屈は理解出来た

 

ハイラインは敵の本拠地

アンフォニーは苦しむ民を救う為

マッキリーはやはりノディオンを守る為

アグスティは囚われた親友を助ける為

 

シグルドの選択に一切の悪意はない

全てシグルドという人物の善性からの決断なのだ

 

 

 

だが、結果としてアグストリア全土で血は流れ、トラバント達が撤退してトラキアに帰国するまでの間にアグストリアという国家は消滅した

 

 

善意あるシグルドとやらですら、方向性を間違えるだけでそうなったのだ

間違いなくレンスターに対するトラキアの者達が持つ敵意は隔意は悪意の類だろう

 

もし仮にレンスターを降してトラキア半島を再統一出来たとしても、トラバントは良い未来を築く事が出来ると断言出来ない

 

 

そもそも、クェムを始めとするトラキア王国の人間の言う『トラキア』とトラバントや先王が言う『トラキア』

実は同じ言葉でありながら、意味が異なる

 

クェムらが言うトラキアは現在のトラキア王国

トラバントと先王が言うトラキアはトラキア半島全て(・・・・・・・・)であり、そこにはレンスター王国も含まれる

 

 

レンスター王国はその地形的にはもっと繁栄してもおかしくない場所にある

北にはイザーク

西にはグランベル

南にはトラキア地方

 

実はこれらの国や地方の特産品などは重複する事がほとんど無く、あったとしてもキチンと『棲み分け』が出来ている

なので、レンスターは交易の中継地点としてものを動かす『だけ』でかなりの利益を上げられる

それを妨げているのはトラキア王国との関係であり、レンスターとトラキアの緩衝地帯であるマンスターだった

 

だが、レンスターはトラキア王国と異なり『トラキア王国から独立した』国家であり、実のところレンスター王国に住む人間の気付かない部分にも『トラキア王国の脅威』に対する畏怖とも恐怖とも言い難い感情が根付いていた

 

トラバントと違い、レンスター王国側は『独立した以上、報復されない為にもトラキア王国を滅ぼさねばならない』という考えにトラキア王国側以上に囚われていたのである

とはいえ、レンスター王国の財政を取り仕切る者達の中には

 

 

こんな貧しい土地を得てどうするのだ?

 

トラキア地方を平定する?

そのあとどうするのだ?

 

トラキア王国の民を殺し尽くす事が出来ねばどうにもならん

出来る訳もないのであれば、攻めるだけ無駄な犠牲が出よう

 

 

と言ったレンスターではごく僅かな意見を持つ者も居るが、それが漏れたが最期であるとも確信していたりするのだからどうにもならない

それだけ根の深い問題なのだとも言える

 

 

 

トラバントとしては、トラキア王国の民が今の生活より楽な生活を送れるのであればレンスター王国との関係を改善する事も厭わない

 

勿論、ミーズ周辺での問題解決が前提となるだろうが

 

 

だが、政治中枢である文官。その筆頭とも目されるクェムがレンスターに対して強硬的な姿勢を崩さないというのはトラバントにとってかなりの問題である

トラバントとしては、寧ろクェムは自分がその道を選ぶ事を待っているのではないか?と帰国の途上に考えていたから尚更だ

 

トラバントは自分の息子であり、次期トラキア国王となるアリオーンにレンスターとの戦争(負の遺産)を残したいとは思っていない

騎士同士の決闘。だなんだと言っても所詮は『人殺し』であり、その本質は野蛮そのものだ

 

トラバントは傭兵であり、トラキア国王だ

必要ならば、この身を血で汚す事も手を汚す事も厭いはしまい

 

 

だが、それでも

 

 

我がトラキアを開いた竜騎士ダインよ。願わくば我が民、そして息子か生きる世界に平穏を

 

そう願わずにはいられなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、シレジアにて

 

 

シグルド。私は一度レンスターに戻る。父上を説得し、必ずお前のグランベル帰国を助けよう。約束だ

 

 

レンスター王子キュアンは親友であるエルトシャンを喪ったばかりか守るべき祖国からも裏切られ、心身共に傷付いているシグルド(親友)を助ける為に一時レンスターへと帰国することを伝えた

今は亡きエルトシャンとシグルドはキュアンにとってもかけがえのない友である。更に妻エスリンの兄であるシグルドはキュアンにとって義兄とも言える存在であった

エスリンの話がなかったとしても、キュアンは迷う事なくシグルドを助けるだろう

 

もうすぐ最もシレジアにとっては有利な季節である冬

勿論帰国するキュアン達にもそれなりの負担を強いる事になるだろうが、冬季のシレジア軍というのは大陸全土のどんな国家であったとしても攻める事を躊躇う程の脅威となる

となれば、シレジアのラーナ女王がシグルドを保護している以上はグランベルによる侵攻はないだろうから、シグルド達にとっての危険はない

 

そうキュアンは判断した

本来ならば既に第二子を妊娠しているエスリンに過酷な道中は好ましくないのだが、他ならぬエスリン自身が何よりも兄シグルドの身を案じていたのも判断材料となっている

 

キュアンとエスリンと共にシグルド軍に参加しているフィンはあまりエスリンに無理をさせたくなさそうだったが、それでも主君であるキュアンと当人であるエスリンの嘆願を受けては流石に抗しきれなかった

 

レンスター王国には精鋭騎士団である槍騎士団(ランスリッター)が存在しており、その実力はグランベル公爵家の各騎士団とも戦えるとキュアンは思っている

恐らく父は渋るだろうが、それでもキュアンはシグルドを助けるつもりだ

 

 

 

シグルドとしては親友キュアンや妹エスリンの心遣いは有り難かったが、アグストリアを巡る戦闘でエルトシャンを喪い、更に妻であるディアドラの行方が分からなくなっている

であるからこそ、シグルドは『自分の為』に無理をして欲しくはなかった

これ以上、誰かを喪うなど耐えられないから

 

 

 

シグルドのそんな想いを理解しているからこそ、キュアンはシグルドを助けようと全力を傾ける決意を胸にレンスターへと帰国した

 

 

 

 

 

しかし、キュアンのその動きを見逃さない、いや見過ごせない者達がいる事をキュアン達が知る事はなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少し後

此処はグランベル王国北西部にあるダーナの街

 

かつて、ロプト帝国を打倒した十二聖戦士達がこの地に立てこもって最期の抵抗を繰り広げようと各々が悲壮な覚悟を決めた。そんな彼等を古代竜族達が力を貸したとされる『ダーナの奇跡』があった場所であり、今回イザーク遠征軍を派遣したグランベル王国軍にとって重要な地でもある

 

 

 

そこにブラムセルという男がいた

彼はダーナやその南部にあるメルゲンを拠点として主にレンスターとの交易にて財をなしていた人物であった

 

ブラムセルはとある事情より、イザーク南部のリボーの族長がダーナへと攻め入る事を知っており、その結果としてグランベルがイザークへと討伐軍を出すだろうと予想している数少ない人物だ。彼はグランベル王国イザーク遠征軍に積極的に武器や食糧を提供する事により、今まで全く無縁であったグランベル王国との繋がりを手に入れる事に成功

更にその繋がりを求めてブラムセルに今まで彼を小物扱いしていた有力商人の一部が彼に協力を申し出てきた事により、正しく『この世の春』を謳歌していたのである

 

 

イザーク遠征軍が敗退したとはいえ、それは一時的なものであり体勢を立て直したグランベル王国軍が既に軍の体を成していないイザーク軍を放置する訳がない

それはグランベル王国という国家の大きさを知る者達からすれば当たり前の事だった

 

ブラムセルとしてはグランベルとの繋がりにより成り上がった事もあり、彼としてもグランベル王国軍には是非ともイザークの再遠征をしてもらい、あわよくばイザーク王国を制圧して欲しいとも考えていた

 

 

そんな彼の元に一つの知らせが届いた

 

 

 

レンスターの王子一行が?

 

の様です。恐らくはリューベックより砂漠の北端を通り、砂漠の東端を南下。此処ダーナにて領主殿に通行証を貰う手筈ではないか、と

 

うーむ

 

 

ブラムセルが思わず唸った。というのも、レンスター王子キュアン等が此処ダーナの街に立ち寄るというのだ

 

レンスター王国とグランベル王国は表向き友好な関係にある

だが、現在シアルフィのシグルド公子とその軍に属している者達には叛逆者の嫌疑がかけられており、それはレンスター王子キュアンとその騎士フィンにこそ適応されていないものの、元とはいえシアルフィ公女であるレンスター王子夫人であるエスリンには適用されていた

その為、グランベル王国とレンスター王国の境目にあるメルゲン領を抜けレンスター王国領に入る事はキュアンとフィンに出来ても、エスリンには出来ないというややこしい状況となっている

 

メルゲン領主はグランベル王国本国の人物であり、騎士らしい実直な性格の持ち主。融通は効かないとも言えた

だが、此処ダーナの領主は良くも悪くも『騎士らしかぬ人物』であり、グランベル王国本国が把握しているかは知らないが『クルト王子支持者』である

言い方は悪くなるだろうが、バイロン卿の娘(エスリン)にも手心を加える可能性の高い人物でもある訳だ

無論、それ相応の代価は必要となろうがその辺についてブラムセルは然程重要視していない

 

というよりも、ブラムセルからすれば『現在』のダーナ領主は取引相手としても交渉相手としてもあまりにも面倒(不適格)な人物としか思っていなかったのだから

商人とは常に現実主義(拝金主義)であるべきだと思っているブラムセルからすれば、時に感情を優先する連中など理解の外にある存在だし、そんな連中と好んで取引したいと思っていない

 

(とはいえ、この様な情報を手に入れておいて何もせぬ。というのはあまりにも勿体無い。が、どうすれば良いのだ?)

 

グランベルにとって現在レンスター王国は準敵国といえるだろう。だが、イザークの再遠征に旧ウェルダン、旧アグストリア領の併合、更にシレジアに逃れたシグルド達への対応

如何に各公爵家独自の騎士団を有するグランベル王国とて、シアルフィ、ユングウィにエッダの三公爵家の当主を失いシアルフィ騎士団を欠いた状態では厳しいだろう

確かに現在でもヴァイスリッター(バーハラ騎士団)ロートリッター(ヴェルトマー騎士団)ゲルプリッター(フリージ騎士団)グラオリッター(ドズル騎士団)バイゲリッター(ユングウィ騎士団)を有するグランベル王国である。当然ながら大陸に現在残っているシレジア、レンスター、トラキアと比して圧倒的ともいえる軍事力を残している

が、グランベル程ではないにせよ諸侯が戦力を有していたアグストリアでは未だ侮れない戦力があり、これ等が反グランベルでまとまった場合アグストリアの統治体制に悪影響が出るだろう事は疑いない

イザーク再遠征軍を編成するとしても、イザークの剣士隊に対抗する為に適していたグリューンリッター(シアルフィ騎士団)は壊滅しているし、万一残っていたとしてもシアルフィ公爵家自体が『反逆者』として扱われている現状では王国の指揮下に加えるとも思えない

となれば、少なくとも2つ以上の騎士団を動員せねば厳しいと軍事的知識に乏しいブラムセルは思う

 

しかし、『今』のグランベル王国は多方に戦線や火種を抱えている状態である

さしものグランベル王国とて飽和状態となってしまえばどうなるかは予想もつかない

そもそもイザーク遠征軍が一時とはいえど敗退した事自体がブラムセルやダーナの商人からすればあり得ない事であり、その様な事態が一度でも起こったともなると、流石に二度目がないとは言い切れないのも事実だろう

 

『可能な限り被害(リスク)を最小化して利益を得る』

それこそがブラムセル達商人のやり方である以上、軽々に賭けをする気にはならないのも道理

今はブラムセルもダーナで屈指の影響力を持つが、『明日』は分からない

利が無くなれば商人と言うのは掌をあっさり返すものであり、下手をうてば来年には乞食の様な生活を送る事になる事もあるのがブラムセル達の生き方でもあるのだから

 

そうであるからこそ、ブラムセルは慎重にならざるを得ない

 

 

 

 

…ならばアルスターの領主あたりに知らせておくか?

アルスターであれば、曲がりなりにもレンスター王国の一員。下手な事はするまいよ

 

 

ブラムセルとしては安全策をとったつもりであった

が、このブラムセルの知らせがトラキア半島を大きく動かす事になるとはブラムセルは全く予想していなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 本作における主人公はいる様ないない様な微妙な感じになると思います

ま、昔の小説の残骸を拾い集めてるので仕方ないと思いますが
なお、タグは増えますが、ネタバレになるので適時増やします

予めご了承くださいませ
ではご一読ありがとうございました
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